奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今週もお疲れ様でした!

ちょっと文章が乱れてたので修正。

誤字修正。、kuzuchi様ありがとうございました!


第百三十七話 in沖縄

「じゃあ、行ってきます。お土産楽しみにしていて下さい!」

「俺も行きてぇ」

「俺も行きたいなぁ」

 

 社長の言葉に合わせるように真一さんがぼやく。親子揃って同じ台詞を言わないで頂きたい。

 さて、季節は8月に入ってすぐ。夏季休暇という事でヤマギシの一部社員は長期休暇に入った。俺、恭二、沙織ちゃん、一花にケイティとウィルは連れ立って沖縄に行き、マリンバイクや船舶免許と言った免許講習と並行して休暇を楽しむ予定だ。今回は流石の一花も去年の様に1月丸々といった研修期間は流石に取れないので恐らく2週間位で戻ってくる予定だが、この半年は働き詰めだったしさっさと免許を取ってゆっくり沖縄の海を楽しもうと思う。

 

「でも、真一さん気の毒だね。式典に参加しないといけないから沖縄に行けないって」

「まぁ兄貴も理事だしなぁ。来週には完成するんだっけ、病院」

 

 悔しそうに手を振るヤマギシ親子をしり目に俺達の乗ったヤマギシSUVは出発。後半に休暇が入っている御神苗さんに空港まで送ってもらって飛行機に乗り、真夏の沖縄へと旅立った。これで3度目の沖縄だが、やはり夏の日差しがすさまじい。まるで目の前にファイアボールが迫っているみたいに肌を日差しが照り付けてくる。エアコントロールが無ければ日中は長い事歩けないな。

 

「夏だ! 海だ! 沖縄だー!」

「イエーイ!」

「イエーイ!」

 

 それにしてもこの高校生、ノリノリである。一花の掛け声にケイティとウィルがノリノリで乗っかると、出遅れた沙織ちゃんが「い、イエーイ!」とあちらのグループに参加しようとしてるが止めておく。ノリ切れなくてすごすご帰ってくるのが目に見えてるしな。

 

「早めにホテルにチェックインしよっか!」

「おお。空港出た瞬間に騒ぎ出したから周りからめっちゃ見られてるしな」

「てへぺろいてっ。ちょ、舌噛む!」

 

 ハメを外しすぎな小娘にチョップを食らわせて黙らせる。今年も一花は知り合いの所を回ったり離島を回ったりするらしい。今回は前半で免許取得を終わらせて後半の1週間は皆で一緒に過ごす予定なので、その知り合いも紹介してもらう事になっている。去年は散々迷惑をかけてしまったみたいだしな。

 

「所で、どんな知り合いなんだ?」

「一昨年、私たちにセクハラ仕掛けてきた馬鹿を〆たでしょ? あの時の被害者の一人だよ」

 

 ……ああ、潰しとけばいいのにって思った連中か。そういえばあいつら沖縄に居るんだったな。

 

「お兄ちゃん顔。顔!」

「うん、くるみを割るだけだよ」

「話が通じてない!」

 

 やいのやいのと騒ぎながらホテルにチェックイン。去年もお世話になった港の近くのホテルで、眺めもいいし何よりすぐ近くに凄く美味しいステーキ屋がある素晴らしいホテルだ。この暑さでステーキを食べるのかって? 暑いからこそ分厚いステーキで元気を出さなきゃいけないんだよ。早速食べに行こうぜ。行かない? あ、そう……

 

 

 

「喜屋武 杏子、14歳です! 一花お姉ちゃんには色々教えてもらってます!」

 

 一花の友人だという人は、合流場所の道の駅のフードコートでジュースを飲みながら待っていた。ご両親に小学生の弟さんと妹さん。そして杏子ちゃんという一花の友人の女の子の5人家族だ。

 

「……えっと。一昨年の何て言ってたっけ」

「痴漢被害者仲間」

「あいつらやっぱり潰しておくべきだったんじゃないか?」

 

 俺の真面目な言葉に珍しく一切反論せずに恭二がうなずいた。

 前半の週で俺達は特に問題なく小型船舶免許を取得に成功。併せてマリンバイクライセンスも取得した。意気揚々と一花と合流する為に北部に移動した俺達は、喜屋武さん親子と一緒に居る一花と合流して、そのままフードコートで食事をとり北部の水族館で観光を楽しんだ。

