奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百四十五話 最後の一人

 ヤマギシビルの大ホールに続々と各国の代表が入場してくる。国家の代表は予想通りというか、前回の教官訓練で各国のリーダーを務めていた面子だ。

 

 懐かしい面々が顔を見せてくれる中、最後に現れた日本の面々はかなり驚きの構成だった。まず、教官の二人は予想というか知っていた通り御神苗さんと昭夫君なんだが、日本側の研修生の代表が足立さんだったのだ。

 

「おい、知ってたのか」

「いや、聞いてない」

 

 恭二と小声でボソボソ話している内に後のメンバーも入ってくる。見知った顔としては京都のダンジョンオーナー一族のお嬢様二人と、昭夫君の元で訓練を受けていた二種冒険者、それと……まぁ、確かに実力的に来るだろうと思っていたし足立さんが居るのなら彼を呼ばない理由はないだろうが。

 

 やたらとオドオドとした様子で最後尾を歩く小男の姿に俺達ヤマギシ組は苦笑を浮かべる。彼の名は根津 吉兵。御神苗さん達と共に訓練を受けた元教官候補の一人で、足立さん達と共に実力不足で研修を終えた三人の一人だ。

 

 

 

「ネズ吉さん、お久しぶりです」

「臨時冒険者の際は色々助かりました」

「あ、そのぉ、ご無沙汰してて申し訳ありません、はい」

 

 へこへこと周りを見回しながら頭を下げる根津の姿に再び周囲が苦笑を漏らす。ネズ吉というあだ名は前回の教官免許試験の時に彼のちょろちょろとした動きと名前の響きから佐伯が呼び始めて、気付いたら定着してしまっていたあだ名だ。普通は嫌がりそうな響きなんだがむしろ大喜びでその名前を受け入れ、以来何故か彼は佐伯を信奉して腰ぎんちゃくになったという不思議な感性の持ち主だ。

 

 まぁ流石に佐伯が逮捕された際に正気に戻ったらしく、臨時冒険者の件で彼に連絡を取った時は頻りに「マスターは大丈夫か?」とか「同期として本当に申し訳ない」とか佐伯が行った犯罪について、被害者である一花の安否をひたすら気にしていたので俺としては含むところはない。

 

 昭夫君に悪口を言っていた件も、佐伯と別れた後にすぐ昭夫君に連絡を入れて謝罪していたらしいしね。場の空気というか、佐伯に追従してしまって申し訳ないって。まぁ、見た目と言動通り非常に憶病な人なんだな。この人は。

 

 さて、そんな憶病な根津さんが何故この場に居るのかというと、実は今回に関しては実力で選ばれたのと、少し特殊な立ち位置に彼が立っていることが原因だ。

 根津は前回の試験で不合格になった後、北海道の夕張ダンジョンに戻ってそこでずっと活動をしていた。昭夫君が日本最南端の冒険者だとすれば彼は日本最北端の冒険者な訳だ。勿論教官免許保持者の昭夫君とは実力的には大分差があるが。

 そんな彼が何故今回もまた選ばれて来たのかというと……

 

「あのぉ、所で……一郎さんはいつの間に茶髪になられたんですか?」

「………おお、マジか」

「うーん、興味深いねぇ」

 

 俺は現在スパイディフォームに変身を被せて黒髪に見せている。周囲には普段通りに黒髪に見えている筈なのだが、その変身を突破して彼は俺の本来の姿を見定めているらしい。

 

 これが彼が呼ばれた理由の一つ。どうも根津さんは変身などの姿を誤魔化す魔法を見破る事が出来るようなのだ。勿論ビデオ等で映っているものを見破るという事は出来ず直接見た物だけになるし、本人曰く目で見ているというよりは体全体で感じる、という形になるらしい。要は感知が進化しすぎて別物になったようなもの、らしい。

 

「実際普通の感知ならどれ位分かるの?」

「えぇと……他にはこの会場内の人の体温とか……一応医学生なので、体調の良し悪しまでなら、何とか……分かるかと……」

「パねぇ」

 

 そう。この人、どうも特性に目覚めたらしく、しかもそれがこの超探知特化だったのだ。ダンジョンだろうが屋外だろうがお構いなしというレベルの。

 勿論この能力が発覚した段階で冒険者協会としては彼の囲い込みに走っている。何せ日本人4人目の特性持ちで、しかもこれまでと違いヤマギシチーム以外の存在なのだから。

 

 また、後輩冒険者の教導という意味でも彼は貢献している。彼自身の戦闘能力はお察しの通りそれ程高くないのだが、石橋をひたすら叩く形式で如何に効率よく相手を倒すかに知恵を絞っているらしく、彼の元で1種冒険者をやっている面々は1層から10層までとはいえ非常に優秀な成績を……それこそ免許持ちが居ればすぐに2種免許試験に合格できる位に鍛え上げられていたらしい。

 

 今回の研修にも数名、夕張ダンジョンの冒険者が来ているらしいから、協会側としても彼の育成能力は評価しているらしい。足立さんとは違った意味で立場が成長を促したタイプなんだろうな。

 

「い、命優先という……教官方のお言葉は、ずっと胸に刻んで、おります……私、感銘しました……またお会いできて、光栄です」

「あ、うん。まぁ……よろしくね」

 

 恭二の手を握ってぶんぶんと上下に振り回す根津さんに恭二も曖昧な笑みを浮かべる。これで影響されやすい所さえなければ非常にいい人なんだが。

 彼には足立さんと一緒に教官免許試験を初めて受ける人たちを同じ立場からサポートしてもらう事になる。勿論前回のやらかしを覚えている面々、それこそケイティや各国の教官陣からは懸念の声が上がったが、足立さんと根津さんは日本入りした各国代表の宿舎を回って、迷惑をかけた同期の教官たちに一人一人頭を下げて回ったそうだ。

 

 前回迷惑をかけてしまってどの面下げてと思われるのは承知の上だが、自分たちのような研修生がまた出る事を未然に防ぎたいのだ、と。

 

 勿論懐疑的な目で見られているのは変わらない。だが、足立さんの変化や根津さんの成長を知る身としては彼らに期待したいと思っているのも確かだ。この研修に参加した冒険者たちが今度こそ全員合格出来ると良いんだがな。

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