「殺すなよ。」
青年は悲しそうな表情をしてレミリアに言っていた。少しは話を聞きたかったのだろう。青年はそんな目をしていた。
「状況分かってるの?」
レミリアはそこそこ冷たい視線を青年に送っていた。二人の目の前には灰色の着物を着てこの闇に隠れるには丁度いい格好をしていた。この森なのでもしかすると人間を襲おうとしていたのだろう、レミリアはそう言うことを言いたいが青年のその態度に何とも言えなくなっていた。
「状況か。あれだろ。単純に自分の領地に入ったから襲ってきたのだろう。別にそのつもりはなかった、と言えば少しぐらいは何とかならないのか。」
「貴方、ここまで生きてこれたわね。何もしてこなかったの。」
「結構運が良かったらしい。すぐに博麗神社に着いたが帰る気もないからそこで居候した。」
青年は何故か自分の事なのに誰かのことを言っているかのような話し方をしていて、レミリアには頭を傾げることである。
「その後はどうしたのよ?」
レミリアはそのような話を聞いていなかったらしく変に興味が湧いてきたらしいが青年は多分暇つぶし程度にしか思っていないのか適当に話していた。
「魔法を少し習ってから紅魔館に向かった。」
「あの時ね。本当に運が良いわね。」
レミリアも流石にそのような反応をしていたのだろう。少し明るくなった表情をしたレミリアは何となく考えていることでもあるのだろう。青年には既に別のところに向いており何を考えているのか分からなかった。レミリアはそのことは気にしていないらしい、多分一年ぐらいか見ているからその点は慣れているのだろう。どのような生活をしているのはよく知らないが。
「よく言われる。人喰い妖怪に案内してもらったりしているから幻想郷はそう言うところなのだろうと思っていた。」
青年にはもう既に何処に向いているのかはレミリアにも分かった。何処からか歌が聞こえる。青年はもしかするとその場所へと向かっているらしい。レミリアは青年に任せているのでそこらへんは付いていくしかないのだろう。
簡単に言えばとても良い歌声が聞こえる。その原曲というのは何も知らないが青年にも少し興味が湧いたのだろう、歩く速さは何も変わらないがレミリアはそう感じていた。レミリアにも確かにその歌には興味を出し始めていた。
「いい歌ね。貴方も興味があるのかしら?」
青年は後ろで結んである黒髪を左右に揺らしていた。この暗さなので見えにくいのだが夜の帝王であるレミリアの目にはそんなことは何も関係なかった。だから先ほども素早く反応出来た。それだけなのだが青年にはあの襲撃には分かっていたのだろうか。レミリアにはその事は読めないのでその事がどうにも気になっていた。
「興味ある。とても心の落ち着くものだ。」
青年にもそのような事を感じることがあるのだろう、とレミリアは内に秘めておくつもりだがようやく人間らしいとも思えてきた。
「そう、良かったわね。貴方はそこに向かうつもりなのでしょう。それなら私も付いていくわよ。」
レミリアはその体躯を活かして可愛らしく言ってみたがまるで興味がないかのようだった。咲夜の手伝いとして私生活を見知っているからこそ何とも思う事はないのだろう。レミリアは不満そうな表情を浮かべたが青年にはそれは見えていない。前を先行しているからというのもあるが、この暗さで吸血鬼のようには視界が良くはなかった。
「そうか。」
その冷たい一言にもレミリアは不満に思っていたが言うだけ無駄なのようにも思えてきた。それだけ人の流れには乗らず好きな事をしている。その中で興味がある事はとことんやるが何でもないものはにもやらないのが青年の性格だった。だからか、美鈴のところで何かしているか、パチュリーのところで魔法を習っている以外は何もしていないと本人から聞いている。
「そうかって。貴方、少しは興味持ってほしいわ。歌には興味があるよね。」
「いや、歌ってる人に興味がある。」
青年は手早くレミリアに対して返答した。青年にとっては歌などは興味がないのだろう、ただし歌っている人には興味があるらしくその事がレミリアにはある意味気になるところだった。青年はそんな事などは気にしていていないのだろう。目の前にある自分に関係している事にしか目の向かない青年には何も見えていないに等しかった。
「早めに向かいましょう。早く行かないと終わってしまうわよ。」
レミリアには多分見えているのだろう、行かせたくない理由が運命という形で見えていた。青年がその運命に背く事ができるのだろうか。それだけ気になっていた。青年は何も考えていないのか、感じていないのか、その事は何も考えていなかった。
もはや亡者かのような生きているように見えない青年には期待しても良いのだろうか?
