ソードアート・オンライン Alter Heaven   作:留確惨
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夜襲の夜襲

アルファルドの足元には3人の屍が転がっていた。死んではない。だがそれはシステム的にHPが0になっていないだけだ。

 

「kff.]@fsfsfnuefhfhaihaifyetksjekfhfvu────────────────」

「イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイイイイイイイイイイイイイイイヘヘヘヘヘヘヘh」

「ah---------ppppppppppbbbbbbbb」

 

3人がこうなったのはアルファルドの拷問の結果だ。最初に炎と風の複合魔術で眼球を焼き、足の腱をナイフで切断して無力化して捕縛した。

一人と油断して余計な欲を出す連中ばかりだったのが幸運だった。

 

「お前が吐けばお前だけは助けてやる。」とか逆に「仲間を助けてやる」といった交渉、壊れた仲間を見せたりする精神的拷問から木の棒を差し込んで生きた針山にしたり内臓を虫に食べさせたり顔の皮膚をはがしたりする肉体的拷問など、その他もろもろその場でできるお手軽拷問コースを披露したが、結果はろくな情報を得られずに全員壊してしまった。

 

「全く、根性があるのかそれともないのか・・・・」

 

拷問の最中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が気になったが、おそらくは潜入のために剃ったのだろう。奴はビースト特有の鋭い歯も少なく、まるで人間のようだった。

ロクな情報も得られずに外に出てしまったアルファルドの落胆は大きい。

 

どうせこいつらの相手をしたせいでフィーネには追い付けない。

それにあの穴はもう塞がれているだろう。

優先すべきは正門のほう、エルナ村を脅かす本隊だ。

トンネルを掘った時点で大量の敵兵が村を襲わなかったということは敵はがら空きの正門から入ってくると睨んでいる。

 

「ってこれ一人で大軍相手に無双しなけりゃならねえのかよ・・・勘弁してくれ・・・」

 

現在外に出ているのはアルファルドのみ。

自分一人で夜襲をかけに来た集団を相手にしなけらばならない。正面からやったら瞬殺される。

ただでさえ昨日年下の少女にいいようにやられたのに今日もやられ役とか勘弁してほしかった。

 

「まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()してる以上、そんな状況になることを許した俺の負けだな。」

 

アルファルドはあっさりと自らの敗北を認める。いくつもの戦いを生き残ってきた歴戦の猛者にしてはあまりにも潔い負けっぷりだ。

 

「だが、次は勝つ。一本取ったくらいじゃ人は死なねぇってことを思い知らせてやる」

 

 

 

 

 

敵は50人ほどの小隊だった。ほぼ全員皮鎧や軽量級の防具を付け、略奪の時間を今か今かと待ち望んでいる。

「まずは女だろ、女。ひゃー、売り飛ばすのがもったいねぇぜ。」「お前そう言って女以外殺しちゃうじゃん、あいつらだって売れるのに。」「ヒャッハー!早く突入許可下りねぇかな?」

全員思い思いの欲望を吐きながら欲に毛深い顔面を歪ませている。

その中心に水を差すようにアルファルドは野球ボールのようなものを投げ込んだ。

 

「バースト・エレメント」

 

殺意を込めた呪詛が放たれる。

ボールの中で空気が膨張し、それが熱を得て更に加速する。限界になった圧力はボールを内側から破砕し、熱風とともに破片をまき散らして拡散した。

投げたものは鬼哭胡桃(キコクグルミ)と呼ばれる西の森に自生している大きいが何の変哲もないクルミだ。

魔術は基本的に術者の手元でしか発動しないが、『バースト・エレメント』だけは例外だ。

なにせ何もせずにエネルギーだけ放出するのだから放っておいても魔術因子はバーストする。実際に因子精製後5分後に魔術はバーストする。

そのバースト・エレメントのエネルギーを有効活用したのがアルファルドが放った灼風弾(シャップウダン)だ。クルミの堅い殻を利用して魔術のエネルギーを『溜めて』『放つ』。そうすることで少ない空間リソースと最低限の詠唱で最大の威力を発揮し、やけどを負わせるだけの魔術を手榴弾(グレネード)に昇華される。副次的にクルミの破片での裂傷も期待できるので本物にかなり近いといってもいい。

まさにくるみ割り爆弾(ナッツクラッカーボム)だ。

投げた後はすぐさま逃走する。敵わないというのもあるが、『奇襲だけ受けた』という事実だけあったほうが敵の心理を攪乱できる。

今頃敵は1個分隊クラスが奇襲をかけてきたのだと思われるだろう。実態はアルファルド一人だが。

 

