白い壁に囲まれた和風の建築が青年とレミリアの目の前に現れた。比較的高めの壁からは黒塗りの屋根が見えていた。その中は静かで白玉楼を見比べの対象にしようとはするがまた別の美しさを持つそんな場所だった。
「私には理解し難い庭ね。」
「西洋の庭とは違う。」
青年は目の前に敵がいるかの様に周りを監視していた、どこから来るかどのような手段を取るかどの武器で来るのか。レミリアはそのような事は関係なくこの屋敷の中へと入り込んだ。その愚かさは青年に迷惑をかけることになる。
青年はレミリアの服の襟を強引に掴んで後ろへと引っ張った。レミリアにとっては急な事に少し噎せていたが青年がこちらを向いていないことに気づいた。
「相当な手慣れと見えた。」
その箱庭に入った二人はいきなりの襲撃を受けた。青年にはその事も一興、とばかりに楽しんでいそうだが実際はそうではなかったりする。
「何処から飛んできた物なのよ。」
「さあ、遠くから来たか、空間なり捻り曲げてここまで届かせたのかもしれん。」
青年は視界に入るところでは人がいないということには気付いており、見えない位置から撃たれたというのもあり得ないという訳ではなかった。幻想郷だし魔力で捻じ曲げるなんて紫のような事ができる人も居るのだろうと青年は考えていた。
「そんな事出来るの?」
レミリアは知らないのか不思議に思いながらも出来なくはないと言った実際にしてみた事のあるそんな表情だった。青年はレミリアを見ながらべつに無理に話す必要もないと思えた。
「出来よう。」
青年はその屋敷の向こうからそのような殺気が感じてレミリアを下げてみた。先行したのはレミリアであり中に入れたくないならば素早く一矢放ってみたのだろう。威嚇射撃のはずがしっかりと当ててきているその正確さには背筋も凍る。
「貴方はやれる機会があったら出来るのかしら?」
レミリアは上から攻撃を仕掛けるような感じで視線は下なのに何となく上を向きたくなるような感じだった。視線を逸らしたいのではなく上にいるような気がした、それだけの理由である。
「俺は弓を使う機会はない。そして遠距離は好まん。」
青年はきっぱりと断る。レミリアにはその事はどう見えたのかは知らないがパチュリーの元で魔法を習っているので、遠距離の魔法も持ってはいないのかとも考えていた。実際は組み合わせれば持っている、図書館の一部を焼き切るように。
「そう、剣で勝負をしたいのね。」
レミリアには青年が何をしたいのかよく分かっていた。黒い翼を広げて軽く飛び上がった。そしてバサ、バサと落ち着いた調子で一定間隔で鳴らしていているその音に青年は見向きもせずにその場に居た。信頼上の安心か、弱い力こその欺瞞なのかはさておきレミリアにはこの戦場には手を加えないつもりらしい。
「なら、行ってきなさい。私は上で待っているわ。」
レミリアはそれだけを言うと青年の目には追えない位置で飛び上がると青年の頭上を越えて何処かへ行ってしまった。青年は飛び上がってからその後の事は何も興味はなかった。
目の前に居るのであろう敵へと向かって歩き出すとすぐに一矢が青年の左側から飛ばされる。その事実だけは青年の興味を湧かせることとなった。入り口自体は見た所の建物左側にあるらしくすぐ横には裏口のような物が建っている。その襖で全ての部屋を閉ざされており一つ一つそれなりの大きさの部屋をしている。それだけではなくてその建物の奥へと進むと有識美のある庭園が前面に広がっていた。
その美しさはこの竹の揺れる音や切られた風のうねり、自然音を大事にした庭園が広がっている。その中には水が沸いているのか池が形成されておりその上に赤い橋がかかっている。白玉楼とは違う別の形の日本庭園をしていた。その美しさと雄大さに青年は惚れ惚れしながら歩いていた。
「貴方は月の使者ではないようね。そうすると何が目的で来たのかしら。」
ここの主人らしき人は上半身程度の弓を張りながら矢を放たんとしていた。背中に筒を背負っており、腰には少しはみ出る程度の長さの剣を携えていた。近距離用に予備として持っているのだろう。
