青年放浪記   作:mZu

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第28話

湖のほとりで青年は釣りをしていた。

 

別に紅魔館で食料がなくなったから釣ってこいと言われているわけでもない。俗に暇つぶしというものだ。

 

この霧の中、子供の声があちらこちらから聞こえ魚も逃げ出すだろうと青年が感じていた。釣り、という行為に意味があると感じている。視界のはっきりとしない微睡みの中で青年は竹の竿を湖の中に入れて何かが釣れるのを湿った草の地面に胡座で構えていた。

 

「どうですか、調子は?」

美鈴はこの居候として何不自由なく暮らしていている青年に話しかけた。黒髪で前はかきあげて目に当たらないようにしており後ろは結んでいる。鋭くもないやんわりと吊り目である。

 

「上々だ。」

青年としてはあまり話しかけられたくはないだろう。言葉を短くして会話を成り立たせる。

 

「そうですか。それは良かったです。」

美鈴としてはそれで良いのだろう。満足そうにしていた。

 

「門番の仕事はどうしている。」

青年は本来の仕事に戻らないのか、と聞いていた。美鈴は紅魔館の門番を務めている人で武術の腕がかなりある。青年とはイカサマを使われて負けているがどのような手を使っても美鈴は負けを認めていたのだろう。

 

「咲夜さんが代わりをしています。」

青年はここに美鈴が来るたびにそう言っている。理由というものは特にないが、時間を見定めていたりするのだろう。それとも微睡みの中で前のことを忘れているのか。

 

「そうか。」

それだけを返して湖に糸を垂らすのをやめる。青年は湿った地面から立ち上がると器用に糸を竿に巻きつけておいた。そして魚はおろか何も収穫はなかった。

 

「この中でよく出来ましたよね。」

美鈴としては妖精の飛び交う中でという事らしい。青年はあまりそのようには考えていなかった。

 

「釣れないのでは意味はない。」

青年は厳しく自分の事を評価した。美鈴は特に気にしていないらしいが成果がないというのは青年にとって嫌なのだろう。

 

「今はその事は話すのは辞めておきましょう。夕飯前なので楽しくいきましょう。」

美鈴はそうな風に青年に話しかける。別に何か意味があるというわけではないのだろうが賛同するしかなかった。

 

「楽しくか、悪くない。」

美鈴は認めてもらったようで嬉しそうにしていた。それとも咲夜さんの夕飯に期待しているのかもしれない。

 

 

案の定、今日も釣り糸を垂らしている。口に咥えた火のついていない煙草が呼吸する毎に少しだけ動いていた。

 

それともそれぐらいしかやる事はないのかもしれない。よく晴れた湖で黒髪の青年は気持ち良く釣りを楽しんでいた。

 

音もなく、湖に反射した日差しが眩しいが青年は何も気にしなかった。

 

いや、興味がないのだろう。目を開けずに釣竿から感じる揺れを感じ取っていた。静かに息を整えて欲を出さずにしていた。周りの場に溶け込むようにそして存在の消すかのようにしていた。

 

「何だ?」

青年は顔を向けずに話しかける。其処には誰も居ないはずだった。朝で妖精は仕事に励んでいる時間だった。青年は一応仕事を任されてはいるがサボっているわけでもなかった。

 

「時間を止めて現れても気付くのね。」

銀髪で青服の長袖をしたメイドが現れた。この前よりはスカートの丈は長めであるがそれでも長くすらりとした美脚が目立つ。

 

「何となく独り言を話していたがまさか掛かるとはな。」

青年はあまり何も考えていないのか、単純に気づいていたのは明かさなかった。

 

「貴方の独り言はまるで会話でもしようとしているかのようだわ。」

咲夜としては軽口として受け取り、適当にあしらった。別にこの会話に意味などないからだ。青年は未だに釣りを楽しんでいる。場所を変えようというわけではないらしいが、釣れた数というのはかなり少ない。小魚が一匹。

 

「一人の時は寂しいのでな、仕方あるまい。」

青年は咥え煙草を取り出して箱の中に戻した。そして釣りをやめてしまった。何か来るのかと思ってしまうほどだ。

 

「それで、何の目的で来ている。」

青年は立ち上がって竿を肩に乗せる。そして咲夜の方を向いた。やはり怠そうにしている。

 

「詰まらない会話は終わりということね。それで貴方に頼み事があるから相手してちょうだい。」

咲夜はナイフを脚の付け根から取り出していた。いつの間にか臨戦態勢をされていた青年に話しかける為す術がなかった。

 

「何もない奴に勝負とはな。其処まで勝ちたいか?」

青年は一応竿を構えていた。腰には何もないわけでもないがほとんど無かった。

 

「武人はいつでも構えているものよ。」

咲夜はナイフを投げてその場から消えた。時間を止めてから確実に仕留めるらしい。ノールック。そして咲夜の右肘を抑える。

 

「構えていないわけでもない。」

青年は竿を投げ捨てていた。ナイフ相手に素手で戦闘を挑もうとしている。それがどれだけ無謀であるかは知っている。

 

「なら文句は言わない事ね。」

二本のナイフを左右から投げる。そして左手に一本だけ目立たせるように持っている。

 

