憧れの先輩に押し倒されて、男の甲斐性を説かれる話   作:狐狗狸堂

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お久しぶりです。

近況報告については、活動報告にあげましたので割愛。

今回は疲れきった主人公のお話です。気づいたら書いてました。電車に乗ってる時、勉強の合間、などなど。一つ一つは、精々20分ほどですが書き上げました。1/22から書いてたみたいで、少し笑いました。

字数はまさかの8000字オーバー。平均の2倍以上です。主に後半部分に費やしました。つまり最近の気分がそんな感じだったという。

モンドグロッソ編はしばしお待ちを。単発の方が良いんですかね。それとも書き溜めて一気?


それでは本編をどうぞ


たまには、そういう時もある

  自宅に向けて足を動かす。

  体は重いしやたら気分は悪いし、早いところ眠りたい。そんなことをぐちぐちと、口にはせず心の中にこぼしていく。

  吐き出す息は白く、末広がりに伸びては消えていった。何度も、何度も。

 

  マンションの玄関口まで来ても、怠さが消える訳がない。エレベーターに乗ろうにも、現在は整備中で動かない。だから階段で上がるしかないのだが、これがまたしんどい。自分が一気に老け込んだような錯覚に陥る。

 

  やっとこさ部屋の前まで来て、ふと気づく。鍵が掛かっていない。それが意味するところなど、一つしかない。

 

 ー彼女が来ているー

 

  そこまで自覚して、出来る限り手早くドアを開け、靴を脱ぎ、部屋へ駆け込むように入る。

 

  そこには、予想通り彼女が居た。小さめの炬燵に座り、テレビを見ていたと思しき彼女は、どうやら少々面食らっているようだった。不思議そうに首を傾げ、みかんを食べている。

 

 

「どうしたんだ、そんなに慌てて。何かあったの...か...?」

 

 

  言葉が尻すぼんでいくのは、僕の行動のせいだろう。思わず抱きついてしまったのは失敗だったか、と思う反面、暖かくてふわふわの彼女を今更離す気にもなれなかった。

  少し頭の位置を変える。視界には真っ黒な髪が一面に広がるもすぐに目を瞑り、鼻腔にいっぱい彼女の香りを溜め込んでいく。剥き出しの首筋に吸い付き、舌先でつつく。

 

 

「...何があったのか、後で教えろ。それまでは、好きにしてくれて構わん」

 

「...はい、ありがとうございます」

 

 

  自分でも相当だめだめになっていることは自覚している。今すぐ離れねば、とは思う。しかし結局、もう少しもう少し、と続けてしまう。

  いつしか頭を撫でられ、背中を撫でられ、心地よさに甘えて。

 

  我に帰るのには、今しばらくの時間を要することとなった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「すいません、迷惑をかけてしまって」

 

「くくっ、あのくらいならお安い御用だ。いくらでも、甘えてくれていいぞ」

 

 

  顔が熱い。彼女のことが見れない。

  先ほどまでの醜態を思い返して、心の中で悶絶する。自分は一体なにをやっているのか、と。

 

  横に並んで座る彼女をちらりと見れば、首筋に真っ赤な跡がいくつも付いている。

  正気に戻ってすぐ着替え、部屋に戻ってみれば、彼女は髪を上げていたものだから、それを見せつけられている気分になる。

  いや、事実見せつけているのか。こちらが、ちらちらと見ていることなど当にお見通しのはずなのだから。

 

 

「しかし珍しいな。そんな風になることなど、今までなかったろうに」

 

「えぇ、まぁ。...今日の飲み会で、女尊男卑の方と遭遇してしまい...」

 

「あぁ、なるほどな...。大方、飲み代を奢れだの、警察を呼ぶぞだの、変に絡まれでもしたか?」

 

「ご明察です」

 

 

  結局、お店の店員や店長の方はまともだったので、酔っ払いの戯言として流してくれたのだが、本当に警察が来てしまい飲み直すどころの話ではなくなった、というオチがつく。

 

  一日の終わりにこんなことがあったのだ。言い訳をするわけでもないが、甘えてしまったのも致し方ない、のではないだろうか。いやしかし、疲れているのは彼女も同じなわけで......。

 

  そんな風に1人で考え込んでいると、不意に彼女が声をあげた。自然と俯いていた顔が持ち上がる。それほどに、突拍子のないことだった。

 

