青年放浪記   作:mZu

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第49話

桜も散り幹が丸出しとなっている桜があった。

 

葉などはもう落ちたのか元々死んでいたのかどちらかは知らないがその惨めな姿を青年は哀れに見ていた。

 

しかし、この場では木の葉一つ落ちない見事としか青年は言えない日本庭園が続く。青年は一歩一歩踏みしめながらその情緒に触れてゆったりとした時間を過ごした。そうまさに目の前で縁側で茶を飲んでいるピンク色の髪をした青を基調とした着物を羽織っている女性のような。

 

「こんにちは、幽々子さん。」

青年は惹かれるような気持ちがありそのまんまの気持ちで話しかける。幽々子はそんな青年を扇子で口を隠さずにクスクスと笑った。青年は同じようにクスクスと笑い二人で顔の変わり具合を見ていた。

 

「お変わらずのようね。山本さん。」

幽々子に青年は山本と呼ばれている。本来は名前などなく幻霊と適当な名前をつけているが本当の事を言う機会がなく此処まできてしまっている。青年としては別に名前などどうでもいい事なのだが一応と言うわけである。今更変えるのも変なのであまり積極的に言おうとしていないのでまた青年は言いそびれるだろう。

 

「今日は遊びきているわけではないので率直に用件を言わせてもらいます。」

幽々子は何の事だか察したようで扇子で口元をさっ、と隠した。青年としては別にその事はどうでもいい事なので気にしてはいない。

 

「今日は妖夢と勝負をつけに来た。何処にいる。」

青年は何も隠す事なく話す。幽々子としては分かりきっていた事なのか驚きもせずに奥の方にいる妖夢を呼び出した。

 

その声は優しく気品溢れる声であった。人を呼ぶのにこのような声なら青年は駆け足で来るだろう、などと今は関係ない事を考えていた。幽々子は多分妖夢と青年の勝負を面白がっている。

 

静が基調とされている白玉楼では動と言う演目はあまりなく、物珍しいものであると思う。幽々子はどのように此処で過ごしているかは青年には考えられないが、とても興味深いものだと思って心待ちにしていたと思われる。

 

「はい、幽々子様。どうなされましたか?」

すっ、と足音もなく現れた白髪の白い血色のない肌の剣士である少女は幽々子の隣で耳打ちを受けていた。何を話しているかは詳しくは知らないが青年にはなんとなく理解できた。それは妖夢のその顔を見ていればよく分かる。

 

「約束は守ってもらいますよ。」

妖夢は今だに忘れてはいなかったのだろう。青年は何とも言えない微妙な気持ちで妖夢と対峙する。妖夢はすぐに草履を履いて裏から出てきた。その間、青年は幽々子との談笑を楽しみながら妖夢が来るのを待っていた。幽々子としては楽しみで仕方がないのか口に出さねど態度に表れていた。

 

「何の約束だ?」

青年は妖夢に一応聞いてみる。別に何か隠すこともあると言うと何もないわけだが妖夢は少し戸惑っていた。要は精神的に迷いを生じさせている。

 

「貴方が負けたら婿として此処に来ることですよ!」

妖夢は叫んで青年に告げた。青年は自分で言っていたがそれを裏切るような言い方をしてみる。妖夢はやはり戸惑っていた。青年としてはその様子を興味深く見ていた。

 

「そんな約束を守るほど温情ではないし、そもそもそんな理由で決めるものでもない。もう少し自分をいたわってみてはどうだ?」

青年は何となく伝える。妖夢はそこで初めて迷いが生じた。言うなれば戯言ではあったのかもしれない。妖夢はそれを真に受けてやろうとしていると思っていた自分は馬鹿らしく思えた。青年はそんな様子を見ながら幽々子の方を横目で見ていた。幽々子はそんな迷いのある妖夢を面白そうに見ていた。青年は少しだけ視線を送って幽々子が気づくと青年は軽く両手を挙げてみる。幽々子は少しだけ声に出して我慢していた。相当自分の従者の行動で遊んでいるらしい。

 

「そうですよね。そんな遊びを私は真に受けていたんでしょうか?幽々子様、どうしましょう。」

妖夢は致し方がなく幽々子に助けを求めた。幽々子としてはもう面白くて仕方がないのか体を仰け反らせて笑っていた。もう何を考えているのか分かっているのだろう。飄々としており掴み所のない幽々子とは青年は何となくリズムがあっているのかもしれない。

