青年は白玉楼の門の辺りまで青年は歩き出していた。しかし向こうから来てくれた。青年は納めるつもりだった刀を右肩に担いだ。左手で少女を呼び寄せる。
「どうしましたか。」
その少女が青年の元へと近づいた。その時に気づいたのだろう。幽々子と誰が戦っているのか。二人が青年とプリズムリバー三姉妹と一緒に通った魔理沙と咲夜である。そこで大きく飛び退くと両剣を引き抜いた。
「俺はこんな事をさせるつもりは無いのだけは信じていてくれ。」
そう言われてはい、そうですかと言える従者は多分この幻想郷には居なかった。少女は長めの楼観剣右手に持っている剣を中段に構えて短めの左肩に携えている刀である白楼剣を下段に構えた独特な構え方をしていた。青年は両手が下段で構えていた。上はかなり無防備となっている。
「魂魄流、 魂魄妖夢 参る。」
妖夢は剣を構えて青年の元へと向かった。青年は剣を構えているだけで前にも後ろにも、まして左や右にも動かなかった。その姿は流石といえばそうなるが金縛りにでもあっているかのように動かなかった。妖夢はその構えを不穏に思い青年の一刀足の間合いの手前で止まる。
「名乗った方が良いか?」
妖夢が立ち止まってから青年は口を開き始めた。その姿は既に待ち構えていたかのようだった。妖夢はそこで何かを思ったのだろう。青年の言葉に応答しなかった。
「それは別に良いです。面倒なので。」
青年はゆっくりと歩き出すと妖夢の方へと向かう。互いが一刀動けば当てられそうな間合いまで詰める。
青年はかなり好戦的らしいと妖夢は思った。
この時に限ってなぜか笑いを止めようとはしていなかったので余計にそう思っている。
その不気味さは先ほど会った者とは思えなかった。妖夢が先に剣を振る。青年は剣が当たるスレスレを楽しんでいた。青年はそこからどうしたと思う。
後ろへと妖夢を連れてきて縁側に土足で乗り始めた。妖夢はその応答に答えようと同じく縁側へと降りる。
ここの縁側は何処よりも長くこの白玉楼の顔とも言える場所だった。青年は襖を開けながらどこで入ってもいいように開けていた。妖夢はその場で立ち止まった剣を構えていた。
青年は急に止まった足音を不穏に思い後ろを向いていた。一応襖は開けておいて逃げ道は確保している。
それでも何をするか不安だった。青年は妖夢がかなり集中していることが見ていて分かった。
青年は身の危険を感じて右脚を残しながら襖の中へと逃げた。中は畳が敷かれており青年が網目に沿って左足を滑らせた。
「ヘブッ、」
妖夢は転んで嫌な音がした。その白玉楼の廊下と妖夢の頭をが強く打ち付けられた音だった。青年は嫌な気がしたが様子を見ることはできなかった。それに見る必要もなかった。襖を蹴り飛ばしてその大部屋の中へと入ってきたからだ。
「体は大丈夫か?」
青年は先ほどと同じように妖夢が心配になった。あの時は咲夜が何か細工して妖夢を転ばせていたがここには青年しか居なかった。
どのような他人が細工をしていようと妖夢は青年しか疑う気はなかった。
「相手に心配されるほど私は弱くありません。」
きっぱりと断り断言した妖夢は青年に更に剣の攻撃を当てようとする。青年は下段から中段に持ち直すと仕切り直しかのように刀を構えた。
「そうか。武人としてしっかりとした考えをお持ちのようで。」
青年は侮辱でも何でもないような純粋な口から思った事を口走った。青年の素直さは偶に相手を傷つけるようなことも言い始める。危ない賭けのような青年は妖夢を褒めている言葉を言った。
「それは貴方には言われたくはありません。」
妖夢は断固として相手の言葉を受け止めるつもりはないらしい。もしかしたら昔無駄に聞きすぎて自分の戦法を崩されたことがあるのかもしれない。
