青年放浪記   作:mZu

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第38話

そんな頃霊夢はというとやっと狭間に身体を潜り込ませた所だった。

 

その場所は一面が黒くて明るいという相反する要素を持っていた。それでも霊夢は何とも思っていないのか、はたまた興味が湧かないのか何とも思っていないので石段を飛行で最短距離で登った。その速さは遅れた人が取るような行動であった。

 

風を切るようなその速さは誰にも追いつけないのだろう。珍しく本気を出した霊夢はすぐに白玉楼の敷地へと向かった。途中で誰にも会わなかったが人はすぐに現れた。

 

「貴方は桜見の会の招待客ですか?」

少女は霊夢に優しく聞いていた。霊夢はその事を無視しようと横を突っ切る。それを止めたのはその少女だった。

 

大きく腕を伸ばして霊夢の進路を妨害する少女は軽く霊夢に舌打ちを受けた。

 

「はぁ、早く通しなさい。さもないと撃つわよ。」

霊夢は人の話も聞かずにその場を押し通ろうとする。少女はそんな霊夢に果敢に挑んでいた。この白玉楼の従者としての意地なのか、単純に野蛮な人物を入れることができないのか。

 

恐らくは後者が原因の前者という答えだろう。主人の被害を最小限に抑えようとするのは当たり前な事でもある。

 

「それは構いません。ですが、」

先に不意打ちにも近いような一撃を霊夢は放った。少女は咄嗟に判断して札の間を通り抜ける。少女は先ほど青年に拾ってもらった剣を取り出した。

 

名を楼観剣と言う。

 

幽霊十体分の一殺傷力を持つ妖怪が鍛えた剣であり、斬れない物はほとんど無いとされている。やはり刀は斬れないと思われる。

 

「貴方のような野蛮な人物はこの先を通す事は出来ません。」

少女は剣を構えて最後まで言い切る。霊夢は静かにそして獰猛な目で見ていた。

 

狩りをする鷹のような目をした霊夢に少女は一歩引いた。相手にしてはいけないような人物だと悟った上でそれでも立ち向かう。

 

「そう。なら強引に押し通るまでよ。」

霊夢は上に札を投げた。そして真っ直ぐに霊夢は少女の元へと向かった。少女は霊夢のその俊足を剣で防いだ。霊夢は霊力を纏ったお祓い棒で少女の剣を封印する。それ以上は進める事が出来ない。

 

「ぐっ。」

少女はその一瞬だけ伝わった衝撃に耐えることができなかった。すぐ剣が手から離れていきそうだったが何とか持ちこたえる、其処からが不運の連続だった。霊夢の投げた札は少女の頭上から真っ直ぐに向かってきた。

 

一発目が受けたがそれ以降は受けなかった。その代わりに霊夢のお祓い棒の打撃を受ける。一瞬だけ息の止まった少女は地に伏せてその場所で動かなくなった。霊夢はその様子を見て思った。今ならいける、と。

 

「行かせません。何しても邪魔されるわけにもいかないんです。」

少女は落とした剣を拾わずに立ち上がった。その様子を霊夢は後ろから蔑むように見ていた。元々上に誰かいるのも下に誰かいるのも嫌う霊夢にとって人のために此処までやれる理由は理解出来なかった。

 

霊夢はそれから白玉楼の方へと向かっていった。その後ろからすぐさま剣を拾ってダッシュした。

 

その速さは神速。

 

ほんの1秒にも満たないような時間だった。

 

少女の剣は霊夢を捉えた。居合を組み合わせて間合いを詰めながら剣で横薙ぎする。

 

霊夢の体が背面から腹の辺りをぱっくりと斬られた霊夢の姿は大量の札に変わった。

 

その瞬間に少女は悟った。

 

やっては行けない事をしたと。

 

その札は少女の元へと向かってきた。何枚かは避けるが、いとも簡単に一枚だけ受けると次々に少女の元に札がやってくる。

 

