第58話
明るい茶色の髪をした少しだけ捻れたツノを頭に二本持ち、白のノースリーブを着て紫のロングスカートを着用している伊吹萃香。
ウエーブのかかった金髪を小刻みに揺らして紅い瞳が覗かせている白いシャツに紅色のベストを着用した紅色の巻きスカートを着用しているフランドール・スカーレット。
その両者がこの場所で対峙した時に何が起こるのかは青年にはよくわかっていた。両者は睨みつけながら敵である事を認識した。
そもそもお遊びの一つとたかを括っていたレミリアにとってはこの空気は異様とも言えるのだろう。そんな顔を浮かべて咲夜に手を掴まれて階段の下へと避難した。霊夢と魔理沙も静観を決め込むようで自身の身に何かあったらその場から逃げる腹づもりではあるらしい。
そんな事が出来るのかは分からないが見てみたいと純粋な希望を青年は持っていた。一人は恐怖し、もう一人は冷静に戦況を見つめて、もう一人は煙草を咥えて少し違うところに視点を動かして、最後の二人は静観を決め込んでいる。そのような場所で二人は同時に動き出した。
フランドールの右拳が萃香の顔面を掠る。その風圧に少しだけ髪がなびく。その風が互いに起きていた。これでもまだ序の口とも言えると青年は思っていた。両者は一気に距離を取る。初手で拳で殴るだけでは到底倒せないと感じているのだろう。その選択がどちらに傾くかは此処にいる誰にも分からなかった。レミリアなら運命を操ってどうにかしそうではあると青年は思っていた。
その手を使ったところでどちらにしろ変わらないと二人が遊んでいる姿を見ていれば誰でも分かっていた事だった。目の前では鬼だからこそ出来る戦闘が続いていた。フランドールの左拳の顎に当てるアッパーを顎で受け止める。萃香はその攻撃を受けた後に右拳でボディーを狙って一発入れた。避ける事を知らないかのような拳の殴り合いになっていた。青年はそんな姿になってよかったとさえ思っている。これで飛んでくる事はないだろう。それぞれが強大な力を持ち合わせているために起こり得る事象は何とも出来そうになかった。
「効くねぇ。フランドール。」
「中々良い拳よ、萃香。」
お互いが鬼であると知ればそれがどうなるかは見なくても予想がついていた青年はこの先で何が起こるのか大まかな予測をしておいた。あまり過激にならないだろうとは思っているが壁に損傷がでそうなら何とかしてそれは防ごうと思っている。
やはり直すのが誰なのかと思えば咲夜なのである。時間停止により一瞬で直るがそれで顔一つ変えようとはしないが咲夜の強みでもある。それなら咲夜に実権を握られても致し方がないと思われる。青年はパッと前を向いた時には大分事が進んでいたように思える。お互いが少しだけ息を上げているが、戦闘態勢を崩そうとしていない辺り双方が今までどれだけ詰まらなかったのかを物語っていた。
青年はそんな二人を見つめていた。フランドールの素早く出した右拳に見極めて萃香も同じく拳で対抗した。ゴン、と言う雷のような鈍い音がしたがそれでも更に押し続けようとしていた。お互いが顔を近づける程に力を込めているのだと思えた。此方から見れば何でもないような光景であるが二人はあの拳に全てを賭けている。あそこを外せばそこでは何も起こらなくなる。
負けさえ有り得そうな状況に何とも言えない青年は少しだけ移動をしていた。何もある訳ではない。姿や景色が変わるわけでもないのに青年は歩いていた。その間では大きな行動が起こっていた。何とフランドールが力を抜いて萃香の拳を空振りさせた後にボディーを狙った強力な一撃が入ってしまった。萃香も鬼とは言うが痛みと言うものは感じる、つまりはその場でうずくまってしまった。フランドールは勝ち誇ったような表情をしているが萃香はまだ秘策があるらしい。要は疎を利用した巨大化とも言える。
青年は事前に能力のことを聞いていたので驚くような事はなかったが他はそれなりに顔に出るほどであった。フランドールもその一人であるがそれでも真っ向勝負にするらしい。萃香が今度は勝ち誇ったような表情を浮かべていたが青年にはそれが虚偽である事は分かっていた。巨大化したならフランドールにもそれなりの策がある。フランドールは右手を相手に向けていた。その狂ったような紅い瞳がまた一段と輝いていた。フランドールには物を破壊する能力を持つ。倒す事は出来なくても大損傷を与えるのはようであると青年は感じていた。フランドールがキュッ、としてから萃香はその状態をやめないといけなくなるまで追い詰められた。フランドールから少し離れたその場で致命傷を受けた萃香はその場で立ち尽くしていた。
「楽しかったわ。」
フランドールは以前かのように笑っていた。やはり相手にできそうな程強靭な人物は紅魔館には居なかったらしい。それだけが分かるような決闘であった。フランドールは以前にも見せていた表情をしてゆっくりと萃香に近づいていた。何をするのかと言えば手を指し伸ばしていた。萃香は何をしたいのか察してその手を握った。
「私も久しぶりに体を動かした。ありがとうな。」
「いいえ、それはお兄さんに言うべきだよ。私も楽しかったんだ。」
青年の方へ向かう二人をこの場にいる四人が見守っていた。その様子をそれぞれが別々の事を感じ取っていた。萃香は満足そうな表情で感謝を述べた。フランドールは子供らしく楽しそうにしていた。多少なり感謝はしているがそれよりも別の感情の方が高そうに思えた。それはどうやら多少なりの安堵とも言える。青年は二人に視線を合わせると頭を軽く触ってあげた。これにより所々で宴会が開かれる事はなくなりまた穏やかな幻想郷へと戻っていた。