綺麗な月夜の浮かぶ幻想的な空間の下でこの風と竹の葉の囁く音が聞こえる。
その静かな美を感じる箱庭で青年は永琳の説明通りに廊下を歩いた。青年は襖に手を開けると何も言わずに音を立てないように力を入れずに自然と遅めに開けられるようにしておいた。
「いっらしゃい、私は蓬莱山 輝夜。貴方は?」
青年はこの時に困ってしまった。なんと言えば良いのか。
「竹林だ。」
「たけばやしね。宜しく。」
輝夜は青年の偽名にも快くしていてくれた。青年のちょっとした詰まりから多分気付かれているのだろうがそのような事はお互いは気にしなかった。
「宜しく頼む。」
青年としてはどうにも作法なりが分からずその場で立ち尽くしていた。輝夜はそんな姿を艶めかしい笑顔で優しく見ていた。
きっとそのような所も見透かされてはいるのだろう。
「どうぞ、入ってきて。」
「無礼には目を瞑ってほしい。」
青年はゆっくりと部屋の中に入ると襖を閉めてから輝夜の前に胡座で座る。
この距離は十尺程であまりにも遠く感じた。輝夜は少し気に障ったのか青年にもう少し近づいてくるように言った。
青年は少しだけ移動するが輝夜はまだ不満があるらしく、もう一度近くに来るように言う。青年は渋々動く事数回。五尺程度の距離まで近づくと輝夜は何も言わなくなった。
「ようこそ、永遠亭へ。」
輝夜はそれまでの鬼の形相の仮面は取って和やかな雰囲気のある少女へと戻った。
その姿には青年としては何も言うつもりはないらしい。
「永遠亭というのか。素晴らしいところだな。」
輝夜はふふっ、と笑うだけで何も言わなかった。そのような事はもう聞き慣れたのかそれとも聞きたくはないのか青年は興味がないのかさらりと流した。
「して、何か用があるのか?」
「ええ。少しだけ。」
青年にとって見れば初対面であり何も知らない輝夜の思惑は読めないが何となく予想はついていた。その事を念頭に置きつつ、青年は話を進める。
「永琳との戦闘は見ていたのか?」
「ええ、途中からだけど。永琳は弓の名手なのよ。でも貴方は何回も弾いた。それは偶々が重なったのかそれとも実力、なのか。何方か気になったのよ。」
輝夜は童のような大きい笑みを顔に作っていた。青年は何か特別な事がないので偶々だと答えた。
輝夜はそれを話した時の青年の表情を見ながらふーん、とだけ唸った。
その真意は知らないが青年は見た目の通りの年齢ではない事は感じ取った。
「それでは俺は帰らせてもらおう。」
青年は素早く敵でも見つけたかのように立ち上がると踵を返して襖を開けた。
「待ちなさい。」
相手をうぬを言わせぬ素早い青年の行動には心底驚かされたのだろう。輝夜は青年を引き止めるとそれからは何か話すような事はなかった。急激な動きは輝夜には向いていないらしく言葉を詰まらせたのは事実。
「どうした?」
青年はゆっくりと振り返ると穏やかな目をしていたのを輝夜は見て思った。
「もう帰ってしまうの?」
輝夜は寂しそうな表情を浮かべていたが青年には何も伝わっていないらしく何がしたいのか分かってはいなかった。青年は何を考えているのかさえ読み取れないほどの無表情になっていた。
「何も用はないので。帰らせてもらおう。」
「私の話を聞いてくれたら時を進まない異変を解決してあげるわよ。」
「そうなると貴方が起こしたのか。」
輝夜は手の出ないような長さの袖で口を隠した。青年からすれば何が起こったのかは一目瞭然とも言える。囚われた、それだけが青年の心に残った。
「それは如何かしら。」
「月の形も変わっているから竹林に入った時に憶測は付いていた。」
「大体お見通しのようね。」
輝夜は残念そうに話すがそもそも興味のない青年にはどのような気持ちが入っていようと関係はなかった。青年は取り敢えず帰ろうかと思ったが見知った人が話しかけてきて何とも帰りにくくなった。