これは少し前の話だ。青年が魔法というものを学び始めた頃の事だ。
「して、五元素と呼ばれる魔法の基礎だが人によって違うとはどう言うことなんだ?」
青年はまだ魔道書の中でも興味を惹かれたものだけをパチュリーに聞いていた。
「貴方の言うように火、風、地、水、陰の5つで構成される事はよくあるわ。それが貴方が今までに習っていたと言うのならね。
それでも自然に存在する元素と呼ばれるものは数える事は不可能と言われているわ。
例えば炎と風を使って熱風、火を陰で閉じ込めた瞬間的な爆発を起こすことも可能となるわ。
熱風に水を合わせたものもやり方次第では出来るわ。そのような事から貴方がどの五元素を扱おうとは知る由も無いけどそのように120もの基礎がある事を忘れてはならないわ。
最も貴方の魔法陣は何でも自然魔法ならできるようだけれどどうなるかは何も知らないわよ。」
パチュリーは青年の返事も聞かずに話し続けていたが青年は何かに取り憑かれたようにペンを握ってひたすらにその言葉を書き続ける。
勿論パチュリーが話すのをやめるなんて優しい事はないため最低限自分が読めるようなぐらいの字の書き方をしている。
その子供が書いたような文字を一旦話をやめたパチュリーは難解な魔法陣を見るかのような表情をしていた。
しかし特に気にならないのか何か話しかけるような事はしなかった。
「それでパチュリーは何が操れるんだ?」
青年は一旦紙に書き終えたパチュリーの言葉を見返しながら更なる知識を吸収するために話を聞こうとしていた。
青年は自然魔法の基礎としてパチュリーは何を使用しているのか気になっただけだがまるで飲み込むような勢いで迫ってくる青年を手で座るように促してからパチュリーは言葉を続けた。
「火、水、木、金、土の五つに日と月を組み合わせた全部の七つを使っているわ。日と月は貴方の陰と同じくあまり元素には数えられる事の少ない少数元素よ。
光と闇に関連する名前のついた元素は直接自然に関係するものはないのよ。
その分扱う事も一段と難易度が高くなるわ。種がこれまで抗うことの出来なかった昼と夜は同じく自然も抗えなかったと言う結果と書かれていたわ。」
パチュリーは今度は青年のペンの動きをチラチラと見ながら言葉を続けた。
青年のペンは自分の言葉とほぼ同じタイミングで紙に書かれていてその一瞬を大事にしていた。パチュリーの言の葉を必死になって追いかけて拾い上げる青年の様子が気になり言葉は止まってしまった。
青年は話が終わっていない事を予見してなのかパチュリーに目で訴えかけていた。
「七元素を扱う事の出来るパチュリーだが全ての基礎元素は把握しているのか。」
やはりか、パチュリーはふとそう感じた。干渉することのない元素である日と月を扱う事の出来るパチュリーでさえ全てを知る事はなかった。
如何しても噛み合わないものが多くある。例えば火と月では何も噛み合わせは起こらない。日と月も役割が相反するために何も生まれない。その魔力のかけ具合で上手く調整をすること自体はパチュリーは成功はしていて何処かにその魔道書がある。本人は知らずとも小悪魔に聞けばすぐに持ってくる事は可能。
「いいえ、私もまだ未知の部分が多いのよ。単純に考えて5,040通りもあるけれどその中で私が扱えるのは4,000ぐらいのものよ。貴方も単純に考えれば半数は扱えないものがあるはずよ。」
青年は紙に何故少数元素が相性が合いにくいのか自分なりの考察を書いていた。
もちろんまだまだ初心者である青年の考えることなどパチュリーの足元に及ばないものと見くびっていたが話した言葉には一理ある事であった。
「もしかすると其処に本当の相性があると思われる。例えば如何だろうか、月と水を使う事で少しだけ冷やせるとしたら氷と水を混ぜ合わせたような基礎元素が作り上げられるかもしれない。
その反対に日によって少しだけ温度を上げることができるかもしれない。俺の場合だと陰の元素で活動を塞き止めるようなことができるから一時的な爆発を起こせるのかもしれない。」
如何だろうか、と青年は自信がなさそうなか細い声を出していた。
もちろんパチュリーは満足のいく回答であり新しい頭だからこそ捻り出せる柔らかい思考とも考えられた。パチュリーは軽く頭の中で青年の主張をまとめてから自分も紙にメモを取る。
「陽となると活動をし易くするからもしかすると土や石の元素とは相性が合わないように感じる。」
