奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、Lynn様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百四十二話 文化祭

 文化祭の当日。会場となった学園入口では祭りの熱気とはまた別種の、戸惑うようなざわめきが広がっていた。

 会場となる校内へ入る為の出入り口である校舎の門前に、一人の男が立っているからである。

 

『チケットを拝見します』

「あ、はい」

 

 列に並んだ女性にそうにこやかな様子で……サングラスに阻まれて表情は見えないが……話しかける外国人らしい男は、手渡されたチケットと名簿を確認して頷くと、『ありがとうございます』と一礼をして校内へと通した。

 芸能関係者が多い学園であるから納得の警備体制であるが、このざわめきはそんな事で起こっているわけではなかった。

 

「あれ……」

「うん、間違いない」

 

 黒スーツを着た黒いサングラスを着た男性の姿を眺めながら来場した客たちは皆同じ言葉を口にした。

 エージェントスミスが居ると。

 

 

 

『いらっしゃいませ』

「あ、どうも」

『何かお探しですか?』

 

 キョロキョロと周囲を見渡しながら歩く男性に黒いサングラスをした男が話しかける。外国人に話しかけられたと思った男性は思わず及び腰になったが、言葉が日本語に聞こえる事と左腕にスタッフだと示す腕章があった為に安堵したように息を吐いた。

 

「あ、あの。近くにトイレがないかと……その」

『トイレならこの廊下の突き当りを左に曲がればすぐです。ご案内しましょうか?』

「あ、いえ……ありがとうございます」

『混んでいる場合は階段を移動すれば別のトイレがあります。それでは』

 

 一礼をして黒いスーツの男は離れて行った。どうやら彼は見回りを行っているらしい。男性はそう言えば入場した時に同じ人物にチケットを確認して貰ったな、と思い出し交代したのかと自分で結論をつけ、トイレへと急いだ。

 

 また別の所では迷子になった子供の前で途方に暮れるように周囲を見渡して親を探すエージェントスミスが。そしてそのエージェントスミスに応援に向かうエージェントスミスの姿もある。

 

 途中から来場客達も何か可笑しい事に気付いた。何せ彼等は一様に同じ対応と声音で話しかけて来るのだから。しかし非常に親切な対応を取る彼等に少しづつ不信感が減っていった時、その事件は起きた。

 

 

「きゃああぁ!」

「へっへへ…ま、まこちゃんが、こ、こんなに近くに!」

 

 ジュニアアイドルの少女がクラスの出し物の売り子をしている時に、不審者に絡まれるという事態が起こった。不審者は大柄な男性であり、間に入ろうとしたクラスメートの男子を押しのけて今にも少女に襲いかかろうとしている。

 周辺にいた来場客が騒ぎ警備員を、と誰かが叫んだ時、その男は来場客達で出来た人の壁を避けるように『本物の壁』を走って騒ぎの真ん中へと飛び込んだ。

 

 跳躍した男はクルリと空中で前回り回転をしてスタン、と着地をすると何事も無かったかのようにスタスタと。呆気にとられたようにこちらを見る男と少女の間に体を入れ、少女を庇う様に男と向き合う。

 

『お客様、学生への手出しはご遠慮願います。詰め所までご同行頂けますか』

「な、なんだ……あんた」

『ご同行頂けますか?』

 

 有無を言わさないその迫力に男が一歩後退った。だが、男も簡単に諦めがつかなかったのか、右手を握り締め警備員らしき金髪の男に殴りかかった。背後に少女を庇っている以上避ける事は出来ない。少なくとも体格に勝る自身なら体勢を崩す事も出来る。……と男が考えたのかは分からないが。

 確かに男の拳は金髪の男性を捉えた。振り下ろす様に殴りかかった右拳は避けようともしない金髪の男性の左頬を捉えて、撃ち抜こうとして出来なかったのだ。野次馬達の悲鳴があがり、そして困惑の声に切り替わる。

 

 強い手応えを感じた男は笑みを浮かべていた。だが、その笑みはすぐに驚愕へ、そして恐怖に歪んだ。彼の視界には自分の右拳を顔に受けながら少しも見動きすらしていない男の姿があったからだ。

 

