一旦帰ってきた頃合いだった。永遠亭での生活にも飽きが来た青年は何となく考えもなしに戻ってきた。
鏡のような水面に白い霧に包まれた湖で舟を浮かべて時間を過ごしている黒服の従者のような格好をした青年がいた。どうやら時の進まない異変の陰ながらの功績を讃えて着せると言う事であるらしい。
異変の大体を知っている幻想郷で出回る嘘に騙されない人々が此処には集まっている。
正式に住人として主人によって認められたが青年が真面目に仕事などするはずもなかった。
理由は容易だ、するような事はない。メイド長である十六夜 咲夜か妖精が概ねの仕事の終わらせてしまう。現状青年が出来ることといえば何処かに出かけるか美鈴と身体的な特訓を受けるかパチュリーと魔法を学ぶかのどれかとなる。
其処で湖に舟を浮かべてその水の割られていく悲鳴や騒いでいる風の声を聞くしかしようと思えるような事がなかった。
「起きて。お嬢様がお呼びよ。」
青年は舟を揺りかごかのように寛いでいた。うたた寝をしようとして横になったところでのメイド長の声である。面倒な事になるのは青年には慣れた事であるが行きたいなどと思うわけがない。
「今回は辞めておく。それか少し時間をくれ。夕暮れには戻るだろう。」
青年は寝ぼけた声で虚ろな意識のままに答えた。いつもなら咲夜も此処で一旦身を引いていた、しかし今回はどうしても駄目らしい。
「少しだけ時間はあげるわ。舟は陸に上げておくからそれまで貴方は船の中で横になりなさい。」
青年は返事もするような事はしなかった。咲夜ももうそろそろ慣れてきたのか船頭を両手で掴んで水面を切り裂いていく。
青年は抵抗もする事なくその音を聞いていた。更に大きくなった音を全身で感じた。揺れ動く景色、水や空気を切る音、湖の水の香り、背中に伝わる木の包み込まれているかのような感覚。
既に寝息を立てた青年は咲夜に全てを任せていた。咲夜は舟を転覆させるなら容易だがあまりしようとはしなかった。
「はい、着いたわよ。お嬢様の部屋は分かっていると思うから早めに行きなさい。」
青年は微睡みの中で変な夢でも見ていたかのように言葉にもならない程の大きさで話す青年。
そして立ち上がってふらふらのまま紅魔館へと向かう青年の背中を見ていて咲夜は大丈夫だろうか、と思えた。
今更心配する要素はないにしろ咲夜にはどの様になるのかは見て分かる。機嫌の良いレミリアに不機嫌な青年が会いに行く、どのような反応が見られるかは予想できる。
「咲夜、もし何かあった時はすぐに止めてくれ。」
急に振り返った青年はその事だけを告げてのそのそと歩き始めた。何があるのかと言えば言うまでもなくこれからの事だろう、神妙な面持ちで傍観する事しか出来なさそうだと思え始めた。