ここで戦うなら幽々子だけだろうが何か扱うのだろうか。扇子?なのかと青年は深読みして考えていた。妖夢の剣はその隙を見逃していなかった。
「隙ありです!」
妖夢は勢いで突っ込むと上から叩き斬るように構えていた。青年は半身でそのキリを楽しんだ。
妖夢は畳を傷つける前に刀身を跳ねさせた。そこまでも青年は読んでいたのか畳に突き刺して妖夢の剣を抑えていた。
恐ろしく正確な太刀筋に一瞬だけ背筋が凍ったがそれは妖夢に感じさせないようにしていた。
「武人はいつでも構えているものだ。隙がないように、そしていつどこから来ても対抗出来るようにしている。たとえ寝ていてもな。」
青年は思った。これは美鈴の事を伝えていると。
妖夢には一切そのようなことは伝わらないはずだ。青年は少し不味かったか、と思って多少例えを変えようとしてみたがやめておいた。結局は聞いていない。そう妖夢の目が語っていた。
青年は一歩だけ下がって一刀の間合いを取る。約一尺と三寸ぐらいのまで間合いを詰めるのは長い武器を持っている方だった。妖夢は右斜めから横薙ぎで青年の左肩を狙っていた。自由な左手を使って白楼剣を引き抜いて今度は水平に振るう。その筋は当たりもしなさそうだったが青年の肝を冷やすには十分だった。
「危なかった。」
青年はヘラヘラと笑う。
この場所は危ないと思ったのかもう一度襖を開いてまた別の部屋へと進んだ。其処にはコの字を逆にしたような廊下の形をしていた。
青年は縁側から地面へと降りた。
其処には白い石が敷かれていて真ん中に飛び上がっている腰ほどの高さ石があったが気にしている暇はなかった。
妖夢はダッシュして青年との間合いを詰めようとしていた。青年は飛び上がっている石の後ろに隠れた。
妖夢の持っていた楼観剣はそんな石さえも容易く斬ってしまった。青年は石の滑り具合を確かめてから縁側へと飛び乗る。行儀よく靴を脱ぐ事はしなかった。
妖夢の白楼剣が青年の足元を狙っていた。だからこそ飛び乗ってからコの字の廊下を走って大きく回ってまた白い石のあるところへ向かった。
「小賢しい。正々堂々と勝負してください。」
妖夢は楼観剣を中段で相手の喉元を狙っていた。白楼剣は上段でいつでも斬り伏せられる様に構えていた。
まさかの二段構えに青年は焦った。あまりこの様な経験はしてこなかったのだ。それは特に理由なかったことに気がつく。青年は両手を中段に体の中心を開けていた。
確か庭には色々とあった。青年はうろ覚えの中で白玉楼の見取り図を頭の中に描き出す。そこで見つけ出した答えは後ろを向いて逃げる事だった。
その先にあった廊下に飛び乗り乱雑に襖を開けてからすぐに閉じた。畳が敷かれていた部屋が襖で仕切れるようにしてあったわけだが全て開いていた。
しかし青年がこのような場所を望んでいるわけではなかった。更にもう一回襖を開けて外に出る。
と思ったが別館に続く渡り廊下があった。
基本的に簡易的な手すりがあったが外に降りるためなのか所々出られるようになっていた。手すりは木の棒で出来ており下でも転がれば通れそうだった。
「正々堂々と勝負してください。」
妖夢は流石に冷たい視線を残していた。だからこそもう一度言われた時に青年の心は落ち着かなかった。
「ここからする。さ、来い。」
青年は走り出しやすくする為なのか体の中心は開けていた。しかしこれが青年の構え方なのなら文句は付けることができない。それは妖夢には分かっていた。
青年は廊下の続きで戦いをしたいらしい。わざわざ弱点を晒すのなら誘っていると考えるのが普通だろう。