『こちらの要請にお答え頂けないようですので、実力行使をさせて頂きます』

「……ひっ、ひぃ」

 

 怯えたように逃げ出そうとする男が振り返ると、そこには先程まで自分と向かい合っていた男が一人、二人、三人。男を包囲するように立ち塞がっていた。目をぱちくりと動かし、壊れた機械のようにゆっくりと先程自分が殴りかかった男を見る。

 首をグキリ、と動かしてこちらに手を伸ばすエージェントスミスの姿が目に入った時、男は余りの恐怖にそのまま意識を飛ばしすのだった。

 

 

 

「つまり大成功という事で良いんじゃないかな」

「良いわけあるか」

 

 失神した男を救護室に叩き込み、俺は運営本部に戻ってきた。まぁお察しだと思うがさっきのスミスの中身は俺だ。

 ちなみに他のメンバーはウィルやデビッド、それにマニーさん達の英語が出来るメンバーだ。翻訳魔法を使っていても英語が母国語の人はきっちり英語で聞こえちゃうからね。念の為に、一花と二人で頼み込んで彼等には動いて貰った。

 

「お。でも予想通りの反応が出てるよ。ほらつぶやいたーで」

「んー、納得できん」

 

 一花の携帯を見ると、つぶやいたーのトレンドに早速エージェントやらスミスといった単語が並んでいた。まぁ別にスミスと名乗った訳ではないので厳密には違うんだがな。あっちほど髪の毛薄くしてないし。

 

「エージェントスミス自体も元ネタはあるからね。ただのコスプレみたいな物だけど一応仁義は通したし大丈夫じゃないかな?」

「スタンさん、ワーニーブラザーズに喧嘩売ってなきゃ良いんだけど」

 

 こんな事やるよ、と言った時は第一声が『何で!? ズルい!』だったけど今回のコンセプトを説明すると理解を示してくれたし、穏便に済んでいると思いたい。

 

 今回、全員が同じ顔、同じ声(これは一花に変声をかけてもらった)で警備員として学内を一線級の冒険者に見回って貰った。因みに普段働いている警備員の方々も同じように変身をして貰っている。

 

 これは、この姿の人間が見回っているという事を印象付ける為のものだ。実を言うと先程の男の騒ぎが無かったら似たような形でサクラが騒動を起こす予定だったのだ。そしてそれを質と数の暴力で鎮圧してアピールを行う予定だった。まさかの変質者出現でそのプランは必要なくなったが。

 

「せっかく昭夫君にも来てもらったのに」

「いや、昭夫君とマトリックスやらなくて済んで良かったわ」

 

 因みにそのような状況になってたら割とガチで動く予定だったので学園長がほっと息を吐いているのが見えた。

 何故こんな面倒な事をしているのかと言うと、来年以降の布石の為だ。はっきり言えば冒険者不足は暫く続くのが確定している。その為、この学園の警備体制を一気に変えるというのはかなり難しい。精々が来年までに一人か二人、一級冒険者になれれば御の字位だろう。

 

 そして、そんな状況で何故か頼みの綱になっている一花が卒業すれば目も当てられない。

 という事で学園長から相談を受けた一花は、ストレス解消のついでとばかりに正体不明の敏腕警備集団『エージェント』を登場させ、来年以降も大きなイベントの際には警備員を彼等の姿に変装させる事で抑止力的な効果を狙ったのだ。

 

 一人か二人は何とか教育に組み込む事が前提になるが、そこはヤマギシ社員である俺達なら簡単な事だしな。これが全員を、となると余所から嘴を突っ込まれるかもしれんが、一人二人なら個人的友誼とかでゴリ押し出来るだろう。初代様の例もあるし。

 

「さて、お兄ちゃんはこれから暇だよね?」

「ああ。俺の当番は終わったけど」

「なら昭夫君も誘って学祭回ろうよ。真一さん捕まらなかったし」

 

 あ、はい。キープ君ですね、分かります。え。可愛い子紹介してくれる? マジで?

 

 ……もしもし昭夫君?




カスタムキャストで男キャラも作れるようになってたので鈴木兄妹と山岸兄弟を作ってみました。(山岸兄弟は書籍版のイメージで作ってます)
人物紹介にあるので小説を読む際のイメージに役に立てばありがたいです。
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