不気味な雰囲気を漂わせるこの場所では不可解なことが多く起こるとされていた。
それ故に人はおろか妖怪でさえ近づこうとしない魔法の森では人が居るはずなどなかった。
しかし、赤いジャージを着た青年はその森へと足を踏み入れた。周りにはキノコや今にも話しかけてきそうな木々が生い茂り博麗神社の南側ほどは暗くはないが鬱蒼した雰囲気には流石に躊躇いを持ち始める。
その中を進んでいくと不自然に開けた場所には黒い屋根の家が存在していた。
「居ますか?」
扉を恐る恐る3回ノックをする。青年は何処か緊張した面持ちをしており何か不安が隠せないと言う感じだった。
「あら、いっらしゃい。」
ゆっくりと外側に開いたので青年は一歩下がってその家主の姿を見ていた。
その姿は金色の光の透けさせているような髪で首の辺りで切り揃えられていた。白のケープを肩に纏って青色という落ち着いた色合いのアリスだった。
「ちょっとした野暮用だ。少しだけ話を聞かせてもらえないだろうか。」
青年は何処か落ち着きのないような様子だった。アリスはその事を不審には思ったが敢えて何も言わないことにした。
「なら、中に入りなさい。紅茶を用意するわ。」
アリスは踵を返して家の中へと入ると青年は怠そうでもないが力の入っていない足取りで中に入った。中にはアリスに似ている人形が所狭しと置いてある。
青年はまた数が増えているように感じた。青年は特に断りもなく椅子に座る。何かを待ちわびている犬のように背筋を伸ばしていた。
「それで何か聞きたいことでもあるの?」
アリスはポットとカップをトレイに乗せて持ち運んできた。昔は毎日のように飲んでいたな、と少し昔を思い出したところで本題に入る。
「永夜異変についてどうなっていたのかを聞きたい。」
青年は特に何かクッションを入れようとはしなかった。それどころか直球も良いところなのでアリスは難色を示した。急にどうしてそのような事を聞き始めたのかというところだ。
「永夜異変の時は貴方は居なかったわね。簡単な話、仲違いをしていた魔理沙と霊夢に妖夢も混じってきて三つ巴になったんだけど、誰もが消耗したところでに月を背負って現れたのは確か異変を起こした犯人だったわ。」
アリスは青年の顔色を伺おうと見ていたが何か思ったことは特にないのか直ぐに紅茶を一口飲んで気を取り直した。
「私を含めて5人なんだけど相手は一人で全ての相手をしていたわ。かなりの手練れのようでかなり苦戦を強いられたわ。長い時間戦っていたような気はするけど急に辺りが明るくなって本人が居なくなったから私たちが勝利を収めたわけ。」
アリスは此処で説明を終わらせて紅茶をまた一口飲んだ。
青年は気難しそうな顔をして聞いたことのあるような話を耳に入れていた。別に話している内容に可笑しな点はなかった。しかし、犯人の名前を知らないのはどうかと思われる。
「名前は知っているのか?」
青年はなんとなくではあるが聞いてみた。
「いいえ、聞く前に居なくなってしまったわ。」
アリスは一口も手をつけていない青年のカップを見ながら少し考察を入れながら話を聞いていた。本人も気づいていないわけではないが敢えて触れないという形で言われている。
「何が変わっているのかはよく知らないがそれで異変は解決したのか?」
「解決はしているわ。博麗の巫女とそのパートナーの力によって。」
アリスは少しだけ声を荒げているようにも感じた。青年は目を細くして謎を頭に浮かばせていた。確かにそんなもので終わったのなら楽なものはなかった。だからこそ青年は訴えたいのだろう。
「それで本当に終わっていると思っているのか?」
青年は静かに、そして這い寄る触手がアリスの足首を掴むのには時間はそこまでかからなかった。
「ええ、そのはずよ。」
急に自信を失くしているアリスにはきっと見えているのだろう、裏に隠されている真実に気づくのはまたしても時間を食うことはなかった。
「まぁ、そのように終わっているのは確かに知っている。今は何も答えることはしないがきっと気付くだろう。」
青年はゆっくりと立ち上がる。そしてまた座った。その理由には扉が急に鳴り始めたから、其処に相手の返事もなく入ってきたのは黒いとんがり帽子を被った魔法使いである霧雨 魔理沙。
その人の訪問に青年はすぐに椅子に座ってしまった。アリスは単純に怯えたのだろうと思っていた。
「お、珍しいじゃん。今日は用でここに来たんだぜ。」
「特に何もない。」
青年は魔理沙には背面を向けていた。
アリスと魔理沙に挟まれた青年には逃げ場などなさそうに思えるほど手狭に感じた。
「今から帰る事だったか?それは失礼な事をしたぜ。」
魔理沙からすれば用件など知っている事ではない。だからこそ青年は焦っていると思われる。
「永夜異変について聞きたい。」
「良いぜ、私はアリスに教えられて刻符というものを集めていてな。その結果としては何故か霊夢に勘違いされる事になったが、なんとか解けたんだよ。そしたら、なんと。あの八雲 紫が敵対して来てな。私たちは3人で対峙していたわけよ。結果大騒ぎになってしまって妖夢なんかも現れて三つ巴で戦っていたんだぜ。いやー、あれは大変だったぜ。」
「アリスから伝えられている事とはそう変わりない、か。では、その後犯人はどのような姿をしていた?」
魔理沙はキョトンとした顔をしていた。きっと知らないと思っていたのだろう。話すのが好きな魔理沙にとっては出鼻を挫かれることとなった。
「赤と青の、奇妙な格好だったぜ。月の光もあるし遠かったからそのくらいにしか感じなかったぜ。」
青年は不意にフラッと立ち上がり魔理沙の横を通る。その姿には魔理沙は横目で見ている事しかしなかった。
「邪魔をした。」
青年はそれだけを告げて扉を開けると音を出さないように慎重に閉めて何処かへ向かっていった。
「結局、何を聞きたかったんだ?」
「私もよく分からないわ。異変解決に参加していないから少し気になるだけかもしれないし、あの人なりの祝福なのかもしれないし。」
アリスは一口もつけなかった紅茶を一旦片付けて魔理沙の為にまた新しいものを注ぎ始める。