 

「よし決めた。今夜一晩、お前に精一杯ご奉仕してやろう」

 

「え」

 

「ふふふ、なに気にするな。今までの礼だ」

 

「いや、ちょっと」

 

「さて、先ずは風呂だな。夕飯はどうする?」

 

「あ、いえ外で食べて来たので...じゃなくて」

 

「受け取って、くれるよな?」

 

 

  肩を掴まれ、覗き込むように見つめてくる彼女の問いに、首肯以外の選択肢はなく。次の瞬間には、いたずらっぽく微笑む彼女の姿があった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「どこか痒いところは?」

 

「...いえ、ないです」

 

「そうかそうか。〜〜♪」

 

 

  ご機嫌だなぁ、と思う。髪を洗われている今、鏡を見れないが、間違いなく満面の笑みの千冬さんが映っているはずだ。

  髪を洗う手は淀みなく動いている。並行して頭皮へのマッサージも行うと言っていたが、下手げなプロよりよほど上手い。1000円カットも馬鹿には出来ないが、正しく雲泥の差と言ったところか。

 

 

「さて、次は体だな。ふふふ...」

 

「あー...お手柔らかに?」

 

 

  ボディソープを手に馴染ませながらにじり寄る彼女に、それとなく告げる。お互いに纏うものなどないから、その際に色々見えるも一旦無視する。

  鏡越しに見る彼女は、不敵に笑う。すぐに、背中に手が当てられた。誰かが触れている、というだけで妙にこそばゆく感じる。

 

  ぬるぬるとした手指の感触が、背中で乱舞する。首にほっそりとした指が掛かったと思えば、腕に移っている。まるで筋繊維を一本一本ほぐすような動きに、一瞬で無意識の緊張ごと疲れが取り払われていった。

 

 

「千冬さん」

 

「なんだ?」

 

「なんか、微妙にまさぐられてる感じがするんですが...」

 

「気にするな。マッサージついでに触診しているだけだ」

 

「はあ、触診ですか?」

 

「簡単に言えば、自分の指先やらを聴診器に見立てて体内を診る技術だ。私ほどともなると、これくらいは余裕でこなせる」

 

「そんなもんですか」

 

「ああ。...すごいだろう?」

 

「はい」

 

「ふふふ」

 

 

  そんな会話を繰り広げつつも、動きは止まらない。体の前面から脚まで、文字通り隅々まで洗われる。押し付けられた胸の感触、千冬さんが跪いて自身を洗う姿など、五感の全てで彼女を感じる。

  多幸感、と言うのだろうか。常なら少なからず抵抗するのだろうが、今の自分には抗う気力もない。無論、言い訳である。

 

  体中を手で磨かれていく。背中も前面も関係なく。抵抗しても無意味なのは分かりきっているから、ある意味気は楽だ。無理矢理そう思い込む。

 

 

「顔が真っ赤だぞ? どうしたんだ、言ってみろ」

 

「う...」

 

「う? ああ、そうか。後ろから前に手を回して、体を洗うのは止めてほしいと言いたいのか?」

 

「い、いえ。そういうことでは...!」

 

「遠慮するな。確かにあとは腰から下だ。後ろからではやり辛いしな。気遣いご苦労」

 

「なん...!?」

 

 

  目の前に千冬さんの姿があった。文字通り、一糸纏わぬ、千冬さんがいた。厳密には全身に泡を纏ってはいるが、それで何が変わるわけでもなく、むしろ絶妙に隠されていることでより扇情的に、というか率直に言ってエロい。普段なら、絶対に考えないことを心の中で言っている辺り、割と限界が近そうだ。

 

  目の前で跪いて、僕の脚を洗っている彼女を眺める。はっきり言えば夢の様で、思考もおぼつかない。全身がふわふわと暖かく、動く気にもならない。

  焦らすような指先が太ももの上を滑り、膝からふくらはぎへ流れていく。さらにそのまま、踵から足裏、指先と丹念に洗い揉み解されていくのが分かった。

 

  これはあくまで、体を洗うだけの行為であるというのに、どうにも思考が逸れていく。いきり立ちそうになる己を強引に抑えつけようと、深く長く呼吸を繰り返してーーー

 

 

