奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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サブタイトルでミスが発覚したので(白目)番外編に変更しました



今週もよろしくお願いします!

誤字修正。244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございます!


番外編 右腕との会談

 テレビをつけるとワイドショーでミギーの映像がデカデカと紹介されていた。何故か寄生獣の映画の映像が使われたりと色々言いたい所のある番組だったが、主張する事は一貫している。

 

 即ち、危険性があるか否かだ。

 

「そこの所どうよ」

『私が人を好んで襲いかかる場面があれば危なかったかもしれないな』

「なるほど。特にそういう欲求はないと」

 

 カタカタとミギーは自身の手でキーボードを動かしながら色々なサイトを見て回っている。これはある種の知識の蓄えらしい。俺の魔力を元に生み出され、変身が解ける度に消えるミギーが調べ物をしても意味がないと思うかもしれないが、実を言うと俺とミギーの感覚は共有されているから俺も彼の見ている物を見ている、つまり情報の共有が出来ているのだ。

 

 

 これに目を付けた一花は知りたがりの癖があるミギーの知的好奇心と記憶力を用いて、ある実験を行った。

 

「じゃあ、お兄ちゃん、これは?」

「イギリスの冒険者協会の会長、名前は〜」

「「「おおおおお!」」」 

 

 いや、人の名前を覚えてた位で大袈裟な、と思うかもしれないが、世界中のお偉いさんの名前を覚えるの割と時間がかかったからな。ミギーが一緒じゃないと思い出すのにも時間がかかるし。

 

『やはりわたしは副脳と定義した方が良さそうだな。イチローの持つ直感や虫の知らせという能力はわたしでは手出しできないが、思考能力や演算能力に関しては補助が可能らしい』

「本格的にAIみたいだね」

 

 取り敢えずパーティーとかではミギーを使うのが一番だという事が確定した。熟練度の問題もミギーはもう関係ないからね。

 何せもう熟練度がマックスになってしまったのだから。

 

 

 

『熟練度というよりは体を慣らすと言った方が良いかもしれない』

 

 話は少しさかのぼる。これは、最初にミギーと話し合いを行った時の彼の言葉だ。最初の会談(自分の右手相手に大げさかもしれないが)の時に俺達はまず一定時間で変身を解除する事を決め、この時間の中で彼に対して色々な質問を行おうとしたのだ。何せミギーは喋る魔法だ。俺の知識を前提にするとしても、今現在そこに在って考える事の出来る魔法という存在に聞きたい事は山ほどあった。

 

 念のために何時でも制圧できるように恭二と沙織ちゃん、一花に周囲を固めてもらい、ミギーに対して話をする上での幾つかの取り決めを話すと、彼は不思議そうな表情を浮かべてその取り決めに同意して俺たちの質問に答えてくれた。その際に、最初に一花が尋ねたのは熟練度という物についてだった。

 

 なぜ、使えば使うほどに機能を増していくのか。同じ魔法を扱っているはずがまるで成長しているように。そんな一花の質問に、ミギーは少し考えた後に答えた。そして、こうも続けたのだ。『成長しているのはわたしではなくイチローだ』と。

 

『まず前提としてわたし達右腕の魔法は、最初の変身、つまり基礎の段階で一つの魔法として完結している』

「……うん? でも、喋れなかったじゃん」

『それはそうだ。右腕だけあっても意志があるわけでもなければ思考できるわけでもない。脳という演算装置が無ければ人間とて物事を考えられまい』

「ごめん。意味わかんない」

 

 一花が強い口調でミギーに問いただす。この会談に臨むと決めた段階から随分と思い詰めていたが、ちょっと気負いすぎてるな。

 

「一花、落ち着け」

「……ごめん」

 

 俺の言葉に一花は一度目をつむり、そう一言詫びた。責任を感じているのは理解している。けれど、妹を思い悩ませる事になると、兄としてはやっぱり苦い思いになる。そんな俺と一花の様子を痛ましそうに周囲が見る中、空気を読まずにミギーは首をかしげてこう発言した。

 

『ふむ。つまりだ。右腕の魔法は最初の段階で完結している。それ以降は全てイチロー側のアクション。要は体の慣れから来る機能の追加だと言えば分かりやすいだろうか』

「……ちょっとまて。お前がしゃべってるのは全て一郎が行ってるって事か? そんな馬鹿な」

 

 恭二の言葉にミギーはちらりとそちらを向き、目玉を伸ばして頷くような動作を行った。

 

『わたしが喋ることが出来るようになったのは、右腕と脳を繋ぐ魔力のラインが出来上がったからだ。このラインを通じてわたしは脳の機能を学び、右腕の中にそれを模倣したものを魔力で作り上げた。元々わたしと視覚などの情報を共有できていたのだ。視神経から脳までの距離はすぐだぞ』

「お兄ちゃん! 今すぐ変身を解除して!」

 

 その言葉を聞いた一花が悲鳴のような声を上げる。魔力が脳まで繋がっている。つまり、ミギーは俺の脳に対して最も近い距離に居る異物という事になる。

 

『安心してくれ。私はあくまでイチローの魔力でできている。脳の複製に近い事が出来ようと私が脳になることは出来ないし、仮にそれを行っても魔力が生成できなくなりあっという間に消えて死んでしまうだろうさ』

「安心しろ一花。悪い予感はしないし、多分本当の事だと思う。逆にこっちからはちょっと弄れるっぽいけどな」

 

 わざわざ俺の頭を指さした後にしおしおと死んだマネをするミギーに不謹慎ながらも苦笑した。俺のイメージの中にあるミギーとここまでそっくりでなくても良いだろうに。それにイメージを切り替えたら急に男性ボイスに切り替わった。

 

『おいおい、わたしは君のイメージで出来てるんだぜ。君のイメージそっくりになるに決まってるじゃないか』

「それもそうか」

 

 ミギーの言葉に苦笑して、俺は声を女性ボイスに切り替える。つまり、俺にとってミギーというキャラクターの印象はこうなのだろう。最初に変身をした時は多用しすぎれば危ない予感がしたが今はもうそれもない。映画を見て漫画版よりコミカルなイメージがついたからかもしれないな。

 

 そして、それらの情報を踏まえた上で俺は一つの結論を得た。恐らくジャバウォックと祟り神は使えば災いを招くだろうな、と。

 

『まぁ、私は恐らくもうこれ以上の発展はあるまい。君たちの言葉でいうならば熟練度マックスというわけだ。後藤が居るなら話は変わるかもしれないがね』

「単独でのってイメージがある以上、これ以上は進まない。つまり発展する余地がないって事か」

 

 その言葉で俺はミギーに対する警戒心を完全に解いた。直感が嘘を言っていないと告げたのもあるが、彼の言葉を借りるなら、ミギーは言わば俺の信じた、俺のイメージした通りのミギーだ。それならば信じられる。俺のイメージの中のミギーは少し言葉足らずだったり機械的であったりするが、少なくともシンイチに対して彼が感じていた物は友情だったと俺は信じている。

 きっといい関係を築いていける。そう確信をもって、俺は左手でミギーの小さな手に握手を求めたのだ。

 

 

『自分で自分と握手するというのはどうかと思うぜ』

「言うなよ」




なおスタンさんは大変満足して帰りました。

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