妖精は楽しそうにしていた。一面が白で覆われていたからだ。
時期が遅いのでそれはそれは子供かのように与えられた仕事をしてから遊び回った。その様子を眺めながら口に煙草を咥えて不審そうに眺めている青年がいた。黒髪をなびかせている。
髪が背中まで伸びているのでしばらくの間切っていないらしい。眼は少しだけ吊り目で人によって不快かもしれないが優しい目をしている。今日は香霖堂へと向かおうと考えていたが今日はやめておこうと思った。仕方がなく中に入ろうとするがなんとなく門の方へと向かった。
「体調の方が大丈夫か。」
青年は何となく世話になっているので心配になったのだろう。門番である美鈴の元へと向かっていた。これまで何度か鍛錬を一緒にしてきた者同士少しだけ似ているところがあるのかもしれない。
「この寒さに耐えるのもまた修行の一環です。」
美鈴はレンガで出来た壁を背にしながらいつもよりは厚着で地面に座っていた。それでも寒いのだろうと青年は思った。青年は何を思ったのかその横に座る。
「しかしこれは異常だな。この月に雪が降る事となるとは。」
青年は上に見て、冷たく白い粉が舞い落ちているところを見ていた。空は曇り空で灰色をしていたが降るものは白いという変な事を考えていた。
「そうなんですよね。それに段々と寒くなっているように感じます。」
美鈴は目を閉じてこの空気と同期していたがゆっくりと視界を開けていた。青年が居るのでそのような事はしたくないのだろうが青年は何も気付いていなかった。
「何か困っている事はないようだな。」
美鈴はどうしてそのような結論に至ったか頭を巡らせていた。青年としてはこの天候を何も思っていない事を問題としていた。美鈴としては雪が降っているが体調が崩していないかと思っていた。微妙にそれている。
「そうですね。何も困っていません。」
美鈴はきっぱりと答えた。だからと言って青年も何も答える事はしなかった。きっと何も考えていなかったのだろうと美鈴は思った。青年が立ち上がると何も言わずにフラフラと館の中へと入った。
いつにも変わらず紅いカーペットが敷かれているが塵一つ落ちていないような完璧な仕上がりだった。いつ見ても惚れ惚れする。青年は青服の長袖のメイド服に膝下まであるスカートを履いた銀髪のメイドに話しかける。
「何か困っている事はないか?」
青年は何となくだが、一通り仕事を終えたところに話しかける。
「少し食料が足りなくなっていますね。この天候で食材が手に入りにくくなりました。」
流石にこの雪の中で何日分もの食料を手に入れるのは女性一人では難しいだろう。青年は実力はあっても越えられない壁があるように感じた。
「そうか。やはりこの天候というのは異変なのか。」
青年は何かを思いながらもあまり何も言わなかった。メイドに任せるらしい。
「今は五月なのにこの天候だと人里も麻痺しているわ。質の悪い食材がいつもより高い値段をつけられているもの。お嬢様の口に入れるものならその辺りもこだわりたいわね。」
メイドは少し考えながら話していた。在庫を思い出しながら何が足りないかを計算しているかもしれない。青年にはそのような事はわからないので何も言わなかった。
「それならこの異変の原因を調べてみないか。子供は楽しそうにしているが、季節の巡りがないとどうにも身体が鈍る。」
青年はそんな事を理由にして異変を解決してみようとしている。最初は何を話したいか知らなかった咲夜もようやく分かったらしい。
「確かにお嬢様を困らせるのは癪に触るわね。少し聞いてみましょう。」
咲夜は青年を連れてお嬢様の部屋へと向かった。三階の隅にある少しだけ広めの部屋であるが青年が入るのは二度目である。あまり気乗りはしなかったがわがままな事は言えないと腹をくくった。
「失礼します。お嬢様。」
咲夜は丁寧に四回扉をノックした。青年は扉が開けた咲夜の後ろに立ち、身を隠そうとしていた。だが、咲夜によりそれは阻止されてしまい、何とも不甲斐ない格好で出る事となった。
「何と話しかけたらいい。」
青年は話す気はなかったらしくその場で立ち尽くした。
「なんで居るのよ。」
お嬢様も何とも言い難い感じをしていた。あの負け方をすれば仕方がないだろうと青年から聞いていた話で思っていた。
「如何してだろうな?」
青年も疑問形で返していた。咲夜はメイドらしく話を代弁した。
「この紅魔館では食糧不足で悩んでいます。そこで幻霊がこの異変を解決しないか、と提案されました。それで少しの間此処を留守にしたいのですが宜しいでしょうか?」
お嬢様は苦い汁でも飲んだかのような嫌そうな顔をしていた。この人が居なくなればこの紅魔館は何も出来なくなる。その事は此処にきた頃から知っている。青年はこの嫌そうな主人を何とか説得できないかと考えていた。別に紅魔館がどうこうは別に気にしていないが季節の巡りがないというのが気に入らないらしい。
