青年放浪記   作:mZu

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第82話

さざ波に揺れる竹の葉。

 

その微かな音に耳を集中させて時と場を支配するその音に青年は身を投じた。その波は優しく包まれるかのようでゆったりとしたまろやかな空間を作り出していた。青年は食事を済ませて縁側で胡座をかいていた。

 

その流れを変えたのは白い耳を持つ淡いピンク色の髪を持つウサギ、鈴仙だった。

 

青年は通り過ぎるのだろうと思っていたがその場所で止まった。ふと鈴仙の方を見てみると何か涙ぐんでるので青年としては何があったのかよく理解出来なかった。

 

だが声をかけるほど用もないので様子を見ることしかしなかった。その右手は銃の形をしていてよくよく考えると迎撃するべきなのだろうが。

 

「竹林さん、いつまでここに居るつもりなんですか?」

青年は何の質問だか分かっていなかった。別に出て行け、と言われたのなら今すぐにでも出て行っている。

 

妙な奴に好かれたのか面白そうな玩具として扱われているのか中々出してはくれない。鈴仙としてはトラウマの想起をして顔を見たくもないという感覚なのだろう。

 

右手の指が震えているのと鈴仙の怯えた隠す気があるのさえよくわからない表情が物語っていた。青年は仕方がないので話を聞いてみることにする。

 

「そこまで俺の事が嫌いか。」

青年はさっぱりとしていた。嫌いだと言われてそうか、と答える、まるで他人に関心のない引きこもりの魔法使いのような要素を持っていた。

 

「はい。あの時私を相手にしませんでした。その事がとても心残りなんです。」

鈴仙はさっぱりと答えた。きっとその先の事は聞かされていないのだろう。

 

青年は竹の葉の揺れを感じながらゆっくりと立ち上がり庭の土を踏み始めた。シャクシャクと異様な音を立てている。鈴仙は外履きを持ってきて外に出てきた。

 

青年はその後ろにいる二人にも見えているのだろう、と思っていた。鈴仙は目の前の事に必死になっており周りがまるで見えていなかった。

 

「ここで相手にされれば満足なのか。それで誤解が解けるならそれでも良いだろう。」

青年は右手の手のひらで親指、人差し指、と順々にゆっくりと柄を握る。その余裕はそれだけ見くびっているとさえ思えた。

 

鈴仙からすればその苛立ちは確かにあるようで素早く手で作った銃から弾を発射させる。

 

綺麗で真っ直ぐな軌道を描いた髪の色と同じ弾が青年の横から飛んでくる。

 

青年は右膝の力を抜いてさらりと屈んでいた。その姿はまるで視えていた、既に来るのを知っていたようにも見えた。

 

地面に当たってパスッ、と短い音を立ててその弾は消失した。青年はその場からは動く事はせず体全身から力を抜いた体たらくな格好をしていた。これが戦う人の構えなのだろうか。

 

立っている事が不思議なほどフラフラし始めた青年をその場所から鈴仙は弾を発射する。

 

バン、大きな音を立てて先ほどよりも高速の弾を撃ち出す。鈴仙は実は廊下に上に居てその場所から見下ろすように青年に向けて撃ち込んでいた。

 

しかし姿はその場にはなく地面で棒立ちをしているのだが青年は一切その事に気づいていなかった。青年は右手で予め握っていた柄を振るって刀身でガッ、とという音を立てて弾を弾く。

 

鈴仙には目の前の事は今までの常識が崩れ去った瞬間でもあった。青年は息一つ漏らさずその場に存在し、まるで何もないかのように立ち尽くしていた。まるで相手にされていないと鈴仙は感じて両手で銃の形を作って青年に向けて一斉斉射を始めた。

 

マシンガンのような弾の雨を青年は逃げ場のない庭で避けていた。その不規則な動きで酔拳を彷彿とさせる動きには鈴仙には分があるはずなのにまるでそのような事はなかった。その事からわかった事がある。使うしかないと。

 

「竹林さん、もう辞めましょう。」

私の負けです、と降参の意を示して本来の姿を見せて廊下から庭へと降りていた。青年は音に鳴らしてゆっくりと刀を鞘の中に納めた。

 

しっかりと力を入れて立ち尽くしている青年は今まで通り下を向いていた。

 

かきあげた髪がおろされて目が何処を見ているのかは鈴仙には分からなかった。

 

「辞めるのか?此処からが面白くなりそうだったのにな。」

ゆっくりと顔を上げて髪をかきあげてから鈴仙の目を青年は見た。その吸い込まれそうな赤い目は元々鈴仙が持っているものであるがこれが能力のトリガーとなっている。

 

そんな事など知らない青年は投了した事で少しだけ油断したのだろう。つい見てしまった。

 

「それはもうし訳ないです。私があれ以上戦っても勝ち目がないと判断しました。」

 

「永琳にでも少し相手してもらおうか。動いてからこれだと流石に鈍ってしまう。」

青年は後ろを向いてこの戦いは終わったと思って敵に背を向けてしまった。その事は色々と不味かった。

 

「キャハハ、私との戦いは終わっていませんよーだ!」

鈴仙は両手からピンク色の弾を発射して青年に大量に当てようと撃てるだけ、自分の力が尽きるまで撃ってみた。

 