斬り伏せても別の場所から奇襲をかけてくるこの状況は四面楚歌に等しい。

 

「だから邪魔するな、といったじゃない。」

霊夢はその思っている姿を見て鼻で笑いながらその場を後にした。少女は全ての札が地に伏せるとその場で倒れてしまった。

 

斬ったり避けたりして被弾は軽減したものの少女の体には多くの傷を残した。

 

 

門を開けばそこには白い石で敷き詰められた庭園が広がっていた。限りなく広い庭園に五人は息を呑みつつ、その中で手で招いているかのような石で出来た道を歩いていく。

 

まるで海に吊るされた一本の橋かのように石には波のようなうねりが見られた。そのうねりは不規則で何重にも重なり一つの作品として出来上がっていた。

 

その様子をその何もない雰囲気に飲まれながら五人はその道を歩いていく。その先に見えたのは大きい屋敷であった。

 

そこの縁側の一角にピンク髪でミディアムで薄い青色の帽子を被っていて後ろあたりから白い布が垂れ下がっている。三角の頭に巻かれている布が何となく幽霊を思い浮かばせる。

 

そして青に白い袖をしていた。所々白いフリルが付いている。

 

「あら、いっらしゃい。」

その女性はそれだけ言って茶菓子に手を伸ばした。

 

あむ、と効果音のありそうな可愛らしい一口に五人は見惚れていた。その場で動かないのを不審に思ったのかその女性は近くに来るように手招きしていた。

 

「失礼します。」

五人は少し距離を開けて仲良く座っていた。あまり関わりたくはないのだろう。そのような気は何となく伝わってくる。それでもその女性は気にしていないのか茶を一口、口に入れてほっこりとしていた。

 

その鹿威しのような一瞬だけ響く音しか聞こえないようなこの重々しい空間をどのように過ごせばいいのか分からなかったのだろう。

 

何も出されないのを見て魔理沙は静かながら庭を歩き始めた。箒を担いで何処かに逃げる戦法らしい。

 

それだけはよく伝わるが他の四人は動けずにいた。まず冷静に考えて何処に行けばいいのか分からない。初めてなのでそれは仕方がない事である。

 

咲夜は別としてプリズムリバー三姉妹は正式に演奏家として呼び出されている客である。逆に適当にほっつき歩く事は出来なかった。魔理沙は嫌々咲夜の腕を掴むと何処かに行ってしまった。そうしたくなるのは仕方がないのだろうが、咲夜としては昨日までの敵にこのような同情をされて気分は良くなかった。それだけは感じ取ることは出来た。

 

「隙を見て逃げるぞ。どうにも霊夢がいなきゃ勝てっこないって。」

魔理沙は冷静にあの女性の事を見ていたのだろう。

 

妥当な判断であると感じていた。咲夜は今は仕方がないとゆっくりと離れながら返事はせずに魔理沙についていく。その女性はその様子を見ながらも自分の時間を過ごした。それで横にいる三人が暇そうにしているのを見て縁側から立ち上がった。

 

その女性は歩いてプリズムリバー三姉妹の元へと向かうが、その途中で鳴らされている下駄の音が優雅で三人はそれどころではなかった。

 

「茶菓子食べませんか?妖夢が居ないと私何も出来ないの。でも何もしないのも悪くて。」

その女性は妖夢という名前を出していた。もしかしてここにくる前にあったあの少女だろうと考えていた。メルランが話を途切れさせるのは悪いと感じて首で二回肯定した。

 

「そう、ありがとう。」

その女性はどこからともなく出した扇子で口を隠して優雅に笑った。この三人が少し滑稽に見えたのか、それとも自分の善意を受け取ってくれたので嬉しがっているのかは三人には分からなかった。

 

前者かもしれないし後者かもしれない。或いは両方。或いはまた違う事なのか。

 