「なにをそんなに、我慢することがある?」

 

「は...ぁ...? んくっ...」

 

 

 ーーー強引に堰き止められる。注意を外した隙に、するりと膝の上に彼女が収まっていた。

  顔の両側に包み込まれるように添えられた掌、熱に浮かされたようにうっとりと蕩けた眼差し、太ももに触れる柔肉と腰に回された脚、ぴったりと隙間なく重なる肢体の感触だけが脳を支配する。

 

  絡まる舌は情熱的に、喘ぐように息を吐き出せば追い討ちを掛けられ、文字通り息を吐く間も無い。思考に靄がかけられていく。小さなバスチェアから落ちそうになるも、その都度彼女がバランスを保つため、安心やら不安やら。

 

 

「ん...ぷはっ。ふぅ...ふふ。さて、それでは仕上げといこうか」

 

「し、しあげ...?」

 

 

  やや痺れが残るほどに舌を酷使した後、待っていたのは随分とこちらを不安にさせる言葉だった。悲しいことに、それを心待ちにしている自覚もあるのが遣る瀬ない。

 

 

「ああ。なんでも話に聞く限り、体を体で洗う手法があるのだとか」

 

「...体で洗うのに、"手"法ですか」

 

「ほう...? なんだ、余裕そうだな」

 

「そりゃまあ...こっちにも意地がありますから」

 

 

  厳密に言えば、千冬さんの顔が真っ赤なのが最たる要因ではあるが。相当緊張しているのは事実だが、彼女が恥ずかしがりつつも曰く、"ご奉仕"をしてくれているというということが、何とも愛おしい。

 

 

「...どうだ?」

 

「ああ...何だか、贅沢です」

 

「そ、そうか。満足してもらえて何よりだ」

 

 

  未だに膝にまたがる彼女は、ゆっくり上下に体を動かす。正直、相当に"アレ"な光景ではあるだろう。

 

  腰に絡んでいた脚は、床に下ろされているようだ。上下に擦れあるいは潰れ、形を変えていく胸は、鎖骨から上向きになった顎までを包んでいく。同時に、彼女の腰も前後に揺れているように感じられる。ただ離陸と着地が行われているだけだというのに、妙に艶かしくこちらの獣欲を刺激する。

  真っ赤な顔をさらに赤くさせ、口など真一文字に引き結んでいる。唇のもごもごとした動き、そのわずかな動きにまで目を引きつけて離さない。そんな魅力が、彼女にはある。

 

 

「流すから目をつむれ」

 

「はい」

 

 

  その後、背中から腕、脚と文字通り全身で彼女を堪能させてもらった。とっくに限界を迎えていた己を、時に片手間に、時にこれもご奉仕だと言い張って、手で、胸で、口で。その他考えつく限り、彼女は自分の体を使って相手をしてくれた。

  普段は自分が彼女をなぐさめ、相手をするからこそ知らなかった、彼女の魅力のあらん限りを見せつけられた気分であった。

 

 

 直接持たれ、後ろ手に上下、前後する白い指

 

 

 時に、下から包み込むような掌に優しく揉まれ

 

 

 何度もお預けを喰らい、非難がましく目を向ければ余裕そうな笑みに躱される

 

 

 最後には、白く巨大な果実に挟まり、ちろちろと蠢く赤い肉に急かされるように、暴発して果てる

 

 

 ぼうっとした視界に最後に映った彼女は、どこまでも愛しそうに、満足そうに微笑みながら唇を舐めていた

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

  気がつくと、ソファーの上に横たわっていた。未だ意識は判然としないものの、事の経緯を思い出していくうちに、自分はのぼせてしまったのだろうと当たりをつける。

  きっと、彼女がここまで運んでくれたのだろう。自前のスウェットまで着させられていることには、今更反応しないでおく。

 

 ーでは、彼女はどこに?ー

 

 

  果たして彼女は、ベランダに面する窓際に座っていた。カーテンは全開になっていて、そこから見える月を眺めているように見えた。

  薄暗い室内に、月光が降り注ぎ彼女を照らす。一枚の絵画のように美しく、そしてどこか物憂げに見えた。

 

  こちらに背を向ける彼女を見つめる。よく見れば、窓際に寄せられた小さなテーブルに徳利が置いてある。わずかに頭が上下している辺り、飲んでいることも分かる。だからこそ、少しだけ異様であることもまた、分かる。

