机にはお椀が一つ置かれていた。その中身とは素朴な具材で出来ている適当に作られた味噌汁だった。
「まさかここまで廃れているとはな。」
青年はその机の広さからは想像出来ないほどの寂しい食卓に唖然とした。霊夢はいつも通りであるのでその反応に首をかしげる。
「それほどでもないわよ。」
霊夢は平然と言葉を返すが、青年はえぇ、と言った呆れがかなり濃い顔をしている。その表情に霊夢はムスッ、とし始める。
「別に、食べなくても良いわよ。」
「それで食べないと答えるのは早々居ないだろうな。」
青年は少し汁をかき混ぜてから、一口食べる。と言うのも料理を舐めたような方法で味噌汁を作り出したので箸が進まないと言うのが本音である。まさか水にざく切りにした野菜を入れ、味噌を塊で入れて少しかき混ぜながら作り上げるとは思わなかった。お陰で固い具材を口に入れる事になるとは、青年は少しがっかりしている。正に野菜を入れた味噌の味がする水である。青年は嫌な顔を隠せなかった。
「お気に召さなかったかしら。」
霊夢は平然と食べていた。口の中から聞こえる咀嚼音が怖く感じる。まるで獣かのように昨日の話に例えるなら骨ごと食べるような、そんな気がした。
「いや、そのような事はない。」
青年は本当の事を言えずにその場でじっとしたまま完食した。そして顎の痛くなる朝食であった。
少々の休憩を挟んでから霊夢がその場で立ち上がる。青年のその様子を見てその先のことを感づいて、すぐに立ち上がった。
「あら、手伝ってくれるの?」
霊夢は少し嫌味を言いながら、青年を見ていた。本人は苦笑いをして再び座った。
「待ちなさいよ、手伝いぐらいはしなさいよ。」
「いや、そんなふうに嫌味を言われるとやろうとした気持ちも失せるものだ。」
青年は気怠そうに話すだけでそもそもやる気ではあったらしい。霊夢はそう感じた。
「それは謝るわ。手伝ってくれるの。」
妙に下手に出た霊夢に青年は気味悪く感じるが、そこは抑えてその場で立ち上がる。霊夢は急かすが青年はやはり乗る気ではないようだ。
「手伝うには手伝うが。何とも気分が入らない。」
青年はそんな風に言うが、体自体は向かっており、中でギクシャクしているようだった。
「それでもしてくれるんでしょう。期待してるわ。」
霊夢は言いたい事を言って青年の中々進まない背中を押した。何かあったと言うわけでもないらしいが、妙に距離が近いと感じる青年であった。
「期待されても困るな。」
青年は背中を押されている事には若干の抵抗を見せるが、別に押されてあげているようにも見えた。本気で抵抗すれば押す事も出来ないだろう。それぐらいの感触があるのを霊夢は感じ取った。
片付けを終わらせていつもの日課をこなし始める霊夢を青年は縁側でじっくりと見ていた。掃除道具である箒の場所と拭くための布の場所を教えてもらったが、各一つずつであり、縁側の掃除を任された青年は暇を持て余しているわけである。霊夢はこの神社の境内を箒で掃除するらしい。手伝う事もなく、綺麗だからしてもしなくても良いと言われている青年は文字通り何もしない時間を潰すしかなかった。正に霊夢の衣服がリズミカルに揺れている様子を見ているしかなかった。青年は目を虚ろにしていたところ、上から声をかけられた。
「よぉ、私は霧雨魔理沙だぜ。よろしくな。」
そこには掃除道具であるはずの箒にまたがり、空に浮いている。黒の三角帽子に黒い服とスカート、白の前掛けの如何にもな格好をしていた。
「魔法使いか?」
青年は虚ろな目を直す事はなかった。魔理沙はその表情に口を開けて何も話さなかった。何かを感じ取ったらしい。
「何も驚かないのか。お前の世界では珍しい訳ではないのかだぜ。」
魔理沙はだせ、を無理矢理にくっつけた。余程の自信があるのか自慢をするような口ぶりをすると青年は感じた。
「いいや、幻想郷というのがどういう所か知らないのでな。どのような種族がいるかさえ知らないんだ。」
青年は淡々と話を進める。魔理沙にとってはその冷たさというのが異様に感じるらしい。
「誰に会ったんだぜ?」
「居候させてもらっている霊夢と美味しそうに人間を咀嚼している子供にあった。」
「これは驚いたぜ。人喰い妖怪に会ったのに生還したのか。」
魔理沙は純粋に凄いな、と声を上げて驚いた。その事は掃除を終わりかけている霊夢の耳にも入ったらしい。
「何、妖怪に会ってるの。」
霊夢は一気に詰め寄り、鬼の形相で青年を見つめる。
「多分な、何か変な事だったか。」
青年は状況が分からず、困っているようだ。
「凄い事だぜ。どんな風だったぜ。」
「怪我はしてないでしょうね。」
霊夢と魔理沙の二人から質問され、青年は顔を振って二人の顔を見た。ちょうど重なり何を言っているのか分からない様子である。魔理沙が先に同じ事を聞いた。
「普通に道案内をしてもらった。」
先に魔理沙の方を答える。この山の下にある森を抜けるまで案内してもらった事も話した。霊夢には戦闘になっていないということが伝わり、何も言わなかった。
「しっかし、いきなり妖怪に会ったのか。そして何もされなかったのか。ラッキーだったな。」
魔理沙は右手の親指を上に立てて笑顔で向けてきた。どうやら凄い事らしい。
「そうね、戦闘になっていたらどうなっていたんでしょうね。」
霊夢はまるで保護者かのように話した。巫女としてそのような事態を招くことをしたくないと考えておく。青年は心配してくれたのが巫女としてか、霊夢としてかはどうでも良くなった。
「なってみないと分からない。相当な怪力な訳だしもし腕を掴まれていたら引き千切られる事があったかもしれない。」
青年は爽やかな顔でそう答えた。自分の身を何でもないかのように平然とそして他人事かのように答えた。
「物騒だから辞めてくれよ。その状況は見たくないからな。」
魔理沙は初めてかのように怯えていた。霊夢は冷静に見つめるだけで魔理沙を見てからだと冷たさがより伝わってくる。
「戦うなら好きにしなさい。私たちは何も出来ないと思うから。」
何だかんだ近くに居れば、手は貸してくれるだろうと青年は感じた。理由としては先ほどの行動にある。
「なら好きにさせてもらう。」
青年は霊夢に喧嘩を売っているかのように言葉を発する。霊夢も眉を動かして動向を伺っていた。魔理沙はそんな二人を見て何が何だか分かっていないらしい顔をしている。
「話は変わるが、少し連れて行っても良いか?」
魔理沙はこの状況では言ってはいけないように感じる事を提案する。青年は平常に戻り、少しだけ興味を浮かべていた。
「魔理沙、くれぐれも目を離さないでちょうだい。」
念を押されたので魔理沙はそのつもりだが、霊夢には疑いの目を見続けられる。魔理沙と青年は箒にまたがり、日の上ってくる方向へと向かった。