「〜♪」
ある妖怪は歌う事が好きで歌っていた。
その妖怪は雀のような茶色で謎の曲線には紫色の蛾のようなリボンがつけられている。暗めのピンク色で背中には茶色の翼のようなものがある。その大きさは腕を伸ばせば短いが普通に立っているだけでは大きく見える程度のものであった。耳は鳥のような感じで雀の妖怪であるらしい。その下では血溜まりと少しだけ身の残った人間が骨を露出させてその場で倒れていた。
歌う事の好きな妖怪らしくその芳香に惹きつけられた蛾が喰われているだけである。幻想郷では様々な人の襲い方をしていて、妖怪の得意な事でしている。青年も中々運が良いのはそういう理由である。誰にも襲われる事はなくてここまで気楽に過ごしている。レミリアも一応妖怪だが無理に血を吸いにいく必要はないらしく青年は襲わないらしい。其処へ二人の足音が響いた。
「貴方が歌を歌っていた人なのか?」
青年はその妖怪に話しかけた。その妖怪には不審に思っていた。レミリアはその度胸をどのように評価すれば良いのかは分からずある意味困っていた。青年にはこの人間が血を垂れ流している姿など何とも思ってはいなかったのだろう。
「はい、そうです。如何でしたか?」
丁寧に答えていた妖怪に青年はその姿をよく見ていた。やはり目立つのは背中にあるレミリアやフランドールについている翼なのだろう。どのような妖怪なのかじっと見ていた。
「すいません、あまり見つめていると私、照れてしまいます。」
気軽く笑っていた妖怪に青年はその場に座った。もちろん、無言でその場に座っていた。妖怪はその青年の行動には驚いたのだろう、レミリアは同じく座っていた。
「歌を聞きたいそうよ。早めに歌ってあげなさい。きっと惚れたのよ。」
レミリアは子供かのように静かにそして興味津々に見ている青年のために擁護をする事にした。妖怪にはこの落ち着いている状況が何と説明すれば良いのかわからなかった。本当に聞きたいならできるだけ近づいてこれば良い。それでも何もしていないらしいので視界が見えているのだろうか。妖怪にはその程度にしか見えていなかった。
「分かりました。」
その妖怪は口を開けてゆっくりと息を吸うと綺麗な歌声を出していた。青年は地面に何かを書いていたがレミリアは気にせずに目の前の歌声に耳を澄ませていた。青年は合いの手をしてその妖怪が歌いやすいようにしていた。その優しい手拍子に妖怪は気分が乗ってきたのか歌う声が大きくなっているように感じた。
レミリアも同じ合いの手をして相手を乗せてあげる。そんな時だった。膝裏を触られたのはここで触る人は隣にいる青年だけでそれ以外は確実にいなかったのでレミリアはその横を見ていた。
青年は合いの手をやめて左手で下を示していた。要は何かメッセージを書いたから読んでほしいという事だろうか、地面に何かしていたのは知っていたのでレミリアはすぐに下を見た。少し狭くなっている視界から地面に書かれている文字は視界が狭くなると書かれていた。つまりは警告なのだろうか、とレミリアは軽く考えていた。青年には多分勘という形でこの妖怪が危険であることを気にしていたのだろう。レミリアに知らせる形で青年は先に警告していた。青年はすぐに合いの手を始めて妖怪はその歌を歌い続けていた。
「どうだったかな?」
その妖怪は青年とレミリアに歌の出来を聞いていた。青年は無言で拍手をしていたので聞いていたのだが本当にこの妖怪の前では何も話そうとしないので妖怪としては気になる存在であった。
「とても良い歌声よ。もう一曲聞きたいけれどここでお暇させてもらうわ。」
レミリアは立ち上がったので何も影響はなかったのだろう、と思っていた。青年も同じように立ち上がってから一礼して歌への感謝してからその場を立ち去ろうとしている。レミリアは青年の袖に捕まっていた。青年は引き離す気はないようでそのまま歩いていた。妖怪にはその足取りがどうにも気になったのだろう。妖怪は口角を上げてゆっくりと近づいた。
青年の背中に差し掛かったところで妖怪は気付いた。袖に捕まっていたレミリアがすでにいなかった事、そして首筋に無機質なものが当たっていた事。
「私はあなたの曲は聴いていないの。意味は分かるわよね?」
レミリアは首筋を噛もうしていた。青年はその方向を向いてその様子を見ているようにも焦点が合っていないので見えていないかのようにも感じていた。それが何を意味しているのかはよく分かっていた。八方塞がり。目の前の青年が剣を振れば気軽に倒される。避けれたとしても後ろにいるレミリアが首を噛んでくる。
「もう分かったから。食べるのをやめてください。お願いします。」
その妖怪には流石に怖く感じてきたのだろう。この二人を敵に回してしまったのがそもそもの間違いであったということを。
「斬るつもりもない。だが、その曲は沢山の人に幸せを届けられるから元気のない人に聞かせてやれ。」
青年は踵を返すとそのまま歩いていった。レミリアも首元から離れていくのを見るとその妖怪は体から力が抜けていくのを感じてその場で座り込んで腰が抜けたようにしていた。青年からは出してはいけないような気迫を感じていた。