「こんにちは。貴方がこの白玉楼の主人ですか?」

此処で門前で別れた青年が現れた。青年は三人にとっては救世主に近かったかもしれない。

 

「そうよ。西行寺幽々子と申します。」

幽々子は青年そう名乗った。青年は幽々子が一礼したタイミングで同じく一礼する。ゆっくりと頭をあげる。

 

「私は山本と申します。今日は宜しくお願いします。」

青年にもどれだけ幽々子が力を持っているのか伝わっているらしく珍しく敬語で話す。

 

やはりこのような人には大体の人はこうなってしまう。

 

「本日は桜見の会の参加有難うございます。」

幽々子は再度恭しく一礼した。

 

「内心間違えていないか心臓が大きな音を立てていました。貴方があまりに美しいのでここの主人であるのは間違いないだろうと思っていましたが正しいかどうかは本人に聞かないといけないですから。」

青年は幽々子に対してかなり下から出るように話していた。幽々子の絶大な力は敵対するにはあまりに強敵である。青年は反応的にそう感じていた。

 

「そう。美しいなんてもったいない言葉をありがとうございます。」

幽々子は嬉しそうに扇子を仰いでいた。

 

口元を隠しながらではあるが。その扇子で起きた風により舞い上がる髪がまた違う美しさがあるように思えた。

 

青年は出来るだけ防御を崩せるようにしていた。

 

「美しいと言えばあの大きい桜もそうなのですが毎年あのようになっているんですか?」

青年は桜の方に話題を移す。それから幽々子の回答を待っていた。

 

「毎年ではないわ。今年だけ満開になるように妖夢に頼んだの。」

幽々子は扇子で顔の半分を隠してどのような考えているか読めなかったが青年は少なからず悪い気があって行なっているわけではないが伝わってきていた。

 

幽々子は単純に興味で行なっている。変に邪魔はできないと青年は思った。

 

「今年だけなんですか。何か意味はあるんですか?」

青年は何かあるだろうという読みで話を聞くとにした。

 

「あの桜本当は西行妖と呼ばれているの。私の苗字と同じで何とか咲かせてみようと考えていたわ。それでもやはり何もなくてそれなら春を集めて西行妖を強引に咲かせてみようと思ったのよ。」

幽々子は丁寧に説明してくれた。青年は妖夢という名前がどこかで会っている人の名前だろうと思っていた。

 

青年は冬が続いている原因がこの桜にあると考えた。それよりかは必然的にそうなる。

 

「そうなるともうじき集まりそうですね。ですが何か西行妖に特別な意味があるんですか?」

青年は幽々子に何となく聞いてみた。幽々子は素っ気なく返してきた。

 

「何も意味はないけれどあそこの下に何か封印しているみたいで何か知りたいのよ。」

フフッ、と笑っている幽々子は口もとを隠していたが声を出して笑うようになった。段々と崩れている証拠だった。青年は後もう一押しだと思ってさらに質問をする。

 

「封印ですか?目覚めさせて良いものなのでしょうか?」

青年は興味津々を装っていた。正確には興味があるが不安の方が大きかった。変な悪魔なり悪霊が取り憑いている場合があるからだ。青年はもしそうだとしたらどうなるのだろうと考えていた。

 

「分からないわ。何も分からないもの。」

ついに扇子を何処かに置いて幽々子は応対をし始めた。大分慣れてきたのか青年も緊張がほぐれてきた。

 

幽々子は青年を縁側に座るように求めた。青年は断る事なく二つ返事で座った。そこには食べかけの茶菓子と湯呑みに半分ほど入っている湯気の立った緑茶が入っていた。品種は沢山があるが流石に見ただけで答えられるほどの知識は青年には持ち合わせていなかった。

 

「そうなると満開になった瞬間がとても楽しみですね。」

青年は縁側に座ってから少しだけ笑みをこぼして話した。幽々子はその隣に座り微笑ましくしていた。とても優雅な時間を過ごす二人に邪魔者が入った。

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