青年放浪記   作:mZu

44 / 257
第44話

春の宴会も終わり食料が有り余るこの神社ではもう困っている事はありそうになかった。

 

それに赤い巫女服を着た腋を見せている霊夢は何でもないような気分で久しぶりに掃き掃除をしていた。

 

本来は妖怪や魔理沙くらいしか来ないので意味のないように感じる。だが、今日は違うようだ。

 

「久しぶりだな、宴会ぶりか。」

青年は鳥居をくぐる事なく博麗神社を訪れていた。微弱な魔力によって自分で飛行を覚えた青年はぎこちないながらにも博麗神社まで辿り着いた。足元は不安定だが安全に着地した青年に霊夢は素直に褒めていた。

 

「そうね。遂に飛べるようになったのね。おめでとう。」

霊夢はそうな風に掃き掃除をやめて青年を褒めていた。しかし青年には何も思っていないのかスタスタと霊夢の横を通り過ぎた。

 

霊夢はすぐに後ろを向いたが何の気を払わずに青年は本を取り出す。

 

「ありがとうな、霊夢。やっと此処に戻ってこれたよ。」

青年は前にアリスは借りていた一冊の本を返せることを喜んでいた。前に宴会の時に来たが開催主である霊夢には話す機会などなく、青年はなくなく紅魔館へと帰っていた。青年はそれがずっと心残りなのである。

 

「早く来なさいよ。危うく売りそうだったんだから。」

霊夢はそれか、と少し落胆しながら答える。青年には伝わっているようではなく、完全に無視というわけでもなかったが軽く受け流されていた。

 

霊夢としてはこれで此処に来る理由がなくなる、と考えていた。霊夢としてはあまり此処には参拝客が現れない。妖怪が偶に撃退されに来るがそれ以外は魔理沙だけであった。これで青年が此処に来る理由はなくなる。

 

「そうか。それは済まない事をしたが売られなくて良かった。買い戻す必要がなくなったのでとても気楽だ。」

青年はその一冊の本を大事そうに持っていた。

 

霊夢としてはその顔を見れたらいいか、と思っていた。霊夢としては青年が何故そこまで執着している理由は知らなかった。かと言って聞きたいわけでもないので霊夢は興味がないのである。

 

霊夢は努力というのがどれほど無力かわかっていた。巫女の血は何においても万能な力を発揮する。

 

飛行に関しても札の製造に対しても生まれつき出来ていた。そんな彼女が全ての努力をちゃんと実らせている青年を見て少しだけ考えを変えたのかもそれない。

 

「気をつけていきなさい。死に顔は見たくないわ。」

霊夢は青年のその成長を認めてはいるがそれ以上は何もしないようである。それでも良い、青年は思っていた。

 

「死顔を晒すような人物だと思われているのか。」

青年は少し怒っているかのような妙に声を荒立てていた。霊夢はそこは気にしていないようで何も感じてはいなった。青年もそこまで何も気にする事はないのだろう。ゆっくりと踵を返す。

 

「ちょっと不格好よ。」

霊夢は青年が飛ぼうとしている姿を眺めていた。確かに青年は脱力しながら宙に浮いていた。

 

そこから姿勢保持をする為に手足をばたつかせていた。無意識の中でこれを全てできるようになればそれで飛行は完全に習得した事となる。

 

青年はまだその域までは至っていないようで霊夢には格好悪いのだろう。少しだけ霊夢は笑っていた。

 

「今の内だ。そうやって笑えるのは。」

青年は少し悔しいのかそんな事を言い始める。少し余裕があるのか、青年は短い言葉なら会話は可能のようだ、そんな事を思った霊夢は遠くなっていく青年を見ながら掃き掃除を再開した。しばらく掃除していなかったのでだいぶ骨が折れると思っていた。

 

 

辺りには木で覆われて地面など全く見えなかった。そこから建物を多く立ち並ぶ人里を抜けた。

 

その後はまた森になるわけだが先ほどとは違う顔を見せている森で青年は降りてきた。その場所は魔法の森と呼ばれており、その奇怪な姿から人間はおろか妖怪までもが近付こうとしないそんな森である。そんな場所だが青年には懐かしい場所である。

 

