丁度魔法の森との境目あたりなのだろうか木に隠れているが向こうの方に見覚えのあるものを見ていた。魔理沙は少し休憩する様に木に背を任せていた。アリスはその近くで辺りを警戒しながら木にもたれかかっていた。
「しかし、霊夢も急に何なんだろうな。」
「そうね、今は気にしないでおきましょう。ちゃんと話せば伝わる事はあるわよ。」
魔理沙を少なからず励ますがそれが通じるほど短い関係ではないことはアリスも知っていた。偶に訪れるのは博麗神社か、私の家か、後は香霖堂か。その中でよく話を聞くのは博麗神社であり回数もそこそこと思われる。魔理沙もアリスの励ましにはしっかりと答えたいがそれをさせてくれない内面もなかった訳ではなかった。
「きっと伝わる。そう思っているがその自信は何もない。霊夢が変わってしまったとしか思えないよ。」
その件については最早アリスには匙を投げる他なかった。魔理沙は俯いて長めのドロワをスカートの中から見せていた。その様な事も気にすることができないほど落ち込んでいる魔理沙を何とかしてあげたいと思うが自身の力不足には自惚れてはいない。アリスは右手をゆっくりと握って力を込めていた。ゆっくりと堪えるために何回かしていた。
「可能性は0、ではないでしょ。諦めなければどうにかはなると思うわ。とにかく今はこの場所からは離れてみましょう。この先に竹林があったわ。ここをまっすぐ行けば何かあるはずよ。」
アリスは先ほど上から見ていた情報を頼りに何となくうろ覚えではあるが此処に居るよりかは幾分かマシだと思えた。此処からは飛んでいくのは見つかる可能性があるので二人は歩いて木と木の間を通り抜けた。気分が落ち込んでいるためか、魔理沙の足取りはいつもよりも遅かった。
でも諦める様なことはないと思いながらも偶に後ろを向いては魔理沙の様子を確認していた。その先には何がありこの札と何の関係があるのか知る必要がある。アリスにはそれに賭けるしかなかった。何の確証もないのは知っている、それに霊夢にも間違えられた、そして追われている、と言うことを考えると絶望でしかなく後も先も見える気はしなかった。
「待ちなさい。」
アリスはその声を聞いて丸の中に刻と書かれている札を隠す様にご自慢の人形を向けて戦闘態勢に入っていた。魔理沙も少しは反抗しようと八卦炉を構える。深く被った三角のとんがり帽子からはスナイパーの目をのぞかせていた。左肩に箒を担いで右手を突き出している魔理沙に霊夢はどうしても直すことはできなかった、と感じた。此処で誤解を解きたいと伝えても何も聞き入れることはないのだろうと少し残念に思えた。こうなれば三人がぶつかるのは当然の事柄である。
「待たないわ。私は異変を解決したいもの。それを邪魔するなら私にも少しだけ策はあるわ。」
アリスは人形に身長と同じくぐらいの槍を持たせて一体だけ猪突猛進をさせた。霊夢としてはその人形を札で巻きつけて無効化する。
「実力行使という事ね。あんたも随分と脳筋になったのかしら。」
霊夢はそれでも冷静だった。それが博麗の巫女としての務め、幻想郷に危険が及ぶ様な事があれば全力で阻止して全ての根本を捻り潰す。それが博麗のやり方であり、紫の方針であった。冷酷で人としての情も浮かべぬ博麗の血筋を恐れる者は実際に見てきた人でしか今はいない。全ては八雲の糸であり全て関係のない事だった。
「いえ、そのような事はないわ。」
アリスは人形で霊夢がこちらに直線には来ないように並べていた。一回は体を捻らせる必要がある。そのような陣形をアリスの頭の中で組み立てて人形を操った。霊夢もその事は分からずに来るほど愚かでもなかった。その事は一番知っている事だろう。
「その事は今は別に良いのよ。霊夢として貴方達の事は勘違いしていたようなのよ。その事は謝っておくわ。」
アリスの人形を操れる最大限の距離で互いの間合いを取り合っていた二人はそれを越して話す必要があった。アリスがしたいからそうした訳でもなかった。又、霊夢が攻撃を加えようとしないのもそれが原因ではない。
「謝るなら私たちを見逃しなさい。」
「それは出来たらしているわ。抵抗したいなら逃げなさい、私に刃向かって時間を浪費しないでちょうだい。」
「それはどういう意味よ?」
「監視者がいるのよ。早く行きなさい。」