夜の闇を縫ってアルファルドは爆破と逃走を繰り返すが、いくら夜だからといってこれだけ攻撃したら見つからないわけがない。4回目の爆破で一瞬、アルファルドの姿が捉えられた。

 

「糞野郎!よりにもよって隠れるだけしか能のない芋虫が!さっさとかかってこいやぁ!!」

 

当然そんな安い挑発は無視する。なぜか「童貞」だの「インポ」だの程度の低い罵倒が響いて敵部隊は次々と森に入ってくる。ひとつ屋根の下に女の子を住まわしておいて手を出せていないあたり健全な男子としては否定し難い悪口だ。

アルファルドの目的は撃退であって殲滅ではない。これで敵兵が引いてくれれば御の字。アルファルドの目的は達成される。

それに夜の森の中で地の利があるアルファルドに追いつけるものはいなかった。

それにもかかわらず部隊はアルファルドを追うもの、負傷者を介抱するもの、そのままアルファルドを振り切って村に行こうとするもの、火の魔法を森に向かって滅茶苦茶に放つものがそれぞれ個別で動いていて意思統一がなされていない。否、アルファルドに意思統一を破壊された。

 

「うろたえるな!!我々の目的はエルナ村だ!焦って追ったらそれこそ敵の思うつぼだ!」

 

リーダーらしき男の一喝で混乱した状況が復調を示し始めた。

 

「ですが総長、奴らは我々の居場所を読んで攻撃してきました!このままでは待ち伏せの可能性も」

 

「愚か者!それだったら一斉に攻撃されてとっくに我らは壊滅しておる!それがないということは敵は我々の動きを完全に把握できてはいない!」

 

とはいえ、不可視の敵に後ろをとられながら進軍するのも気持ちが悪い。部下たちの手前落ち着いてはいるが、ビーストの首領(ドン)、カウフラマンは敵の動きに不安を覚えていた。攻撃のが一斉に放たれず、異なる地点から間隔をあけて放たれていることから敵はおそらく1人、最大でも3人だろう。その中の一人が恐らく例の『青』なのだろうがそれだけの相手が単独でヒットアンドアウェイを繰り返しているあたり、襲撃に気付いたものの対応はかなり遅れているといっていい。

住人の避難は間に合わず、単身で敵を倒しに行った、というところか。それにこの場に『青』がいるのなら中の者たちが門を攻略しているはずだ。

こいつはピンチじゃねぇ。チャンスだ。

 

「全軍、全方位に魔術を打ったのにちにエルナ村に突撃ィ!!!」

「応ッ!!!」

 

魔術は空間の天使の力(テレズマ)を消費して行使される。部隊全員でテレズマを枯渇させることで敵を実質的に無力化させることは敵の魔術攻撃には最も有効な対処法になる。その隙に攻めいる。

目論見は成功して、敵の厄介な爆撃は止んだ。

爆撃の脅威から解放された一個小隊が鬨の声を上げて一斉に動く。

 

正門はすぐ目の前、ここを通った瞬間、我々は勝利する。だが正門は見えず、代わりに彼らを出迎えたのは門を覆う白い煙だった。

 

「なにぃ!!これは一体なんだ!?」

「分かるわけないでしょう!」

「どうする?入るか?」

「いや、これは明らかに罠だろ」

「どーすんだよここで引くとかあり得ねぇだろ」

「じゃあお前行けよ」

「やだよお前が行けや」

 

様々な議論が持ち上がる中、彼らの共通心理はこの謎の煙はなんだ?というものだった。当然、後ろへの警戒が甘くなる。背後からの死神の足音に事前に気付いたものはいなかった。

灰色の疾風が陣形の中心を吹き抜け、道筋にあるものを切り刻んでそのまま速度を落とさずに煙の中に消えていった。

 

「なぁ!?」「糞、貴様ァ!」「待ちやがれ!!」

 

斬られた者は死者は勿論いるものの、かすり傷だけのものなど、程度は様々だ。殺すことより通り抜けることを優先した襲撃。

それに気づきながらもよりにもよって自陣を素通りされたことへの屈辱を彼らは我慢できなかった。

煙をただの目くらましと決めつけ、怒りのままに今度こそ殺さんとばかりに白い空間に突っ込んでいき────────────────

 

 

 

 

瞬間、世界が炎に包まれた。

 

 

 



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