 

「妖夢、どうして此処に山本さんが来ているのかしらね?」

妖夢は此処ではっ、と気づいたらしい。妖夢は楼観剣を引き抜いて青年に迫る。青年は両手を肩辺りまで上げて降参のような形をとる。妖夢はそれでもやめようとしていなかった。簡単な話、すぐには諦めたりしないのは青年と剣を交えたことのある妖夢にとってはそのような事は分かっていた。

 

「そうだな。妖夢。如何してだろうな。」

青年は両はさみで妖夢をおちょくるようにしていた。幽々子には反抗はしない妖夢は前にいる青年に半分八つ当たりという名で当たっていた。

 

「それは私と、私に惚れたから?」

幽々子は妖夢のその発言に口から茶を噴き出している。幽々子の気持ちもわかるがそれでも貴方の従者だ、と青年は思っていた。肩の辺りから手を下ろすと敵に背後を向けて幽々子の元へ歩いた。青年は距離を開けようとしているのだろうがあまりそのような気はしていなかった。

 

「それはどうだろうな?」

幽々子と顔を見合わせながら両者が笑っていた。妖夢は切り捨て御免と向かってくる事はできなかった。

 

「本当に面白いわね。妖夢。」

我慢出来ないのかあまりにも失礼と青年が思えるほど幽々子は笑っていた。

 

妖夢にはそれがとても許せなかったのだろう。主人を斬る覚悟で妖夢は楼観剣を構えた。そして走り寄る。青年は紙一重でさらりと避けた。剣は抜いていない。それが何を意味しているのかと言えば、幽々子に当たるわけだが涼しい顔をして扇子で妖夢の剣を受けていた。

 

どうやらこれは斬れないらしい。青年は鼻を鳴らしてその一連の出来事をよく見ていた。妖夢が当たらないと感じてキリキリで止めたのだろう。さすがは幽々子だな、と青年は思った。妖夢としてはまさかの事態なのであろう。慌てていたが幽々子の優しい顔に冷静さを取り戻したらしい。主人に刃を向ける従者もそうだが、それを笑って見逃せる器量にも青年は感服した。

 

「避けましたね。」

その冷たく吐き出すような冷気の一言に青年は肝を冷やした。武人としてその気迫というのは流石とも言える。青年もついに右腰から剣を抜いて臨戦態勢をとる。

 

妖夢もそれに楼観剣で対応した。ゆっくりとした時間を過ごすかと思っていたがあまりそうでもないらしい。まさに鍔迫り合い。

 

青年は両手で柄と刀身を支えて上手く妖夢楼観剣の一撃に対応した。妖夢も両手で上から斬り伏せるが青年には軽く止められている。

 

妖夢は冷静に判断して今の状況ではらちがあかないと思った。

 

妖夢は青年に当てようと相手の持つ刀の軌道を防ぐ。相打ちを取られるのが一番嫌なだと考えたらしい。妖夢の切っ先が青年の首筋を掠る時、青年は左腰から引き抜いた剣が妖夢の腹わたを裂かんとする。妖夢は落とした右腕で白楼剣を握り受け止める。青年は引き抜いた勢いを利用して不規則に動くと妖夢の背後を取った。青年の足運びは静かで何一つ擦れる音はしなかった。青年は背面を敵に見せつつ、左肩に刀を乗せて振り向く。

 

「まともに戦ったら負けるな。」

青年は軽くそう言ってしまった。その太刀筋や気迫は青年に恐れを与えるには十分と言えた。妖夢は楼観剣の切っ先を青年に向ける。多分青年のその弱々しさを見抜いたのだろう、幽々子は従者に対して抱いていけないようなものを感じていた。

 

「妖夢、剣に意思が。」

妖夢の白楼剣は青年を突き刺しに向かう。青年は間に自分の剣を挟んで半身になって防いだ。妖夢は恐ろしく腕が立つ。なので前回はまともに相手をせずに時間を稼いでいた。青年は命の危機を感じながらその場で立っていた。

 

「話は辞めて真剣にやりましょう。」

妖夢は白楼剣を青年から離さずに楼観剣でも攻撃を始める。完全に斬り殺す気がその双剣から青年の刀へと伝えられて手から頭へと伝わる。青年には危ない場面である。それでも青年には余裕というものがあり、まるで笑って遊んでいるかのような表情をしており妖夢にはひしひしと自分の身の安否を気にし始めた。妖夢には感じるのだろう、武人としてのそれで。

