憧れの先輩に押し倒されて、男の甲斐性を説かれる話 作:狐狗狸堂
近況報告については、活動報告にあげましたので割愛。
今回は疲れきった主人公のお話です。気づいたら書いてました。電車に乗ってる時、勉強の合間、などなど。一つ一つは、精々20分ほどですが書き上げました。1/22から書いてたみたいで、少し笑いました。
字数はまさかの8000字オーバー。平均の2倍以上です。主に後半部分に費やしました。つまり最近の気分がそんな感じだったという。
モンドグロッソ編はしばしお待ちを。単発の方が良いんですかね。それとも書き溜めて一気?
それでは本編をどうぞ
自宅に向けて足を動かす。
体は重いしやたら気分は悪いし、早いところ眠りたい。そんなことをぐちぐちと、口にはせず心の中にこぼしていく。
吐き出す息は白く、末広がりに伸びては消えていった。何度も、何度も。
マンションの玄関口まで来ても、怠さが消える訳がない。エレベーターに乗ろうにも、現在は整備中で動かない。だから階段で上がるしかないのだが、これがまたしんどい。自分が一気に老け込んだような錯覚に陥る。
やっとこさ部屋の前まで来て、ふと気づく。鍵が掛かっていない。それが意味するところなど、一つしかない。
ー彼女が来ているー
そこまで自覚して、出来る限り手早くドアを開け、靴を脱ぎ、部屋へ駆け込むように入る。
そこには、予想通り彼女が居た。小さめの炬燵に座り、テレビを見ていたと思しき彼女は、どうやら少々面食らっているようだった。不思議そうに首を傾げ、みかんを食べている。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。何かあったの...か...?」
言葉が尻すぼんでいくのは、僕の行動のせいだろう。思わず抱きついてしまったのは失敗だったか、と思う反面、暖かくてふわふわの彼女を今更離す気にもなれなかった。
少し頭の位置を変える。視界には真っ黒な髪が一面に広がるもすぐに目を瞑り、鼻腔にいっぱい彼女の香りを溜め込んでいく。剥き出しの首筋に吸い付き、舌先でつつく。
「...何があったのか、後で教えろ。それまでは、好きにしてくれて構わん」
「...はい、ありがとうございます」
自分でも相当だめだめになっていることは自覚している。今すぐ離れねば、とは思う。しかし結局、もう少しもう少し、と続けてしまう。
いつしか頭を撫でられ、背中を撫でられ、心地よさに甘えて。
我に帰るのには、今しばらくの時間を要することとなった。
◇ ◇ ◇ ◇
「すいません、迷惑をかけてしまって」
「くくっ、あのくらいならお安い御用だ。いくらでも、甘えてくれていいぞ」
顔が熱い。彼女のことが見れない。
先ほどまでの醜態を思い返して、心の中で悶絶する。自分は一体なにをやっているのか、と。
横に並んで座る彼女をちらりと見れば、首筋に真っ赤な跡がいくつも付いている。
正気に戻ってすぐ着替え、部屋に戻ってみれば、彼女は髪を上げていたものだから、それを見せつけられている気分になる。
いや、事実見せつけているのか。こちらが、ちらちらと見ていることなど当にお見通しのはずなのだから。
「しかし珍しいな。そんな風になることなど、今までなかったろうに」
「えぇ、まぁ。...今日の飲み会で、女尊男卑の方と遭遇してしまい...」
「あぁ、なるほどな...。大方、飲み代を奢れだの、警察を呼ぶぞだの、変に絡まれでもしたか?」
「ご明察です」
結局、お店の店員や店長の方はまともだったので、酔っ払いの戯言として流してくれたのだが、本当に警察が来てしまい飲み直すどころの話ではなくなった、というオチがつく。
一日の終わりにこんなことがあったのだ。言い訳をするわけでもないが、甘えてしまったのも致し方ない、のではないだろうか。いやしかし、疲れているのは彼女も同じなわけで......。
