奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百四十一話 文化祭前

 学校の件が少しおかしな事になっている。というのも、俺達が提案した魔法学校……俺達は中高一貫で通常の学習の他に魔法を学び、卒業時には二種冒険者免許を取得し……といった内容の物なんだが、どこから話が歪んだのか専門学校を先に作ると勘違いをして文科省以外の省庁、それこそ総務、防衛省に警察庁と言った普段は仲良く接している方々や、厚労省みたいに普段は少し距離感がある所まで鬼気迫る表情で詰め寄ってきたらしい。

 

 専門学校を作って、という声は以前から上がっていたしそちらも着手しなければいけないとは思うんだが、正直そっちに回すリソースは今は完全に臨時冒険者の方々に取られているんだよな。今年の教官訓練で教官免許所得者が数十名増える予定だからそちらの受け入れ先としては良いかもしれないが、少なくともヤマギシは魔法大学と魔法学校の準備で手いっぱいになる。これらも数年越しの計画で動いているんだ。一花が大学を卒業した頃合いに間に合えば良いんだが。

 

「のんびりして良いんだよ? 私の我儘だし」

「良いんだよ。どっちにしろ必要なんだから大人しく我儘聞いてもらっとけ」

 

 一花の先導に従いながら学校内を歩く。初めて見る学校の中ってのはこう、ワクワクするもんだな。文化祭準備中で所々段ボールやら絵具やらが散乱しているが、これもまぁ祭りの匂いを感じさせてくれるんで個人的にはグッド。文化祭か……最後の文化祭からもう3年経つのか。月日は百代の過客って言うが本当にあっという間に過ぎ去っていくもんだ。

 

「おお、これはこれはようこそ御出で下さいました」

 

 一花の通う学校の学園長さんは俺みたいな若造相手なのに随分と丁寧な対応を返してきた。お偉い人との挨拶の時は結構な割合で若いからって上から目線で接されることが多いんだが。ぺこりと頭を下げてから勧めに従ってソファーに腰掛ける。

 

「私共の学校はその性質上芸能関係のお子さんが多く通われていますからね。若さに惑わされて大問題、なんてのもあったりするんですよ」

「はぁ。大変なんですね」

「大変です。しかも、なまじ実力や人気があったりするともう目も当てられない。あっという間にモンスターの出来上がりです。正直言いまして鈴木さんが入学してくれたお陰で昨年と今年にかけては随分助かっているんですよ。もし居なかったらと思うともう」

 

 首をすくめるように冗談めかした態度を取る学園長の姿につい笑みが零れてしまう。今までに接した事の有る芸能関係の人は割と自制の出来る人が多かったが、やはり子供のまま人気者になった人は色々と周りも大変なんだろう。俺にとっても他人事ではない内容だし、よく覚えておこう。

 

「それで、俺は具体的にはどういった事をすればいいんですか? 魔法を用いた警備についての相談と伺っていますが」

「はい。これは父兄の皆さんにお願いしているんですが、当学園はその性質上、厳重なセキュリティで守られています。しかし、学園祭の際はどうしても外部の方を招き入れる事になりこのセキュリティも万全とは言えなくなってしまいます」

「ああ。まぁ、しょうがないですね」

 

 内部に部外者が居るとなると人員的にどうしても目が届かない場所が出てくるだろうし、そこは仕方ないだろう。しかし、例年問題なく対処出来ていたのならば態々新しい手法を取り入れる事も無いんじゃないかと思うんだが……一花が話を聞いて止めていないという事は何か問題があるという事か。

 

「実を言うと。これは……我々の怠慢と捉えられても仕方がないのですが……私どもの警備員に冒険者が居ないのです」

「……はぁ、なるほ、ど?」

「つまり、仮に魔法が使える人が入り込んだら止める手段がないって事だよ」

「それと、芸能関係の人間は魔法が使えるようになっている人も多く……学内の人間は一花さんが睨みを利かせてくれているのですが。外部からの人間とトラブルになった時に仲裁に入る事すら出来ないのです。お恥ずかしい限りですが」

 

 一花の補足にああ、と合点がいった。というか睨みを利かせてるって。もしかしてうちの妹はスケ番なんだろうか。子供の頃はヨーヨーとか好きだったしな。

 

「普段は危ないと感じたら即通報か私に教えてって言ってるんだよ。連絡来たことは無いけど」

「基本的に通報で対応する予定です。避難の時なら兎も角、生徒に頼るなんてマネはする気はありませんので。それに、これまで幸いな事に魔法を使ってくるような不審者は居ませんでした。勿論早く警備員の方にも冒険者講習を受けさせたいのですが、冒険者協会に問い合わせてもどこのダンジョンも依頼出来る状況じゃないらしく……」

 

 まぁ、日中はほぼ臨時冒険者の講習で初心者用の階層は使われてるからなぁ。しかし警備の人が魔力持ちでないとなると確かに厳しいものがあるか。ある程度以上の人たち、それこそ政治家や大企業のSP何かは恐らく魔力持ちが多いんだろうが、ここみたいに民間の学校が、となるとそりゃ難しいだろうな。魔石は高いし割り込めるような伝手もないだろう……いや、一花が通っているなんて最高のアドバンテージがあるんだ。顰蹙を買うのを恐れてるのかな?

 なら勝手に警備員を鍛えるなんてやってもそれはそれで問題があるのか。

 

「お話は分かりました。父兄として出来る範囲の協力はさせてもらうつもりです。それで、結局俺は何をすれば?」

 

 俺が笑顔で頷いたら、学園長は笑顔で、一花はニヤリと笑って俺を見た。ん? 何でかちょっと心がザワっと来たぞ?

 

「ありがとうございます! それでは今度の土曜は警備の方を」

「この格好でやってね?」

 

 久しぶりに見る満面の笑みを浮かべた一花は、手に持った衣装の書かれたイラストを俺にずいっと差し出した。

 おっと一花さん。このパターン久しぶりですね。もしかしてこれでストレス解消とか考えてないよな……こっちを見なさいマイシスター。お兄さん怒ってないから。

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