 

 一切、音がしない

 

  彼我の距離は、然程遠くはない。無論、静かだからといって呼吸音が聞こえるほどでもないのだが。

  きぬ擦れ、床の軋み、徳利を置く音。まるで、彼女を取り巻く全ての音が置き去りにされてしまったような、そんな錯覚を覚える。

 

 ーいやまあ、この人が静かにしようと心がければ、このくらいはやってのけるかー

 

  別にそんなに珍しいことでもないな、と得心がいったところでソファーから降りる。滑り落ちる毛布を視界の端に捉えつつ、彼女の元へ足を踏み出そうとした瞬間、立ちくらみに襲われる。足元が覚束ない。咄嗟に手を突き出そうとしてーー

 

 

「大丈夫か?」

 

「ぇ...ああ、はい」

 

 

 ーーふわり、と抱き抱えられる。先ほどまで、窓際に居たはずの彼女が、今は自分の前にいるという事実に、まあ千冬さんだし、ということで納得しておく。

 

 

「座れるか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

  そう言うと炬燵に降ろされる。中に足を入れるとほんのりと暖かく、知らず一息を吐いていた。

  横では、窓際のテーブルに置いてあった徳利その他を、こちらに持ってくる千冬さんの姿が見える。

 

 

「なにかお前も飲むか?」

 

「それじゃお茶を」

 

「分かった」

 

 

  恐らく飲み終わったのだろう。手に持った酒器類をそのままに、台所へと消えていくと、少しして戻ってくる。その顔はどこか、申し訳なさそうにしているように思えた。

  お茶を手渡される。キンキンに冷えた麦茶だが、今の自分にはむしろ丁度いいくらいであった。

 

 

「...さっきはすまなかった。気分はどうだ? 大丈夫か?」

 

「あはは、ええまあ。むしろ僕としては、情けないところを見せてすみませんとしか」

 

「そうか...。お前がそう言うなら、まあ良いが。それで、どうだった。気持ちよかったか?」

 

「ええ、とても。ところでその...どうしてあんなことを?」

 

 

  純粋な疑問があった。千冬さんがなぜあの様な行為に及ぶに至ったのか。1人だけ、心当たりがあるのがなんとも言えない。

 

 

「ふふふ、そうかそうか。束のやつがな、こうすればお前にもっと悦んで貰えると、資料を幾つか渡してきたんだ。あいつも偶には役に立つ」

 

「そうですか」

 

 

  あとでゆっくり篠ノ之先輩に御礼申し上げねば。箒ちゃんと一夏くんのツーショット写真と、この前苦労して撮れた千冬さんの寝顔写真を差し上げよう。そう心に決める。

 

  そんなことを考えていると、不思議そうにこちらを見つめる彼女の視線を感じ、慌てて話題を変える。

 

 

「そう言えば千冬さん。さっき、なにか悩んでそうに見えたんですけど、なにかあったんですか?」

 

 

  多分、僕のこと何だろうが。そう独りごちる横で、驚いたように眼を見張る彼女の顔を見て、それだけではなかったのかと頭を入れ替える。

  しばし彼女と見つめ合う。僕がなにかに気づいたことに、彼女も気がついたのだろう。ふっ、と笑うと話し始めた。

 

 

「第二回モンドグロッソについて、先ほど通達が入った。私も世話になっている、上の人間からな。余程早く知らせたかったと見える」

 

「時間も時間ですしね。しかしそうですか。前々から概要だけは知らされてましたが」

 

 

  しかし、それでなにを悩むと言うのだろうか。否定しなかったと言うことは、僕の言う通り彼女はなにかを悩んでいるはずだが。

 

 

「それで、なにか問題でもあったんですか?」

 

「問題か...。そうだな、大問題が発生したよ」

 

「大問題...」

 

 

  あの千冬さんが深刻そうに俯いている。"あの"千冬さんがだ。余程のことがあったのか、それともこれから起きるのか。そんな風に考えていたからこそ、彼女の返答は、ある意味でこちらの度肝を抜くものだった。

 

 

「やる気が出ないんだ。どうしてもな、優勝してやろうという気が、前回に比べて格段に落ちている」

 

「それは...」

 

 

