第二十九話
既存の施設の上部に新しい建築物を乗せる、というのは結構難しいらしい。
防衛省と米軍との話し合いを社長に報告すると、「ううむ」と唸って考え始めた。
次の日に建設会社に相談してみる、と言っていたが、返ってきた結果は、旧店舗の建屋をすっぽり囲む形で重量鉄骨の施設を造り、上階層を構築する、ということになったらしい。
うちの持ち出しが余り無いことがだけが救いだが、暫く工事で時間がかかりそうだ。
とりあえず十一階層が待機状態になっている中、刀匠の藤島さんから槍の試作品が出来たと連絡が入った。早速行ってみると藤島さんだけでなくお仲間と言う刀匠の方々が居たので挨拶をしておく。何でも日本政府からのお達しもあった為、本格的に用意する武装についての検討を行っていたらしい。
「刀や槍以外でも薙刀や斧、それにバットも使われていたと言うので金砕棒。試してみたい武器は沢山あります」
熱心に語る男性は宮部さんといい、この中では変り種で冶金学の講師を行う傍ら鍛冶師としての修行を積んでいるらしい。刀匠としての評価はまだまだと言った所だが、その経歴から委員会にも参加し、そこで藤島さんと知り合ったそうだ。
話を戻して、今回の槍の試作品だ。藤島さんは当初色々な穂先を作ってそれを実際に試してみる事を考えていたそうだが、モンスター相手に使い勝手が分からないという事で、シンプルがベストだと判断して素槍という一般的なシンプルデザインの物を作成したそうだ。
柄に関してはジュラルミンで作っているそうで、これは宮部さんからのアドバイスらしい。
「値段が圧倒的に違います。チタン合金ので作成すると、おそらく加工が終わった状態で三倍近く高いですね」
「それは・・・流石に使い切れませんね」
アルミ合金製の物とチタン合金製の物の値段表を見ると、確かに圧倒的な差がある。硬度などの大きな格差がないなら、これはもうアルミ合金製一択だろう。
お金は大事だよなぁ、と最近出費続きの俺達にとっても人事ではない。削減できる所は削減しておくべきだろう。
「あの、これから槍を使用するなら是非一緒にダンジョンに潜らせて欲しいのですが」
「ああ、良いですよ」
真一さんが二つ返事で許可を出すと、その場に居た3、4名の刀匠達が皆立ち上がって自らの得物を持ち出してきた。
慌てて一度に入れるのは3名まで、と注文をつけて早速奥多摩に戻りダンジョンに出発だ。
今回も人数が多いため5層までの冒険となり、槍を持った集団がオークを串刺しにして終了。
というか皆さんそこそこ武術の心得があるらしくまるで心配する場面もなく終わってしまった。
・・・最近、護衛ばっかりで何とも暴れ足りない気分である。何か接近戦用の右腕を新規開発するべきだろうか。
新規開発といえば、どうも恭二がまたぞろ新魔法を開発したらしい。
今回の冒険の最中に一度見せてもらったんだが、コインをピン、と弾いたと思ったらゴブリンがミンチになっててビビッた。
「・・・何だそれ」
「最近一花に見せてもらったアニメが面白くてな。レールガンって知ってるか?」
「俺はお前がどこに行くのかが心配だよ」
急遽、藤島さん達のダンジョンアタック後に恭二と俺の二人でダンジョンに潜り、ゴーレムに向かって試してみたところ一撃で粉砕が可能だと確認。
魔法でもゴーレムの退治が可能だと証明されたわけだが、ある問題が生じてしまった。
収納と同じく、恭二以外が扱えないのだ。
試してみた真一さん曰く、「お前(恭二)は頭おかしい」との事。再現しようとしたらただ電流を金属片に含ませることしか出来なかった時の話だ。こんな事言ってる真一さんだが殆どの魔法は数回試したら使えるセンスの塊みたいな人なので暫くしたら扱っていてもおかしくない。
俺?普通にサンダーバスターになりました。出来るわけないわあんなん。
諮問委員会がらみで預けてあったドロップ武器の成分検査の結果が来た。