そんな風に1人で考え込んでいると、不意に彼女が声をあげた。自然と俯いていた顔が持ち上がる。それほどに、突拍子のないことだった。
「よし決めた。今夜一晩、お前に精一杯ご奉仕してやろう」
「え」
「ふふふ、なに気にするな。今までの礼だ」
「いや、ちょっと」
「さて、先ずは風呂だな。夕飯はどうする?」
「あ、いえ外で食べて来たので...じゃなくて」
「受け取って、くれるよな?」
肩を掴まれ、覗き込むように見つめてくる彼女の問いに、首肯以外の選択肢はなく。次の瞬間には、いたずらっぽく微笑む彼女の姿があった。
◇ ◇ ◇ ◇
「どこか痒いところは?」
「...いえ、ないです」
「そうかそうか。〜〜♪」
ご機嫌だなぁ、と思う。髪を洗われている今、鏡を見れないが、間違いなく満面の笑みの千冬さんが映っているはずだ。
髪を洗う手は淀みなく動いている。並行して頭皮へのマッサージも行うと言っていたが、下手げなプロよりよほど上手い。1000円カットも馬鹿には出来ないが、正しく雲泥の差と言ったところか。
「さて、次は体だな。ふふふ...」
「あー...お手柔らかに?」
ボディソープを手に馴染ませながらにじり寄る彼女に、それとなく告げる。お互いに纏うものなどないから、その際に色々見えるも一旦無視する。
鏡越しに見る彼女は、不敵に笑う。すぐに、背中に手が当てられた。誰かが触れている、というだけで妙にこそばゆく感じる。
ぬるぬるとした手指の感触が、背中で乱舞する。首にほっそりとした指が掛かったと思えば、腕に移っている。まるで筋繊維を一本一本ほぐすような動きに、一瞬で無意識の緊張ごと疲れが取り払われていった。
「千冬さん」
「なんだ?」
「なんか、微妙にまさぐられてる感じがするんですが...」
「気にするな。マッサージついでに触診しているだけだ」
「はあ、触診ですか?」
「簡単に言えば、自分の指先やらを聴診器に見立てて体内を診る技術だ。私ほどともなると、これくらいは余裕でこなせる」
「そんなもんですか」
「ああ。...すごいだろう?」
「はい」
「ふふふ」
そんな会話を繰り広げつつも、動きは止まらない。体の前面から脚まで、文字通り隅々まで洗われる。押し付けられた胸の感触、千冬さんが跪いて自身を洗う姿など、五感の全てで彼女を感じる。
多幸感、と言うのだろうか。常なら少なからず抵抗するのだろうが、今の自分には抗う気力もない。無論、言い訳である。
体中を手で磨かれていく。背中も前面も関係なく。抵抗しても無意味なのは分かりきっているから、ある意味気は楽だ。無理矢理そう思い込む。
「顔が真っ赤だぞ? どうしたんだ、言ってみろ」
「う...」
「う? ああ、そうか。後ろから前に手を回して、体を洗うのは止めてほしいと言いたいのか?」
「い、いえ。そういうことでは...!」
「遠慮するな。確かにあとは腰から下だ。後ろからではやり辛いしな。気遣いご苦労」
「なん...!?」
目の前に千冬さんの姿があった。文字通り、一糸纏わぬ、千冬さんがいた。厳密には全身に泡を纏ってはいるが、それで何が変わるわけでもなく、むしろ絶妙に隠されていることでより扇情的に、というか率直に言ってエロい。普段なら、絶対に考えないことを心の中で言っている辺り、割と限界が近そうだ。
目の前で跪いて、僕の脚を洗っている彼女を眺める。はっきり言えば夢の様で、思考もおぼつかない。全身がふわふわと暖かく、動く気にもならない。
焦らすような指先が太ももの上を滑り、膝からふくらはぎへ流れていく。さらにそのまま、踵から足裏、指先と丹念に洗い揉み解されていくのが分かった。
これはあくまで、体を洗うだけの行為であるというのに、どうにも思考が逸れていく。いきり立ちそうになる己を強引に抑えつけようと、深く長く呼吸を繰り返してーーー
「なにをそんなに、我慢することがある?」
「は...ぁ...? んくっ...」