 去年、一昨年は北部までは来れなかったが、開発の進んだ南部とは比べることも出来ないくらいに海がきれいだ。日本国内だってひいき目もあるかもしれないが、ヴァージン諸島にもそれほど見劣りしてない気がする。

 

「妹さんにはうちの娘が本当にお世話になっていて。うちの娘があんな風に笑えているのは妹さんのお陰です」

「あ、いえいえこちらこそ。妹が迷惑をかけていないかもう心配で心配で」

「いえ、そんな事は決してありません。子供たちの前ではしっかりとしたお姉さんをしてくれていますよ」

 

 喜屋武さんの言葉に後部座席に居る一花をチラリと見ると、小学生の弟君や妹君の相手を微笑みながらしている一花の姿が見える。その姿は皆の妹分として振舞ういつもの一花からは想像できない、穏やかな表情だった。

 杏子ちゃんは例の事件の時、一花たちがナンパされる前から男達に無理やり連れまわされていたらしい。その様子を見咎めた一花が男たちに近付いて確認しようとした事から騒動が起きたという。

 

「あの事件の後、娘は塞ぎ込んでしまいました。怖かったのでしょう、大の男に力づくで連れまわされてしまったのですから。そんな時、沖縄を離れる前に妹さんがうちを訪れてくれまして。『早く気付いてあげられなくてごめん』と……それ以来何かと気に掛けてくれたようで。娘とも頻繁に連絡を取り合ってくれているんです」

 

 去年、再び会った時は一緒に離島を巡ったりしていたらしく、それ以降杏子ちゃんは以前のような明るさを取り戻したのだという。一時期は通えなくなっていた学校にも復学し、今は受験に向けて勉強をしているんだそうだ。

 

「貴方と妹さん……一花ちゃんの動画、特に一花ちゃんが出てくるものは必ず毎回チェックしています。娘にとって一花ちゃんは、ヒーローなんです」

「……」

 

 喜屋武さんの言葉を聞きながら、俺は静かにうなずく。いつまでも子供だと思っていたが。そんなイメージで接していたが、いつの間にか大人になって居たんだな。胸の中を誇らしさと少しの寂しさが駆け巡るような心地だった。

 

 喜屋武さん達の家に泊まらせてもらったり、離島に渡った時は現地の民宿を借りたりして俺達は沖縄での残りの日数を楽しんだ。ウィルやケイティは普段プライベートビーチばかりで混雑とは無縁のバカンスを送っていたので、普段とは何もかもが違う不自由さを楽しんでいるようだった。

 その隙を見て沙織ちゃんは恭二を捕まえて夕焼けの海でイチャイチャしていたし、恭二は朴念仁だったしと色々あったが、最後の最後まで沖縄を楽しみつくしたと思う。

 

「お姉ちゃん! また、また来てね!」

「おっけー! また来年来るね!」

 

 空港まで見送ってくれた喜屋武さん達に別れを告げて、俺達は空港内へと入っていく。帰りの便までは少し間がある為ラウンジで時間を潰そうという事になり、俺はこれ幸いと少し話がある、と一花を連れて席を立つ。

 

 ついて来ようとしたウィルは兄妹のローキックで黙らせてからラウンジの端の方へ行き、一花に頼んでエアコントロールを使って周囲に音が漏れないように結界を作ってもらう。こういう細かい作業は本当に随一の腕前だ。恭二は出来てももっと荒いからなぁ。

 

「……できたよ」

「ああ、すまん。急に悪いな」

「ううん。どうしたの?」

 

 そばにある椅子に座ると、隣に一花が座った。何と切り出せば良いのか迷う俺の顔を不思議そうに眺めながら一花はそう尋ねてくる。

 その顔を見て、決心が鈍る。出来れば聞きたくない。だが、聞かなければいけない事でもある。俺が一花の兄貴である限り、俺が聞かなければいけない事だ。

 

「本当はもっと早くに聞くべきだったな、って思ってる。お前はもう小さな子供じゃないし、考えも俺なんかよりずっと大人だ。だから、もっと早くに気付いてやるべきだったんだ」

「……お兄ちゃん?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべる妹の顔を見る。

 

「……なぁ、一花。冒険者を辞めたいって、思ってるか?」

 

 深く息を吸って呼吸を整え、そう尋ねる。

 一花の呼吸が、一瞬止まるのを感じた。


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