その人は青を基調とした赤十字マークがあり、三つ編みに編まれた長い白髮で左右で分かれている特殊な服装をしていた。名を八意 永琳という。
「人に出会いに来た。何か時の進まない異変が起きているが俺は興味のない事なんだ。」
目立つ赤いジャージを着用してインナーとして灰色の服を着ている青年は特に手を動かすような素振りもない力を抜いた状態でその場所に存在していた。青年が言う言葉に永琳は呆れを見せるほかなかった。要は暇だし、異変が起きているから出てきたと言うのと同意義であると考えた。何を持って此処に現れたのかは不明であるが敵意はない事は分かった。
「そんなくだらない理由で来ないでちょうだい。」
永琳からすればそう思われるのは普通の事であり、青年にしても致し方がない事だと思っていた。その理由の不明確な事この上ない。
「そう冷たい事を言わないでくれ。」
「それでも来たからには排除させてもらいます。」
永琳は張り詰めていた弦を緩めた。そこから放たれる矢は早くて正確に青年の心臓を狙った。青年は力を抜いた体から無駄もなく素早い居合で矢を弾く。
金属の当たる高い音が辺りに響いた。その間は瞬きの秒数にも満たなかった。
素早く永琳は矢を筒から引き抜くと弦に乗せて今にも放とうとしている。その鋭い視線の先に居るのは青年であり、その動きを予想して矢を緊張から解放する。青年の首筋を通っていく矢を軽く体を左に傾けて避ける。当たらない、その事実だけが永琳の心の中に残った。
青年は裏腹に避けれたと言う信じられない嘘のような大きな確信があった。
信じていないのは自分だけで他の人は確実に思えていた。そのような事で諦めるような人物でも永琳はなかった。更に一矢報いようと筒から矢を取り出してから明白な狙いはつけずに力強く速い一撃を見舞おうとしたが大きくずらされたのは言うまでもない。
いきなり方向を変えた青年は永琳の矢の射線からはずれるように走って館の廊下に足を踏み入れた。荒々しく大きな音を立て続ける青年を素早く射るがまた射線には存在を出していなかった。
すんなりとそしてさらりと身軽く避けるのが永琳には今までの経験のなかった事だった。廊下を降りては昇りの繰り返しで迫ってくる青年にもう弓を使う事はしなかった。永琳は腰にあった剣を持って青年の剣に合わせた。青年は左腰から鯉口を下に向けて地面から這い上がるような一撃を与える。
その一撃は鯉のような勢いがあり龍にならんと昇っていた。軽々しく弾かれた短剣を追うように青年の刃が走る。永琳は後ろに下がるが自分が右わき腹の下から左肩近くまでの傷が付けられていた。服ははだけて血色の良い健康的な肌色をその隙間から見せていた。血が滲み服を濡らすが痛みというものはなかった。
「一試合お願いします。」
青年は急に血迷ったのか剣を鞘に納めて永琳に頭を垂れた。この状況で何を言うのか、永琳は思っていた。しかし顔を上げた青年のその眼には確かな戦闘に対する勝負欲というのは確かに滲み出ておりただ一心に勝ちたい、と伝えてくる。その無邪気な眼にちょっとした同情を覚える。
「承りました。」
永琳は一礼だけして地面のあるところへと降りた。履いているものなど関係なく永琳は青年の勝負を受けた。その真意は知らぬが確かな意は汲み取れる。」
青年からすればその事は好機とも言えた。先ほどの戦闘で何となく惹かれるところがありお願いしてみたものだが少し間はあったが二つ返事で返してくれたのでかなり機嫌が良くなっていた。
「ここからで良いか?」
「ええ。もういつでも来なさい。」
永琳は弓を左手に持っていつでも矢を取れるように右手は自由にさせていた。素早く射る事で相手の行動を制限させて一方的な戦闘を繰り広げるための一つの方法として弓を使っていた。
それは青年には通用しなかったのは永琳は実際に体験していた。その事に興味を持ち勝負を挑んできたので受けてみる他なかった。永琳はゆっくりと弦を引いて矢を持って構えていた。ターゲットを青年の足元へと決めた永琳は読めない青年の行動を見ていた。
