石で出来た灯篭の並ぶ一本道にて二人は対峙した。白い石が敷き詰められた場所で横長の長方形の規則正しく並ぶ道がある。その上で草履の擦れる音がして何事があったかのように思える。しかし青年はなにも思っていなかったのか小さく笑いその人に向き合う。
「中々に興味深い。」
青年は妖夢のダッシュした後に繰り出す突進をさらりとかわす。だが、青年には少し試してみたいと思える何かがあったのだろう。
きっとそうだ、と妖夢は思っていた。青年は妖夢の目を見ながら次の一手を探していた。妖夢の突きを半身で避けて木刀で体に当たらないようにしている。まだ白楼剣を模した木刀は抜刀していない。
此処で青年に向けて抜かれたとすれば無防備な背中を軽々しく狙われる。なら、とばかりに妖夢の剣から逃げるように走った。急に抵抗のなくなった剣は思うように操作が出来ない。妖夢にはとてもではないが予想が立てられなかった。
此処からどこへ行くのだろうか、青年は妖夢の後ろへと回った。背後を取った青年はその場で回った。
妖夢は顔を半分だけ青年に向けていたところを足裏が顔に当たる。一瞬何が起きたか分からずに妖夢は首の痛みを感じた。其処まで本気で蹴られたわけではなかったが体と首の回転が違うので余計に痛みを感じるようになったと妖夢は予想した。青年は其処をすかさず狙う。今日は攻撃的な立ち回りをする青年に妖夢はいつもの調子を出せなかった。手を出したり出さなかったりする青年が全てに何かを求めているかの様に手を出してくる。それが何を示しているかは軽く分かった。
フォームチェンジのようだと妖夢は感じた。試しているだけだろうと軽く見積もっていたがもうそのような事をしようとは思えないだろう。それだけ青年が妖夢にとっては脅威となっていた。青年は低い姿勢から走り寄ると左肩で妖夢を押し飛ばして木刀を当てるよりも振る事を重視したような一閃。妖夢は後ろによろけながらも木刀で何とか弾く。カン、と鈍い音が辺りに響く。
「油断したか?」
青年はまだまだやれるとばかりに木刀を手の中でくるくると切っ先が円を描くようにして回して遊んでいた。妖夢はその行動の意味を探りながらゆっくりと立ち上がる。此処で斬り込んで来ていたらどうなっていたのか妖夢は軽く考えていた。青年にとっては何でもないような風にその場に存在していた。この雰囲気で異様とも思える立ち振る舞いに武人として馬鹿にされているようにさえ思えた。
妖夢は何も言わずに体を前へと傾けた。其処からの速さは雷のようだった。瞬きの間に目の前まで近づいて来た妖夢の木刀を青年は誘導しているかのように隙間を空けていた。妖夢としてはその場所に入れてから体の方へと切り込む算段をしていた。妖夢の剣はその青年の用意した穴へと入るとすぐさまはたき落とされた。妖夢は右手のジンジンとした叩かれた痛みで手軽く離してしまう。その隙を狙うかのように青年は振るのかと思ったが其処まではしなかった。理由は想定出来ないがわざとしたように思えて来た。妖夢には見えていなかったのだろう。
青年の刃が下に向いていることを。妖夢の視界は今までとは90度回転したように見えた。白楼剣を模した木刀も青年の横を下から上へと軌道を描く。まるで理解出来なかった。何もないかのようなその感じに妖夢は絶望した。
「勝負あったな。」
青年にはもうそのように見えたのだろう。そんな事を呟きながら刀を腰から斜め下へと振り下ろす。その先に妖夢がいたが青年は木刀を弾くのを忘れていた。妖夢にはギリギリで取られてしまい、其処から青年は何とも出来なくなってしまっていた。ただ下へと押し付けるのを辞めれない青年はその場を一気に退いた。
理由は単純、あそこで使う力は無駄な時間を費やすだけである。そして妖夢の方が筋力が強かった。それはもう何回か経験している青年は自分が不利になるとすぐに距離をとって妖夢と対峙する。まるで無かったかのように始まる決闘に青年は身を構えていた。
右手は中段で構えて左手は体の後ろにしていた。小指を鍔につけていつでもいけると言う感じである。其処からは素早かった。青年は右手で切っ先を妖夢に向けると妖夢はその先を読んで受け止めた。利き手ではない為に多少力は弱まっていて青年と対等とも言えた。それがかなりの命取りと妖夢はなった。
「勝負はつかなかったですね。」
青年はゆっくりと口角を上げて目は妖夢を凝視していた。その姿はさながら人々を怖がらせる妖怪とも同類かのように思える。妖夢は少し怖くなった。
元々半人半霊という生まれつきの種族であるが幽霊が怖いと言う何故白玉楼にいるのか分からないようなものである。後から聞いた話だが此処は冥界とされて次の生まれ変わりを待つところでもある。そんな場所に霊が居ない事はなく誰か一人が存在している。青年も知らない住人に剣を向けた事があるが最近ではそのようなことはしていない。
正しく青年はその幽霊かのような顔をしていた。妖夢の力が抜けたところを青年は刀で押した。後ろから左手を伸ばして切っ先を妖夢に当てるような軌道を描かせる。その先に少しだけよろけて後ろに下がっている妖夢は木刀で受けるが軽く飛ばされてしまった。その力は計り知れないほど強かった。渾身の一撃とも言えるものを青年は妖夢に与えていた。妖夢にとっては二本の剣を吹き飛ばされて為す術が無くなったかと思えたが妖夢は何故か拳を握り始める。要は素手でしている。
要は剣相手に素手で挑もうとしている。青年は何とも思っていないかのように刀を構えていた。此処からが本番かのように緊迫した空気が流れていた。妖夢は錐のような鋭い眼差しを向けていたが青年は払い除けたかのように同じような目をしていた。簡単に言えばもう勝負など決まっているのだろうがそれでも辞めようとしない妖夢と言うのか、それに付き合おうとする青年が互いに勝負を楽しんでいた。
「拳を握るのはどうなんだろうか。」
妖夢はそう言われたので軽く拳を握り始めた。終わったのではなく始まったのだ。
青年は木刀を気軽に持ち軽く振っていた。本当に軽そうにしていて木刀が豆腐みたいな柔らかいもので出来ているかのようだった。其処から獣のような一撃を与えるのは意外と容易かった。
青年には当たっているかどうかは別として更なる一手を考えていた。妖夢はひらりと青年の一撃を避けると左の裏拳で青年を空中で回転しながら当てようとする。その当たりそうなところを寸前で避けきり互いの草履が擦れる音がする。青年は反転して向き替えると妖夢の元へと全力で走り寄った。そして繰り出される強烈な一撃は妖夢には致命傷とも言えた。
両手で取ったが青年の剣の勢いの方が強く切っ先で腹を押されて尻から地面に着地する。青年はそれだけで一旦やめておく。
「これで真剣なら妖夢はそのうち死ぬだろう。この勝負に後に勝ったとしてもな。」
妖夢もその事は百も承知していた。それだけ強烈な一撃を受けて立つ事もままならなくなっている。もし真剣なら軽くなった貫通している。もしかしたら勢いで少しだけ穴が大きくなっているかもしれない。
「そのようですね。参りました。」
青年は自分の木刀を鞘の中に納めると妖夢の分も拾って鞘に納めさせると背中で背負った。妖夢は青年の首元に手を巻きつけて安心している。青年も妖夢の膝裏を通して腰に携えた鞘を握っておいた。その戦いの後に芽生えた友情のようなものが其処にはあった。妖夢はその暖かな背中に身を任せて白玉楼へと向かった。