奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百二十九話 ウチュウジン

『あー、テステス。ワレワレハウチュウジンダ。イチロー、この言葉に意味はあるのか?』

『様式美って奴だよ』

 

 何をしてるのかって? そりゃ勿論動画撮影だ。俺の活動の基盤はやっぱりこの動画撮影にあるからな。奥多摩から撮影班にも来てもらってミギーの紹介を行ってる。前に撮ったミギーの動画は何が出来るのか、という紹介だったが今回は俺とミギーの一人漫才をメインに撮影しようと思っている。その様子が寂しい? 喋る右手が相手だから寂しいなんて感じないよ。

 

「いや、見てるこっちが寂しいわ」

「うん。一郎くん、辛い事があるなら言ってね?」

「恭二、沙織ちゃんが結構エグい」

「こいつ天然だから……」

 

 撮影の合間に野次を飛ばす係として呼び出した恭二と沙織ちゃんが口々に好き放題言ってくる。特に沙織ちゃん。恭二は煽り半分茶々入れ半分といった具合なんだが、ガチトーンで心配されるとその、困る。

 

 俺と恭二のやり取りを不思議そうに見る沙織ちゃんにポンコツ可愛いってこんな路線なんだな。恭二爆ぜろ。と中指を立てて、休憩を終えた俺はカメラの前に立ちミギーと三分クッキングの撮影に取り掛かった。

 

 何故こんな事をしているのかというと、まぁ平たく言えばミギーのキャラクターを世間に定着させる為だ。

 

「予想よりも大分危険視されてるね」

「そこはむしろ予想通りだろ」

 

 カタカタとパソコンを触りながら一花はネット上の反応を見る。まぁ原作が原作だししょうがないんだけど。今までは形を真似ている位で済んでたのが喋っちゃったしな。

 

「今まで撮り貯めてる分を放出するタイミングが重要かな。どうせなら最高のタイミングを図りたいんだけど」

『苦労をかけるな』

「ホントにね!」

 

 一花の手元を覗き込むように回り込んでいたミギーにデコピンを一発入れて、一花は席を立つ。最初の頃は互いに(一花側が原因で)ギクシャクしていた一花とミギーも、ここ数日の間に大分落ち着いてやり取りが出来る様になってきた。

 

 ミギーと一花が喧嘩してると何だか兄妹喧嘩してるみたいで少しやきもきしていたから、これで大分気が楽になった。このまま仲良くなってくれれば良いんだがな。

 

 

 

 さて、動画を撮るのも立派な仕事だが、今回西伊豆に来たのは看護師さん達に冒険者としての教導を施すためだ。今回も200人近くの膨大な人数だが、地元の有力者の協力もあるし、今回潜る看護師さん達は事前にちょくちょく奥多摩に来ていた初期からの就職内定組だ。臨時冒険者の潜る階層とは棲み分けが出来ているので、スムーズな狩りが行える。

 

 地元の有力者ってのはほら。あれだ。佐伯某さん。何だかんだ名士の一族で、例の件は本人の暴走で方が付いたからね。西伊豆では変わらない影響力を持ってるし、それに西伊豆ダンジョンは妙蓮寺というお寺の裏手に出ているのだが、そこの檀家さんでもあるらしいからダンジョンの使用の際にある程度の融通を。例えば境内に休憩所を作らせてもらったりといった事も行わせてもらっている。

 

 この寺の住職である前田円丈さんはダンジョンオーナーの中では唯一、冒険者協会の設立前からヤマギシや冒険者協会に協力してくれている人で、西伊豆の冒険者組織の一応のトップになる。ただ、宗教法人であるために組織化等で苦労しているらしくヤマギシのノウハウを学ぶために結構な回数奥多摩に来てたりもする。ただ、ヤマギシの様に単純ではないのが、経営権を持っているのは住職なんだが、檀家の存在と宗派の本山というまた別の思惑を持った存在も考えなければいけないことだ。

 

 それぞれにそれぞれの欲があり、目的があるのだから、当然意見が纏まるわけもない。この状況が変わったのが、実は去年の佐伯某のダンジョン事件からだ。あの事件の犯人である佐伯はこの地の有力者の子息で、尚且つその家は妙蓮寺の檀家総代だった。つまり、去年の事件で檀家側で混乱が起きた為に3竦みが解消されたというわけだ。現在は足立さんを中心にじっくりと冒険者の育成と臨時冒険者の対応を行っているらしい。

 

「ただ、やはりどうしても……寺の敷地の中で殺生が行われているんじゃないかと考えると、心苦しいですね」

 

 ため息をつくように住職がそう言う。お茶を頂きながらその言葉に頷く。確かにモンスターを生き物だと捉えると、そう見えてしまうかもしれない。ただ、彼らは死ねば煙のように消えてアイテムを落とし、しかも暫くすれば成長した姿でまた歩き回るのだ。これを生き物と捉えるのは難しいのではないか。

 

「むしろ、生き物というよりも魔物。魔力で出来た物って認識の方が良いと思うんですがね。これみたいに」

『イチカ。わたしのお茶を返してくれ』

「お兄ちゃんのお茶でしょうが」

「実はどっちが飲んでも喉の渇きが癒されるんだよなぁ」

 

 これ呼ばわりされたミギーと一花のやり取りに住職が目を丸くする。申し訳ない、急に漫才を見せてしまって。

 

 住職にはこの後もミギーを何度か見せているのだが、この生き物だか何だか良く分からない物を見て住職もモンスターを生き物というよりそういう存在、魔に属するものだと認識する事が出来たようで、肩の荷が下りた様な、気が楽になったという風に礼を言われてしまった。つまりミギーは魔物扱い……いや、まぁあんまり変わらないか。恐らく魔物と似たような要素で出来ているのは間違いないしな。

 現地の協力も得て順調に看護師たちの教育も進んでいるし、この調子なら恒例の夏休みが今年も取れそうだ。去年は遊ぶ暇もなかったし、その分今年は楽しむとしよう。

 


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