薄暗くそして不気味な地下牢。
此処はパチュリーのよく居る図書室よりも地下深くにある場所だった。その場所で鎖を鳴らして救いを求めている者がいた。
その人は吸血鬼の妹フランドール・スカーレット。
その地下牢より上では青年が空中で右往左往していた。
「パチュリーどうだ?上達しているのか?」
体に操作魔法を使う事で一種の浮遊状態を得られると言うのが飛行の第一歩である。
物には干渉しないこの魔法は自分を浮かせるだけなら魔力があればそれなりに出来るらしい。
その事をパチュリーから教わった青年は助言を頼りに飛行に挑戦しているという事であるらしい。
「ええ。それなりに様になっているわ。」
パチュリーは本から少しだけ目を離してそのように話していた。理由としては簡単だ。別にそこまで見る必要もなった。青年は自分なりに方法を講じながら飛行をしていた。純粋な興味から始まったこの作業だが青年はみるみる成長していた。飛行するだけなら誰の補助もいらないほどとなっていた。
「して、此処から移動が大変だな。」
青年はその場所からは進めなかった。
それでもパチュリーは手を出すような事はしなかった。いや、手を出せなかったのである。
青年は魔法陣の組み込まれている剣で浮力を得ていた。その力はパチュリーには到底理解出来ないし、する気もないという事である。それは人間が仕方がなく行う事であって魔女がそのような事はしないのである。
「とにかく自分で頑張りなさい。」
パチュリーとしては簡単には行かないだろうと考えていた。今までどれだけ道具に甘えていたかがよく分かる。
パチュリーは地獄を見なさいとばかり思っていた。別に性格が悪いわけではない。
そもそも青年が魔法道具なんていう不正をしなければ良いだけなのである。そんな風にパチュリーは考えていた。
「冷たいな。別にそれで良い。そうでもないとパチュリーらしくない。」
青年は自分なりに考えていたのでその考えでうまくいくどうかを試しているだけなのである。別にもうパチュリーの手を借りる必要は飛行に関してはなかった。
「紅茶置いておきますね。」
小悪魔は下から呼びかける。青年は飛行に集中していて返事はしなかったが水平には保っている状態でパチュリーから教わった飛行の仕方を紙に全てメモしておいて自分なりに纏めたものを見ていた。
字こそ汚いが青年のメモはパチュリーの教えを忠実に守っていた。更には小悪魔に頼んで本を持ってきてもらい飛行のイメージ図を書いている。
小悪魔としては飛行をマスターするのはもうそろそろだと感じていた。
「多分冷めるが有難い。」
小悪魔は何処からか声がしたので驚いた。それは横からではなく上から聞こえてきた。小悪魔はすぐさま上を向いたがそこには青年しかいなかった。もちろんその人しか返事をするような人は居なかった。小悪魔は思うところあってその場を黒い羽で飛び去った。
「しかし、パチュリー。意外と空中にも慣れてきたものだ。パチュリーから教えてもらった事が活かせそうだ。」
パチュリーはもちろん見向きもしなかった。青年はまた何かをしているので見てやる必要もないと思っている。
「そのようね。その調子で頑張りなさい。」
パチュリーは全く持って本から目を離そうとはしなかった。その理由は調べ物を今はしておりそれどころではないという事だが、青年は背面にいるパチュリーなど視界には入るはずもなくお互いがそっけない会話をしていた。
パチュリーは異様な場所から液体をすする音が聞こえた。その音を出している人が何かと半分鬱陶しいので見てみた。
「今日の紅茶はどういう名前なんだろうな。パチュリー?」
青年はパチュリーから教わっている飛行の基本を見ながら不安定ながら紅茶を飲んでいる。パチュリーは目を疑った。それは青年が今まで何をしていたのかを物語っていた。
「貴方、いつの間に飛んでいるのよ。しかも剣も握らずに。」
パチュリーはその上達の速さに驚いたのだろう。此処には昼を過ぎてから夕食を食べるまでいるがそれまでこのような事は見えなかった。
パチュリーは天変地異でも起こったのかと目を丸くした。
青年はそんなパチュリーもいたずら好きの子供のように面白そうに見ていた。
「何故か知らないがこんな風になった。案外面白いものなんだな。まだ不安定だが妥協して点はもらえるか。」
青年は楽しそうにしていた。実際此処までこれば後は慣れが何とかしてくれる。青年はその領域まで達したのだ。
パチュリーはその異様な成長の理由を論理的に考察しようとしていた。しかしどこまで見つかりそうにないのでもう諦めてしまった。
「飛行の練習のついでに少し出かけてくる。途中で落ちたらその地点をパチュリーは教える。」
青年はそう言うと二階へと飛行して螺旋階段を無視して地上を目指していた。
「待ちなさい。」
パチュリーは青年を止めようとするが長い時間座っていたパチュリーには追いかける事も叶わなかった。それに途中で諦めてしまったと言うものもあるかもしれない。