その四つの会話だけだった、猶予のあった時間は。紫はスキマから半身を出して蛇のような目をしながらゆっくりと地上に降りてきた。体のラインにフィットしている感じがどうにも蛇の皮のように見えるのはきっと魔理沙とアリスの二人だけではなかった。横に居た霊夢でさえ怯えていた。その霊夢を見て魔理沙は感じた、勝てるかと。私が向かっていったところで勝機はない、増してアリスと協力してみたところでそこに霊夢を使ったって勝てそうには思えなかった。
「逃げろ、アリス!勝てっこない。」
魔理沙は急にアリスの右手を掴んで霊夢とスキマから出てきた悪魔から逃げようとする。その事でさえ既に先回りをされていた。
魔理沙は足を地面に擦り付けてその場で止まったが状況も分からずバランスの悪かったアリスは頭を魔理沙にぶつけていた。魔理沙は目の前の人を恨めしそうにみながらもここからの打開策を模索していた。この速さはきっとスキマのおかげなのだろう。そして何処へでも現れることが可能となる。ここで逃げてみても何も変わらないのだろう。アリスにもそう言われるに決まっていた。それは目の前にいる奴が全ての元凶だった。後ろも向けず、霊夢に助けを求めることもできなかった。
「逃げる選択は賢いと思うわ。でも私も異変の解決には協力してあげないといけないものね。さぁ、霊夢捻り潰しなさい。」
魔理沙はすぐに目だけで見えるように最低限の動きで後ろを向いた。霊夢は此方へと向かっていた。前は怪物がいる、後ろからは霊夢が詰め寄ってくる。そうなれば魔理沙は上に逃げ道を見出した。箒にまたがりながら上へと向かう魔理沙はその速度で出せるだけの速度で出していた。しかし一瞬で詰め寄られた。手だけで箒の柄を持たれるとその力に魔理沙は体を前傾させた。つい落ちそうになる程急に止まった箒を魔理沙は直ぐに後ろを向いていた。其処には隙間から出ているどちらの手があった。こうなれば魔理沙は動く事が出来なかった。八方塞がりからの打開策はあり得なかった。諦めるしかないのか。
「私たちは異変を起こしてなんかいない。その事は分かって欲しいんだぜ。」
「そうね、霊夢も同じ様な事を言っていたわ。でも私はどんなに小さな因子も最初に潰しておくのよ。今は違っても疑いがあり続ける限りは貴方を監視し続ける。例え此処で潰してしまっても構わないでしょ。」
その言葉が軽口で済むと思えるのならば、その人は良くここまで生きてこられたと誰からも賞賛されるだろう。全ての人に平等に恐怖を与えるその様はここに居る全ての人が恐れるのは仕方がない事である。それだけの威力を持つ紫の一言であった。
「やるしかないか。」
魔理沙は出せるだけの弾幕を忍ばせていた管状のものを使って出していた。その弾幕は星屑のようで儚さと煌びやかさが両立しているような弾で構成されていた。
その弾は紫にはスキマに入れられて軽々しくアリスの元へと向けられた。眼前に急に現れた弾幕に追い討ちをかけるように紫は下から尖った薄い紫色の弾幕を張って更に追い詰めようとしていた。これは弾幕ごっこではなくて弾幕という殺害の為に行われる行為、どのような手でも当てれば良いのである。ごっこ遊びをしていた三人には到底理解し得ない技の応酬だった。アリスはスキマによってねじ曲げられた魔理沙の弾幕は避けきるが下から向かってくる弾には一切気付かなかった。
当然のように目の前は既に弾があり避ける事さえも敵わなかった。撃墜されるように落とされたアリスの手を握ったのは魔理沙ではなくて霊夢だった。アリスは即座に体を元に戻してダメージは残っていたがその場で留まる。
「あっちが間違えていることをみすみす見逃す事はできないのよ。わかる、紫?」
霊夢はお祓い棒を振って赤色で周りで白で囲った丸弾を出した。上下左右から大きく膨れて狙ってくる霊夢の弾を一箇所に集まる時点で紫はスキマを展開して全てを吸収した。魔理沙は此処とばかりにマスタースパークで不意打ちをかける。その先にも何かはあったが、それがどうしても違うもののように思えた。魔理沙の得意技を通り抜けて襲ってくる周りが白色の霊夢の弾幕が来た上に魔理沙のマスタースパークは反射された。魔理沙はそれをまともに受けて箒に体を預けてその場所に留まることしか出来なかった。
「巫女が私に逆らうと言うのかしら。貴方にはまだ幼稚であったようね。」
スキマを開けた、そして至近距離からの最大火力の一撃、霊夢は持ち前の身体能力の一つである瞬発力で紙一重で避ける。しかし、その事を予想していないなんて甘い考えは紫はしていなかった。その先の一手も決めていた紫にはスキマを使って逃げ道を防いでいた。霊夢にはその一手をかわす手段は持ち合わせていなかった。こうなればやれる事は一つだけなのである。
