拮抗していた勝負が大きく崩れた。
その瞬間を見ていた薄紫色の髪をした小人族の姫は道具に魔力を送りながらその様子を横目ではあるが静観していた。ここで姫が出てきてもお互いの邪魔でしかないのだ。姫は守られる立場で腰に携えているのは護身用でしかない。間合いも違えば戦って勝てるような相手でもない。
姫はそんな事を冷静に考えながら同じ考えを持っている人に対して自分に出来るだけのことをしようと奮闘していた。自分だけにしか扱えないこの金色の小槌で玉や提灯や傘に力を与えて協力者が勝てるような道具を作っていた。
「正邪、出来たよ。」
姫は大きな声で話していた。それに協力者は反応するが場所的には不利でどうにもならなそうだった。言うだけでも変わる状況というもある。
「今行く。」
その人はそのように答えていた。
「行かせると思うか。」
邪魔者はその人の進行方向を邪魔するように立ち回る。自分も動いて有利になれるようにした。左右に体を振りながら邪魔者を避けようとするがそれなりの強者であるらしくそううまくは行かなかった。だからこそ自分が移動するべきだった。常に邪魔者の視界に入らないように気をつけながら協力者へと渡そうとする。
だが、それも見えているようでそう簡単には渡せてくれそうにない邪魔者は正邪には一撃も与えてなかった。
「正邪、殴って。」
協力者は右手に持っている小槌を振る。邪魔者には効果はあったようで協力者が此方へと走ってくる。自分はその隙を逃さないように投げておく。
しかし目の前から走り寄ってくるが消えるとその先には何もなかった。そして自分が小槌の魔力によって作り上げた玉を投げているだけがスローモーションで見えているようだった。そしてどこからが現れた剣がその玉を叩き斬った。協力者は倒れていて少しを気を失っているように動くことはなかった。
「姫だったか。貴方は今出る幕ではない。」
「弱者の何が分かるの。」
「よく知っている。此処では人間は妖怪に食われてしまうそうだ。だからこそ俺は食われない為に体術や能力を上げるための魔法を覚えた。そんな道具に頼ることはなく此処まで上がってきた。聞くが弱者だからと何かしたのか。」
「私は仕方がないじゃない。出ることも許されなかった。それを救ってくれたのはその人なんだ。」
私は指を指していた。邪魔者は少し視線を動かしただけで私の事を真正面から見ていた。
「そうか。こうして城を作り上げたのも貴方のお陰か。」
「そうだよ。私は不当に人間にも妖怪にも妖精にも虐げられてきた。それは変わることのない事実なんだ。」
「そうか。小人というのは本当にそうなのだろうか。」
「そうだって聞いた。だから私はこうやって戦っているんだ。」
「では自分と同じ事をして楽しいのか。」
「楽しくはない。でもそうされて当然なんだ。」
「楽しくない事をしていて人生無駄にしていると思わないか。自分にはもう少し力があると思わないか。この異変を有効的に使おうとは思わないか。」
「えっ。」
「少し考えろ。自分がされた事を相手に仕返して恨みの連鎖を作るか此処でやめてまた別の方法を模索するか。」
邪魔者はそう言ってから私の元へと近づいてきた。そして踵を返す。私に背中を向けているなんてどれだけ慢心しているのか。私は腰に携えていた針を刺そうと立ち上がって先を向けていた。だがそれは邪魔者の蹴りで何処かへと飛ばされてしまった。
「俺は弱いから何かを模索した。だが貴方はどうだ。今の場面が答えになるはずだ。」
正邪は顔面を強くぶつけて痛みを堪えていたがようやく立ち上がる。姫の前にいる青年の姿を見て激昂したが素早く動けなかった。避けられると姫に当たるようになっている。それに自分のせいで姫が傷つけられるのではないか、と思っていた。まだ利用したい。
「そこをどけ。」
「今、話をしていた。申し訳なかったな。」
青年は特に悪びれもせずに平然としていた。そして青年は小刀を持って構えていた。もう腰に携えている鞘の中に納められた剣はもう出てくるようなことはないのだろう。正邪はこれとない好機だと思って前へと走り出す。
青年はゆっくりとした目の動きで確実に相手の動きを見ていた。それも正確に予想しているようでわ真ん中に構えているだけでそこから微動だにしなかった。そして青年は前へと少しずつ小さくても進んでいた。
正邪は多少の間合いは気にしていなかった。それ程に高まっている小槌の魔力に影響を受けていたのかもしれない。正邪の一振りは床を壊さんばかりの威力を持っていた。床にヒビを入れた小槌を青年は避けていた。そして右側へと走り去っていく。
「姫、今何を言われていましたか。」
「何も。正邪に話すようなことではないよ。」
「何か吹き込まれたのかと思いましたよ。そこまで脳はないようですね。」
正邪は一通り姫との会話を済ませた後で青年の方を向いていた。大きく広がった一室なので大きさは気にするような必要はない。だが、この下の階は小部屋がたくさんあるのでまだ何とか時間を稼げたと思う。
