憧れの先輩に押し倒されて、男の甲斐性を説かれる話 作:狐狗狸堂
千冬さんはなぁ、昔から苦労してるんだよ。友達にも恵まれてないんだ。だから悩み事があっても抱え込んじゃうんだよ、きっと。
要するに、面倒臭い千冬さんに引っ張られてネガティヴになったら、気づくとお風呂場でいちゃついていた、という話です。
一夏くん?えっと、弟さん、ですよね。それが何か(すっとぼけ)
一体どれだけの人が待っててくれてるのか......。
それでは本編をどうぞ
「はぁ……」
知らずため息を吐く。憂鬱な訳ではないというのに。むしろ、これから向かう場所は自分の恋人の家なのだ。喜び勇んで、と言うと少し違う気もするが、少なくともため息を吐きながら行く場所ではない。
それでもどこか足取りが重く、僅かに心の内が淀んでしまうのは、私自身が彼と顔を合わせ辛いと思ってしまっているからだ。別に喧嘩をしただとか、そういう訳ではないのだが。
「はぁぁぁ……」
私の心は晴れない。不安ばかりが嵩んでいく。
私は、彼から貰ったものに値するものを、きちんと返せているのだろうか。
◇ ◇ ◇
「どうしました、千冬さん。いつもよりお酒、進んでいないみたいですけど」
「ああ……そうだな……」
僕と千冬さんが付き合い始めて、すでに一月が経過していた。しかし僕たちが顔を合わせる機会はというと、驚くほどに少なかったりする。
それというのも、お互いに仕事が忙しく予定が合わなかったり、一夏くんが一人で家に居るため、千冬さんとしては遅くに帰るのは避けたい、という思いがあるからだ。
仕方ないことなのでその辺は割り切って、代わりに一緒に過ごせる時間を大切にしよう、と二人で約束したりもしたのだが。
「……大丈夫ですか?その、何か気に入らないこととかあったら、言ってくださいね」
「いや、本当に大丈夫なんだ。……これは、私の問題だからな……」
そう言いつつも、両手でグラスを握ったっきり微動だにしない。表情は正面からでは多少見え辛いものの、常の覇気はなくただ沈んでいる、といった様だった。
ーこのままじゃ、嫌だなー
自分の愛する人が何か悩んでいるというなら、それをどうにかしてあげたいと思うのは、多分正常だと思う。そして、明らかに悩んでいるのが分かるのに、相談されないことにもやっとするのも。
ー意外と僕って、気持ち悪いのかな……ー
なんでもかんでも話し合える、そういう関係はあくまで理想に過ぎないことは承知している。それに彼女の場合、ISに深く関わっているため、秘密にしなければならないことが多いことも。
それなのに、自分の思い通りにならないからと、蟠りが生まれるのは如何なものか。束縛が強過ぎやしないか。
ーもしかして、その辺りが原因で悩んでたり……?ー
あり得なくはないのがなんとも言えない。実際、友人が誰々と付き合い始めたという噂を耳にしてから、一カ月もしない間に別れていたことがある。理由は、付き合っていた彼女がやたらメールをしたがる人だとかで、あそこまでメンヘラ気質だとは思わなかったとは友人の談。
思えば二人で会えない日などは、僕の方からラインをすることが多かったりするかもしれない。
ーあれ? 僕って重かったりする……?ー
そう考えると、辻褄が合うような気がする。なんだかやたら憂鬱そうなのも、僕に相談してくれないことも。いやいや仕事のことかもしれないし、でもそれにしてはやたらこっちを気にする素振りをしているような、だったらやっぱり僕に原因があるんじゃ――――
「なあ、聞いているか……?」
「え……?」
気がつくと彼女がこちらを向いていた。先ほどまでの沈鬱した表情は、こちらを心配する色に塗りつぶされている。酒は飲み尽くされ、軽い夕飯も残さず食べられていた。
「すみません。何の話をしてたんでしたっけ?」
心配を掛けさせたくない一心で、努めて冷静であるように振る舞いながら、食器の類をトレイに乗せて運んでいく。そして、台所で作業する僕の後ろから、改めて千冬さんの話の内容が告げられた。
「もしもお前さえ良ければ、その、一緒にシャワーでも浴びないか……?」
とりあえず食器を落とした。
◇ ◇ ◇
「恋人っぽいことって何なんだ、と色々考えていたら、何となくだな……」
大して広くもない浴室で、そんな風にむにゃむにゃ口を動かす千冬さんが、とても可愛いらしく見えた。
二人で浴室に入ってからその理由を聞くというのは、些かどうなのだろうとは思ったのだが、生憎誘われてから言われるがままついて行き、少し正気を取り戻したタイミングで、こう、ガバッと服を脱ぎ出した千冬さんに見惚れていたのだから、仕方がない、はずだ。