青年は新しい紙に今までに考えついた事を書き記してからそれをまとめる様に自分の口でゆっくりと所々詰まりながらも必死に答えた。
偶に上を向いては言葉をまとめている様子をパチュリーは静かに青年が自分で答えられるようになるまで待っていた。
「貴方の言いたい事は的を得た物ではあったわ。でも口では言えても実際はどうなるかは分からないわ。検証を繰り返すしかないのよ。」
パチュリーは新たに三冊の魔道書を小悪魔に持ってくるように頼んだ。青年はその三冊の本を自分の部屋に持ち運んでパチュリーとの魔法の勉学に励んだ後に一人で読み進めていた。
其処で生まれた疑問は紙に書き記してはパチュリーの元へと行って自分の言葉でぶつけていた。偶に言い争うその状況は紅魔館の隠れた風物詩として小悪魔は楽しみにしていた。
「それで実に気になることがあるんだ。日の元素と組み合わせるとどうやら威力の弱まる元素があるらしいが何か知らないだろうか。」
青年からすれば素朴な質問だった。霧の湖で自分の魔法剣を使って氷を作っていた。
最初は単純に氷が出来るように念じた結果が刀身に氷は付着するという結果となっていた。其処で気を抜いた時に上にある太陽が暖かい事を感じながらもう一度同じ事をしていたがそれが上手くいかないのである。付着こそするが比にならないほど小さくなっていた。
「そんなわけがないでしょう。」
パチュリーからすれば青年の発言が魔法を侮辱するかのような的外れのものである。当然魔法使いの一端として反抗はする。
「なら何となくまとめてみたものだから読んでみてくれ。」
殴り書きかのように書かれた文字の隣には投影されたような綺麗なスケッチが残されていた。
パチュリーは難解な文字を読み解きながら青年の意見を読んでいた。確かに青年の言う事は実証されているがパチュリーはにわかに信じ難いのか疑いの目を向けていた。
「少し調べてみましょう。」
パチュリーは珍しく椅子から立ち上がるとスタスタと赤い絨毯を歩いていった。
青年は相変わらずソファーの上からそれを眺めているだけでそれ以上は近づこうとはしなかった。
それだけパチュリーの魔力が強大である事を知っているからであり本当に横に立ってメモを取りたいほどであるが今は我慢の時なのである。
パチュリーはまずは氷を作り出していた。何もないところから作り出すのが流石は魔法使いと言うのかどのように出てきたかは青年の目で書けるだけ書いていた。
それからそれを地面に置くともう一度氷を作り始めたが比較すると小さくなっていたのを青年は無駄とは思いながらも簡略な形でスケッチを取っていた。
もう終わったらしくパチュリーは氷を溶かしてから椅子に座った。青年はある程度書き取ってから膝立ちしていたので本来の使い方でソファーに座った。パチュリーは少し考え込んでからゆっくりと口を開いた。
「確かにそのようなものがあるようね。でも、今は何も分からないわ。それは試行回数が少ないからよ。検証をたくさんするつもりだから貴方も少しは手伝いなさいよ。」
パチュリーは無理矢理と言うわけでもないが研究に付き合うように頼んだ。
青年は犬の如く頭を縦に振っていた。その速さは話を聞いていないかのようだがそのような時は返事が早いのは青年の特徴である。もちろん逆もある。
「もしそれが実証されたら初めてのことなのか。パチュリーは俺の話を聞いた時にどう感じたんだ。」
「今までとは逆の発想なのよ。それにその魔法剣だからこそ出来た事でもあるけれど貴方は念じれば直ぐに力を発揮できる、何の淀みもないらしいわね。色々と興味が湧く事が多いけれど貴方の気づいた事はとても素晴らしい事だわ。」
パチュリーは少しだけ頰を赤く染めていた。言っていて恥ずかしくなってきたのか、今まで信じ込んでいた常識がひっくり返されるなんて事が目の前に起こると思っては気分が高揚しているのかは分からないがとにかく青年のせいである事は確かであるらしい。
「これからも宜しく頼む。」
青年はそれから魔法剣を使った自分なりの魔法を使い始めていた。パチュリーの力を借りる事なく自分の魔法を開発し続ける青年に負けじとパチュリーはもう一度魔道書を読み返すので小悪魔は二人の頼んだ事を叶えてあげるだけでも一苦労となっていた。
それだけの情熱がある者同士がぶつかる事があるがその中で相手から気づく事があると青年はパチュリーの事をそっちのけで紙にメモを取る。
それから自分なりに解釈して小悪魔に関連しそうな本を持って来てもらうのである。小悪魔は密かにその無毛な言い争いを楽しみにしているのである。