「お前に私からの制裁を与えてやるよ。」
「来い。」
青年は状況が分かっていないように楽しそうにしていた。先ほどの事は忘れているようである。
腰を回して横から小槌を振り回す正邪。
それを見て小刀を構えていた青年。
馬鹿げた行動に正邪は腹の底では笑っていた。そのままの勢いで迫り来る強大な力を持った小槌に青年は何の準備をしているようではなかった。当たる事は目に見えている。正邪は手に汗を握る程に握りしめて小槌を精一杯の力で当たる。小槌には確かに感触はあった。だが、体の方にも何らかの衝撃があり正邪は何故か後ろへと下がっていた。
「何、しやがった。」
「反撃のつもりだったが思いの外左手がいかれてしまった。許容範囲ではある。」
青年は特に正邪の怒りの発言には触れなかった。その代わり自分の事について淡々と話していた。いつも通りであるがどれだけ相手の逆鱗に触れているかといえば鷲掴みをしている状態だろう。青年はそれでも平然と言う言葉そのままに振舞っていた。
「話を聞け。何をしやがった。」
「倒せないのならもう少し楽しめそうだな。」
「何したか聞いているんだよ。」
「それにしても何かあるようだったが固かったな。」
「人の話を聞け。」
正邪の持っていた小槌のはなっていた光がさらに鈍くなるとついには光るようなこともなくなった。それこそ黒く淀んだものへと変わっているようだった。薄汚れたもので黒ずんでいて見るから悍ましいものだが正邪は一切気にするようなことはなかった。
「これで私は完璧な力を手に入れた。」
見るからに興奮している様子だが何も変わっていないようにも見えた。だが確かにそう言わせるだけの魔力が篭っているのだろうと青年は歓楽的に感じていた。そしてこっちの先からは鍔になるような感じで鋭い線のようなものが伸びている。そして剣のような形になる。青年はどうしたらいいのかわからなかった。目の前にあるものが既に幸運を与える小槌ではなくなっていると思えた。
そして振るう。正邪はノーモーションから青年よ腰の辺りを狙っていた。青年はそこで避けるようなことはなく飛び上がり受け身を取りながら二回転していた。青年は何が起こったのか分からないようで口を少しだけ尖らせていて悔しそうに見える。それだけであるが何か特別な事はあるのだろうか。純粋に邪悪に染まった小槌の暴走を止めるのはここに居る二人しか居なかった。
「もはや何者なのかも怪しくなっている。」
青年は吹き飛ばされたその場所から正邪のその変わりようを冷静に観察していた。一切の感情の起伏を見せていない青年だが内心では大いに困っていると思われる。目の前のそれにはそれぐらいの感じがある。姫でさえまさかこうなるとは思っていなさそうだった。
正邪は剣となった小槌を軽々しく振るう。身体能力も高くなっているのか間合いを詰めるまでの猶予もかなり短くなっているようだった。それだけ正邪の怒りというのは大きかったのか単純に野望がそれだけ大きかったのか。青年は兎に角自分の身に傷がつかないようにするだけの最低限の防御しかしなかった。軽く飛び上がり受け止めていた小刀を青年の腹に吸い付く程であり致命傷にはならなかったがそれなりのダメージは受けたのだと思われる。
青年は上がってくる何かを吐いてから口元を拭き取った。青かった衣服が鮮明な赤色になっていた時には何となく危ない状況になっているということだけはよく分かった。青年は吹き飛ばされた勢いを腹にまだ宿していたがそれで寝転ぶほどの柔らかい人間ではなかった。
「凄い状況ね。」
「助けに来たぜ。」
後ろから聞き慣れた声がしたが青年は反応を見せなかった。兎に角面倒なことになる前に倒しておきたいが小槌を受けてはいけないのにも関わらず攻撃をしていけないという絶望的な状況をやっと真面目に考えているようだった。
「それでそれは何よ。」
「取り敢えず何が起きているんだぜ。」
「話している暇はない。見ていて入れるなら来い。」
青年はやっとの事で話しているようだった。人間としての何かを欠落したようで言葉をまともに話せていないように思えた二人は兎に角その場で静観することにした。何が起こっているのかは一切分かっていない。それに青年が止めたのだから何かあるのだと思える。自分の利益は求めないので何か理由があるのだと思う。
青年は前へと歩き出すと小刀を左手に逆手持ちしていて右腰に携えている黒い刀身の透き通った剣を取り出していた。切っ先は床の方を向いていて左腕はピンと伸ばしているようで柄頭で目標を定めるとその後ろから目で牽制するようなビームを撃っていた。
正邪も小槌としてはもう役目を果たさないような剣を右手に持って青年の目に合わせるようにしていた。
お互いが睨み合う。
青年は徐々に間合いを詰めていく。常に床から足が離れないように心掛けていてもはや人間の物陰は外見だけしかなかった。それ程に何も話さない。
