青年放浪記   作:mZu

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第74話

貴方には分からないでしょう。時を止めた犯人を突き止めるためにしらみ潰しに探した結果が、友人を倒す事になるだろうとは。

 

 

黒い帽子をかぶって黄色い髪を風になびかせていた魔理沙の後に続く落ち着いた印象を受ける金髪の肩の辺りで切り揃えられたアリスはこの満月の夜の下でゆっくりと遊覧していた。

 

丸に刻という文字が書いてある札を探して二人は飛行して見つけたものをアリスの人形によって集めていた。その札には少しの間だけ時を止める効果があるらしく時が止まっている異変を解決するためにはそれを集めていくと犯人までありつけると思っていたアリスは上からの奇襲を人形で防いだ。魔理沙も遊覧飛行でゆったりと過ごしていたがその弾には驚いたようで流石の魔理沙も箒を急旋回させてアリスの近くに寄った。

 

「誰から来たんだ?」

魔理沙は穏やかな気持ちで飛行したのとは裏腹に目の前にいる敵の存在に気付いた時には動揺を隠せなかった。アリスも同じくらしくまさかこのような事態になるとは思いもしていなかった。上空で二人を監視するかのように居たのは黒髪の赤い巫女服で脇を出した独立した袖を持つ博麗の巫女、博麗霊夢。

 

魔理沙は友人からの突然の奇襲にどうしても嫌な方向へ考えざるを得なかった。どうして急に弾を撃ってきたのか、異変解決の時には仲間であるはずなのに襲撃をしようと思えたのか、魔理沙は霊夢がそれだけ薄情なのかと思い始めた。要は話もせずに犯人どうかも判別せずに濡れ衣を着せてくる霊夢に魔理沙は怒った。知らぬ罪で捕まえられた囚人が刑に処されても尚、現世に留まり続けるように恨みや復讐という形に象られた魔理沙はお得意の魔法を使う。

 

「マスタースパーク!」

ポケットから八卦炉を出して吹き出し口を霊夢には向けた魔理沙がそう叫んだ瞬間に大きな白い閃光となって上へと向かって一直線に放たれた。霊夢には距離的な問題で当たるようなことはなかったが魔理沙にも威嚇のつもりで放ったので当てる事などなかった。

 

それどころか友達を撃つつもりもないのでその程度に収めるつもりだ。しかし、孤高に生きる存在は得てして薄情であったりする、それを知るには魔理沙は機会がこれまでになかったのかもしれない。アリスとしては素早くやめて早く逃げた方がいいと思っていた。ここでの争いは無益であり、足止めを食らう上に体力を消耗させるので此処では逃げようと素早く言うべきだった。

 

「夢想封印。」

赤、白、黄、緑、青、様々な色の大きさから早さまでランダムな気紛れな霊夢だからこそできる大技。博麗の名に代々受け継がれる伝説の技でもあったりする。霊夢はまるで妖怪を倒すように全力で魔理沙を倒しに行くために放った大技は魔理沙を完璧に怒らせて犯人の思惑に上手く当てはまる形となっていた。魔理沙はその急激な展開をした弾幕に放棄を翻して上手く止めてから状況判断をしてからその中へと入っていた。

 

魔理沙もこの弾幕を知らないわけではなかった。代々受け継がれている伝承を事前に調べていないわけではなかった。大きさ、早さの違う様々な弾幕を間一髪で避けていく様は慣れというものを感じる。紙一重で避けてながら向かってくる魔理沙を霊夢は迎え撃とうとしていた。

 

両手に札を持ち、向かってきた所に一気に投げ込む。そこまでの算段をしておいた霊夢だが、友人にもよく分かっていない訳でもない。軽々しく相打ちを取るために魔理沙も小さな缶を放り投げた後にそれは頭くらいの緑色の球体状の弾に変換されて霊夢の札と相殺された。そこで箒の速度を止めて霊夢の前に止まると魔理沙は早々に口を開いた。

 

「霊夢、急に弾を撃ってくるとはどういう理由だ?」

怒っているという訳でも不満に感じているということでもなかったが急な攻撃に苛立ちを隠せるような気はしなかった。対して霊夢は友人を前にして何か感じているかさえ自信のなくなるほど無表情であった。その様な惨状に魔理沙は口を開けて止めてしまった。霊夢はもう話したくはないだろう。魔理沙はどうしても許せないと思ったらとことん貫くのがこの人のの性格でもある。

 

「時を止めているのは貴方達でしょう?それなら此処であんたらを倒せば異変は解決よ。」

霊夢は魔理沙に対してお祓い棒を振るって大きく吹き飛ばした。霊夢には仲間の存在など興味がなかった。いつも一人なのだが何故か人が付いている、その程度にしか考えておらず前に一緒に戦った事があろうとも次に敵になろうとも問答無用で倒しにかかってくるのだろう。博麗の巫女として誰とも結託を組むことはなく一人を選ぶ。

 

「それは誤解だぜ。待ってくれ、霊夢。話を聞いてくれ、そうしたら分かるから。」

魔理沙は必死に弁解しようとするが霊夢にはそんな事など耳に入ることは無かった。異変の正体がわからない上に目の前にその犯人がいるなら霊夢にとっては無問題だった。それ以上に面倒くさがりな性格の霊夢は余計に魔理沙を倒す事に躍起になっていた。それで解決するのだから目の絵にある宝を取らないわけにはいかない。つまりはそういう事である。霊夢の八枚の札は魔理沙に向かって放たれた。