「そのようですね。どのような手を使ってもらっても構いません。私が負けるような事はあってはなりません。」
妖夢は青年に向かって堂々と言った。青年は軽くその言葉を受け取りながら少しだけ距離を開けていた。先ほど廊下で見た異名な速さの居合を見ていたから青年はそれを警戒している。得体の知れないが少しだけ知っている技はやはり警戒する。誰もが不思議がる未確認生物のようなものだ。
「そうか。従者としてはその意気込みは良いだろう。」
青年は冷静に答えた。それは武人としての心構えのようで氷のような冷たさが人を寄せ付けようとはしなかった。
青年はゆっくりと腰を落とす。そこから剣が意思を持つかのように踊る。青年の手の中がくるくると回されていた。妖夢は一旦その場で止まり青年が何をしたいのか見ていた。
「いえ、一人の武人として貴方に勝ちたいだけです。」
妖夢は少しだけ足を踏み出してからダッシュして青年の元へと向かった。
その速さは並のものではなかった。
青年はその勢いに吹き飛ばされて渡り廊下を転げた。
しかし妖夢は驚嘆するほかなかった。見切られている、ただその事実だけが妖夢の心を蝕んだ。青年は綺麗に距離を取り何かを念じていた。
「先はその技だったらしい。肝を冷やす一撃をありがとう。」
ヘラヘラとしている青年に妖夢は飲み込まれそうだった。その一歩手前で押しとどめた妖夢は渡り廊下を走り抜ける。
青年は左へと逃げた。
妖夢は走った脚を止めて外へと出る。青年はその場にはおらず辺りを見渡す。
屋敷の中庭である事以外は開けた場所で人を一人見失うなんてことはなかった。妖夢は瞬時に後ろを見た。青年は最初から逃げてなどいなかった。妖夢は青年の姿を忌々しく見る。
「逃げてばかり、受けてばかり。剣を振らねば勝負はつきませんよ。」
青年はその顔を見てからヘラヘラとしていた。妖夢としては相手にしたくないと思えるほど嫌な人物へとなっていた。妖夢は再び渡り廊下へと登る。
青年はそこから逃げるように部屋の中へと潜ろうとする。
妖夢はその場からダッシュして青年を追いかける。妖夢はその時は何も分からなかった。
自分の視界が上下逆転して襖に背中が当たり受け身を取って畳の感触を足裏で感じるような感覚など。
妖夢はそれでも青年を体の節々が痛むが探していた。ここは白玉楼の裏にある別館と呼ばれる場所。
この広い部屋と料理場があるばかりで特に何かあると言うわけでもなかった。妖夢はここの住人からこそ知っているので青年が知る由もなかった。
しかし青年はこの部屋に居なかった。そうなると何処に逃げたのか。
「真面目に剣を交えてほしいものですね。」
その時妖夢は気付いた。脚の脛に鋭い痛みがした。
青年に何かやられたのだろうと。妖夢ははっ、と気付いて自分の壊した襖から外へと出た。
案の定其処にはいなかった。青年はあの時妖夢の突進に合わせて脚をかけた。その調子で妖夢は転び、青年とは襖というもので遮断された。
「真面目にやりたいものだよな。」
青年は妖夢の後ろに立っていた。
そして独り言さえも聞かれていた。妖夢はすぐに後ろを振り向いたが間に合わなかった。
瞬時に青年は柄頭で妖夢の背中を打っていた。妖夢はその場に倒れ込みながら後ろを見て睨みつける。
その場からは動けないようで青年はタラタラと渡り廊下を歩いて先ほどの場所まで戻ろうとしていた。
「待て。私はまだ倒されていない。」
妖夢は怒り心頭であったろう。そのように感じ取れる顔がそのまま浮かび上がっていた。
この世のものではないような手厳しい顔を浮かべていた妖夢は別館の廊下へと逃げる青年を追いかけた。
妖夢はもうそれは必死に追いかけた。それが男の策略だとも知らずに。