忍び寄る影。放浪し力果てた時に襲いくる狂気。
終わらせにくる甘い果実はほのかな香りと微かな希望を与え人々の上に君臨した。圧倒的な力とその凶悪な性格によって服を血を汚す吸血鬼は人々の上に君臨した。
そのわずかな危険を身に感じて青年は後ろを振り向いた。そこには誰もおらずレミリアも居なかった。その姿を探そうにも闇のような暗さでは何も探せなかった。人の視覚とはそのように軟弱なものである。
「お兄さん、目を離しちゃダメだよ。」
青年は後ろから聞こえるその断末魔に身を震わせる。逆にそうなりそうな予感が青年の頭の中から外れる事はなかった。
「妹様か、パチュリーからなんとなく話は聞いている。調子はどうだろうか?」
青年はいる事は知っていたが誰かは分からなかった。殺気も何も感じられないので青年は気づけなかったとも言える。フランドールは机の上に座りながらソファーに座っている青年を優しそうな顔をして見ていた。一体何があったのだろうか?
「調子は良いよ。前みたいに閉じ込められる事もなくなったし明るいし誰かの顔を見れるしとても楽しいよ。」
フランドールは一体どのような場所に閉じ込められていたのだろうか。もう既に青年には嫌な気がしていた。生命の危機というわけではないのだろうがそれでもそれなりに身を引き締める必要がありそうだ。
「それは良かった。前に会った時は大きく変わっているのでそれなりに効果はあるのかもしれない。」
青年はかなり冷静だった。あまり危なそうな所ではなかったのだろう。フランドールに対する畏怖の念も少しは無くなってきているように感じる。それだけを終われるかと言えばそうでないと青年は大きく見積もっていた。
「でもなんで急にこんなことになったんだろう?」
フランドールにはそれは疑問だろう。どれほどの年月閉じ込められていたのか青年には見当もつかないが確かに急であることには変わりはないのだろう。青年は考えた、急な環境の変化にどう思うのだろうかそれこそパチュリーやレミリアの支援は必要となるだろうと。
「どれぐらいその処遇なのかは俺には分からないがパチュリーが何となく疑問に思い始めたのだろう。そして行動を起こした。そんな感じだ。」
青年としては自分の功績である事を知らなかった。更にはパチュリーがどのような会話をしたかも知らない。その頃は白玉楼で茶を飲みながら幽々子と話し、偶に庭師兼剣術指南役の妖夢と木刀を重ね合わせていた。知っているはずがない。
「お兄さんが何かした訳ではないんだね。パチェはお姉様より偉大だね。」
「それは思っても言ってはいけない。逆に言われたらどう思うか、それを考えて行動を起こすべきだ。」
青年はわざとフランドールを視線から外していた。それほどバレない程度ではあるのだがその辺りはやはり感じ取るらしい。少し移動を始めた。
「お兄さんはあれからどうしていたの?」
「あれからとは?」
「私と遊んだ後だよ。」
フランドールは誰からも教わっていないのだろう。あれが遊びでたまるか、と青年は思った。本棚を三つ分転がされるような事はあってはならない。しかしそう言ってもいいのだろうか。吸血鬼と人間ではそのくらいの力の差はあると思われる。
「少し疲れて眠っていた。」
青年は嘘をつく。本当は眠らされていた。事故もあったが基本的にフランドールとの戦闘だ。
「嘘。パチェから聞いたわ。二日間眠っていたんでしょ。」
青年は肩をすくめてしまった。もう事前に調べていたのか、ならもう隠すことも無いのだろう。
「二日間なのかは覚えていないが本が頭に当たって意識が朦朧としていてそのまま倒れてしまったらしい。」
「そうなのね。パチェと聞いている話と同じなんだ。どうしても信じられなかった。」
フランドールは見るからに沈み込んでいた。というか全体的に暗いイメージを持っている青年にはここから出されている負のオーラのせいだと感じた。何か改善する方法はあるのだろうか。あまりないようにも方法はあるにはあると言った自信のない青年がそこに居た。
「妹様、これからは力の加減というものを知ると良い。主人のように丈夫な人もいれば一振りでここまで追い込まれる人もいる、その事実は覚えて欲しい。よく学んだ上でまた違う遊びをしよう。」
青年は説教のようにも聞こえる言葉を連ねてみる。ここでどのように出るかは青年はとても興味があった。フランドールはどのように動くのだろうか。
「それは今は努力しているわ。上手くはいかないけど少しだけ待っていて欲しいの。」
フランドールはあまりにも前向きな発言をする。青年は少しだけ泣かせてしまうのではないかと考えていた。ただの杞憂に終わったらしいがそれだけでもだいぶ大きいだろう。青年はソファーにゆっくりと深く座った。久しぶりに背中を預けたように感じる。フランドールは近くに寄ってきて青年の膝の上に座った。
その可愛らしさや従順とも言える様は吸血鬼とは思えなかった。青年はフランドールを上から見ていたがその場に座っているだけで何か危害が加えられたりしないので少しだけ安心した。しかし幽々子に続いて体を触れさせるとは思っていなかった。幻想郷というのは偶にこのような事があるのだろうか。あまり考えても仕方がないのだろう。何も言えないのでそのまま時間を過ごしてフランドールは後ろに体重を偏らせた。青年はその姿を確認してから対面にいるパチュリーに話しかけた。その後小悪魔に頼んであるものを持ってきてもらった青年はフランドールをソファーに寝かせると頭だけは膝の上に乗せてタオルケットをかけてあげる。
チラッ、とフランドールの幼げな小さくそれでも吸血鬼としての凶悪さを見ていた顔を見てから青年は魔道書を読み始める。読み終えてから魔法の練習をその場でしていた。魔道書を浮かせながら動かしてみたり、同時に動かしてみたりした。小悪魔は落ちてもすぐに取れるように準備をしていた。偶に青年は隠れて練習していたのだ。