「ナイフや剣などは青銅製ですね。本当にわずかばかりの貴金属の混入はありますが、基本的に銅です。資料的価値を除くと、おそらく、一キロあたり200円から500円くらいの価値になると思います」
「やっぱりそんな物ですか」
「金貨のほうは、含有率75%以上あります。貴金属商では一枚あたり1万円以上の買値になると思います」
申し訳無さそうに研究員の方は言ってくるが、まあこの位の値段だろうなとは事前に予想されていたのでショックはない。
問題はここからだろう。
「最後に、ドロップストーンについてです。正直、この魔力を吸い出すという現象が良く分からないせいで値段がつけられない状況です。私も試させていただきましたが、数を使えば使うほど確かに体力が向上していくのを感じました。現状はもう山岸さんの言い値といった扱いですね」
「成るほど、ありがとうございました」
「このドロップストーンについてはまだまだ研究が足りてないのでどんどん持ってきて頂いて結構です。ただ、もう少し値段は抑えたいところですが。やはり消耗品的な扱いになってしまうので・・・」
言い値とはいえそこまで高く請求するわけにもいかない。他のダンジョンでも取れるものだし、
あんまり阿漕なイメージを持たれて関係を壊せば困るのは俺達だ。
ゴーレムの魔石はかなり大きかったし、魔力の含有量も多かった気がする。大きさで値段を変えて売り出してのが良いのかもしれないな。社長にはそう報告しておこう。
第三十話
「魔法が使え、今後教員候補生として送り込まれる人材を育てられる者の育成を」
という日米両方の要望に答える形で、今日から二人の研修生が奥多摩に入ってきた。
まず日本の自衛隊からは岩田浩二さん。28才。自衛隊の二等陸曹だ。見るからに体格の良い人で、どうやらすでに回復魔法を使っているらしく何度か怪我を治したことがあるらしい。
次に米軍からは、ジュリア・ドナッティさん。24才の女性士官。ドナッティさんも魔法の素養ありと認められてここに来たが、空軍の士官アカデミーを出てるというとても凄いエリートさんなのだそうだ。
4歳も年下のドナッティさんに岩田さんが尊敬の眼差しを向けていたので聞いて見たらそう教えてくれた。
そのドナッティさんは今、直立不動、敬礼で固まってしまって大変に困っている所だ。
『あの、流石に同じチームで毎回直立不動になられると困ると言うか』
『す、すみません。つい染み付いた動きが・・・』
まだ翻訳が使えない岩田さんは怪訝な目で俺達のやり取りを見ている。岩田さんには俺の言葉が分かるから、会話が成立しているのがおかしく見えるんだろうな。
ただ、ドナッティさんはラテン語と日本語が出来るトライリンガルという事なので、二人が翻訳を覚えるまでは日本語のほうで会話をしてもらうようにお願いしておく。
まずは下地を整えるためにダンジョンブートキャンプと行こうか。
とりあえず二人に槍を渡して、大コウモリを討伐してもらう。魔石から魔力を吸うのが手っ取り早いが、まずは倒したモンスターからの吸収とドロップがどのように出てくるかを浅い階層で確かめてもらうためだ。
大コウモリを二人が難なく倒していくのを見ながら、ある程度魔石が溜まって来たら俺達が持っていた物と含めて一気に吸収をしてもらう。
本人達が魔力を感じられるようになるまでこれをくり返し、ある程度目処が立ったらまず最初にライトボールとファイアボールを覚えてもらう。
この二つがあれば浅い階層なら問題なく進めるからな。
二人があっさりとこの二つの魔法を習得したら、次はサンダーボルトとバリアー、アンチマジックの順に覚えてもらう。特にバリアーとアンチマジックは命に関わるからここを覚えるまでは先に進めない旨を伝えて練習を繰り返してもらう。
サンダーボルトは比較的あっさり覚えられたようだが、アンチマジックはやはり難しいらしい。実際に見たほうがいいか、と恭二にアンチマジックを使ってもらってバスターで狙う。
「お二人とも、よく見ててくださいね。ファイアバスター!」