正邪は対照的に足を浮かせてズカズカと音を出しながら青年に近づいていく。その間合いの長さが青年の寿命のようなものだった。
正邪は左腕を後ろにしながら腰を回すと右腕も付いていくように動かして一気に間合いを詰めるために床を蹴り出していた。
青年は相手に背中を見せるようにして腰を回すと相手の剣を避けるように動いていた。通り過ぎていくような動きに正邪は微妙に翻弄された。
その隙を青年は回した体の動きそのままに正邪の足を掬い取っていた。何が起こったのか、それは聞くまでもなかったがどうやら踏ん張った。正邪の体は極限まで強化されているような状態で転ぶような事はなかった。青年はそれを予感していたのか諦めるのも次の行動を起こすのも早かった。
青年の右脚が正邪の後頭部を捉えていた。だが、マントの効果で跳ね返さられるように同じ力で反対方向にかけられたが青年は抵抗はしなかった。その代わりに左脚を浮き上がらせて一回転だけして自分の体を回す。その勢いで正邪の顔面を足裏で捉えた青年。相手の道具を利用した状態で渾身の一撃を放った。正邪は背後へとよろめいてそのまま倒れ込んで床に尻をつけた。
青年は左脚を伸ばした状態で両手の指と右脚を利用して着地する衝撃を分散させてから素早く立ち上がる。そして今度は青年が動き出していた。走り出した青年の目の中には尻餅をついている正邪が映っていた。確実に狙いをつけた鷹はその目標に向かって直線を描いて飛び立っていた。
だが、正邪も受け止められないわけでもなかった。だが避ける事はできないので青年の剣は甘んじて受けることにした。下手に外せば青年の剣は弾かれる。下手な話防ぐ必要もなかったが着実にダメージを与えている青年に恐怖しているのかもしれない。
青年の右腕はしなりと腰の捻りを利用した渾身の一撃だった。だがそれでも正邪の小槌には容易く止められてしまう。
正邪は立ち上がれなかったがそれでも何か違う物にされているような黒ずんだ目をしていた。赤色の瞳が段々と黒くなっているのを目で確認していた青年はその場から離れてから素早く剣を振った。
今度は叩きつけるような振り下ろす攻撃で正邪を立ち上がらせるようなことがないようにしていた。だが正邪も負ける訳でもなかった。一度諦めた青年がもう一度振り下ろす剣を利用して場所を移動するとバク転しながら起き上がった。
青年は一撃を加えようと床の方向へと振るが当たる事はなく馬鹿にされているようにその下を通り抜けていく正邪。青年はその場からは動こうとはしなかった。何と無く野生の勘というのが働いたのかもしれない。兎に角戦いに参加していない二人には不思議なことであった。
摺り足で近づいていく青年。
それを嘲笑うように猪突猛進をする正邪。
小槌の魔力の暴走しているが如く動き回る正邪に限界というものがないように思えた。それに対抗しようと吸青年は既に人間では成し得ないところまで向かっているように思える。それでも対抗しているだけ。
小槌を右手を縮こませてバネのように浸かった強力な一突き。
小刀と身体の間を通ったその剣は青年の方へと向かっていた。
紙一重で小刀を潜り込ませて倒れ込むように青年は体を動かす。
其処から右腕を無理やり動かして正邪に当てようとするがずっと着用しているマントに弾かれて当たるような事はなかった。
だが、なんとか体勢を戻した青年。
それを見ていた三人は固唾を飲んでしまった。
左脚を出して右側へと腕を動かしていた。
訳の分からない行動を正邪は好機と見て小槌を振るう。
だが青年の剣は不可解な軌道を描いて正邪の両肩を渾身の力で振るっていた。
もちろんマントで弾かれる。
だが青年の体が床と平行にさせると下から抉り取るように剣を振るう。無理矢理で無茶苦茶なものだがまさかの行動に正邪の小槌を迷いを見せていた。
青年の持っていた小刀は正邪の小槌を捉えていて右腕に持っていた剣は全身を包んで前で止まっているマントの隙間を狙っていた。
針の中に糸を入れるような繊細な一撃にバサッ、とした音が正邪の方から聞こえていた。何かを切ったようなのだがそれが何かはよくわからなかった。
正邪を振るった小槌は青年の剣に対抗するように振るわれていた。
今までの復讐とばかりに城を壊す勢いで振るわれた小槌は青年の小刀の黒い刀身に当たっていた。
青年は左腕には何の力も入れてなかった。何とか持っているだけで持っていないかのようなふんわりとしたスポンジだった。
正邪は鳩尾に当たって背後へと吹き飛ばされた。どれだけの力で振るっていたのかはもう何となくわかる。
だが、青年も無事という事ではなかった。
床に擦り付けられた右半身。
青年は出来るだけ右半身に負担をかけないように背中を使って何とかしていた。
止まった頃には何とか立ち上がれる程度でどうにかなったという感じである。
「終わったわね。」
「いや、まだだ。」
青年には確かな確信があった。