「別に良いけれど。少し咲夜は席を外しなさい。」
主人は青年を席に座るように要求した。青年は声も出さずに座る。背筋を伸ばして緊張しているかようだが、顔はだらんとしてみっともなかった。
「それでは。」
咲夜は去り際にこう言い残してその部屋の中から姿を消した。時間でも止めたのだろうと青年は感じた。それ以外は青年は特に何も感じていそうになかった。
「それで俺を此処に残した理由は何かあるのか。」
青年は主人に何となくで聞いてみる。ただし興味がないのか目は死んでいる。主人はその様子を見てふふっ、笑っているが何か企んでいることがあるのだろう。
「聞きたいことがあるのよ。味方と言えなくても敵ではないと信じるわ。」
主人はどうしても気になることがあるらしい。青年は素っ気なく相槌を打つ。
「貴方は元々ヴァンパイアハンターをしていたのかしら。」
「いや。初めて聞く言葉だ。」
青年はあまりにも適当になっていた。これでは会話は成り立っていない。と思われそうだがそうでもないらしい。
「なら、白銀のナイフを当てたのは偶々だというの?」
主人はどうしてもその事を知りたいらしい。実はあの後、白銀のナイフが刺さった所だけは傷が塞がらずにこの人自身が暴れた事もあり七日の療養を必要としていた。
青年はそんな聞きたがる様子を見て何かあるように思った。護身用にあのメイドから奪って返していない白銀と思われるナイフはある。
「当てたのは狙っていたが、それで彼処まで窮地に追い込むとは思っていなかった。」
当てた、という事は認めた青年だがその態度がいけ好かなかった。自分の話をしている時に興味なさそうにしていれば誰もがそうなるだろう。
「本当に偶々なのね。別にハンターというわけでもないのね。」
主人は安堵したようで机に肘を置いていたのを背中を椅子に任せていた。主人として気品の感じられない姿をしている。青年は立ち上がる。
「それでは帰るとしよう。久々に疲れた。」
「待ちなさい。まだあるわ。」
主人は帰ろうとしている青年を引き止めてもう一度椅子に座らせる。此処だけ見ているとどちらが主人か分からなくなる。
「元々は何かしていたのかしら。土壇場での底力がまだあるように思えたわ。」
冷静な分析をする主人を青年は馬鹿馬鹿しい目で見ていた。そもそも帰ろうとしているところを引き止められたので気分が悪いというのが一因である。自業自得ではあるが。
「それは話せない。此処に来る前の話は思い出してから話そう。」
青年は何も話したくはないのだろう。主人は其処だけを感じ取っていた。次の質問へと移る。
「私が大きく吹き飛ばされた時があったのだけれど何かしていたの。」
主人は主に紅霧異変の時の戦闘を聞きたいらしい。それだけあの勝負のは負けというのは認めたくはないのだろうか。青年は面倒くさそうにしていた。
「それは知らないな。だが、魔法は使った。」
もう帰してやれ、と言いたくなるような顔をして青年はしているが主人はその事はしないらしい。断れない理由があるのは確かではある。
「まさか魔法を扱うなんて貴方は何者よ。」
主人はとても驚いていた。体術もそこそこで魔法も使えるなんてそのような人材はなかなかいないと言えるのだろうか。青年はそんな風に思っていた。
「さあ、な。自分でも分からん。」
青年は既に死にかけていた、のは比喩表現になるがそんな表情を浮かべていた。会話をしたくないのだろうと主人は思ったが其処で引けない理由がある。
「なら、私はこんなどうしようもないやつに負けたというの。」
主人は声を荒げて有る事無い事ぶちまけていた。此処で青年にスイッチが入ったらしい。その場で立ち上がる。
「此処で勝負するか。俺は負けるつもりは微塵もない。」
「挑発と言うの。良いわ、のってあげる。」
主人も机をどかして青年に対峙する。主人はグングニルを用意したが青年はそのような事はしなかった。理由は簡単だろう。此処で騒げば来る人は来る。
「死になさい。」
主人は気品も何もないただただ残念な人にまで落ちぶれた。青年は呆れつつも多少なり相手する。グングニルを部屋が狭いなりに振り回す主人。コンパクトで無駄のない動きは青年を追い詰める。レミリアは全く槍のリーチの長さを生かさないような持ち方で青年を突いた。後ろに避けた後に左へとフェイントをかける。それには騙されなかったのでレミリアは右へと瞬間的に槍を突いた。そして柄を押し進めて一気にリーチを伸ばす。その間合いの読み間違えで一気に死にかけるので槍は怖いのである。
「二人とも。」
其処にはこの紅魔館のメイドがいた。その怒り心頭の顔を見て二人はすぐに押し黙った。その後部屋を片付けさせられたのは言うまでもない。
次回より春雪異変開始。