言葉にする必要はないが、撃つ瞬間に一言かけてからファイアバスターを発射。小さな火の玉が恭二に当たる瞬間、淡い光の壁が出現してバスターを打ち消した。
この実演が功を奏したのか、二人は続けてアンチマジックとバリアーを習得。
とりあえず初日の目標は二人とも達成できたようだ。
「で、ダンジョン探索が終わったら俺達は必ず飯を食べるんです」
「成るほど。部活を思い出すなぁ」
「日本食、とてもヘルシーで大好きです」
「おかわりもあるぞ!」
「一花、それはやめなさい」
会議室もとい山岸家の居間に大きめのテーブルを置いてカレーを食べる。今回の料理はうちの母ちゃんが作ってくれた。
最近、うちの父親と社長が話し合っている事が多く、家族で山岸さんの家にお邪魔することが多くなったので、定期的にダンジョン帰りの食事を母さんが作って待っていてくれるのだ。
岩田さんは部隊で飯を食べてるみたいだと微妙そうな顔をしていたので聞いてみると、隊内だと食堂に集まって皆が決まった時間に食べているから、こんな感じになるらしい。
「まぁ、ゆっくり食べるってのはやらないんですがね」
「自衛隊は早く食べるように訓練されているんですね」
「最初の訓練校時代からきっちりしつけられました。米軍ではどんな感じなんですか?」
岩田さんの悲哀にドナッティさんが曖昧な表情を浮かべて答えると、岩田さんがドナッティさんに米軍についての質問をして二人は互いの組織の違いについて話を咲かせ始めた。ゆっくり飯も食べさせてもらえないって大変だなーと思いながらカレーを啜っていると、唐突に二人の視線がこちらを向いた。
「あの、所で」
「スパイダーマンって一郎くんで良いんですよね?」
「あ、はい」
特に隠していることでもないので頷くと、ささっと二人が取り出したのはサイン色紙だった。
あ、このパターンはちょっと懐かしいな。最近変身して出歩くから。
サインを書くのも大分慣れたのでついでに二人の似顔絵も書いて渡す。右腕がやけに器用に動くせいで画力が半端なく上がったのだ。一点ものですぜ。へへへ。
「お兄ちゃん」
「うん、なんだいマイシスター」
「それ、聞いてないんだけど」
えらく上手に書かれた二人の似顔絵を指差して一花は眉を寄せて詰め寄ってきた。
ちょっと近いです、一花さん落ち着いて。
「そういう新しい特技はちゃんと教えてもらわないと!さぁ撮影のお時間ですわよ」
「えぇ、飯食べてからで良い?」
「40秒で支度しな!」
「出来るか!」
慌ててカレーを詰め込み、食器を母ちゃんに渡して外に出る。
後にはポカンと佇む新人二人と爆笑する恭二と沙織ちゃん、恥をかかせてとため息をつく母さんが取り残されることになった。
尚、この時に作った「40秒でスパイダーマンがスパイダーマンを書いてみた」という動画は結構なヒットになったそうだ。
第三十一話
「右から3」
「クリア」
ドナッティさんの観測を元に岩田さんがライトボールを投げ、狙撃。恐らくゴブリンだろう敵の気配が消えた。
現在はのメンバーは俺、一花に岩田さんとドナッティさんの4人組だ。
「うん、いい感じだね!見敵必殺はダンジョンの基本だから、今の観測距離をもっと伸ばせるようにイメージしよっか!」
「いやぁ、中々難しい。何となく強い気配はわかるんですがね」
「まだ、どちらから来るかしか分かりません・・・」
岩田さんとドナッティさんの軍人コンビを仲間にして一週間程が経った。
二人は順調な上達を見せており、現在は感知の魔法の熟練度を上げるため低層でのダンジョンアタックを繰り返している。
他のメンバー?11層の地図埋め中だ。恭二が魔法でゴーレムを倒せるようになったから、11層の探索も容易になった為今の内にどの位の大きさか、米軍から譲ってもらったドローンを使って調査するらしい。
今頃はレールガンの練習がてら11層で暴れまわっている事だろう。俺もそっちに行きたいんだがジャンケンに負けてしまったからしょうがない・・・
これも大事なお仕事だし、二人が早く一人前になれば8人で11層に挑むことも出来る。ここは我慢するべき所だ。
