静寂と無音の狭間で二人は歩いた。
その綺麗な石によって彩られた道を踏みしめながらそこに流れている風情を感じていた。その横には灯籠がそのまっすぐな道を形取っていた。
「此処が白玉楼となっている。」
少しシワついた赤いジャージに灰色の下地を見せる気の抜けた青年は自分のペースで歩いていた。少し気分が良いのか鈴仙のことを気にしていないほど速かった。
「白玉楼と言うのですね。永遠亭とはまた違う雰囲気を感じます。」
その速さには流石について行けないのだろう。
鈴仙は多少遅れており、小走りで追いついて来る。青年は視線を後ろにも向けられるように首の角度を変えて様子を見ながらも気持ちを抑えられず歩いていた。
「此処の庭師の腕が良いからだろう。」
青年はぼそりと呟いた。声は小さくはないが鈴仙には聞き取りづらかったらしい。そうなんですね、とだけ返して息を切らした。流石にこの脚にも限界というものが来始めたのだろう。
待ってください、と気弱な声を上げた。青年も流石に歩く速度が早かったかと思い始めて一旦止まる事にした。
「斬りたくてウズウズしているんだ。見ていなくて済まなかった。」
青年は息を切らしてその場に留まろうとする鈴仙に向けて一礼と詫びの言葉を述べた。実際は冷静であるが少しだけからかわれていると気付くのは先の話となるだろう。
「斬りたいですか?また変な発言ですね。」
「此処でよくそのように暮らしていた。ただそれだけの理由だ。」
青年は確かに不満足そうに柄を触っているのを鈴仙を見つけた。どうしてここまで駆り立てられるのかは鈴仙には過去の経験も合わせて理解し難いものであった。
青年はポケットから不意に煙草を取り出す。細身の体で白くて美しい、そんな姿をしていた。青年は口に咥えるだけで紫煙を吐き出すような真似はしようとしなかった。
「暮らしていた?此処は冥界なんですよね。少し整理させてください。」
耳をシワつけさせる鈴仙を青年は口を動かして棒を揺り動かしながら見ていた、と言うよりかは風景の一部として時間を潰していた。
火を付けようとしないのはきっとこの情景が崩れるのが嫌なのだろう。青年にとってこのような風景を楽しむのは好きなのかもしれない、永遠亭では何故か退屈にしていた。
「整理も何することはない。ちょっと仮住まいをしていた、諸事情でな。」
青年は鈴仙の耳がシワつかなくなってきたあたりで歩き始めた。この上には枯れた大木だけが見える景色を楽しみつつ、階段を上っていく。
何がそこまで青年を駆り立てるのかは本人以外知らないが庭師との意思のぶつかり合いをご所望と見受けられる。鈴仙はそのような事は予想がつかず青年のペースに振り回されることとなっている。
「して、これからどうするつもりだ。」
青年は綺麗に整えられた石造りの階段を上っていく。鈴仙の返答などあっても無くても何も変わらなかった。
青年にはそれなりの意思があり単純にその為に歩いていく飢えた獣とはこのような事を言うと思われる。
「どう、と言われましても。貴方について来ただけなんですよね。」
鈴仙は月の兎であり此処の大体の住人のようには空を飛ぶような事は出来なかった。
それ故に青年にどのような理由で誘ったのは本人に聞く必要があるが鈴仙はその幻想郷と白玉楼のある冥界を繋いでいる穴へと入り込んで後は階段を登って来たといわけである。
要は鈴仙は結局のところ何か理由があって白玉楼に来たわけではなくて青年に連れられて此処まで運ばれたと言う方が正しい。
しかも青年は一旦帰って永遠亭に来たかと思えばその展開となっている。竹に囲まれた館の住人はそのすばやい行動力に度肝を抜かれた。
「そうだったか。俺としても特に何か用があったわけではない。」
「特に何か理由もないのに。私を連れて来た意味は何かあるんですか?」
「言うほど何かあるわけでもない。勉学に励むのも良いがたまには息抜きというものが必要なのであろう。だから連れて来た。」
青年は悪びれるような事がなかった。率直にそして余計なお世話とも言える行動には流石の鈴仙も帰りたくなっていた。
しかしそれが出来るほど低い位置にあるわけではなかった。帰るなら帰ると良いなんて言われた時には仕方がなくついて行くしかなかった。
「それは私の都合なんて何も考えていないですよね。」
「確かに。最近楽しくなっていて人の気持ちなど二の次であったか。どうする、帰るか?」
青年からすればその発言がどのように伝わるのかは知らなかった。
「いえ、折角なので息抜きをさせてもらいます。」
ふて腐れたように答える鈴仙に青年は冷たいわけではないが距離を置こうと考え始めたところで白い壁が見えて来た。
其処には一際目立つ人が通るだけなら大きい門がある。その先にはまたもや石で作られた通路がありその先に白玉楼と呼ばれる屋敷がある。其処にはいつも通りの光景が広がっていた。
何もないように見えて線を引く事によって描かれた海を歪な形の平らな石の上を渡っていく。落ちればどうなるか、とても風情のあるそして芸術的な庭を歩いていく二人をある人が迎えた。
「こんにちは、後ろの方は初めてですね。私は此処で庭師兼剣術指南役の魂魄 妖夢と申します。」
黒いリボンで結んでカチューシャのように白髪をまとめ上げている。青白い顔色は体調が悪いというわけでは無くて単純にいつも通りであった。緑色のベストを羽織って肩と腰には一本ずつ剣を携えていた。
「初めまして。えっと、鈴仙です。」
鈴仙 優曇華院 イナバが本来の名前であるがきっと短めにして覚えやすくしようとしたか、と青年は考察を入れてみる。
少し緊張しているような鈴仙とハキハキとしている凸凹のコンビであるが別に合わないというわけでもなさそうだった。そんな様子を見て青年はゆっくりと歩み始めた、決してこの場に居づらくなったとかではなく正当な理由があった。
「幽々子と久しぶりに話してくる。」
石を踏み鳴らす音を辺りに響かせて青年は二人の元からは離れた。急に二人だけにされて不安を感じて耳をシワつかせたが妖夢はそんな様子を見て優しく言葉をかけていた。青年はその様子の横目で見て後は見る事はしなかった。
「今日は幽々子様と話がしたかったんですね。」
妖夢は幾分か慣れているらしい、鈴仙はその落ち着いた物言いと青年の少しの間この場所で住んでいたという事を思い出して何となく思った。
妖夢からしてみれば青年が誰かを連れて此処に現れた事は初めてであるが対面にいる人がここまで怯えているのが滑稽に思えてしまった。
「折角の機会ですので私が庭の案内を致します。」
妖夢はゆっくりと海の波の上に浮かんだ石の上を渡って鈴仙たちが入ってきた門から右側へと向かった。
鈴仙はなんとなく後ろをついて行こうと足を動かすがその様子は小動物のように余所余所しくぎこちなかった。きっと状況がコロコロと変わり鈴仙の頭の中が絡まっているのかと思える。
「はい、お願いします。」
鈴仙は息が漏れる勢いで言葉を話していた。