青年はその左手を見ていた。二本のナイフは行動を狭めていた。青年はその罠に引っかかり、逃げ場を失う。目の前からは咲夜がナイフを突き刺そうとしている。その眼は冷たくて感情も入らない。

 

青年はその眼を冷静沈着に見定めていた。どこへと向かうか。咲夜は何処からともなく現れたナイフを下から狙っていた。青年は一歩だけ身を引いて時間を稼ぐ。そこから適当にナイフを突き付ける。

 

「うぐっ、」

咲夜は全ての手を潰された。左手は青年の手によってそれ以上進めずに右手から放たれた攻撃は相打ちの形をとった。青年からの蹴りを受けて距離を開けられる。

 

「投げるという行為は後ろからするべきだ。手から離れたものは誰のものでもない。」

咲夜の投げていたナイフを取って青年は喉元を貫こうとしていた。其処は寸止めである。咲夜のナイフも青年の同じところだったがそれでも当たらなかったのだろう。

 

「そうね。これからは気をつけるわ。」

咲夜は観念したのか勝負を投げ捨てる。それで青年は竿を面倒くさそうに構えて糸を湖の中に沈めて更に釣りをしようとしていた。右膝を立てて左手で竿を握っている。

 

「それに鍛錬の一環でしていることに邪魔入れるものではない。」

青年は少し悲しそうにつぶやいていた。それは釣れない為ではない。かかりそうな魚に逃げられた為である。

 

 

魔法陣。それは書く人次第で何にでもなる代物。

 

危険であり、裕福にさせる物として人々は研究を続けていた。その途中でなんらかの法則を見つけ出した先人はその事を本に書き記した。それが蓄積しているこの場所ではありとあらゆる場所から多種多様の魔法を学ぶことが出来る。その書き方、太さ、順番。一狂いも許されない極限の死闘が始める。

「という感じか。」

 

青年は紙にいつでも文字を書けるようにペンを持っていた。その眼差しはしっかりと意識がある。パチュリーはその意気込みを感じ取りながら、魔道書を開いて少しだけ目を通していた。

 

「そうね、かなり誇張しているけど別に間違ってはいないわ。」

パチュリーは青年を褒める。それから授業が始まった。青年は前に出されていた宿題として魔法陣がどういうものかを説明できるようにという宿題を出されていた。

 

青年は自己解釈が多めだがそれなりに答えていたのでパチュリーは概ね満足している。

 

「有難う。教え方が良いのだろう。」

青年は眼を閉じながら答えた。パチュリーは自分を褒めても良かったに、と思っていた。青年は静かに自分の答えを復唱しているように感じた。

 

その声は小さく聞き取りづらかったが、パチュリーはその様子を見ているだけと留めておいた。

 

「そのような事はないわ。貴方の興味が魔法という難しさを超越しているらしい。」

パチュリーは難しい言葉で青年を褒めているように見えた。卓越した才能を見ているかのようだった。まだ小さい火でもその内全てを焼く業火となるかも知れない。パチュリーは妙に不安な感じと更なる飛躍を求めていた。

 

「やっぱり魔法は難しいか。」

青年としては少し不安そうにしていた。アリスのところと此処で学んでいるはずだが、まだ一割にも満たないらしい。そのような事を危惧していた。

 

「根を詰めれば難しいでしょうね。魔法道具との併用すれば対抗は出来る。ただし、内蔵してある魔法陣は見せない事ね。相手に封じられたら何も出来ないでしょう。」

パチュリーは青年にギリギリ理解出来そうな説明をする。確かに魔法は難しい。

 

いくらでも説明する事ははパチュリーにとっては容易い事かも知れないが青年に伝わるかと言えば別である。青年はその説明を分かりやすく紙にまとめていた。

 

「それで魔法陣を封じる事を防止する方法はあるのか?」

 

「無いわ。丸見えのものを見えないようにする事は出来る方法はあるけど、貴方には到底理解出来ない。魔法という真髄を知って魔法陣が見えるようになれば、暴発しない範囲で魔法を重複させて隠す事は可能。」

パチュリーには多分この先のことも見えているのだろう。青年はそれでも諦めようとはしなかった。

 

「パチュリーがかける事は出来ないのか?」

 

「少し時間をくれればする事も可能だわ。でもカモフラージュが出来たとして貴方が使えるかは別。魔力は人それぞれに違い、相性のいい魔法陣も違うもの。私の魔力と似ているとも思えないわ。」

パチュリーは救いの手も弾くほどズバッ、と答えた。青年はその事に卑下する訳ではなく更に興味が湧いてきたようで歯止めが効かないようだ。パチュリーはそんな青年の熱意を見ながらゆっくりと魔法を教えていくつもりらしい。

 

「明日までに魔法陣を隠す方法を自分なりに考えてみなさい。」

パチュリーは参考書を青年に渡して自分は今手元に置かれている本に視線を移す。青年はその場で渡された本を眺めながらよく考えてみて魔法陣を完成させるつもりらしい。一種の宿題であるが青年にはそのように考えてハイなのだろう。その顔は喜ばしい感じだった。

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