後は感知の精度とフレイムインフェルノを覚えて、そこからは実地でパーティーの一員として動きを覚えてもらうことになる。二人の成長速度を考えれば近い未来かもしれないな。
そして更に一週間が経過して。
「こいつはすげぇや」
『信じられない・・・』
10層までを踏破し、初めて11層に入った二人はそう言って立ち尽くした。まぁ、いきなりダンジョンから荒野に出たらその反応になるわな。俺達も最初は唖然としてたし。
二人は順調な仕上がりを見せ、課題の魔法を全て習得。本日からチームへの合流を果たして、10層までのアタックを行った。結果は言わなくても分かると思うが無事11層への扉を潜ることができ、俺達ヤマギシチームは8人体制になる。
そして例のショートカットについての情報を二人に伝える事になった。ここ数週間のやり取りで人間として信頼出来そうだと判断できたのと、自力でここまで来れる人間ならどちらにしろ伝えなければならないという理由もある。
1層に一瞬で移動し、呆然とする二人に一先ずヤマギシ家に行こうと伝えて食事と会議を行う。
「このショートカットの存在は、日米のトップと俺達ヤマギシチームしか知りません。理由は分かりますか?」
「ええと・・・一般に知られたら不味いって事ですよね」
「恐らく、ダンジョンに対する法整備が整ってない、ではありませんか?」
岩田さんは怪しかったが、ドナッティさんは流石というか。俺達が危険視している物がうっすら見えているようだ。
日本と違って米国の高級士官は政治家としての役割を持っているらしいから、こう言ったリスクとかに敏感なのかもしれない。岩田さんも何となく危ないって意識はあるみたいだけどこの辺りは自衛隊と米軍の違いって事かな?
「今の状態で国民をダンジョンに放り込むのは自殺幇助と変わらない。これはどちらの国の政府も同じ見解です。それを助長するような真似をするわけにはいかない。俺達はただ、人殺しと罵られるのを出来る限り避けたいだけなんです」
真一さんの真剣な表情に、岩田さんもドナッティさんも若干顔を青くして頷いた。
今現在、日米はダンジョンについて共同の声明を発表している。それは許可を得ない人物や企業のダンジョンへの進入を禁じるといったものだ。
俺達ヤマギシの社員及びその協力者は事前に許可を得てダンジョン内の探索を行っている、という形に一応はなっている。一応というのは俺達が同行する場合は許可の無い人物にも一時的に許可を与えることが可能だからだ。
これを利用して協力関係のある分野の専門家を連れて探索体験してもらったり、政治家をダンジョンに立ち入らせたりといった事を行っている。勿論俺達が安全を保障できる人員と階層までしか連れて行けないが。
「ダンジョンに入る為に必要な技能、魔法の習得。更に中での事故や事件が起こる事への備え。まだまだ手探りの状態です。お二人への教育と、その結果もその一環になりますので、これからも協力をお願いします」
「勿論です。幾らでも扱き使って下さい!」
「必要な事があれば何でも言ってください」
真一さんの言葉に二人が頷いて答えると、場は一気に穏やかになった。ここで意見が食い違ったりしたらちょっと面倒な事になったかもしれなかったし良かった良かった。
「ん?今なんでもするって」
「止めろバカ」
「お兄ちゃん退いて!せっかくの知的な美人枠にあれこれ出来るチャンスなんだよ!?」
「イチカ、それだと私はどういう枠なんですか?」
「そりゃ勿論残念美人イタイイタイ!」
シャーロットさんと一花のじゃれ合いに周囲で笑いが起きる。暗い話ばかりだと場も重たくなるし、気でも遣ったのだろうかね。
和やかなまま会議は進み、明日からのダンジョン攻略について打ち合わせをして俺達は解散した。
米軍から明日にはロケット弾と移動手段を用意できると言われている。明日は一気に探索を進めたいものだ。
第三十二話
さぁてパーティの始まりだぜ!