型にはまらない戦い方には永琳も驚かされるのは確かなのでこうなるのは仕方がないと思えていた。そこに興味が湧いたのも事実だがそこから見える水晶の透明さのようなものにも知りたい願望があった。
「行くぞ。」
青年は走り出した。
その速さに永琳は急いで矢を放つが軽々しく避けられたが其処までの計算を済ませていた。矢を取り出して狙いをつけずに矢を放って行動の選択を阻めたつもりだが青年は止まりもしなかった。
更に速度を加速させて営林に近づいてくる青年の眼には確かな殺意があり、その牙を永琳へと当てようとしている。永琳は後ろへと踵を返して館の廊下へと走ると青年との距離を開けようと襖を開けて中へと入っていった。
直角に折り曲がった館では青年はどちらへ向かったのかはよく分かっていない。此処から射線の分からない場所に逃げ込むのは悪手だと感じた青年はこの開けた場所で待機してみることにした。床が軋む音と襖を開ける音で存在を確認しつつ青年は足音を立てないように忍び足で近づく。その空間を月の光に照らされた影が暴れる。
永琳は入った部屋から襖を大きな音を立てて開けると矢を放つ。青年は頭を狙った一撃を少し屈んで避ける。館の廊下を走って飛び上がるとまた一本の矢を放つ。
上から下へと落ちていく一本の射線を正確に腹を狙った永琳の矢は青年の抜いた剣によって弾かれた。其処から青年は何を思っていたのか急に走り出す。永琳は着地の勢いを膝で吸収して即座に放った。青年の急所の何処かに当てるように研ぎ澄まされた一矢を当てようとするがそれは敵わなかった。
青年の剣は正確に矢を弾いてから永琳の首筋に当てる。それは永琳も同じく弓を捨てて剣を抜いて青年の首筋に当てようとするがその為の刀身は足りなかった。
「勝負はついたという事で良いのか?」
青年は何秒か剣を向けた後に自分の鞘へと納めた。其処で歩いて永琳の横へと歩いて弓を持たせた後に踵を返して帰ろうとする。
「待ちなさい、少し話を聞かせてちょうだい。」
青年はその声を聞き振り返った。永琳の後ろで黒髪の少女は立ちはだかっていた。ピンク色の上着で胸元に白いリボンをあしらったもので赤のスカートには和風情緒溢れる金色での刺繍が施されていた。
青年はその姿を見て一旦足を止めるとゆっくりとした調子で戻ってきた。何か興味をそそられたのかと永琳は感じた。
「分かった。少し話をしよう。」
青年はそれまで何も話すような事はなくこの館の廊下へと座った。その女性はその青年の右後ろで座った。
「今日は何をしに来たのかしら?」
「暇つぶし。」
青年は率直に何も隠す気もないかのような迷いもなく繰り出した。その言葉には少女も驚きを隠せなかった。
「本当にそれだけ?」
「時が進まない異変が起きているらしいから。何となく来てみたんだ。」
「少しの間、泊まっていきなさい。もっと話がしたいわ。」
その少女はそう言うと楽しそうな鼻歌をしながらゆっくりとスカートの裾を床で擦りながら青年の見えないところまで行ってしまった。青年は体を屈ませて前傾姿勢を取っていた。何か考え事でもしているようだがそうでもないようにも見えた。
「本当に泊まってもいいのだろうか?」
「姫様がそうおっしゃるのなら私はそのようにするだけです。」
「そうか。」
青年は立ち上がると館の屋根で見えなかった月を見ていた。何か理由がある訳でもないが手を振った。そこで月光から舞い降りたのは夜の帝王である吸血鬼だった。青年の目の前で軽く着地するとその背の違いは父と子供のようだった。
「終わったようね。」
「終わったな。」
吸血鬼は後ろを向いて永琳の視線を合わせると一礼した。
「今回は青年のわがままに付き合ってくれた事感謝するわ。私は紅魔館の主人、レミリア・スカーレットよ。用があればいつでも歓迎するわ。」
レミリアはそれだけを言うと黒い翼を使って空へと舞い上がると何処かへ消えてしまった。ここに用はないと思っていたのだろうが別にいても良いと思う青年だった。