ーーー強引に堰き止められる。注意を外した隙に、するりと膝の上に彼女が収まっていた。
顔の両側に包み込まれるように添えられた掌、熱に浮かされたようにうっとりと蕩けた眼差し、太ももに触れる柔肉と腰に回された脚、ぴったりと隙間なく重なる肢体の感触だけが脳を支配する。
絡まる舌は情熱的に、喘ぐように息を吐き出せば追い討ちを掛けられ、文字通り息を吐く間も無い。思考に靄がかけられていく。小さなバスチェアから落ちそうになるも、その都度彼女がバランスを保つため、安心やら不安やら。
「ん...ぷはっ。ふぅ...ふふ。さて、それでは仕上げといこうか」
「し、しあげ...?」
やや痺れが残るほどに舌を酷使した後、待っていたのは随分とこちらを不安にさせる言葉だった。悲しいことに、それを心待ちにしている自覚もあるのが遣る瀬ない。
「ああ。なんでも話に聞く限り、体を体で洗う手法があるのだとか」
「...体で洗うのに、"手"法ですか」
「ほう...? なんだ、余裕そうだな」
「そりゃまあ...こっちにも意地がありますから」
厳密に言えば、千冬さんの顔が真っ赤なのが最たる要因ではあるが。相当緊張しているのは事実だが、彼女が恥ずかしがりつつも曰く、"ご奉仕"をしてくれているというということが、何とも愛おしい。
「...どうだ?」
「ああ...何だか、贅沢です」
「そ、そうか。満足してもらえて何よりだ」
未だに膝にまたがる彼女は、ゆっくり上下に体を動かす。正直、相当に"アレ"な光景ではあるだろう。
腰に絡んでいた脚は、床に下ろされているようだ。上下に擦れあるいは潰れ、形を変えていく胸は、鎖骨から上向きになった顎までを包んでいく。同時に、彼女の腰も前後に揺れているように感じられる。ただ離陸と着地が行われているだけだというのに、妙に艶かしくこちらの獣欲を刺激する。
真っ赤な顔をさらに赤くさせ、口など真一文字に引き結んでいる。唇のもごもごとした動き、そのわずかな動きにまで目を引きつけて離さない。そんな魅力が、彼女にはある。
「流すから目をつむれ」
「はい」
その後、背中から腕、脚と文字通り全身で彼女を堪能させてもらった。とっくに限界を迎えていた己を、時に片手間に、時にこれもご奉仕だと言い張って、手で、胸で、口で。その他考えつく限り、彼女は自分の体を使って相手をしてくれた。
普段は自分が彼女をなぐさめ、相手をするからこそ知らなかった、彼女の魅力のあらん限りを見せつけられた気分であった。
直接持たれ、後ろ手に上下、前後する白い指
時に、下から包み込むような掌に優しく揉まれ
何度もお預けを喰らい、非難がましく目を向ければ余裕そうな笑みに躱される
最後には、白く巨大な果実に挟まり、ちろちろと蠢く赤い肉に急かされるように、暴発して果てる
ぼうっとした視界に最後に映った彼女は、どこまでも愛しそうに、満足そうに微笑みながら唇を舐めていた
◇ ◇ ◇ ◇
気がつくと、ソファーの上に横たわっていた。未だ意識は判然としないものの、事の経緯を思い出していくうちに、自分はのぼせてしまったのだろうと当たりをつける。
きっと、彼女がここまで運んでくれたのだろう。自前のスウェットまで着させられていることには、今更反応しないでおく。
ーでは、彼女はどこに?ー
果たして彼女は、ベランダに面する窓際に座っていた。カーテンは全開になっていて、そこから見える月を眺めているように見えた。
薄暗い室内に、月光が降り注ぎ彼女を照らす。一枚の絵画のように美しく、そしてどこか物憂げに見えた。
こちらに背を向ける彼女を見つめる。よく見れば、窓際に寄せられた小さなテーブルに徳利が置いてある。わずかに頭が上下している辺り、飲んでいることも分かる。だからこそ、少しだけ異様であることもまた、分かる。
一切、音がしない
彼我の距離は、然程遠くはない。無論、静かだからといって呼吸音が聞こえるほどでもないのだが。
