周囲は竹に囲まれ視界を開けない中をゆっくりと地面を踏みしめながら何か手の中で転がしながら歩いていた。まるでその姿は亡霊のようなものであり、意味もなくまっすぐ進んでいくだけという様だった。
青年は慧音に言われた通りに真っ直ぐ歩き、暇つぶしにと煙草を転がしていた。好きか嫌いかは人によって分かれる細めの見た目で白い紙で包まれていた。青年は煙草の種類には興味はなく吸えるから吸うなどと愛煙家にかなり失礼な考え方をしている。しかし幻想郷には青年の様な煙草を吸う人はおらず泣く泣く香霖も腐るぐらいならと渡すのである。
「あの慧音っていう人の話を信じるの?」
レミリアは聞いてみる。実際、彼処で特に考えもなく飛び出したのは青年でありレミリアはもう少し話を聞いて真偽を確かめたかったのだがそれが叶わなかったのは飛び出した方の責任である。レミリアはそのことを根に持っている様だが青年には特に関係のない事だった。簡単な話、興味がないのである。
「別に嘘をつきそうな人では無かった。半獣として人里を守っているのなら責任感というのを強いものなのだろう。」
淡々と言葉を連ねていく青年に言い知れぬ敗北感を得たレミリアだがその事を言おうとは考えていなかった。ここから学べばいい、口や態度は悪いが別に噛む様なことはないらしい。
「そうね、貴方の言い分を聞く事にするわ。それにしても今どこら辺にいるのかしら。竹が多くて周りの景色が変わっていない様に思えるわ。」
まだ疑いは払拭出来てないのだろうか、と青年は思った。兎に角来たらいいとしか考えてはおらず慧音の最後の一言を信じて前へと突き進んでいた。
「確かにそう思うだろう。地形も偶に足が地面を踏む高さが違うように感じるが俺は真っ直ぐ行けているように感じる。」
この竹林の中ではその足に感じる地面の高低差や傾き以外はさして参考になる事はなかった。近くに建物が見える様にはして欲しいが何か隠す必要のものがあるのだろう、と青年は薄々と感じていた。その物自体が金銀なら興味はないが何らかの理由で封じ込められているものなら興味はあると青年は考えていた。
「空を飛んだ方が早いわよ。こんな鬱蒼とした竹林を抜けるよりは遥かに楽じゃないのかしら。」
レミリアは黒い翼を広げて青年にも飛ぶように勧めるが一向に飛ぼうとしないのでレミリアは早めに降りてきた。一人では行かないらしい。青年は空を見ながらゆっくりと降りてくるレミリアを待っていた。
「そうすれば相手の思惑通りになるはずだ。証拠に月の形が違う。」
空には満月よりもかなり欠けた月が浮かんでいた。レミリアはその事に気づくとシュンとした顔をしていた。青年にはその様なつもりはなかったので少し悪いことをしたと思っていた。レミリアはその事に気づけなかったのを悔やんだ。
「貴方の言うとおりね。それだと飛べば私はどうなっているのかさっぱりだわ。」
「この先に居るのは確か。そのことしか今のところは言えることはない。」
青年には何かが見えている、その事だけは断言できると思ったレミリアはこの人についていくを決めた。だからと言って下につくのも気に触るので何とも微妙な気分で青年の後ろについた。どちらに転ぶかなどは知らないがレミリアにも主人としての確かなものはあった。
「貴方にしばらく付いて行くわ。手綱を持ってくれるかしら?」
「遠慮する。」
「少しは私の気持ちを汲み取りなさい。」
その点にはとても疎いのが青年であり、そこにわざわざツッコミを入れるレミリアも同等といえる。青年はピタリと止まるとその場所から動かなかくなった。レミリアは素早く反応してぶつかる前に自身の体を止めた。しかし驚いた事には変わりはないのでその怒りをぶつけようとしていた。
「ニッシシ、私の罠には引っかからないという事か。」
その声は確かに聞こえたが、レミリアには色々と謎なところが多い。罠なんて何処にあるのだろうか。それどころかどうしてわざわざ教えてくれたのだろうか。
「そうなのか、分からなかったな。」
いや、どうして止まった?何て思っていたが今は青年の行動を読み取って前へと進むことしか考えていなかった。
「返事は無しか。」
青年はふと歩き出すと少し跳ぶ動作を入れていた。レミリアはそのような事はせずにそのままの道をゆっくりと歩いた。足元に何か引っかかる感触をした後に上へと吊り上げらそうになった。そして地面に落ちそうになって受け身をとって何とか無事に済んだ。レミリアにはこの事は伝わる事はないのだろう。青年は無言でいつのまにか抜いていた刀を納めてそのまま歩き出した。最早意味がわからない、とレミリアは思った。
「何かが軋む音がしている。」
自分の足音の中に雑音が混じっているのだろうか、レミリアはそんな事を思ってゆっくりと青年の歩調に合わせていた。レミリアも青年のペースには慣れてきたのだろうかいつも通りの調子であった。流石にゆっくりとし過ぎているのだろうか。そんなことを思いながらも横からくる奇襲にはしっかりと対処した。
「危ないわね。」
レミリアは横から向かってきた方とは逆の方を見ていた。青年は何も見えていないのかと思うほど興味を示していなかった。
「避けるとは思わなかった。しかし、よくここまで来たものだな。褒めてあげよう。」
その目の前にいる人は小さく子供の様に見えた。白いもふもふのウサギの耳を持っていて黒髪の淡いピンク色のワンピースを着て裸足である。
「ありがとう。素直に受け取っておくわ。」
レミリアのその人の軽口には興味を示さなかった。しかし、青年は興味があるようでこちらを向いていた。青年にはきっと何か特別な性癖でもあるのだろうか、などレミリアは思っていた。それはまた違う形で証明されることになる。
「して、貴方はどうしてこのような事をする。」
「ん?私はこういうことが好きだからね。気にしないでくれよ。後、私は斬らないでくれ。こう見えても怪我はしないようにしているんだ。」
「元気なウサギだな。そうしておこう。だが、次そのような事をすれば容赦なく斬りふせる、良いな?」
「はい。」
青年と今向き合っているウサギ、因幡ていには逆らってはいけないような目をしている事を長年の勘により思い始めていた。きっと容赦なく斬殺されそうなていはその場でば逃げるしかなかった。
「逃げたか。」
青年のそのウサギを目で追いながらゆっくりと踵を返して元の方向へと向かう。その目には何を宿しているのかは知っている事ではないがきっと触れてはいけないものなのだろう。
「あんな子供、気にしなければ良いじゃない。」
レミリアはそう言うが青年には確かな自信があってあそこまで追い詰めたとも言える。あのウサギは並大抵の歳を重ねていなかった。相手には出来ないほどの経験を持っている上にあの身のこなしである。それに怪我しない程度というあたり本気でもないのは伺えた。青年にはそれで良いのだ、慧音の言っていたことがそれなりに当たっている事を知れた。
「お前も子供だろ、」
青年は不意に口から言葉を出し始めた。その言葉は確実にレミリアを嘲るようなものであり、本人には決して言われたくない言葉でもある。本人は口を噛みそうになるほどの早口でその事を否定した。
「五百年は生きている。」
「という反応をあのウサギは見せるだろうな。あの人は手強いよ。」
レミリアには何を言いたいのかは伝わらなかった。それは青年だけが感じ取った事であり、レミリアには何も伝わらなかった。青年には確かな目があり、レミリアにはその目はなかった。