地面と黒い屋根の家が見えるところで青年は地面へと降りた。降りる途中でバランスを崩したのか地面に叩きつけられた。アリスから借りていた本は上手く投げて地面に当たる前に青年が拾った。青年は残念ながら尻餅をついて痛そうにその場に座っていた。

 

「大丈夫?」

この家の住人が現れる。その人形のような整った姿が青年には見慣れているようで屈託もなく笑っていた。

 

「いや、済まない。飛行ができるようになったので本を返すがてら練習をしていた。あ、本は無事だ。」

青年はこの家の住人であるアリスに借りていた本を返した。青年にとっては初めて魔法を習ったところであり、此処から始まったと言っても過言ではなかった。青年にとっては霊夢の次に恩を感じている。

 

「本は無事なのはどうでもいいの。身体は痛くないの?」

アリスは尻餅をついている青年が立ち上がるのを手伝ってあげた。それからアリスは中に入るように勧めた。青年は何か理由はなかったが日の傾きを見て入る事にした。

 

中には無数に並んだ人形があり、大体形の揃ったものが多い。これを見ているだけでもどれだけアリスが人形を作るのに時間を費やしてきたがよく分かる。青年は腰を曲げながら痛みに耐えて椅子に座る。紅魔館ほど豪華でふかふかではないが落ち着くものであるらしい。青年はそんな顔をしていた。

 

「そう言えば、前は銀髪のメイドと一緒に来ていたけど貴方はどこに居るの?」

アリスは紅茶を入れながら背中の向こう側にいる青年に話しかける。青年は机に伏せながらこもった声で答える。

 

「今は紅魔館で魔法を習っている。アリスの所とほとんどやっている事は変わっていない。其処で飛行を練習して今は博麗神社に来てから此処まで飛んできた。」

アリスはその発言に驚いて後ろを向いた。

 

「初めてにしてはかなり長距離を飛行したのね。何処かで休憩したりしなかったの。」

アリスはその青年の功績を喜んだ。それはどこからか来る誹謗ではなく純粋に凄いと感じたからである。

 

「それはしようとは思ったがどうしようか迷っているうちに此処まで来てしまった。まだ飛び方が下手なんだ。」

アリスはその青年の言葉を聞いて少しだけ笑いながら、トレーにカップを乗せて青年の前に置いた。

 

アリスも同じものを飲むらしい。青年は身体を起き上がらせるとカップを持って息を吹きかけながら少しだけ飲んでいた。熱くて少しだけ噴きこぼす。アリスはそんな様子を見ながら少し昔を懐かしんでいた。急に此処に来た時は驚いたが、青年は別の場所で楽しく過ごしているらしい。

 

「それにしてもだいぶ魔法は覚えたのかしら。」

アリスは自分で淹れた紅茶を飲みながら香りを楽しんでいた。青年とは対照的である。青年はカップを机に置いた。

 

「それはだいぶ覚えた。それでもやはり魔法道具に頼るしかない。アリスとは大分生きている時間が違うんだな、と感じている。」

青年は冷静に答えた。多分悔しいのだろう。それはアリスにも伝わったが魔法はそう易々と覚えられるものではなかった。

 

だから魔女は不食、不老の魔法を自身にかけるのである。そうでもしないととても一冊の本を作る事もできない。アリスはそんな向上心のある青年を微笑ましく眺めていた。

 

「それはそうよ。長い年月を要するだもの。それでも貴方は早い方よ。まだ一年も経っていないでしょう。紅魔館でも毎日のように魔法の勉強をしているのね。」

青年はどう思ったかは知らないが別に悪い気はしていなかった。その理由は探る気もないが青年は無意識に笑っていたのをアリスは感じていた。魔法というのものが楽しいものであるのは今でも変わらないらしい。

 

「これからももしかすると魔法で分からない事があるかもしれない。その時は助けてくれるか?」

青年は不安そうにアリスに聞いていた。

 

「助けない理由が見当たらないわ。これからもまた来なさい。」

アリスは青年にはとても優しい。何か弟子ではない特別な気持ちがあるのかもしれない。それとも頼られるのがとても気持ちのいいのかもしれない。それは何方でも良いとアリスは感じていた。

 

「気が向いたらな。」

青年は静かに答えた。カップの中は空になっていた。

「あ、人形。」

忘れ物を思い出したがもう遅かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。