  予想外と言えば予想外だ。篠ノ之先輩が言うところの、生真面目がバグった武力を携えている、とまで言わしめる千冬さんのモチベーションが低下しているなど、言ったところで誰も信じまい。

  事実僕も、なにかの冗談ではないかと疑ってしまう。が、彼女の表情は決して冗談ではないのだと、こちらが信じるに足るものだった。

 

 

「それはまた、どうして」

 

 

  当然の疑問。言葉を投げかけられた千冬さんは、どこか遠くに眼をやる。その顔は、どこかつまらなそうでさえあった。

 

 

「お前から見て、私を倒せると、堕とせるのではと思わせる選手は誰だ?」

 

「...それは、雑誌記者としての僕ですか? それとも、私人としての僕ですか?」

 

「どっちもだ」

 

「では、そうですね。今、世界で千冬さんに比肩し得ると呼ばれる選手は、それなりにいます。いると思われています。

  そう思われている理由は、前回大会で猛威を振るったIS『暮桜』に、各国のISが性能面で並び始めたから、というものが一つ。

  もう一つは、それに伴う操縦者の技量の上昇ですね。事実、各国の操縦者による新たな機動技術も生み出され、千冬さんの代名詞とも言える『瞬時加速』も習得・習熟が進んでいるようですし」

 

「それで?」

 

 

  彼女の目は鋭い。問い詰められている、というよりは平常運転の気の方が近いが。つまり、外向きの千冬さんである。これのせいで、他人に近寄り難さを与えているんだな、見るたびに思う。

 

 

「具体的に上げるなら、例えばアメリカ国家代表イーリス・コーリング選手、及び『ファング・フィスト』。

  イタリア国家代表アリーシャ・ジョセスターフ、及び『テンペスタ』

  他にも、イギリス、中国、ドイツ、フランスなど有力とされている選手は多いのですが...私見だと相手にはならないでしょうね」

 

「なぜだ?」

 

「イギリスはどうも、射撃・狙撃部門の部門優勝狙いです。世間一般では、千冬さんを相手取るなら距離を取れ、とよく言われますが、アリーナの限られた空間という条件に限っては、悪手、とまでは行かずとも最適とは言えないかと。特に狙撃は、点での攻撃ですので...こう言うのも何ですが、当てられるとは思えないんですよね。

  中国はバランス型。ただ操縦者が射撃ではなく、近接寄りです。機体性能に尖ったものもなく、手数も並となれば千冬さんの相手を務めるにはやや不足でしょう。正確にはジリ貧というか。

  ドイツは現時点では機体・武装共にテスト段階です。大会までには仕上げてくるでしょうが、武器の癖が強い物が多いと言われており、また習熟も進んでいないと仮定すれば、控え目に言って論外です。

  フランスは機体のコンセプト的にはかなり良いですね。弾幕を張り、中・遠距離から一方的に火力を叩き込むのは、千冬さん相手にも通じ得る数少ない手段ですが、こちらは操縦者の力量が不足気味です。手広くやっている分、これといった武器となるものがない印象ですね」

 

「なるほどな。つまり、機体コンセプト、機体性能、操縦者の力量や気質諸々を鑑みた上で、残るのがイーリスにアリーシャだった、と言う訳か。...まあ、そんなところか」

 

 

  現場にしか分からない空気はある。数値に現れない強さもある。そこまでは分からないし、把握できるはずもない。それを踏まえれば、先ほどまでの僕の言葉は、妄想や希望的観測の域に留まりかねない代物であるが、否定されることはない。それが指すのは、千冬さんにとっては所詮、"誤差"でしかないということだ。

 

 

「要するに千冬さんのモチベーションが上がらないのは、自分が出れば優勝することが確実だから、ということですか?」

 

「いや、少し違う。私はな、ただ持てる全てを出し尽くすような、そんな戦いが"してみたかったんだ"」

 

「それは...」

 

 

  思わず言葉に詰まる。というか、昔もそんなことを言っていなかっただろうか。目を向ければ、すっと逸らされる。どうやら自覚はあるようだ。あの時は確か、柳韻さんとの一騎討ちで満足していたような気がするが。

 

 

「再発、しましたか」

 

「なぜ余命宣告をする医師のような目をするんだ?」

 

「言わずともお分かりでは?」

 

「むぅ...」

 

 