きぬ擦れ、床の軋み、徳利を置く音。まるで、彼女を取り巻く全ての音が置き去りにされてしまったような、そんな錯覚を覚える。
ーいやまあ、この人が静かにしようと心がければ、このくらいはやってのけるかー
別にそんなに珍しいことでもないな、と得心がいったところでソファーから降りる。滑り落ちる毛布を視界の端に捉えつつ、彼女の元へ足を踏み出そうとした瞬間、立ちくらみに襲われる。足元が覚束ない。咄嗟に手を突き出そうとしてーー
「大丈夫か?」
「ぇ...ああ、はい」
ーーふわり、と抱き抱えられる。先ほどまで、窓際に居たはずの彼女が、今は自分の前にいるという事実に、まあ千冬さんだし、ということで納得しておく。
「座れるか?」
「はい。ありがとうございます」
そう言うと炬燵に降ろされる。中に足を入れるとほんのりと暖かく、知らず一息を吐いていた。
横では、窓際のテーブルに置いてあった徳利その他を、こちらに持ってくる千冬さんの姿が見える。
「なにかお前も飲むか?」
「それじゃお茶を」
「分かった」
恐らく飲み終わったのだろう。手に持った酒器類をそのままに、台所へと消えていくと、少しして戻ってくる。その顔はどこか、申し訳なさそうにしているように思えた。
お茶を手渡される。キンキンに冷えた麦茶だが、今の自分にはむしろ丁度いいくらいであった。
「...さっきはすまなかった。気分はどうだ? 大丈夫か?」
「あはは、ええまあ。むしろ僕としては、情けないところを見せてすみませんとしか」
「そうか...。お前がそう言うなら、まあ良いが。それで、どうだった。気持ちよかったか?」
「ええ、とても。ところでその...どうしてあんなことを?」
純粋な疑問があった。千冬さんがなぜあの様な行為に及ぶに至ったのか。1人だけ、心当たりがあるのがなんとも言えない。
「ふふふ、そうかそうか。束のやつがな、こうすればお前にもっと悦んで貰えると、資料を幾つか渡してきたんだ。あいつも偶には役に立つ」
「そうですか」
あとでゆっくり篠ノ之先輩に御礼申し上げねば。箒ちゃんと一夏くんのツーショット写真と、この前苦労して撮れた千冬さんの寝顔写真を差し上げよう。そう心に決める。
そんなことを考えていると、不思議そうにこちらを見つめる彼女の視線を感じ、慌てて話題を変える。
「そう言えば千冬さん。さっき、なにか悩んでそうに見えたんですけど、なにかあったんですか?」
多分、僕のこと何だろうが。そう独りごちる横で、驚いたように眼を見張る彼女の顔を見て、それだけではなかったのかと頭を入れ替える。
しばし彼女と見つめ合う。僕がなにかに気づいたことに、彼女も気がついたのだろう。ふっ、と笑うと話し始めた。
「第二回モンドグロッソについて、先ほど通達が入った。私も世話になっている、上の人間からな。余程早く知らせたかったと見える」
「時間も時間ですしね。しかしそうですか。前々から概要だけは知らされてましたが」
しかし、それでなにを悩むと言うのだろうか。否定しなかったと言うことは、僕の言う通り彼女はなにかを悩んでいるはずだが。
「それで、なにか問題でもあったんですか?」
「問題か...。そうだな、大問題が発生したよ」
「大問題...」
あの千冬さんが深刻そうに俯いている。"あの"千冬さんがだ。余程のことがあったのか、それともこれから起きるのか。そんな風に考えていたからこそ、彼女の返答は、ある意味でこちらの度肝を抜くものだった。
「やる気が出ないんだ。どうしてもな、優勝してやろうという気が、前回に比べて格段に落ちている」
「それは...」
予想外と言えば予想外だ。篠ノ之先輩が言うところの、生真面目がバグった武力を携えている、とまで言わしめる千冬さんのモチベーションが低下しているなど、言ったところで誰も信じまい。
