ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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『絶剣』の戦い

門での戦いは拮抗していた。ビーストの男は『青龍刀』に似た短いが幅広の剣を振りかぶり、ユウキを殺さんとその剣を振り下ろす。だが相手は数多の世界を駆け抜けて絶剣(ゼッケン)の二つ名までつけられた猛者だ。振り下ろされる前に剣をはじき、切り上げをそらし、横薙ぎを潜り抜け、刺突を回避する。すべての攻撃を完璧に回避しきるという神業を披露するが、それは気の遠くなるような千日手だった。

小柄な体躯と身軽さを利用し、敵を翻弄していく様は流麗極まりない舞い踊るようなものであったが、実際はユウキは攻めあぐねていた。

実力差的にはユウキの圧勝であることは間違いないのだが、なにしろ得物が鞘だ。単純に使いにくい。グリップがないため衝撃は100%手に伝わるし、手汗や衝撃でいつ滑り落ちるかもわからない。

強度の高い木材を使用しているためか頼みの鞘は一撃で両断されることはなさそうだが、それでも鞘の耐久値がすさまじい速度で減少値て行くのが感覚的に理解できた。振り下ろしを正面からガードしたら3撃ほどで壊れるだろう。

加えて鞘では一撃の威力が低いため攻撃をクリーンヒットさせても効果は薄い。対してこちらは一発でも貰ったらどうなるかわからない。よしんば一撃をくらわしてもダメージ覚悟で攻められたらどうしようもないのだ。

戦術的にユウキの取れる選択肢がかなり狭いのに対して襲撃者にそんな縛りは存在しない。やることはただ一つ。────────こいつを殺して閂代わりの剣を奪う。

短期的にはユウキが、長期的には襲撃者の有利。加えて門が開けられてしまう時間制限(タイムリミット)まである。

状況が敵に傾くのは時間の問題だった。

 

「ぶっ刺したらぁ!!」

 

が、均衡を守れば結果的に勝てるはずのビーストの男はかすり傷一つ負わないユウキに苛立っての強烈な突きを放つ。カタナ系ソードスキル烈棘(レッシ)、怒りによって力んだ突きは速度こそ今までで最速、最強の威力を持つなものの、放った後の隙が大きい。渾身の突きが身をひねって躱され、体中のバネを伸ばし切った時、男は自らの悪手を悟った。

ユウキはひねった体を元に戻す勢いをそのままに後ろ回し蹴りを腹に叩き込む。体重差を感じさせないほどの強烈な衝撃に男はよろめき────────

 

「いったん離脱!」

 

「な、待ちやがれぇ!テメェ!」

 

そのスキに背後の罵声を無視して逃げる。とはいっても戦いから逃げ出すわけではない。逃走したら閂が奪われてやはり敗北。

とするとユウキの狙いは────────

 

「やっぱりあった!エルナ村なら絶対あるよねこれは!良かったー!」

 

蹴りを一撃浴びせて離脱するユウキの態度に逆上した男はまたしても悪手をとった。

門を閉ざす剣を引き抜いてしまえばよかったものの、彼はそうせずにユウキを追いかける。

 

「ぶっ────────殺す!!」

 

 

隙だらけの背中に振り下ろされる青龍刀。

しかし、必殺の間合いで放たれる曲刀ソードスキル『リーバー』は、小さな少女の肉を切り裂く手ごたえを返さずに金属と金属がぶつかる感覚とともに弾かれた。

 

「なん・・・だと・・・」

 

 

其の手には薪割り用の肉厚で大ぶりな鉈。丸太すら両断する頑丈な鋼の刃は得意とする片手直剣には及ばないものの、いつ壊れるかも知れない鞘に比べたら雲泥の差のスペックを持つ強力な武装。

得物の不利が緩和したことでユウキは攻撃でき、襲撃者は防御せざるを得なくなり、形勢は逆転する。これまで防戦一方だったユウキは怒涛の連続攻撃で男を追い詰めていく。

無論、男も素人ではないが絶剣(ゼッケン)の卓越した剣技の前に少しずつ傷を負い、苦し紛れに放ったソードスキルを躱され技後硬直という決定的なスキをさらす。

ユウキはその隙に左側方に回り込みながら鉈を振りかぶった。

勝負はこの時点で決着。相手にはもういかなる回避手段も防御手段も存在しない。

 

振りかぶられた鉈が落ち、薪の代わりに頭を割ろうと迫る────────

 

 

そうなる寸前、鉈は止まった。

 

「降参する?」

 

空前絶後の剣技で敵を翻弄し続けた剣士はそう言って己の勝利を謳った。

 

「殺さないでいてくれるのか・・・?」

 

「当たり前じゃん。人を殺しちゃいけないんだよ。それとも、おにーさんは続きやりたいの?」

 

男は左手に持った剣を手放し、涙を呑んで生きていることを実感する。

奇跡だ。敵に決定的なスキを突かれて確実な死を迎えるはずだったのに何の因果か生き恥をさらしている。

あり得ない奇跡を前に地面に手をついて尻もちをつく。

 

「ありがとう・・。ありがとう・・・・。」

 

男の命乞いに応えてユウキは鉈を下げる。

敵にだってプライドはある。

年端もいかぬ少女に剣で完敗し、戦場で2つもミスを重ねた男にもはや戦意はないだろう────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう高をくくった油断を見逃されるほど、戦場というものは甘くなかった。

 

「騙されてくれてありがとう。」

 

 

予備武装のナイフが懐から引き抜かれ

 

────────夜の闇に鮮血が飛び散った。

 

 



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