その場所には土煙が立ち込めており視界が開ける事はなかった。時間が経ち、その轟音でさえも止んだその庭には何故か青年が存在していなかった。

 

その動きには流石に鈴仙でさえ予想はつかなかった。

 

「とても気分が良いよ。」

青年の姿を見たのは錯視でカモフラージュしたはずの本体の後ろにいた。そして耳元で囁いた青年は珍しく笑っていた。そして落ち着き払った態度と何かをしたくて仕方がない手先が鈴仙の戦闘の勘を逆撫でしていた。

 

危険因子、そして鈴仙には必ず相手にできないものであった。

 

そしてこれでも全く本気でも狂ってもいないという昔から狂気に満ちていたかのようだった。いつもと変わらないと鈴仙はこの時に気付いた。

 

「貴方はもしや、それなりの経験者なんですか?」

 

「どうだろうな。俺も人間なんだ。そこまで多いとは言い難いのではないか。」

青年は半笑いでいつもよりも興奮している状態だった。鈴仙は視線を集中させてその波長を見るが一切動いていなかった。

 

偶に大きく動いているが一山、一谷を示して後は直線である。鈴仙にはこの人の狂気が何処にいるのか戦闘を続行させたのに頭を抱える程に悩んでしまった。青年はゆっくりと縁側に腰掛けて鈴仙が再び始めるまでその場所で待っているつもりらしい。

 

それがどうした、と青年は心の中から念を送っていると鈴仙は思ってしまった。

 

青年はジャージのポケットから箱を取り出すとrestartと書かれていた。鈴仙はあれで何かをするのかと思ったが白く細いものを出して素早く剣を抜いてその先に火を付けると煙を噴き出し始めた。

 

要は戦闘中なのにもかかわらず煙草を吸って一服を決め込むという命知らずの事をし始めたのだが鈴仙にはあまりにも強烈な効果を与えた。

 

鈴仙は一気に落ち込むと膝をついてしまった。狂気によって自分の身を傷つけるほど暴れる事もなくいつも通りにしており自分の実力を持ってしても特に意味なし。どうしたら勝てる?鈴仙は戦士としてその様な事を考え始めた。勝てそうな要素は全くない。

 

「今度こそ認めます。私の負けでお願いします。」

鈴仙にはもうプライドというのはなかった。それどころか戦意を削がれて戦える気がしなかった。

 

青年はそんな姿を少し口に含んだ煙を口から細く噴き出して反応を見せなかった。

 

鈴仙はその場で頭を下げていた。許してほしいとばかりに一生懸命にしていたが青年は見てすらなかった。

 

理由は簡単である、もうどうでも良い事だからだ。それだけ青年は興味を無くしてしまった。今は煙草を吸っている事に集中していた。食卓から少しだけ襖を開けて見ていた二人にはこの光景は流石に異様に見える様でヒソヒソと耳打ちをしていたが青年は何か思っているのかそうでもないのか見向きもしなかった。

 

静かで穏やかな空間を噛みしめるように、全ての優しさを全身で包み込もうとするように心の中を空っぽにしていた。その時間は煙草が半分ぐらいまで削れるまで続いていた。

 

「ちょっと、何とか反応を見せてみたらどうなの?」

我慢の限界なのだろうか永琳は襖の隙間から青年に声を出して呼んでみる。

 

青年は何も考えていないのか、気が抜けていたのか首を急に揺らしてから驚いたように後ろを向いた。煙草は左手の指に挟んで見えないようにしていた。

 

「どうした、何か問題でもあるか?」

まるで状況が見えていないかのようだった。永琳からすればこのような人間は初めて見るらしく頭を悩ませていたのは見れば分かる。その横でクスクスと笑っているかぐやがいるのは青年には読み取れたが会話に入ってくるような事はなく青年は少し残念そうにしていた。

「問題があるでしょう。目の前の光景が見えないのかしら。」

 

「何だ?鈴仙は何をしている。」

青年には本当に何も知らなかったらしく、永琳でさえ匙を投げたくなるような程呆れていた。

 

輝夜はその様な性格が面白いらしく上品さのかけらもない笑い声を出していた。青年は仕方がなく煙草を口に咥えて鈴仙の元へと近寄る。

 

最早青年には戦意と言うのか何か気があるように感じられないほどダラダラとしていた。青年は鈴仙の前で胡座をかいて座る。

 

「いつもそうして来たのか?」

鈴仙は答えなかった。その芯の強さはそこまで鍛えられたのか、元々の性格なのか。

 

「無毛な事をしたのは許すから頭を上げてくれ。」

 

「本当に申し訳ないです。」

鈴仙は一言だけ言ってから頭を上げて立ち上がった。同時に青年も立ち上がり、元の位置まで戻って来た。

 

「しかし、此処には銃弾も幻想で作り出せるのだな。」

青年はぼそりと呟いて縁側まで戻ると口に含んだ大量の紫煙を細くゆっくりと吐き出すともう一度吸い始めた。もう青年の意識には鈴仙の事などなく、鈴仙ももうやめる事にした。

 

ただし、深い溝を作ったのは言うまでもなく永琳は此処からどうするつもりなのかは本人に任せるしかないと思っていた。

 

「して、鈴仙。吸い終わったらもう一回頼めるか。銃弾をどれくらい対処出来るか試したい。」

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