もうすぐで魔法の森へと差しかかろうとしているところだった。そのキリキリを歩いていた。少し時期は違うと思われるがこの辺りには蛍の明かりがこの暗さの中で光が線を描いていた。その風景にレミリアは感嘆の声を漏らして見惚れていた。青年にも少なからず幻想的だと思っていたがそれでも少しは周りを気にしていた。
此処は一応妖怪のいる場所である。いつ何時に襲われても良いようにしていた。この静かさの中で草むらから出てくるのかはどうにも分からなかった。そして鬱蒼とした森の木々から誰が現れても不思議ではなかった。青年は以前に妖怪が人間を襲うところを見ていた。それ故に恐ろしいというのが本音である。
「綺麗よね。これはなんて言う生き物かしら。」
「蛍。」
青年はレミリアの質問に即答した。レミリアは独り言のように話していたからか、それとも青年の存在を忘れていたからなのか少し体を止めてしまった。そんな理由は簡単である。青年が急に話し始めたからだ。それだけがレミリアの行動を止めた。
「それは昆虫なのかしら。それとも精霊?」
レミリアは更なる興味が湧いたのか青年に聞いていた。青年はあまり話して欲しくなかったので愚策であったらしい。そんな表情を浮かべていたが、右斜め後ろにいるレミリアには何も分からなかった。
「昆虫だ。本来は梅雨あたりに見かけるはずだが少しおかしい気がする。」
青年は風が流れたかのように吹きかける様に言葉を出していた。その言葉を聞いてレミリアは何か疑問に思えていた。今は秋である。その中でこれだけの蛍がこれだけ飛び交っているのはいささか変な事態である。青年にも少しは気づいているがあまり表情に出さないのはレミリアでもよく分かっていた。
「何か関係しているのかしら。少し気になるわね。」
レミリアはその目の前の現象を目を映していた。その姿はまさに妖怪に襲われたのである。青年は急に現れた妖怪に襲撃を受けていた。
「止まりなさい。」
レミリアは青年に向けて大きく叫んだ。青年の耳には入ったのだろうが背年は聞き入れるつもりはなかった。それぐらいは分かっていたとも言える。青年はすでに剣を抜いていた。その居合決まりにも似た動きで確実に仕留めよう、とはしていなかった。寸止めで止めていた。刃が妖怪の首筋を掠る。正に斬られていたとも取れる様な感覚にその妖怪は地面に滑りながら首筋を触っていた。言わば、青年が斬るつもりがないからそのままで済んでいるだけの話だ。
「何をした?」
レミリアと同じ様な身長で緑色の肩に当たらない程度の髪である。白のブラウスシャツに黒のキュロットパンツというなんとも男の子らしい格好をしていた。頭には何らかの触覚があるが青年はもう今更その事は気にしなかった。そして燕尾状の黒いマントを羽織っている。
多分蛍の妖怪だろうがわざわざ此処に飛び出してきた理由は二人ともよく分からなかった。
「どうした?」
青年でさえよく状況が分かっていないのか、レミリアの方を見ながらその妖怪に話していた。レミリアでさえもその様子によく理解ができておらずどうしたら良いのか分からない様な状況である。
「いや、あまり気にしないで。蛍が集まっていたから侵入者かと思っていたけどなんか違うみたいだし。私はリグル・ナイトバグだよ。蛍の妖怪なんだ。」
リグルはこの状況を何とかしようとしていたがあまりそうでもないらしい。
「紅魔館の主人、レミリア・スカーレットよ。」
レミリアは簡単に自己紹介をしてリグルの返しとしていた。青年は特に名乗る気はないらしく、正に取り残されているのかさえ思えてくる。どうしてこの様になったのかはよく分からないのだろう。青年にはもう何も残っていなかった。
「で、何か時が進まないことについて何か知っていることはないだろうか。」
青年にもそれなりの理由があるのは承知しているが本当に頭が混乱しているらしく自分の用件だけを伝えていた。レミリアはその様子を珍しく思い、リグルは何の事だか分からず余計に混沌とした状況となっていた。レミリアは何とかしておこうと思ったがどうにもならなさそうだった。
「いや、何の事だか分からないよ。」
リグルはそれでも律儀に青年の質問には答えていた。リグルも青年と同じく時が止まっていることを知覚することは出来ないらしく、青年と同じ様な反応をしているとレミリアは感じていた。
「それなら仕方がないのか。レミリアどうする。」
「いや、知らないわよ。今日は何故か自信がないようね。」
レミリアは青年の様子の変化を気になったのだろうか青年に聞いてみることにした。一通り、話は終わったので話題を素早く取り替えておいた。青年は急な事に目を細めて何をしたいんだ、と言った感じであった。レミリアから言わせればあんたが何がしたいの、と言う事である。
「異変には未だに疑問に思えているからな。なんとも言いにくい事態ではある。」
青年は淡々と答えていた。
「私はそろそろお暇するよ。邪魔して悪かったね。」
せかせかと森の闇の中へと消えていくリグルの背中を二人は見つめていた。流石にあの話の転換の仕方は強引であるらしくリグルは付いてこれなくなっていた。
「愚策だったわね。」
レミリアは少し反省した様にしていたが既に置いてかれていることに気づいていた。青年には先ほどの事など軽くあしらわれている程度なのであった。青年には独特の空気を持っていて誰しもが読めるわけではなかった。