階段を降りるその足音に青年はそちらを向いていた。消火も終わり一段落ついた頃にその客は現れた。
「何よ、この惨状。」
辺りは焦げ付いていた。そこに慌てて水を掛けたらしくそこまで被害が甚大と言うわけでもなかった。青年は自分の持っている剣を鞘の中に音は鳴らさずにサッと納めた。そしてレミリアの方を見ていた青年は何処か興味の無さそうな表情をしている。一難あってまた一難といった状態で疲れているのが見て分かる。それでもレミリアは気にする事はなさそうだ。
「魔法を試したらパチュリーが守りきれなかった。」
実際は何もしていなかったが青年はパチュリーの虚言をそのまま素直に聞いていた。その感じは本当に信じていたらしく訳がわからないと言う表情をしていた。レミリアにとってもその状況はよく分からないと言うわけだった。パチュリーの魔法防御を破るほどの威力をこの人間が出したと言えるのか、それほど本気でしていたわけではなかったのだろう。
「パチュリー、何しているのよ。」
レミリアにも既にこの状況なのでパチュリーが何をしていたのかはよく分かっていない。その場所には何かが燃えた炭と綺麗な状態の魔道書が五、六冊が散らばっていた。少し濡れていたが防火、防水の魔法がかかった魔道書はこの程度は何とも無かった。その場所でパチュリーは倒れていた。
「レミィ、ちょっと油断したわ。」
パチュリーは少し体が痛いのかその場所からは動く事はなかった。単純に横になっているだけなので青年は特に助ける気はない。そのうち起き上がるのでそれまでは魔道書を読もうとしていた。消火も終わっていたのでこれから魔道書を読む事を再開しようとしていたところでレミリアが現れたので青年にはまた邪魔されたような感じがしていた。
「もう、何があったのよ、ねぇ貴方。何したのよ。」
青年はもう読書をしていた。分厚い魔道書を持って自分は浮いていた。側にすぐにかけるように紙とペンが用意されている。完全に蚊帳の外となっていた青年にレミリアは不意打ちを仕掛ける。
「貴方、いい加減しなさいよ。」
レミリアは大人気なくグングニルで一突きした。青年は更に高度を上げて届かないようにしていた。最早何もする気がないらしい。そしてレミリアと会話をする気もないらしい青年はレミリアの機嫌をさらに損ねることとなっていた。レミリアは遂に翼を使って飛んだ。青年は横目で隣にいる事を確認してから魔道書をついに閉じたが何か話すような事はなかった。
「何をしているのよ。」
相当頭に来ているのだろう。最早青年が完全に悪いはずなのだがここまで来ると五分五分とまで言えてくる。それぐらいにレミリアは大人気なかった。人間相手に容赦などしなかった。
「パチュリーが起きたら何とかしてくれる。俺にはまだ修復魔法は覚えていない。」
青年は魔道書をついに落とした。地上に当たる前に少しだけ操作して本を静かに床に置いた。どこに置いたかまではまだ出来ないので何とも微妙な事になっている。それに完全に置くまでレミリアが待ってくれなかった。それだけ頭にきていたという事らしい。魔道書は乱雑に置かれて音を立てて床に伏せていた。
「そんな事は聞いていないわ。」
じゃあ、何を聞いている、そんな事を思った青年は紅い槍を受け止めていていた。その槍は多少なり雷でも宿っているかパチパチと動いていた。まるで生きているかのような幻想的な武器を扱うレミリア。
「やるなら下でやる。パチュリーに当てるなよ。」
青年はグングニルを弾くとすぐ様逃げるように床へと降りた。それを追撃するようにレミリアはグングニルを投げつけた。
青年は体を翻してすんなりと避けた。そして青年はグングニルを引き抜こうとしたが触ることさえ出来なかった。触れないと分かると青年はその場をレミリアのいない方向へと歩き出した。レミリアにはその行動はよく分からないのだろう。相手にみすみす槍を握られることになる。それを許すのを愚の骨頂かと思えた。
もう手加減などするつもりがないのでレミリアはすぐ様走り寄ってグングニルを手に取る。そこでだ。大きな爆発音がしたのをレミリアは直撃で受けた。グングニルは軽く破壊されてしまった。レミリアはその吸血鬼としての強靭な肉体と蝙蝠に変身することで何とか被害を軽く済ませていた。青年はその様子をゆっくりと見ていた。青年にとっては魔法の実験の一つなのだろう。炎を使って玉を切っ先に作り出すと陰の魔法をかけて小さくしておいた。物質保存の法則を使ってゆっくりと膨らむ爆弾を丁度レミリアに当てたのだ。
「辞めて貰えないだろうか。」
青年は呆れた様子で剣を持っていなかった。まるっきり戦闘をする気はないらしくレミリアを遠回しに侮辱しているようだった。青年には目の前の事にはまるで興味がなかった。これがパチュリーと立場が入れ替わっていたなら魔道書を読んでゆっくりと時間を使っていたのだろう。そんな気がする青年にレミリアは再度グングニルを作り出して戦闘を続ける。
「ならば私を主人として扱いなさい。」
レミリアの一突きは青年の首筋を掠った。青年は冷や汗一つもかかずにレミリアを凝視していた。青年に興味がある事を邪魔されるのが一番嫌いだった。用事があるわけでもなく下らない事に付き合わされることが嫌いだった。そんな目をしている青年をレミリアは少しおののきながら視線を逸らしていた。青年は槍の間合いには入らないように距離を取っていた。
「それは難しいだろう。咲夜の方が人を見る目がある。フランドールの方が力が強い。パチュリーや美鈴はどう比べたらいいか分からないが誰に付いてくるかはもう分かっている。勝てるわけではなかろう。」
青年は靴を履き直したいのかつま先をトントンとしていた。レミリアはその言葉を聞いてそのはずはないと思っているが実際に考えるとどうなるのだろうか分からなかった。此処にいる住人のうち妖精が一番票を集めやすい。その点でも人気があるのは目の前にいる青年とも言える。
「貴方には勝てないでしょうね。」
レミリアは端的に言葉をまとめた。青年はその様子に肩の力を抜いていた。やっとこれで魔道書を読むことができる。そう思っていた。
「なら、もう休ませてくれ。疲れた。」
青年はトボトボと歩いてパチュリーの近くまで歩いていた。レミリアは何も言えなくなりその場に付いて行く事にした。そんな風に呼ばれているような気もしたからだ。青年も少し気になることはあるのだろう。
「近くに行ってもいいかしら。」
青年は首を振って肯定するだけで何も言葉は発しなかった。レミリアは同じような速度で付いて行き、パチュリーの所へ着く頃には対面できる程近付いていた。敵に背を向けるとは何事かと思っていたが青年は後ろに目があったかのように反応していた。レミリアには最早人を見る目はないらしい。