奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第百三十話  人の振り見て

 待ちに待ったタイミングというか何というか。以前からヤマギシを敵視していた婦人団体を覚えているだろうか。女子高生の一花が襲われたのに何故かヤマギシ側を攻撃していた例の佐伯の推薦者達だ。最近名前を聞かないなぁと思っていたら何と今回、公式声明として魔法の危険性について長々とした声明を発表し、現在の魔法協会と政府をヤマギシの傀儡であると批判してきたのだ。

 この内容もまた面白い。ヤマギシは新規魔法技術を独占して寡占状態を作り魔法発電等の新規産業に自分達以外が入れないようにしている、不当に魔石の値段を釣り上げており、実質は更に十分の一程度の値段に収まるはず、と言った本当に調べているのか分からない内容の発言をし、かと思えば一部の優れた冒険者をもっと魔石確保に回すべき、と言った真面目な内容も含まれていたり、面白すぎて非常に判断に困る声明だった。

 

「つまり分かりやすく言うとヤマギシはもっと周りに利益を寄こせって言いたいんだよ」

「営利企業に儲けるなって横やりを入れてるわけだ。どんな思考回路してるんだろうね」

「しかも魔法は危険だって言いながらその次の言葉は独占を許すなだぜ。意味わかんねー」

 

 真一さんがニュースを見ながら吐き捨てる様にそう言った。独占状態に見えるのは純粋に一番深い階層に俺達が居るからで、それ以外のダンジョン関連の企業等も別に何もしていないわけではない。例えばテキサスの例の変人さんはブラスコの支援を受けながら魔力センサーの上限アップに熱意を燃やしていて、今では全世界のダンジョンに彼が作った魔力センサーが設置されている。

 他にもレベル20以上の冒険者が居る国ではチラホラと独自の技術やダンジョンの利用方法を考えている。どこの国かは言わないが、ある国何かはダンジョンに不燃ごみを投棄したら何日で消えるかという実験を真面目に行って自信満々に『2日でなくなりました!』と叫んでいた。ダンジョンの支配者も堪ったもんじゃないだろうな。

 

「じゃあ、良い感じに温まってきたみたいなんでそろそろやるか」

「OK」

「ああ。遠慮なく出しちゃってくれ」

 

 1週間ほど経過を見て、大方の話の流れが出来上がった時にそこに飛び乗るように出てきた今回の声明だが、実を言うと彼等がやらなくてもどこかが似たような事をやるんじゃないかなぁと予測されていたのだ。

 というのもヤマギシという企業は明らかに出来上がって数年の規模じゃない位に業務内容を拡大し続けており、それに対して割を食った相手というのはけっこうな数存在する。ならばそういった連中に今回の騒動がどう見えるのかというと、間違いなくチャンスだと見られるはずだ。

 

 仮に不利益を被っているような関係でなくても、一人勝ちのような状態の企業が近くにあればそれを妬ましいと思うのが人間だ。勝ち馬に乗っているはずのジャクソンですら、自分より順位が上の馬に乗っていたブラスコに嫉妬して騒動を起したのだから。

 西日本のどこかがこの騒動に合わせて独自の動きでもしないかなと予想を立てていたのだが、まさかこんな近場に暴発してくれる人間が居るとは思わなかった。

 

「じゃあ12時に合わせて一気に更新掛けるね。お兄ちゃんとミギーの漫才動画」

「流石にタイトルはもう少し捻ってくれよ」

「漫才で良いじゃん。事実だし」

 

 いや、まぁその通りなんだが。もう少しセンスのいい名前にして貰った方がやっぱり見られる側としてはね。一花君?

 

 

 

『なぁ、イチロー』

『静かにしろ。釣りってのは魚との真剣勝負なんだ。少し騒ぐと連中』

『わたしが手を伸ばして捕まえた方が早い気がするぜ?』

『……情緒って奴がだなぁ』

 

 数時間毎に連続投稿されるミギーの動画は、アッという間に大人気動画シリーズになった。何せ、魔法が喋っている。それだけでも今までにない斬新さなのに、この右手の話すことや動きがやたらとコミカルでついクスリと笑ってしまったりする。

 宿主? であるイチローとの掛け合いもまた面白く、これに時たま混ざるイチローの妹のイチカとミギーとの張り合いやキョージとの熱く下らない戦い等、普段はダンジョン内での戦闘をメインに扱う動画の多い1チャンネル(イチローのチャンネル名)では余り扱わない日常的なイチローの顔を見る事が出来て、日本国内だけでも数百万規模、全世界ならあるいは億に達すると言われる、彼の世界中のファン達に好評だった。

 

 そして、それだけの人間に好評だという事実は、当然世間の反応にも影響を与える。特に今現在話題の中心である存在だけにマスコミは敏感にその辺りの空気の変化をかぎ分けたのだろう。例の団体の公式声明後の2、3日の間はやたらとこの会見の映像を流していたのに、ある日からピタリと報道で触れられる事が無くなった。

 イチローの右腕の危険性を再三説いていたあるコメンテーターは、次の日からまるで昨日までのことを忘れたかのようにミギーのコミカルな姿に「思わず微笑ましいと思いました」と発言をして物議を醸しだしたりしていたが、まあこれは極端な例だ。大体のニュース番組などはミギーの動画が話題になっている、位の報道を行ってこの件は過去の事だと切り替えてしまった。

 特に誰にも望まれずにはしごを勝手に登った例の団体は、世間の注目を集めるだけ集めてお役御免とばかりにはしごを外されたわけだ。

 

「はしごに勝手に登ったんだからしょうがないよね」

「一花の時にもう少しマシな対応だったら、もう少しは考えてあげてもよかったんだがなぁ」

 

 彼らが何と発言してももうマスコミは取り上げる気もないのだろう。がらんとした会場で公式会見を行っている例の団体の代表の姿に哀れさすら感じて俺は画面を落とした。ネット上でだけ見れる彼らの公式会見は、この後彼らの団体が事実上の空中分解を遂げた後も残されており、度々ネット民に自爆の好例としてネタにされるだけの代物になったらしい。

 まぁ、結局閃光のように話題をかっさらって消えていったからなぁ。彼らのお陰でミギーに対して偏見のようなものがつかなかった事に感謝してそれ以降は手出ししてなかったんだが、本当に自分たちだけで内部完結して消えていった。人のふり見て、というが、ああいう風にはならないよう俺たちのチームも気を付けるべきだろう。


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