奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百三十九話 ウィルの主張

 前々から構想していた物の一つに魔法を専門に扱う大学という物があった。提唱者はケイティで、彼女は自身を助けてくれた魔法という力についてを研究し、広く世の中の為に使おうという思いから魔法を専門に扱う研究機関の設立が必要であると、それこそ初めて会った時から度々言っていた。

 

 その事を側で聞いていたウィルはこう思ったのだという。『魔法を研究するという事はその研究者たちも全てある程度以上の魔法を扱える。しかも現役の冒険者であることが望ましいのではないか』と。

 

 ただ最新の魔法技術を研究するだけなら現状のヤマギシの様に企業の研究でも構わないのだ。だが、ケイティの構想では魔法大学は広く魔法という分野を研究し、学問として発展させていく事を求めている。これは利益をどうしても追及する企業の研究では出来ない事で、ダンジョンに携わる人間としてもぜひ発展してほしい学問である。

 

『だが、ここで問題になるのは学生だ。この魔法大学は通常の大学よりも専門性の高い大学になる。当然要求されるハードルは高い』

 

 扱うものが魔法で魔力が必要になるものである以上、研究者だけでなく入学する学生も冒険者となる事はほぼ必須事項であり、それも出来れば早いうちから。しっかりと研究に携わる為には入学時点である程度の実力が望ましいだろう。それこそ二種冒険者以上の実力は欲しい。

 

「なら入学前に二種冒険者資格を取得するのを必須条件にするとか?」

『それでも良いんだけど、今度は地域差が問題なんだ。今の状況だと地域によって差が開きすぎる。ダンジョンの有る地域の子供と他の地域の子供じゃそもそもの難易度が段違いだろう?』

「まぁ、今の臨時冒険者の波が落ち着けば……ダンジョン近くに住む人が圧倒的に有利になるわな」

 

 恭二の言葉にウィルは頷いた。勿論ウィルの言っている言葉だけが完全に正しい訳じゃない。早い人では数日で2種まで到達する場合もあるし、ゴーレムを一体狩って魔石を吸収すればそこそこの魔力を身につける事は出来る。

 一花の体質が効果を無くすほど、となると少し難しいかもしれないが、短期間に集中的に訓練を受けて2種冒険者免許を取得する事は不可能ではない。例えば今も訓練中のライダー達が正にそれだからな。

 だが、そんな事はウィルも分かっている事だった。

 

『勿論、今のライダー陣のように短期的に訓練を施して実力を身に着ける事も可能だよ。僕もその口だしね……教官免許取得者さえ捕まえる事が出来れば誰にだってチャンスはあるはずだ』

 

 ウィルはそう言ってため息をつく。日米以外では先進8カ国に5人ずつしかおらず、最多の日本ですら20人前後しか居ない教官免許保持者……普通に考えても無理だろうな。

 

『現状、ヤマギシ以外でそんな飛び込みの相手に何週間も教官を張り付けられる組織はない。必然的にこの話は東京周辺。奥多摩や忍野が近くにあるこの辺りの話になる。二種免許保持者に限定しちゃうと他地域の学生は入学も難しいだろうね』

「それで、ホグワーツ?」

『はい。マスター! マスターの夢はこのウィル、全霊を持って応援させていただきます。ですが! マスターの指導を受けるなんてごほげふん。うらやぐぇぇ』

 

 げふんげふんと言い始めたウィルの脇腹を遠慮なくどつく。そういうとこだぞ? 一花が最近マスターモードにならないのはお前のそういうとこ見てるせいだからな?

 

『し、失礼しました。教師になりたいという夢は勿論応援しますが、その為にはまず生徒が必要。マスターの魅力に抗えるとは思いませんが、ある程度以上に専門的に魔力を身に着けている学生なら可能性はあるのではないかと思います。どちらにしろ魔法を専門的に学ぶ大学があるならその前提、魔法を身に着ける学校も存在するべきでしょう』

「ウィルが最後まで気持ち悪くなかったら頷いたんだけど」

『僕でも気持ち悪いよウィル。初めてダンジョンに潜った頃の君を思い出した』

 

 一花の口撃に怯んだウィルにまさかの同志デビッドからの追撃が飛び、ウィルは両手で顔を覆う。どうやらKOされてしまったらしい。

 まだウィルがギークっぽかった頃は、確かにいつも挙動不審で目がきょろきょろ周りを見てたもんな。薄暗いダンジョンの中でもあの感じだったんならむしろモンスターより怖いわ。

 

 だが、ウィルの言葉は色々極端ではあるが頷ける部分も多かった。地域格差って奴は確かに今まで考えた事がなかった部分だ。臨時冒険者の人たちはもう、何というか野宿してでもって位に気合入ってるし、奥多摩は何だかんだで雪で閉ざされたりしなければ交通の便はそこそこ良いからな。特に最近は街道を拡張工事したりしているから車も通りやすくなったし、青梅線の便数も去年より増えてる。

 

 奥多摩をホームにしている俺達だと、完全にダンジョンがない地域の人たちの事まで考えが回らなかった。俺達が用事がある場所は殆どがダンジョンがある場所か、ダンジョン関連の場所になるからな。

 

「ケイティ。割と今の話で頷ける部分が多かった気がするんだけど意見が欲しいな」

「イチロー? そう、デスね。通う人間に条件付けル、考えてませんデシタ」

「だけど必要な事だよな。魔法を扱う人は冒険者でなければならない。安全管理の為にも」

 

 俺の言葉にケイティは深く頷いた。去年の佐伯の件もそうだし、今年頭にあった警官訓練も。全て冒険者が魔法を扱う前提の話だ。冒険者として登録されている相手だからこそ俺達も危険な魔法を教えているし、国も管理下にあるとできるわけだ。当然学生たちは全員冒険者として登録する必要があるし、ある程度以上の実力は必須になる。魔法を扱えなければ話にならないしな。

 

 俺の視線を受けて目をつむってケイティは考え始めた。彼女に皆の視線が集まる中、俺は再度ウィルの脇腹を叩いて正気に戻す。この状態にした本人が放心していたら意味がないからな。痛い? 抗議は後で聞くからとりあえずお前もしっかりケイティの話を聞け。

 

 ケイティは数分目をつむって考え続けた後、口を開いて翻訳魔法を唱える。そして目を開けて俺を真っ直ぐに見た。

 

『……時期が来たと、判断しました。今日の話も踏まえて、冒険者協会の今後の方針を固めたいと思います』

「わかった。なら俺達は日本冒険者協会に話を通して……総理にも伝えるべきですかね、真一さん」

「ああ。交渉の際は俺が前に立とう。ヤマギシにとっても基礎分野の研究を行ってくれるのはありがたいからな」

 

 互いに言葉と視線を交わして、頷き合う。ケイティは自身の理想の為に、真一さんは会社の利益の為に。そして俺は……まぁ、妹の為に一肌脱ぐくらいは良いでしょう、結城さん。

 発熱で頭がぼうっとするが、表情には出さないよう努めて俺は右手で一花の頭を撫でる。心の中でそう問いかけても右腕(結城さん)は何も返してはくれない。

 

 けれども、何故か笑っているような気がした。

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