奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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新年度初投稿。今週もよろしくお願いします!

誤字修正。244様ありがとうございます!


第百三十三話 西伊豆合宿終了。

「ほいっと」

「ぐっ」

 

 足立さんが目くらまし代わりに放ったファイアボールをひょいっと避けて近寄り、腕を掴んで投げ飛ばす。互いにバリアとアンチマジックを張っている以上、下手な打撃も魔法も意味がない。そうなると最も効果的なのは衝撃を体に伝える事と絞め技になるわけだ。

 という訳でほほいっと投げ飛ばした足立さんの首に手を回したところで試合終了。まぁ、ライカンスロープ辺りは締め技も使ってきやがったからな。この辺りの対処法も覚えておいた方が良いという事で使ってみたが、存外綺麗に決まったな。

 

「あいててて」

「お疲れ様です」

「ああ、これは。ありがとうございます」

 

 足立さんに手を貸して立ち上がらせる。以前に比べて大分体の動きが良い。しっかりダンジョン探索に精を出してるんだろうな。彼にとってはこのダンジョンの筆頭冒険者という立場は勝手に転がり込んできたようなものだが、思った以上にしっかりと役目を全うしてくれているようだ。

 

「いやぁ。やはり歯が立ちませんでした」

「いやいや。以前に比べたら全然違いますよ」

「……そうですかね。ただ、毎日ダンジョンに潜って、戻る。それを繰り返しているだけなんですがね」

 

 そう言って足立さんは自嘲気味に笑った。ただそれだけの事でも、繰り返して行う事が重要なんだ。毎日ダンジョンに潜り続けるだけでも魔力は上がるし、間を置かずに戦闘を積む事は非常に重要な訓練になる。魔力が上がってもそれを使いこなせなければ意味がないのだから。

 そして、俺達が以前ここに訪れていた時の足立さんはそれだけの事が出来ていなかった。その結果、日本代表の教官候補生でありながら結局教官免許を取得する事が出来なかったのだ。

 

「次の教官試験。今の足立さんならイケると思いますよ」

「……ありがとう」

 

 少しだけ嬉しそうな顔を見せて、足立さんは頭を下げる。

 

「待ってます。奥多摩で」

 

 看護師さん達の合宿は昨日終わった。今日、俺達は奥多摩へと帰る。また会える時を楽しみに待つとしようか。

 

 

 

『まぁ、俺が奥多摩に居ないかもしれないんだけどね』

『いやいや。暫くは奥多摩での撮影だよ』

『あ、そういうんじゃなくてですね、はい』

 

 数週間ぶりに奥多摩に帰ってきたらまるで我が家のようにリラックスした様子でスタンさんが待っていた。何でも一駅前の辺りに即席の事務所を借りているらしい。まぁ例の撮影の為だろうな間違いなく。

 というか向こうの撮影は大丈夫なのかと聞くと、すでに一部が始まっているのだが、ゴーサインを出した後はスタンさんのような立場の人物は暇になるらしい。

 

『今回はカメオ出演は日本の方でになるからね』

『どこで出てくる気なんですか』

『勿論観光客さ。君のおじいさんと話をしたんだが、狩猟というのはやはり奥深いね。先週奥多摩の山を一緒に歩いてみたんだが、いきなり立ち止まったかと思うとパァン、だ。鹿狩りをこの年で、しかも生で見る事になるなんて思わなかったよ』

 

 来週は私もライフルを触るのさ、何十年振りかな! とエキサイトするスタンさん。思った以上に日本をエンジョイしてるぞこの爺さん。というかうちの爺さんといい老人共はダンジョンに潜ると血の気が多くなる仕様なんだろうか……あ、うちの爺さんは元々だったわ

 

 そんなこんなで話は進んでいき、俺の最初の撮影の日にちを知らされる。夏の盛りを過ぎて秋口から、撮影現場は今も拡張を続けている奥多摩の端っこの方を1区画丸々使ってセットを作るらしい。まず区画を作るというこのスケールの違いがハリウッドだなぁと思う。

 

『いや、これも実は魔法のお陰なんだけどね』

『そうなんですか?』

『ああ。まず建築の際にフロートを使うだけで安全性が段違いに上がったりするんだ。それにウェイトロスやウェイトアップは便利だからね。今までにハリウッドが行ってきた工事の総工費が4分の1くらいに圧縮できそうだと報告を受けているよ』

 

 4分の1って……ヤバくね? でもまぁそうか。重機とかも数が減らせるし、重機が減る分人も減らすことが出来るのか。持ち運べない重さの物も人の手で運んでいけるし、フロートがあればある程度の高さまで割と自由に動かすことも出来る……めっちゃ工事楽になるんじゃないかそれ?

 ヤマギシは完全にそっち側の需要を見てなかったからな。ちょっとこれは盲点だったかもしれん。

 

 スタンさんと軽く打ち合わせをした後に昼がまだだという事で一緒にラーメンを食べに行く……が、よく考えたら90代の人にラーメンって流石にヤバいよなぁと考えなおし声をかけるも代案にステーキを出されたのでそのままラーメン屋に突入。何かリザレクションを受けたら歯がまた丈夫になったらしい。すげぇなリザレクション。

 

 そしてスタンさんは何の躊躇もなくとんこつラーメンを選択。背油マシマシって大丈夫なのか心配になるメニューを美味しそうにペロリと平らげた時に俺はこの人の年齢について考えるのをやめた。マイナス60歳か。ドラゴンボールにでも願いをかけたのかな。

 

『さて、この後はダンジョンにでも繰り出そうか。ちょっとゴーレムとの取っ組み合いを見てインスピレーションを動かしたいんだ』

『俺が取っ組み合うんですね分かります』

 

 親指を立てて言い放つスタンさんに苦笑をしてさてダンジョンにでも行くか、とラーメン屋から出ると、見覚えのあるバイクがヤマギシビルに向かって走ってくるのが見えた。初代様だ。今日は都心の方に用事があると言っていたんだが、と思いながら手を振ると、こちらに気付いたのか真っ直ぐにバイクが俺に向かってくる。

 

「どうしたんですか。今日は確か映画の件で取材があったんじゃ?」

「ああ、取材は終わった。丁度いい所に居た。一郎、少し話したいことがある」

 

 深刻そうな顔を浮かべる初代様の言葉に、俺は首をかしげる。ライダー関連はもうしばらく予定が無い筈だ。思いつくものがない。

 ひとまずスタンさんに断りを入れて、俺は初代様とヤマギシビルの中へと入る。会議室開いてるかなぁ。


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