奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございました!


第百三十六話 噛みつきは流石に無理でした

「ふむ、そこはこう、だな」

「こう、ですか?」

「ああ、そうだ。花を包むようにイメージしてくれ」

 

 カメラの位置に気を付けながら、そう言ってS1さんは優しく包み込むように両手を組み合わせる。それを見ながら俺も同じように両手を組み合わせる。何をしているのかって? 

 そらライダー特訓だよ。これこそ撮影するべきだって事で撮影班も入ってもらって一連のやり取りを映してもらっているんだ。

 

 まぁ梅花の型自体は流石に架空の拳法だからS1さんが直接見せるってことは出来ないが、形に関してはやはり熟練の動きだ。特に人を魅せる動きに関して非常に勉強になってる。

 あと、最近の初代様を見てると割と梅花もイケる気がするんだよなぁ。魔法に最も重要な物はイメージだ。あるいはあの人は自身のイメージのみで仮面ライダー1号を作り出そうとしているのではないだろうか。先の電光ライダーキックを見るとそう思えてならない。勿論、悪い事じゃないがな。

 

 さて、アマゾンさん達が奥多摩にやってきてから2週間ほどが経過し、幽霊君とお化け君は無事に二種冒険者の資格を取得。役者としての仕事の傍らになるため纏まった時間を取るのは難しそうだが、彼らの予定が空いた時はその分厳しく。例えば20層に飛んで19層の敵に挑ませたりしてスパルタ特訓を行っている。

 

 この時は基本的にスパイダーマンを使ってウェブによる援護に徹底しているのだが、当初は1撃で刀を叩き折っていた幽霊君も刀の扱い方を学んだのか、連戦しても特に問題なく戦えている。元からそつがなかったお化け君とのコンビで10層までは二人で突破出来ている。時間と装備が許せば問題なくゴーレムも倒せるだろう上達は、この短期訓練の結果としては上等すぎるだろう。

 

 で、肝心のレジェンド二人なのだが。

 

「キキ~!」

 

 恭二に開発させた新魔法、アイアンクローを使って、変身したアマゾンさんが大鬼を素手で切り裂いていき。

 

「トゥ! ヤァ!」

 

 同じく新魔法、アイアンクローの応用版、というかこちらを先に作ったのだが、アイアンハンドを使ってオークを殴り飛ばすS1さん。勿論こちらも変身魔法は会得済みである。すでに10層まではこの調子で突破しているため文句なく二種冒険者の免許を取得。ただ、近接戦に寄った魔法の取得を行っているので教官免許に挑戦するにはこれからまた一花式ブートキャンプを行わないといけないだろうが……いきなり新魔法が出てきてびっくりしただろう。俺も驚いている。

 

「ああ、恭二君。これはいい、この魔法はとても良いよ」

「いえ。面白い発想だったので俺も勉強になりました」

 

 今回、初代様の代わりに恭二が付いてきてくれたのだが、全ての切っ掛けはこの恭二を魔法の生みの親として二人に紹介した事だった。何でも初代様のように何とか自分たちのスタイルを生み出すことができないか模索していたアマゾンさんとS1さんは、恭二に魔法を新規開発する事は出来ないかと相談をしたらしい。

 

 そしてそんな話を恭二にすれば「出来らぁ」以外の返事が返ってくることはまずないので、恭二はその日のうちに「こんな感じですかね?」と魔力の力場を両手に作り出すアイアンハンドを作成。喜ぶ二人に「じゃあ次はアマゾンさんですね」と言ってその場で変形魔法「アイアンクロー」を生み出し、手近にあった木の枝を指で切断してみせたのだ。

 

「今は両足の方も作成中。ただ、意識してないと維持できないからちょっと改良中だな」

「お、おう。そういった改良なら一花辺りに相談してみたら良いんじゃないか?」

「……そうだな。帰ったら聞いてみる」

 

 ポン、と手を叩いて納得する恭二に空恐ろしいものを感じて俺はそっと視線をそらした。こいつまたチート具合に磨きがかかっている。

 

 

 

「へき地医療・救急医療かぁ」

 

 実際にそうなんだが病院の公的な資料の文字で見たらやっぱり思う所はあるわけで。うぅむ。地元がへき地認定されている事に嘆けばいいのか、一応東京なんだがと憤慨すればいいのか。

 

 病院名は「社会医療法人翠嶺会・山岸記念病院」。8月の内には完成を迎えられそうという事だが、丁度その頃は沖縄に飛んでいるので俺と恭二、沙織ちゃんに一花の4名は式典に参加する事が出来ない。

 8月には病院スタッフの方々は正式にヤマギシ所属になり、ヤマギシと病院の職員合計で約1200名となる。勿論全員冒険者二種以上を持った冒険者で、これで俺達ヤマギシ社の人間が所属している日本冒険者協会は正式に全世界トップの二種冒険者持ちの協会になった。二位のアメリカとは倍は差がついている事になるな。

 

「二種冒険者が増えル、とても良い事デス」

『その分教官候補生が増えるわけでもあるしね』

「9月になっタラ教官候補生、また受入れデス」

 

 いそいそと水着を用意しながらケイティとウィルはそう予定について話す。着いてくる気満々なんだなお前ら。いや、良いんだけど。この二人、ちょっと前まで米国と日本を行ったり来たりで忙しそうにしていたから骨休めでもするんだろうが、つい最近まで飛び回っていたのにそんなに長期休んで大丈夫なのだろうか少し心配である。

 

『いや、そっちが終わったから次の動きまで今しか休めないんだよねぇ』

「テキサスの工場、正式稼働しまシタ。これからは魔石買取が本格化しマス」

「ああ、もう完成したのか。でも、今の状況で魔石を売るような奴が居るのか? 未だに毎日臨時冒険者のお姉さま方は毎日毎日ダンジョンに来てるみたいだし」

 

 俺の言葉にウィルとケイティは微妙な表情で互いを見合わせた。うん? 俺もしかして的外れなことを言ったのだろうか。

 

『イチロー、今現在1種冒険者は1万人以上存在している。彼らが売り払う数だけで相当数の魔石が毎日冒険者協会に引き取られているんだよ』

「魔石を全部吸収せずに半分は売り払う。それだけで生活できている人が多いんだよ。10層以下に行けない1種冒険者でもね!」

「よぅ、一花。恭二からの相談は終わったのか?」

 

 会話に参加するように一花がそう言ってテーブルに着く。先程まで恭二と新魔法について協議していた筈なのだが。

 

「うん。いやー、やっぱり新鮮な意見って良いね! 考えてみれば今まで初代様ってマジで拳で殴ってたんだね」

「それで怪我もしてなかったって事実な」

『日本人って時たま突然変異みたいな人が出て来るんだよねぇ』

 

 俺と一花を見ながらうんうんと頷くウィルとケイティにジト目を送る。割とお前らもその枠なんだけどな?


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