 

魔理沙のいる所に八枚の札の軌道があり、魔理沙はそう感じて後ろへと退がった。霊夢はそれで終わらせるような単純な弾幕は放たなかった。すぐに戻ってきた、魔理沙はその事を感じて今度は前へと向かう。それは愚策とも言えた。青色の札を一枚放つと魔理沙に直撃した。その暴発とも言える強力な一撃に魔理沙は箒から落ちた。力が抜けて空を滑り落ちてふと諦めて走馬灯が見えてくる頃。

 

「ありがとう、アリス。」

アリスは友人の危険を自分の身を気にする事なく拾い上げた。魔理沙はその時にふと意識を取り戻して霊夢を見ていた。その目は怒りよりも落胆というのか怒りを通り越した無表情という目をしていた。霊夢も同じく見つめているが気持ちの入っていない冷淡な蔑む目をしている。勘違いというのは怖いものである。

 

「ちょっとは話を聞きなさいよ。私たちは何も関係ないわ。」

アリスは魔理沙の肩を持ちながら落とした箒を取りに向かう。そのゆっくりとした動きに霊夢は呆れて物を言えないという感じだった。

 

「異変の犯人は分からない。そして時間を止めるような力を持った札を持っている。疑わしいから罰するのよ。」

霊夢はそのスタンスは変えることはないらしく更に状況が悪化していく。そんなに面倒なのかとはアリスは思っていたがその事は言わなかった。更に状況が悪くなる、その事だけは冷静に考えて分かっていた。

 

「この札を集めたら犯人のところへたどり着くと思うのよ。協力してとは言わないけど私たちも異変の解決は早めにしたいのよ。」

 

「そう、なら他に手はあるわよ。」

霊夢は懐から予め出しておいた札を六枚は放ち、アリスのところで挟む様にしていた。アリスはその札を相手する様なことはなく自由落下で森の中へと潜り込もうとしている。黄色い人ぐらいの大きさの弾を出しながら筒状に作り出して魔理沙を守りながら下へと降りていった。霊夢は追いかけるようなことをしようとは思ったが少しだけ待っていた。逃げたなら無理に追いかける必要はない。霊夢はそう思っていた。

 

「あら、霊夢。ここで何しているのよ。」

スキマから全身を出していた紫色のドレスを着た紫は金色のカールのかかった髪を垂らしながらそこには居た。この人には空間のどこにいようと関係なくどの様な場所にも現れるためその地点さえ分かればどの様な場所でも出来てしまう。霊夢はその人を鬱陶しく嫌いであるが援助して貰っているのは確かなので文句は言えないという事である。

 

「ん、異変の犯人を取り逃げ様な気はするけど反抗する素振りは見せないから話し合いで何とかならないかなっと思っているのよ。」

霊夢はきっと嫌なのだろう、この背後を取られているこの感覚が。そして何をしているのか分からないような人が後ろにいるという事実が霊夢の心を蝕んでいた。自分の勘違いだろう、と少しだけ思っていた。

 

魔理沙もアリスもあの札を集めてみて何が起こるのかを検証しているだけようだった。確かに時を止めることは出来るがそれを悪用しているようなことはなさそうに思えた。それならきっと犯人は違う人であり、異変の起こした張本人であるのは間違いないらしい。アリスはきっとその事を思いついて魔理沙に提案してついてきたという読みが正しいのだろうと思っていた。

 

「何しているのよ、霊夢。早く追い掛けなさい。この異変をこの夜の間に片付けないといけないのよ。」

落ち着いているが何を企んでいるのかさえ分からない様な悪魔がその場所には居た。その目は狡猾で冷淡、犯人なら素早く退治をしろ、という事である。

 

「待って、紫。私の勘違いだと思うのよ。だからきっとあの人たちは違うわ。」

確固たる証拠は無かったが魔理沙がその様なことをするとは思えなかった。魔法使いなので実験して偶々時を止めたなら霊夢も可能性はあると思っていたが別にそうでもないらしい。札にも魔力こそ籠っているがそれは二人から感じ取れなかった。その様なものを見極める目は代々博麗の家系に受け継がれているので霊夢も会得している。

 

「きっと違う?そんな博麗の巫女は今まで居なかったわ。友人だったのかしら?それともやろうとはしなかっただけ。どちらなの?」

紫には友人の感情や思い入れなどは捨て切っていた。邪魔でしかないとばかりに霊夢に言うので本人としてはかなり迷う結果となっていた。幻想郷を守る博麗の巫女としてか、ただの博麗霊夢として判断を下せばいいのか最早迷宮入りと化しそうな状態に追い込まれていた。

 

「行きなさい、それが貴方の務めよ。」

紫には軽く突き飛ばされた。霊夢としての気持ちは関係なく博麗の巫女としてしか扱うことのないので此処は判断を下すしかないのである。

 

「行くわ。でも捕まえる事はしない。敢えて話を聞くだけよ。」

霊夢は此処でも迷っていた。無機質の様に扱われた霊夢には不平というものが浮かんでいたが言える様な相手ではない。神社が潰れる、そう思ったので最大限誤魔化せる範囲まで突き通そう。その表情を紫は恨めしそうに見ていた。霊夢もどうにも言いようがない胸の痛む感じを覚えてその場を空から落ちていった。


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