青年放浪記   作:mZu

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第66話

平和な夜だった。人里では全ての人が異変に気付きなどしていなかった。何事も起こっていないと思われた満月の夜に妖怪が現れる。本来ならば妖怪を倒す側の人間が何もしていないので逆に妖怪が姿を現したと言うわけになる。

 

人間はその時に初めて異変というものが起きていることに気がついた。人間は夜が明ける前に解決できのか、と聞き妖怪は夜を止めてでも解決して見せると答えた。妖怪はすぐさま向かい、人間はその後を追いかけた。魔を感じ、幻を打ち破る人間、魔を遣い幻を無効化する妖怪の二人は夜を止める。

 

 

空には満月が浮いていた。その満月は輪郭がくっきりとしていて一段と綺麗に見えた。

 

青年はその下で舟を漕いで静かな夜風に当たっていた。前に美鈴に素材を集めて一緒に使ったことがあるこの舟は形こそ不恰好で何も装飾がないが青年はその方がいいと言って変えようとはしなかった。其処は使う人の好みなので美鈴はあまり口を出さずに作り上げていた。

 

その上で青年は煙草を口に咥えてその紫煙が辺りの空気と混じりこの闇の中に消えるのを見ていた。そして少々舟が揺れているのでハンモックの上のような落ち着いた雰囲気を感じていた。誰もそれを邪魔する人は居なかった、唯一の青年の楽しみをことごとく邪魔したのは夜の帝王とされる吸血鬼だった。

 

「ねぇ、少し可笑しな事が起きているんじゃないかしら。少しは気にしてもいいんじゃない。」

紅魔館の主人であり青年に倒された事のあるレミリアは黒い羽をばたつかせて宙に浮いていた。その姿はやはり夜の帝王らしく堂々としており気品が感じられた。相手がレミリアでなければ青年も同じような事を思っていたに違いないがその事はなってみないと分からない。レミリアが来た事で急に不機嫌になった青年は煙草を咥えながらその目を光らせていた。吸いかけの煙草を右手で持ちながら灰が舟の中に入らないようにした。どちらにしろどうするべきはわからない。

 

「異変が起きているのか。一体何が起きていると言うんだ?」

青年にはあまりにも興味がなかった事なのだが一応聞いてみる。異変が起こると色んな人が出てきては誰かしらと会えるので青年には新しい出会いがあると思っている。実際にそのようになっている。レミリアに兎に角舟に乗るように勧めた。

 

「時が進んでいないのよ。貴方は感じていないのでしょうけど、私はものすごく違和感を感じるわ。」

レミリア曰くそのようらしいが青年には何とも変わっているようには思えなかった。確かに満月の夜が続いている気がするがそれならそれで酒が進むのでどうでも良かったりするだろうと青年は考えていた。つまりはあまり問題には思っていないらしい。

 

「違和感か、そして時が進んでいない。つまりは日が重ねられていないと言う事なのか。そう考えると確かに異変ではあるな。」

青年は此処で初めて異変解決に重い腰を上げようとしている。しかし、右手に持っている煙草を再び口に咥え始めるとゆっくりと口に含んでからその調子のまま吐き出す。何か違う次元を見ているかとレミリアは思っていた。それは正しいのかまた違う事を考えていたのは確からしいが何を考えているのかは泡を捕まえるようなものだ。

 

「そうでしょう。私と一緒に解決しないかしら。夜だからとても動きやすいのよ。」

レミリアの目的こそは青年は何となく察していたが煙草の火で微かに見えていたレミリアの表情からはその通りだと思えた。それがどれだけ大変なのかはよく分かっていないらしい。青年は冷たい目をしているのを煙草を口から離して隠しておいた。此処で初めて満月の光しか相手を見る事はできない。レミリアの真っ赤な瞳が怪しく宝玉のように輝いていたのは見ていればよく分かった。青年は再び白い巻き紙を口に咥える。

 

「それで咲夜にも話はしたのか。」

 

「えぇ、それでもあまり乗る気ではないらしいわ。やはりそれだけ私が頼りないからかしら。」

青年は以前ならそうだろうな、ときっぱりと答えていたが少し考えている辺りそうでもないらしい。青年はゆっくりと言葉を連ねようと口を開いた。

 

「それならまた違うだろう。恐らくだが俺と同じく異変には気付いていないだろう。貴方が気にするような必要はない。」

青年は淡々と話していた。レミリアにはその言葉は嬉しいものであった。見直したのかと思うがそもそもそんな事を考える事がないので勘違いだろうとレミリアは感じていた。青年としてはそれは付いてこないだろうと考えていた。それだけレミリアが主として顔が立たなくなっている。それを感じて今回解決したいと言うなら青年が止める理由などなかった。それに青年自体異変と分かれば興味がある。此処では一種のイベントとして楽観的に捉えているためそのようになる。

 

「そう、ありがとう。なら、早速出発しましょう。」

レミリアは羽をばたつかせてその場を垂直に飛び上がった。満月の光を隠しているその様はそれを許容するつもりなどない絶望が目の前にあるようだった。それが吸血鬼としての本来の姿とも言えるのだろう。青年は舟を漕いでいつもの陸地に停泊させてから自分の持ち金を持って青年の刀を器用に使って空へと飛び上がる。

 

「夜を止めてまでもこの異変解決するわよ!」

レミリアはとてもやる気であるが青年にはそのやる気はまるでなかった。その理由はその後に分かる。

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