 

「辞めておこう。俺のスタイルはそういうものだ。」

青年は双剣を下に潜り抜ける。

 

妖夢は双剣をかけている力の向きのままに腕を動かす。

 

青年とは反対の方向に向かって妖夢の体の回転に青年は足に剣を当てて体勢を崩させた。

 

庭に敷かれている石を軽々しく飛ばしながら地面をえぐる。その様は旋風をまとった人物となっていた。妖夢は受け身をとって損害を最小限にして地面を転がる間に青年に顔を向けて睨みつける。

 

青年は特に追撃はせずにその場所で立ち尽くしていた。何も考えていないのかタイミングが悪かったのか遊んでいるのかさえ妖夢には青年の思考は読めなかった。

 

他人の思考はよく分からないとは納得できる人と出来ない人がいると思うが青年は妖夢にとっては理解できない部類であるらしい。そして勝てない、と言いながら詰めれない妖夢は焦燥に駆られていた。青年としてはそれで良かったりする。

 

「貴方は遊んでいるんですか!?」

妖夢は激昂して青年に聞く。左膝を地面について下から青年の目を見つめる。

 

ジャッカルのような眼光に青年は手を間に入れて見ないようにした。それがどちらに向かっているのかは当然双方には分かっていない。

 

そんな一進一退の均衡したこの状況を幽々子は扇子で口を隠して偶に茶を啜る。二人とは打って変わって和やかな雰囲気で縁側に座っている幽々子はまた別の次元にいるものだと思う。

 

「それは試してみるといい。」

青年は微笑して妖夢と対峙する。

 

手で隠してはいるが別に見えないわけでもないらしいので妖夢の追撃には素早く対応した。その速さは光であった。攻める事もなくただただ時間を過ごしている青年はどのように思ったからここまでわざわざ足を運んだのだろうか。それが意味するのはどのみち青年にはやる気がないという事だろうか。

 

それともそこまで妖夢が引き出せていないだけなのだろうか。青年には生きている気がしなかった。死のうとも思ってもいなかった。妖夢の双剣を一本で受けて顔の寸前まで引き寄せる意味が妖夢にはそのようにしか感じれなかった。青年はいつものように何もこもっていない目をしているのでもう妖夢にはよく分かっていなかった。

 

「なら、早く降参してください。」

「そうだな、少し考えてもいる事だ。」

青年は抑揚もなく答える。何がしたいのか、勝負を挑んできて適当にあしらわれて捨てられるそんな気がした。妖夢は更に力を込めるが特に動かなかった。

 

それどころか押され始めている?そんな事で気を狂わせた妖夢は青年の追撃を受け止めきれなかった。青年は大きく振りかぶり妖夢の双剣を断ち切らんとしている。

 

その一撃に大きく押されて肩の辺りまで下げられた。妖夢は膝を曲げて青年の一撃を耐えようとするがもう一撃は見えていなかった。左脇腹に何か違和感を感じたが妖夢は見ることさえできなかった。とてもジンジンとした火傷のような痛みがする。

 

そして妙に其処だけが外に触れているのか冷たく感じた。妖夢は気になり下を向いて確認をしようと試みるが敢えなく失敗する。目の前の大きな影がそれを許さなかった。

 

ぐっ、と押し込まれた妖夢には逃げる術がなくなっていた。盛り返そうと妖夢は柄に力を込めた。ギシギシと言わせるほど強く握り青年に対抗しようとするが全く動く気配がしなかった。

 

其処に青年はまた大きく刀で上から叩き付ける。親指と人差し指で柄を軽く握りその後、妖夢の双剣に当たる時に全ての指で握る。破壊という名がふさわしい一撃は妖夢を完全に跪つかせた。妖夢にも此処から打開できる方法が見つからなかった。青年の刃が妖夢の肩を擦りそうになる時だった。

 

「負けを認めます。」

「まだ一筋も与えていないぞ。」

「良いです。このままいけば私が潰れます。」

青年は妖夢の少し不満そうにしている顔を横目に自分の刀の状態を見ていた。刃こぼれは多少はあるが新しいものでもなかった。フランドールの一撃を受けた時にきっとついたものなのだろう。青年はどこか遠い空を見ながら剣を納めて幽々子の元へと向かった。

 

 