「別に責めてる訳ではありませんよ。僕としては嬉しいですし、ね」
「そ、そうか? そういうものか……」
現在はというと、千冬さんがこちらに背を向けている状態な訳だが。何というか色々と、やばい。
浴室の明かりに照らされて、眩しく輝く白い肌。少し癖のある濡れ羽色の髪。くびれから腰のラインに沿って視線を落とせば、僅かに潰れている柔らかそうな臀部。緊張しているのか、少し肩に力が入っている様まで分かる。
ーやばい。本当にやばいー
この人に見惚れて変態呼ばわりされるなら本望、とか思ってしまうくらいには。
肩越しに彼女の身体の前面も垣間見える。薄っすらと見える腹筋、もじもじと擦り合う膝や太もも、両腕によって凶悪なまでに強調される双丘、俯きがちな顔まではっきりと。
このまま眺めていたい衝動を無理矢理抑え、謎の緊張感に襲われながら恐る恐る声をかける。
「……いいですね?」
「……! あぁ、頼む」
まず、お湯をたっぷりと掛ける。次にシャンプーを泡立て、軽く頭皮をマッサージするように揉んでいく。爪は立てず指の腹で。硬めで癖のある髪だから、ゆっくりゆっくり大切に。
「千冬さん……一ついいですか?」
「んっ、ああ、いいぞ。何だ?」
「僕、千冬さんの負担になってたりとか、しますか?」
「……どういう意味だ?」
腕は動かしつつも、先ほどの自分の考えを掻い摘んで説明する。出来るだけ丁寧に言葉を並べて。千冬さんは終始無言であり、鏡から伺い知る限り、どこか難しそうな顔をしていた。
「まあこんな感じ、ですかね」
普通を装っているものの、気分は暗いし重い。もしも僕の考えている通りだったら、とか後ろ向きな考えばかりが浮かぶ。
「……私は」
「はい」
「私の方こそ、ずっとお前の負担になってるんじゃないかと思っていた。いや、事実その通りだと思っている」
「え……?」
彼女は痛々しげに顔を歪めていた。すでに髪を洗う手は止まっている。そのくらいに衝撃的だった。
そうして淡々と述べられるのは、彼女なりの後悔。
「恋人だというのに碌に会えもしない。たまに会えても、お前にされるがまま自分ばかりいい思いをしている。翻って私は、何をしているわけでも、そして出来るわけでもない。それが、どうしようもなく申し訳なかった」
「それは……仕方ないことじゃないですか。僕が望んでやってることでもありますし……」
「違うよ、違う。そうじゃないんだ。ただ私は」
そこで言葉を切り、軽く逡巡するように自分の指を絡ませ、両手を組む。
「私は、お前に愛されるに値する女か……? お前の愛に私は何と応えていけばいいんだ……? 私は何を、返してやれるんだ……」
沈黙。シャワーから流れるお湯の音だけが支配する空間。
千冬さんは、顔を俯かせたまま。ならば僕はというと、なぜか少し可笑しくてつい笑ってしまいそうになっていた。同じ様なことを悩んでいて、そして相手を傷つけてしまうのではと、臆病になってしまうところまでそっくりだったから。
一先ずそれは隠し、わざと拗ねたようにして彼女に言葉を投げかける。
「傷つきました、千冬さん。幾ら何でもあんまりですよ」
「……すまな「千冬さんは僕のこと、どうでもいいと思ってたんですね」んなっ!? 違う、どうしてそういう話になるんだ!?」
僕の言葉に勢いよく彼女は振り向く。だけどしょうがないだろう。僕がぐちぐち悩んでいたことは何だったのか。だから、少し格好つけて言ってやるのだ。
「貴女は素敵だ。とても特別な女性なんです」
「だから、貴女が少しでも愛してくれるというのなら、それだけで十分にお釣りはきます」
ずっと想ってきたのだ。
一度は切り捨てたのに。
それを拾わせたのは他ならぬ貴女だから。
何よりも大切な貴女だったから。
だからこの想いに限りはないのだと、しっかり言葉にしてあげよう。
「愛してますよ、千冬さん。この世界の誰よりも」
お互いに裸のままであることも今は置いておいて、顔を突き合わせるように僕の方から身体を寄せる。彼女は顔を真っ赤に染めてバスチェアから逃れるも、逃げる場所なんてどこにもないから、結局ほとんど抱き合うように密着することになる。
「千冬さんはどうなんですか?」
「ぇ、ぅ」
「どうして、何も言ってくれないんですか?」
「そ、それはっ、お前がいきなりそんなことを言うからっ」
「そんなことって、何ですか?」
「それは、それはだな」
微かに喘ぐように数度息を整えて、きっと鋭く睨むような目を向けてくる。顔が真っ赤で目が潤んでいるからか、むしろ逆効果な気がしてならないが。
