奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、龍の香草焼き様、所長様ありがとうございます!


第百四十話 総理との会談

「成る程……お話は理解しました。それが必要な事も」

「お忙しい所申し訳ありません。内容が内容ですので早目にご相談したくて」

「いえ、むしろこちらからお礼を言うべき案件です。世界初の魔法研究機関と魔法教育機関。どちらも冒険者発祥の地である我が国が作るべき物でしょう……米国に先を越されたら、国会で何を言われるか」

 

 首を竦めるような総理の仕草に苦笑が漏れる。元々の発案がケイティだから、米国が先に作っても可笑しくはないからな。

 日本としては現状のアドバンテージを崩したくないのだろう。一昨年の災害以降、一時は落ち込んでいた日本の景気も魔法技術というカンフル剤により劇的に改善された。その為、政財界は魔法分野では常に先んじている現在の立ち位置を崩したくないのだ。ヤマギシの魔法開発の特許取得を優遇しているのはこの辺りが理由になる。

 

 総理は一度関係省庁と相談をしてみなければと慌ただしく席を立ち、特に都心に用事もなかった真一さんと俺は官邸から車を用意してもらって奥多摩に戻る。予想外に感触が良かったな。

 

「まぁ、元々冒険者の専門学校は必要だと言われていたからな。それが臨時冒険者制度によって一時的に立ち消えになってたけど、そっちもそろそろ落ち着きそうだし。政府側も何かしら考えていたんだろうさ」

「専門学校じゃなくて大学、更に付属の教育機関までってのは驚いてたみたいですがね」

 

 総理が一度関係省庁と、というのもそれが原因だろう。あの慌ただしい姿を見るにすでに文部科学大臣には連絡をしているかもしれない。

 政府側としては、恐らく学校と言っても冒険者を専門に養成する訓練校のような物を想定していたはずだ。勿論結果として冒険者が増える事は変わりない。

 

 だが、今回持ち込まれた話はその想定を大きく飛び越えて、魔法に対する技術の研究と進歩に主目的をおき、魔法技術を専門的に研究する機関を作るという物だった……これらは現在の政府の方針とも一致するし、何よりも手をこまねいていれば米国が全てを持っていく可能性が高いというのも優先順位を跳ね上げているんだろう。

 

「所で……頭大丈夫か?」

「唐突に頭がおかしいみたいに言わないでください……いえ、もう切り替えたんですがまだ痛いですね」

「わかった。リザレクション!」

 

 真一さんのリザレクションが俺の体を包み込む。最近は大分使える時間が伸びたんだが、やはりライダーマン変身は頭が熱くなってしまう。

 だが、以前は5分で頭がズキズキと痛んだのに今は30分は持ちこたえる事が出来る。進歩している実感があるのは良い物だ。

 

「そう考えれば全国の学生垂涎の能力だよなぁ」

「使いっぱなしにした時の地獄の頭痛を経験したらそんな事言えないと思いますがねぇ」

 

 俺の言葉に真一さんは笑って首を振った。いや、本当に辛いんですよ。マジで。

 

 

 

 さて、魔法学校についての話は静かにスタートした。

 学校法人を立ち上げる事になるだろう話はやはり一朝一夕で終わる事ではないのでこちらは少しずつ進めていくとして、実は俺達ヤマギシの主要メンバー、特に沙織ちゃんにとって重大な出来事が待ち受けていた。

 

 沙織ちゃんの弟が生まれたのだ。病院は開院したばかりのヤマギシ記念病院で病院開院以来初の患者であり、初めての出産、初めて生まれた子供、と初めて尽くしの彼の名前は「恭太」。恭二から一文字貰ったらしい。

 

 沙織ちゃんなんか大はしゃぎで毎日弟の顔を見てトロけてるし、恭二も恭二で自分の名前を分け与えた恭太を可愛がってる。しかし……あれだな。下原一家は家ぐるみで恭二の取り込みに来たのか。

 

 あ、恭太の誕生ですっかり薄れていたがヤマギシ記念病院も無事に開院した。世界初の魔法治療病院ということもあって注目されてたのもあるんだが、開院式にはなんと、皇太子殿下からもお言葉を賜ったり、総理や官房長、厚生労働大臣、都知事なども参列してくれたらしい。その当時は俺達は沖縄に居たから直接見ることは無かったが、社長なんかお声がけを貰ったらしく人生で一番緊張したとかボヤいていた。

 

 後はブラス家のメンバーも参加してたらしい。スケジュール上今回は会う事が出来なかったが、再来月にテキサスにも病院が出来るらしいからそちらの開院式には来てほしいと言われたので勿論了解をしておいた。

 

 むしろ今年の冬から暫くアメリカに渡りっぱなしになりそうだから、そのまま向こうで過ごすのも良いかもしれない。というのも、今年の秋には教官訓練が予定されていたんだが、これについて俺はほぼノータッチになるからだ。

 

「今年の教官訓練では、各国の教官たちが主体になって新たな教官を育成する、という事で良いんだな?」

「ハイ。ヤマギシチームは合否判定をお願いしマス」

『前回と違って人数も莫大な数になるしね。全体をムラなく見るのは幾らヤマギシでも手が足りないだろう』

 

 今年頭に行った警官隊のようにある程度対人に限定した教育なら兎も角、ダンジョン内部で活動する冒険者を育成するための教官免許は、当然審査も厳しく行わなければいけない。審査する側も出来る限りの体制を整えなければならないし、ここでトチってしまえばそれは即人命につながる危険性がある。

 それに、各国の教官たちにとってもこの訓練は大きな意味がある。

 

『ここである程度以上の成果を。例えば最短で受け持った候補生たちが全て免許を取得したりすればそれは大きな実績になる。その国にとっても、その教官にとってもだ』

「各国の冒険者にとって明確な実績を示す良い機会って事か」

「後は、イチカの弟子として恥ずかしい事できナイ、皆思ってマス。それに教官増えれバ負担も減る。身動きができやすくなれば、スカウトにも応じやすくなりマス」

『僕や御神苗みたいに出向から正規雇用って道もあるからね。皆必死だよ』

「こっち見んな?」

 

 全員の視線が一花に集まるという不思議な状況でその日の会議は終了した。そういうところが一花が宗教って言葉を嫌いになる原因なんだがな。


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