静と代名詞したような箱庭に小さな鹿威しの辺りに響き渡る音が耳元をこそばゆくしていた。その何も存在しないかのような庭と屋敷のある白玉楼の本館の南側の縁側で青年は横になっていた。足は外に出して意外にも揃えていた。

 

身体をグーンと伸ばして疲れを取ろうとする青年を横目に恥ずかしそうにしている幽々子は茶を飲んで扇子で顔をパタパタさせていた。青年は目を閉じてその白玉楼に流れている空気をその肌で感じ取った。其処に二つの湯呑みとやかんを持って現れた妖夢は少し足音を立ててはしたなくしていた。負けたのだから少しは悔しいと思っているのか、と青年は軽く受け流して何も聞こうとはしなかった。

 

「さっきの試合どうだった、幽々子さん?」

青年は腹筋の力で上半身を起こすと肘を膝の上に乗せて猫背になっていた。青年としてはそれなりに疲れているが口には出そうとしなかった。

 

「え?あ、良かったわよ。」

目をキョロキョロさせて明らかに動揺している幽々子に青年はその場から目を向けるがどうにも角度が悪いのですぐに前を向いた。妖夢は湯呑みに茶を汲んで青年の近くに置いておいた。青年はそのわずかな音に気づいたが猫舌なのですぐには取らなかった。

 

「しかし、この決闘どう処理したらいいんだ。」

青年は後ろに置いてあったのであろう湯呑みを持ち何となくすすっ、と口で啜る。器も熱く舌も火傷した様に痒くなったが青年は特に気にしなかった。青年が気にしていたのは其処ではなく、先ほどの妖夢との決闘の勝敗による報酬というものである。青年としては此処に偶に顔を出す分には別に良いと思っている。正直何方にせよ、此処には来るつもりなので何が変わるのかはよく分かっていない。

 

「そうね、何か欲しい物ある?それなら何とかしてくれるわ、妖夢が。」

幽々子はサラサラと妖夢に無茶振りをする。幽々子には多分見透かされているのだろう。青年は肩を上げて後ろに手を置いた。

 

「それはいきなり言うにはいささか無理があろう。」

青年は冷静に切り返す。この様な回答は多分幽々子の好みだろう。青年は暑い事を忘れて茶を飲もうとして吹きかける。

 

「妖夢を持っていくならお好きにどうぞ。」

幽々子の突然の発言には神出鬼没な妖怪でさえも手を焼くのだろう。青年には幽々子の奥底などは見えていないが、逆は真っ新なほど見えているのだろうと思える。青年には敵いそうにない。ましてや妖夢を合わせたとしても逆に使われる。

 

「幽々子様、それは困ります。」

幽々子は扇子でクスクスと笑いながら横にいる妖夢の顔を見ていた。青年には口を見せるがその時ちょうど下を向いていた。茶をこぼした様に思えて不安を感じた青年は衣服や下が濡れていないか確認した。そんなこんなで幽々子と妖夢の無言の会話は聞こえていない。

 

「しかし、幽々子さんなら考えたかもしれない。」

幽々子は扇子で隠す事もなくぽかんと口を開けて青年を見ていた。それが何を意味しているのかは青年にはよく分かったので思わず口を隠す。妖夢にはもうよく分からないような世界なのだろう。従者にしては振り回され過ぎている。

 

「もう、冗談はよして。」

幽々子は青年が何も話さないし、何かを含んだ表情をしていたのが読み取れたのだろう。青年は何も答えずに茶に息を吹きかけながらゆっくりとゆっくりと口の中に運んでいく。しかし舌を火傷した為か、茶の本来の渋みとほんのりと後からくる甘味しかわからなかった。青年にはそのくらいで茶の名称も答えらるはずもなく美味しい、としか感じていなかった。

 

「私は?」

妖夢は真に受けているのだろうかどうしようもない程心配そうに聞いてきた。幽々子はもちろん何も言わないし青年も何も答えなかった。その理由は幽々子は知らないが青年はその方が戸惑うだろうと考えていた。良い性格をしている。二人とも答えないので妖夢は急に自信を失ってその場で消沈した。

 

「嬉しいわ。」

幽々子は青年に耳打ちで何かの答えを呟いた。青年には何の事やら分からず首をかしげる。

 

「暫くは此処に居させてもらう。機会が来たらまた教えてくれ。」

青年は幽々子に返答はしないらしい。それどころか全く関係のない事を話す。茶を飲むだけのゆったりとした空間を気に入ったのだろうか。

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