「愛、してる」
「はい」
「愛してるんだ」
「嬉しいです」
「……こんなので良いのか? もっとこう、何だ……。何が出来るわけでもないが、言ってくれても良いんだぞ」
「ああ、はい。気持ちだけ受け取っておきます。元々、付き合う前から察しはついてましたし。どうせ碌に家事も出来ないでしょう?」
「うぐっ。……だったらどうして、私を選んだんだ。何も出来ない女など、重荷にしかならんだろうに」
「それ込みで、貴女を愛しているって言ってきたつもりなんですけどね。でも、嫌なんですか?」
「……ああ。私も、何かしてやりたいんだ」
「面倒臭い人ですね」
「……分かってる。そんなこと、私が一番「まあ」……?」
いじけ始める彼女の言葉を遮る。ほとんどキスしてしまうほどに近いから、自然と互いの視線も絡み合う。
「それなら、何かやってみます?」
「……良いのか?」
「それはもちろん。料理とかは一朝一夕で身につくことではないですけど、例えばマッサージとかなら案外向いてるかもしれませんし」
「……そういうものか?」
「はい。でもまあ、それは一旦横に置いておきますか」
不思議そうな顔をする彼女が、とても愛らしい。泡はとうに無くなっていて、お互いに隠れる部分などもなく、常の彼女ならすぐに距離を取り、とにかく僕の方を見ないようにするのだろうが、この空気に呑まれているのか、その事実に気がついていないようだった。
だからまあ、何というか。
「恋人っぽいこと、してみましょうか」
◇ ◇ ◇
「温かいですね、千冬さん」
「うるさい……」
「なに拗ねてるんです?」
「またお前のペースに巻き込まれたぞ……。いつもそうだ。じゅ、蹂躙される身にもなれ」
「いや、ゴリ押しでひっくり返される僕の身にもなって下さい」
口元までお湯に浸けて、ぷくぷくと気泡を出している彼女の身体をそっと弄りながら、先の行為も思い出す。
泡だらけのすべすべとした身体をすり合わせ
反響する声と耳元で直に聞こえる嬌声に、耳元から頭の中まで掻き乱され
お互いに謝りながら手を握り、薄い脂肪とその下の筋肉の感触を味わうように手を指を滑らせ
掌からまろび出るほどの柔肉を鷲掴み、悲鳴のように告げられる緩い制止も振り切って
熱いうねりの中に突き入れれば、いっそわざとかと思ってしまうほどに身体が跳ねる
普段は見れない姿、甘ったるい声を楽しむように後ろから横から抱き合いながら
時には押しつけるように、時には押さえつけるように我武者羅に動く
会えないときの寂しさと、触れ合える喜びと、水音に愛の言葉を潜ませて、一時の幸せを噛み締める
そして最後にやり返されるという
なんか虚しいし遣る瀬無い。男としても情けないのだが。
「…………♪」
男というのは単純なもので、愛する人の嬉しそうな顔だけで、それまでの負債を帳消しにしてしまうのだ。
「千冬さん」
「……ん」
「愛してます」
「……私も、愛してるぞ」
The greatest thing you'll ever learn is just to love and be loved in return.
人がこの世で知る最高の幸せ。それは誰かを愛して、そしてその人から愛されること。
映画「ムーランルージュ」より
「それはそうと、僕が千冬さんを選んだというより、どちらかというと千冬さんが僕を選んだ形ですよね」
「むむ……うるさいぞ馬鹿者」
「はいはい」
終わってみて思うことって、現実でも多い気がする。
この話をある名言で表すと
「大切だと思うから、傷つけてしまったと感じるんだ」
ですかね。
んで、何よこれ。とりあえず、マジカルな浴室なのは理解した。大人二人が入れる風呂とか、普通に大きいと思います。
深夜テンションに任せた結果がこれだよぉっ!!!(男子高校生の日常並感)
あーくっさいなぁっもうーー!!!(男子高校生ry)
恋愛って難しいんですね、少しだけ理解した気がする。
一応セリフは元ネタがあるのも混ざってたりする。洋画からゲームまで。なおジャンルはお察しである。分かりやすいのもあるが、さて初見で気づいた人っているのだろうか。おや?って思った人はいるかも
前話のあとがきで何か言った気もしますが、記憶にありませんね。
なんか抱えてる短編が増えてる謎。浪人生の暇つぶしだから仕方ないね。
ウルージさん×ヒロアカの短編
「さらに向こうへ!"因果晒し"ィ!!!」(仮)
いずれ投稿するかも。続き?ああうん、受験終わったらかなぁ()
それではまた
誤字脱字やらありましたら、よろしくお願いします。
千冬姉作品流行れ!!