『真珠の君』。
鶴姫やちよはそう呼ばれている。
名門シークフェルト音楽学院、その中でも上位5名しか所属できない『気高き君』の一員であり、生徒会会計も務める才女。
舞台で発揮する実力もさることながら、服飾デザイナーとしても一流のセンスを見せる。
その多方面に渡る輝きはまさに『真珠』と言えるだろう。
そんな雲の上の存在である彼女となんて、一生関わることなんか無いと思っていたんだけど……。
「センパイ、頼んでた書類終わりそうですか?」
「ああ、もう終わるぞ」
「じゃあそれ終わったら、こっちのデータ整理もお願いしますね」
「えぇ〜……俺に回ってくる仕事多くない?」
「仕方ないじゃないですかー、Elysion前のこの時期はみんな忙しいんですから〜。それにその為のセンパイですし? 使えるものはいくらでも使っておかないと損だと思いません?」
「鬼だ……」
彼女が愉快そうに意地の悪い笑顔で笑った。
何故俺がこんな生徒会の使い魔みたいな存在になってしまったのか。
それは、転校初日に副会長に捕まってしまったからだ。
『この学校では男子が少なくてやりづらいだろうから、生徒会の一員になってみない?』と言う副会長の誘い文句に乗ってしまったのが運の尽き。確かに、『正式な会員って訳にはいかないから、お手伝い中心にはなると思うけど……』とは言われていた。
但し、面倒ごとを全て俺に押し付けてくる会計の存在は教えてくれなかった。絶対こうなる事分かってて言ってくれなかっただろ……ミチルめ……。
こうして俺はめでたく生徒会雑用係となり、今に至る。何もめでたくない。
「全く……人使いの荒い……」
「ふふっ、でも何だかんだ言いながらも手伝ってくれるからセンパイも甘いですよね〜」
「ホントにそう思ってるならちょっとは仕事を減らしてくれよ……」
「んー、それはまた別っていうかー? …………別、なんですけどー……」
彼女が手を止めて、いつになく真剣な顔でこちらを見た。
「……これでも一応、センパイには感謝してるんです。……甘やかしてもらってるのも、わかってますから」
「お、おう……」
珍しく彼女が、素直に感謝を伝えてくれた。いつもは掴み所が無くて本心が見えないだけに、普段とのギャップで、なんだかやけにドキドキする。
「……だから、センパイ。あたし……」
「遅れて申し訳ありません! 授業が長引いてしまって……!……あれ? お二人で何かしてましたか?」
やちよの言葉の続きは、突然入ってきたメイファンによって遮られた。
「……、……。メイファン、ちょっと太った?」
「いきなり何ですか?! というか何故それを?!」
結局その後は他のメンバーも相次いでやって来たので、やちよからその話をそれ以上聞くことはできなかった。
「ん〜…….」
練習に向かったメンバーを見送り、一人で雑務を黙々とこなしていたら、いつの間にか随分と時間が経っていた。身体を伸ばしつつ外を眺める。外の景色はもう夕暮れというより夜になろうかとしていた。
すると練習終わりのやちよが、生徒会室へと入ってきた。
「あれ、センパイまだ居たんですか。……あー、もしかしてあたしのこと待っててくれたんですか〜?」
「そうだよ?」
「え」
一瞬彼女がフリーズした。
「どうせお前、放っといたら残って仕事してくつもりだっただろ? 無理されても困るから引っ張ってでも連れ帰れって、副会長からのご命令だ」
「……命令、かぁ。……命令じゃ、仕方ありませんね〜」
「そ、仕方ない」
どうやら副会長の名前が出たところで諦めがついたらしく、大人しく帰り支度を始めてくれた。……というかやっぱり、俺がいなかったら残って仕事してくつもりだったんだな……。
「あ、センパイあたしお腹空いたんで帰りに肉まん奢ってください」
「……ったく、今日だけだぞ」
「え? センパイに私を連れ帰るように命令したって聞いたんですけど〜……」
「……ミチルは昨日練習後は生徒会室に寄らないで帰ったから彼には何も言ってない?」
「……あー、じゃああれって……」
「……こんなに甘くしないでくださいよ、センパイ……」
「……勘違いしちゃうじゃないですか……」