事実僕も、なにかの冗談ではないかと疑ってしまう。が、彼女の表情は決して冗談ではないのだと、こちらが信じるに足るものだった。
「それはまた、どうして」
当然の疑問。言葉を投げかけられた千冬さんは、どこか遠くに眼をやる。その顔は、どこかつまらなそうでさえあった。
「お前から見て、私を倒せると、堕とせるのではと思わせる選手は誰だ?」
「...それは、雑誌記者としての僕ですか? それとも、私人としての僕ですか?」
「どっちもだ」
「では、そうですね。今、世界で千冬さんに比肩し得ると呼ばれる選手は、それなりにいます。いると思われています。
そう思われている理由は、前回大会で猛威を振るったIS『暮桜』に、各国のISが性能面で並び始めたから、というものが一つ。
もう一つは、それに伴う操縦者の技量の上昇ですね。事実、各国の操縦者による新たな機動技術も生み出され、千冬さんの代名詞とも言える『瞬時加速』も習得・習熟が進んでいるようですし」
「それで?」
彼女の目は鋭い。問い詰められている、というよりは平常運転の気の方が近いが。つまり、外向きの千冬さんである。これのせいで、他人に近寄り難さを与えているんだな、見るたびに思う。
「具体的に上げるなら、例えばアメリカ国家代表イーリス・コーリング選手、及び『ファング・フィスト』。
イタリア国家代表アリーシャ・ジョセスターフ、及び『テンペスタ』
他にも、イギリス、中国、ドイツ、フランスなど有力とされている選手は多いのですが...私見だと相手にはならないでしょうね」
「なぜだ?」
「イギリスはどうも、射撃・狙撃部門の部門優勝狙いです。世間一般では、千冬さんを相手取るなら距離を取れ、とよく言われますが、アリーナの限られた空間という条件に限っては、悪手、とまでは行かずとも最適とは言えないかと。特に狙撃は、点での攻撃ですので...こう言うのも何ですが、当てられるとは思えないんですよね。
中国はバランス型。ただ操縦者が射撃ではなく、近接寄りです。機体性能に尖ったものもなく、手数も並となれば千冬さんの相手を務めるにはやや不足でしょう。正確にはジリ貧というか。
ドイツは現時点では機体・武装共にテスト段階です。大会までには仕上げてくるでしょうが、武器の癖が強い物が多いと言われており、また習熟も進んでいないと仮定すれば、控え目に言って論外です。
フランスは機体のコンセプト的にはかなり良いですね。弾幕を張り、中・遠距離から一方的に火力を叩き込むのは、千冬さん相手にも通じ得る数少ない手段ですが、こちらは操縦者の力量が不足気味です。手広くやっている分、これといった武器となるものがない印象ですね」
「なるほどな。つまり、機体コンセプト、機体性能、操縦者の力量や気質諸々を鑑みた上で、残るのがイーリスにアリーシャだった、と言う訳か。...まあ、そんなところか」
現場にしか分からない空気はある。数値に現れない強さもある。そこまでは分からないし、把握できるはずもない。それを踏まえれば、先ほどまでの僕の言葉は、妄想や希望的観測の域に留まりかねない代物であるが、否定されることはない。それが指すのは、千冬さんにとっては所詮、"誤差"でしかないということだ。
「要するに千冬さんのモチベーションが上がらないのは、自分が出れば優勝することが確実だから、ということですか?」
「いや、少し違う。私はな、ただ持てる全てを出し尽くすような、そんな戦いが"してみたかったんだ"」
「それは...」
思わず言葉に詰まる。というか、昔もそんなことを言っていなかっただろうか。目を向ければ、すっと逸らされる。どうやら自覚はあるようだ。あの時は確か、柳韻さんとの一騎討ちで満足していたような気がするが。
「再発、しましたか」
「なぜ余命宣告をする医師のような目をするんだ?」
「言わずともお分かりでは?」
「むぅ...」
むくれたって可愛いだけ、とは口にしないでおく。なんというか、とても愛らしくて、なでなでしてあげたくなるが、それはそれ。