いきなりテンションが高くて申し訳ないが、やっぱりデカブツをロケットランチャーでぶっ飛ばすのは一度は見てみたい光景だからな。
現在俺達は11層まで降りてきている。朝方にようやく米軍から供与してもらったロケットランチャーが届いたので、実戦で武器の効果測定をしよう、というのが本日の主目的だ。
まぁ、あわよくばこのまま行ける所まで潜って行こうと思ってるんだがね。必要だったとはいえ数週間の足止めはやっぱり心に来るものがあったからな・・・・・・
そしてここでもう一つ政府からのプレゼントがあった。米軍からの武器提供を聞きつけた委員会所属の自衛隊の幹部の人が、上層部に掛け合って自衛隊が使用しているカールグスタフ無反動砲と89式小銃にとりつけるタイプの小型グレネードを供与してくれたのだ。
効果測定の結果を知らせて欲しいと言われているが、こういう事には動きが鈍いという印象があった自衛隊からの動きだっただけに少し驚いた。勿論この装備は元々使用経験があるという岩田さんが使用することになる。
「ドローンで地図を作ったんだが、やっぱりこのフィールドは車が必要だな」
先日、俺と一花を置いていって作成した地図を広げながら、真一さんがそう言った。
あの件についてはまだ恨みがましい視線を向けてしまう。真一さん、劣化版だがレールガンに成功したらしいし・・・この人も大概センスの塊だ。
「という訳で用意したジープがこちらです」
「ワーオ!でもお高いんでしょう?」
「それがなんと米軍からの提供により0円、0円のサプライズ!」
「まじめにやれ、二人とも」
冗談めかしてジープ2台を収納から取り出した恭二につい合いの手を入れてしまう。案の定真一さんから睨まれたが、違うんだ・・・恭二がノって来いってごめんなさい。
ケツを叩かれたので慌ててジープの上部に飛び乗る。付着の魔法を使えばこんな所に乗ってても安定できるんだから凄い。風が気持ちいいぜ。
まぁ、いきなり魔法を撃たれたら不味いからな。俺が上部から見張っていれば急な襲撃にも対応できるだろうという魂胆だ。
魔法を防げそうな車も用意できそうだとは言っていたが、ちょっと時間がかかりそうだから少し待ってくれと言われた。恭二でも飛行機に乗せて運べばすぐに終わりそうだがな。今度提案してみるか。
ドオン!
と大きな音を立ててゴーレムが爆発四散する。
ドナッティさんを射手、岩田さんをサポートにした攻撃は見事成功。ドナッティさんも「ワーオ!」と大喜びだ。
気持ちはわかる・・・見ている側の俺達もちょっと興奮する位カッコよかったからな。そりゃバイオハザードでも毎回ロケットランチャーだわ。ロマンがあるもの。
続いて岩田さんのカールグスタフもゴーレムに向けて発射すると、こちらも一撃で倒すことに成功。日米両方に良い報告が出来そうだ。
このままボスまで行こう、と恭二が提案したので了承を返す。ジープの走破性はやっぱり凄い。ゴーレムの一撃は確かに怖いが、そもそも近づかれる前にすいすいと敵を避けてフィールドを走り回る事が出来る。
仮に近づかれても、
『ウェブシューター!ああ、カメラが欲しいわ!』
『イチカちゃん、動画用のカメラは持ってきてないの!?』
「撮影用はないよ!今日は探索重視だしってか詰め寄らないでほんと」
クモの糸でゴーレムを縫いとめると、シャーロットさんとドナッティさんが一花に詰め寄って騒ぎ始める。シャーロットさんはいつも見てるでしょうに・・・
というかドナッティさん運転運転!