「夢想封印。」
博麗の伝わる最終奥義である大技。その型は多くあるがその原型にして一番威力を持つスペルカードであった。紫もその対処を知らないわけではなかった。それでも先代とは大きく違うのは一切習っていない事、それは霊夢がオリジナルで作り上げた先代について書かれた資料を参考した一撃。紫にも正式な対処法は知る由もなかった。
「行ってきなさい。私の人形、霊夢を援護しなさい。」
アリスの得意な魔法は弾幕とは一切関係ない人形の操作魔法であり直接手持ちの武器でダメージを与えようとしていた。そしてほとんど自立して追いかけていくのはアリスの技術の良さとも言えるが紫にはただの時間稼ぎにしかならなかった。其処からの打開策は魔理沙が放つ。
「ブレイジングスター。」
正に一撃の砲弾と化した魔理沙の一撃は周りの星屑状の弾幕とも重なって対処出来にくいものとなっていた。アリスの人形により邪魔され、夢想封印に苦しめられているところに死角からの一撃。自身がスキマに潜るしかなかった。その三人の連携には苦しめられたが紫とてただ長く生きていただけの妖怪ではなかった。少しずつ弾幕をスキマの中に入れていた。自分には無害であり、相手には有害でしかないものを押し付けるのは紫の常套手段である。
「逃げたわね。」
霊夢は一旦弾幕を辞めて魔理沙の元へと向かった。アリスも同じように一部自立した人形を漂わせながら霊夢の元へと向かった。
「しかしどうやってあれを倒すのかだな。」
「それは無理だわ。先代は全てあの妖怪によって抑え付けられていた、全ては彼奴の手の中でしかないのよ。」
霊夢はいつも以上に怒っていた。魔理沙はその事を感じながら、ならとばかりに一気に散らばる事を提案する。そうすれば一人を追いかける必要があり紫には分が悪くなるという事だ。其処でだ。紫はその三人の間にスキマを開けた、その先からは先程までこの空を描いていた弾幕が出てくる、その事が三人には驚きでしかなかった。まさか此処までして追い詰めるのだろうか。三人は散り散りになって四方八方に散らばる弾を避けていた。其処で一旦は何を越えたがそれで終わるとは思えなかった。そして其処に客が現れた。
「幽々子様に危害を加えるのは誰ですか?」
三人からすれば誰?となる。急に現れたのは白髪で黒のカチューシャをした緑色の服装をして腰と左肩にに一本ずつ剣を携えていた。そして動きやすいように短めのスカートをしている。魂魄 妖夢である。
「知らないぜ。そんな事よりも今は目の前のことに集中しないと。」
魔理沙は急な来客にも焦る事はなく冷静に対応した。その点では逆の立場をしているので良くわかるのかもしれない。
「幽々子の所の剣士じゃない。どうかしたの?」
「紫様、此処で何をしていらしているのですか?」
妖夢は急に現れた紫にも物腰の柔らかい感じで話していた。スキマから現れる事はもう既に何回も体験している事であるので既に何とも思っていなかった。それを見ていた三人には何があったのかはよく知らなかったので首を傾げる結果となっている。霊夢はすぐに無駄だと感じて考える事をやめて、アリスは状況を把握するためにすぐに抑えた。魔理沙だけはいつまでも不思議そうにしていた。
「見れば分かるでしょう。異変を起こした犯人二人と刃向かった一人を退治しようとしているのよ。」
紫にはきっと人の感情など理解できるものではないのだろう、霊夢はそう感じた。そして同時に妖夢にも少し火が入ったようで強い眼差しを紫は感じた。
「そうですか。しかし私はどちらにも味方にはなるつもりはありせん。幽々子様に危害を加えた行為は私が許しません。」
妖夢は左肩と腰から同時に刀を抜いて体勢を固めていた。紫は詰まらなさそうに見ていた。霊夢にはそのような上下関係は理解出来ず、アリスと魔理沙には素晴らしい心構えだと感じてもらえていた。
「それが例え幽々子様のご友人だとしても、見ず知らずの異変の犯人だとしても。」
妖夢のしたい事など上から見ていた幽々子にはもうよく分かっていた。幽々子はこの状況をよく見て自分が向かう必要がない事を感じ取っていた。ここに居るだけ時間を浪費すると考えた幽々子はゆっくりと誰にも気づかれないように地上まで降りた。慣れない地形に悪戦苦闘しながらも緑色の板が並んだ竹林へと挑む事にした。