とはいえ、どうしたものか。何であれ、彼女にとっては大きな悩みではあるようだし、どうにかしてあげたいとも思うのだが。やはりここは、あの手しかないのだろうか。
嘆息しそうになるのをこらえ、そっと息を吐くと、未だむくれ蜜柑に手を伸ばす彼女を見る。
「千冬さん」
「...なんだ」
「一つ賭けでもどうですか?」
「...なにを賭ける気だ」
「僕自身」
そう答えれば、じろっと睨みつけるように見られる。続きを促しているのだろう。
「賭けの内容は簡単です。千冬さんが次の大会も優勝すること。ただし、ただの優勝ではいけません。僕を魅せる試合をしてください。もしも出来たら、僕のことは好きにして構いません」
「そんなことで良いのか?」
「逆に聞きますが、今の貴女に"そんなこと"が出来ると? こう見えても僕にだって、誰よりも近くで貴女を見てきた自負があります。生半可な試合では、納得出来ませんよ」
「...そうか、そうか。ふふっ」
賭けの内容を聞いて驚き、次いで舐められているのかと訝しみ、僕の言葉を聞いて不敵に笑う。ころころと表情が変わり、最後の笑みで背筋がゾクゾクする。
漏れる剣気、あるいは闘気。なんでも良い。要するに僕は、当初の目的である千冬さんのやる気を出させる、ということを果たしたのだ。
「ふ、ふふふ。さて、どうしたものか。IS戦では使わんと決めた、篠ノ之流を振るう日が来たか? それともーー」
やりすぎた、かもしれない。すいません、他国の代表選手の皆さん。その、えと...お悔やみ申し上げます。
僕はそっと心の中で頭を下げながら、一頻り彼女が落ち着くまで、蜜柑を頬張るのだった。
伏線擬きがそこそこありましたね。名前だけですが束さんも登場。ただ、話の都合上、白い束さんにはなりそうにありません。したがって、モンドグロッソ編の予告も結果的にブラフっぽくなりました。
活動報告にも書きましたが、束さんって原作の3年前に失踪したそうなんですよね。パッと思いつくのは、いる理由がなくなったから。つまり千冬さんが引退したということなんですが、なんとこの時21歳。つまり主人公は20歳です。タメ......俺も欲しかった...。
それはともかく。まあ、ドイツ行くってなった時に束さんも適当に探ったでしょうし、そこでクロエちゃんを拾ったんでしょう。開発してから速攻で消えたのかと思ってました。
・主人公の考察について
完全にオリ設定ばっかりです。原作で明かされてないから仕方ない。イーリスさんの『ファング・クエイク』は第三世代だったので、第二世代オリIS『ファング・フィスト』が登場。出番はない。
アリーシャさんの『テンペスタ』は、『テンペスタII』があるので多分、第二世代。ちなみに『暮桜』は第一世代らしいです。テンペスタの単一能力なんなんですかね、教えてください。
使うかどうか判断気分次第ですが。ひかりのオーブ忘れた勇者vs究極完全体ゾーマとかそのクラスの理不尽ですし、焼け石に水感がすごい。作者"に"分かりやすく言うなら、ワテギ様vs昌平君とかそんな感じ。
千冬さんは、微妙に戦闘狂気味。正確には、鍛え上げた武を満足に振るえないことへの不満。相手が弱いし、強すぎて化け物扱いされたくないし、とかそんな感じ。絶対この人、堯雲とかそれ系っぽい。まあ可愛いし、良いんでけどね。可愛いは正義。
ところで最後ら辺の千冬さんは、スポーツマン的にはどうなんでしょう。まあ、やる気はなくとも本気ではありますし、油断も慢心も手心も加えることはなかったでしょうが。主人公居なくとも。もしかしたら、批判もあるかも?とか思いつつ書いてた記憶があります。
それはそうとバレンタイン短編も書きました。すごい短い上に、ほぼ一筆書きですが。元はこの話の最後にくっつけるつもりが、文字数がやばくて分割したという。
それではまた。