「すげー粘着力だな、クモの糸」
「ネットな。お前が名づけた魔法だろうが」
「おう、でも見た目まんまクモの糸だぞ?」
「それな」
最初は本当にクモの糸と名づけようとして真一さんと沙織ちゃんにガチ目のトーンで説得されたらしい。そらそうだわ俺がいても止めてる。
そのまま俺達はフロアボスの手前まで到達。岩田さんにM72で撃ってもらうと、難なくボスを吹っ飛ばすことが出来た。
ロケットランチャーならほぼ確殺だなこれは。この映像もシャーロットさんが持つアクティブカメラで捉えて日米に提出する予定だ。
ドロップは石と、何か石材のようなブロックだった。次のゴーレムはストーンゴーレムってか?今までの雑魚ゴーレムはクレイゴーレムって事かね。
ボスを倒すと、今まで見えなかった扉が出現している。俺達は早速扉を潜って一つ下の階層に突入した。
12層もどうやら前マップと同じフィールドタイプらしく、荒野がまた続いていた。
早速ドローンを飛ばして偵察を行い、周辺の様子を確認。どうやらここの雑魚はストーンゴーレムらしい。
「予想通りって所かな。兄貴、どうする?」
「目新しい発見もないしこのまま次に行くか。岩田さん、ドナッティさん」
ジープを恭二が出し直しながら尋ねると、真一さんは頷いて二人に声をかけた。
そのままジープで出発。危ないところもなくフロアボスの手前まで到達し、そこでジープを片付ける。
今度のゴーレムは明らかに金属製だった。アイアンゴーレムって奴か?
「どうせだったらレンガっぽい見た目の奴が見たかったね。岩田さんオナシャス!」
「あいよ!」
岩田さんが軽いノリでM72をアイアンゴーレムに打ち込む。仮にも金属製なので生き残る可能性も考えていたが、どうやら一撃で倒せたようだ。
ドロップ品は鉄かなこれ・・・とおぉ?
右手でドロップ品を持ち上げようとしたら急な喪失感と共にドロップ品を取り落としてしまった。
なんぞこれ、とそちらを見ると・・・
「嘘・・・・・・・・・・お兄ちゃん、右手が・・・・・・」
一花に言われて右手に目を向けると、半ば位から右手が形を失って崩れていくのを目にする事になった。
・・・・・・どうしようこれ。
急に右腕だけが無くなりバランスが悪いなぁ、とどこか遠くの事のように感じながら、初めてのコスプレ握手会以来久しぶりに俺は途方にくれる事になった。
尚数分で元に戻りました。
山岸恭二:どうやらレベル5だったらしい。顛末を聞いた一花から暇なときに見ろと言われ大量のアニメのDVDを贈られ困惑気味。
藤島さん:三段突きなどをゴブリンに試していたら十字槍の穂先が壊れて素槍が良いかなぁと黄昏ることになる。
宮部さん:オリキャラ。もっと色々な金属を使ってみたいと藤島さんと相談中。
岩田浩二:陸自の二等陸曹。最前線のチームと言われかなり緊張して来て見たら予想以上の若さに驚き、ダンジョン内での堅実な立ち回りに再度驚くことになる。変身を早く覚えられないか努力中。変身のポーズを自室で行いイメトレはバッチリ。
ジュリア・ドナッティ:生のスパイダーマンに会えると一週間位緊張しっぱなしで来日。実際に相対すると普通の少年にしか見えなかったがダンジョン内では明らかにベテラン然とした立ち回りを見せられて期待度上昇中。尚信じられない速度で似顔絵を渡された時歓喜の叫びを上げそうになっていた。
バイオハザード:ラスボスにはロケットランチャー。
一郎の右手:そもそも魔力で作られてるのでどうなっても特に痛みや何かはない。