  むくれたって可愛いだけ、とは口にしないでおく。なんというか、とても愛らしくて、なでなでしてあげたくなるが、それはそれ。

  とはいえ、どうしたものか。何であれ、彼女にとっては大きな悩みではあるようだし、どうにかしてあげたいとも思うのだが。やはりここは、あの手しかないのだろうか。

  嘆息しそうになるのをこらえ、そっと息を吐くと、未だむくれ蜜柑に手を伸ばす彼女を見る。

 

 

「千冬さん」

 

「...なんだ」

 

「一つ賭けでもどうですか?」

 

「...なにを賭ける気だ」

 

「僕自身」

 

 

  そう答えれば、じろっと睨みつけるように見られる。続きを促しているのだろう。

 

 

「賭けの内容は簡単です。千冬さんが次の大会も優勝すること。ただし、ただの優勝ではいけません。僕を魅せる試合をしてください。もしも出来たら、僕のことは好きにして構いません」

 

「そんなことで良いのか?」

 

「逆に聞きますが、今の貴女に"そんなこと"が出来ると? こう見えても僕にだって、誰よりも近くで貴女を見てきた自負があります。生半可な試合では、納得出来ませんよ」

 

「...そうか、そうか。ふふっ」

 

 

  賭けの内容を聞いて驚き、次いで舐められているのかと訝しみ、僕の言葉を聞いて不敵に笑う。ころころと表情が変わり、最後の笑みで背筋がゾクゾクする。

  漏れる剣気、あるいは闘気。なんでも良い。要するに僕は、当初の目的である千冬さんのやる気を出させる、ということを果たしたのだ。

 

 

「ふ、ふふふ。さて、どうしたものか。IS戦では使わんと決めた、篠ノ之流を振るう日が来たか? それともーー」

 

 

  やりすぎた、かもしれない。すいません、他国の代表選手の皆さん。その、えと...お悔やみ申し上げます。

  僕はそっと心の中で頭を下げながら、一頻り彼女が落ち着くまで、蜜柑を頬張るのだった。

 

 




伏線擬きがそこそこありましたね。名前だけですが束さんも登場。ただ、話の都合上、白い束さんにはなりそうにありません。したがって、モンドグロッソ編の予告も結果的にブラフっぽくなりました。

活動報告にも書きましたが、束さんって原作の3年前に失踪したそうなんですよね。パッと思いつくのは、いる理由がなくなったから。つまり千冬さんが引退したということなんですが、なんとこの時21歳。つまり主人公は20歳です。タメ......俺も欲しかった...。

それはともかく。まあ、ドイツ行くってなった時に束さんも適当に探ったでしょうし、そこでクロエちゃんを拾ったんでしょう。開発してから速攻で消えたのかと思ってました。

・主人公の考察について

完全にオリ設定ばっかりです。原作で明かされてないから仕方ない。イーリスさんの『ファング・クエイク』は第三世代だったので、第二世代オリIS『ファング・フィスト』が登場。出番はない。

アリーシャさんの『テンペスタ』は、『テンペスタII』があるので多分、第二世代。ちなみに『暮桜』は第一世代らしいです。テンペスタの単一能力なんなんですかね、教えてください。
使うかどうか判断気分次第ですが。ひかりのオーブ忘れた勇者vs究極完全体ゾーマとかそのクラスの理不尽ですし、焼け石に水感がすごい。作者"に"分かりやすく言うなら、ワテギ様vs昌平君とかそんな感じ。

千冬さんは、微妙に戦闘狂気味。正確には、鍛え上げた武を満足に振るえないことへの不満。相手が弱いし、強すぎて化け物扱いされたくないし、とかそんな感じ。絶対この人、堯雲とかそれ系っぽい。まあ可愛いし、良いんでけどね。可愛いは正義。

ところで最後ら辺の千冬さんは、スポーツマン的にはどうなんでしょう。まあ、やる気はなくとも本気ではありますし、油断も慢心も手心も加えることはなかったでしょうが。主人公居なくとも。もしかしたら、批判もあるかも?とか思いつつ書いてた記憶があります。


それはそうとバレンタイン短編も書きました。すごい短い上に、ほぼ一筆書きですが。元はこの話の最後にくっつけるつもりが、文字数がやばくて分割したという。


それではまた。
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