奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百五十話 地獄大使、入院する

「今日は、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 TVカメラを引き連れてくる地獄大使さん。何故か病院の制服を着て案内役を任された俺は、病院のスタッフと一緒にTVカメラや地獄大使さんに施設の説明や案内を行っている。一応このヤマギシ記念病院にも籍を置いているからという事なんだが、多分社長と理事長と真一さんが嫌がったんだろうな。例の西伊豆の件以来、あの人たちマスコミに押しかけられるの嫌いだから……

 

 さて、今回地獄大使さんが訪問しているのは何もTV番組だけが問題ではない。たまたまTV局ですれ違った初代様と、世間話がてらどうも最近調子が悪いとぼやいたらしい地獄大使さんに「なら良い病院を紹介する」と初代様が言い、社長に話が行ったのが切っ掛けだった。

 あっという間に理事長に話が行き、そういえばちゃんとした紹介は行っていなかったな、という事で今回はとあるTVの制作会社に依頼して紹介番組を作って貰う事になったのだ。基本的には有料のドキュメンタリー専門のチャンネルで流すそうだが、放送から一月たったらヤマギシのHPでも放送を開始する予定らしい。

 

 宣伝の為に1本番組作るってスゲーなと思ったら、出来るだけ編集などでこちらの言いたい事を伝える為に仕方なくとの事だった。今回のヤマギシ記念病院の番組は世界中に対してどういった治療をするのかしっかりと知らしめるための物でもあり、実際にこの病院で受ける魔法治療がどういった物になるのかを地獄大使さんが受ける治療を例として発表する事になる。

 

「少し恥ずかしい気もするなぁ」

「我慢してください」

「う、うぅむ」

 

 大きな機材の中で苦笑を浮かべる地獄大使さんにこちらも苦笑を浮かべて答える。全身をくまなく調査し、体の現状を知る。これがまず初日に行われる物だ。当然その日はこの超厳重な身体検査で潰れる為、この日はそのまま入院という形になる。

 

「この病院の病院食は美味しいんで満足していただけると思いますよ」

「ああ、確かに上手いな。後はここに酒があれば良いんだが」

「退院後の楽しみに取っておいてください」

 

 地獄大使さんの言葉にスタッフ一同の笑い声が入ってこの日の撮影は終了。地獄大使さんはそのまま病院内で心電図検査や血圧検査を24時間行う必要があるので病院の個室にて休むことになる。また、その様子を定期的にスタッフが入れ替わりで撮影する事になるそうだ。

 

 ヤマギシ記念病院では基本的に患者が入院する病棟は全部屋個室になっている。これはこの病院が魔法治療を行う為に作られたというのもあるが、一番はこの病院にかかりに来る患者が大体は非常に難しい病気を持った人物たちであろうと想定されているからだ。プライバシーの保護のためにも全室個室という形が望ましいという事になり、設計の段階からかなりの部屋数を確保できるように作られている。

 

 まぁ、迷ったら元も子もないので一つ一つのフロアには各所に地図を設けてある。部屋も狭いわけではないので快適な環境を入院者に提供出来るだろう。

 

 

 そして次の日。

 

「よぉ、地獄大使」

「貴様、本郷!」

 

 等という小芝居の後に笑い合う二人の大物俳優がカメラに収められる。日程の都合上初日は来られなかった初代様、満を持しての合流である。初代様の場合自身がリザレクションを使える為に入院することは無いのだが、お見舞いという名目と、念のために全身を検査してもらおうという判断だ。

 

「いやぁ、式典には参加していたがまさかこんなに早くここの世話になるとはなぁ」

「そういえば理事の一人でしたね」

「ああ。といっても名前だけのようなものだがね」

 

 病院服を着て感慨深げにそうつぶやく初代様。この人もこの病院が建つ際にヤマギシ側の人間として名前を連ねて居たりする。俺や恭二たちが未成年で理事に名を連ねる事が出来なかったので、冒険者部門の外部顧問枠であった初代様に話が来たのが理由らしい。畑違いの分野だからと最初は断っていたらしいが、結局は社長に押し負ける形で名前を連ねる事になったらしい。多分社長のアレは初代様と同じ欄に名前を載せたくてやったんだろうなぁと思っているが、お陰で今回のような番組を作る切っ掛けが出来たのだから世の中わからないものだ。

 

 さて、こんな感じで1日、2日とロケを続けて3日目。前日までの結果が出たという事でTVカメラを連れて診察室に行き、医師の診断を皆で聞く事になった。結論から言えば心肺機能が衰えてきているとの事、それに肝機能など体の各所に小さな問題が見受けられるとの事で、現状生活を送る分には問題があるが大病を患っているわけではない、という結果が出た。

 

 胸を撫で下ろす地獄大使さんに医師は「ではこれから魔法による治療を行います」と宣言。驚きの表情を浮かべる地獄大使さんに医師は言葉を続けた。

 

「このまま放置すれば気温の寒暖差などによって急性心不全等の恐れもあるので、衰えた内臓機能を一旦リフレッシュさせる事が必要です」

「それは……その、可能なのですか?」

「はい。一先ずは処置をしますので……ああ、カメラで撮られるならどうぞ。映像は一瞬しかありませんので注意お願いします」

 

 促されるようにカメラクルーが場所を調整し、医師と地獄大使さんが二人とも収まるようにする。やがてクルースタッフからOKサインが出るのを見た医師は地獄大使さんに手を伸ばして「リザレクション」を唱えた。

 地獄大使さんの体を白い光が包み、そしてすぐに消える。光が消えた後、自分の体の各部位を触る地獄大使さんに病院スタッフは初日に行った検査を再度行う旨を告げ、3日目はそのまま初日の焼き直しのような状態になった。

 

「再度行うのは、どういった意図が……?」

「これはまぁ、言ってみれば患者の為の物です。正直な話を言えばリザレクションを使って治ったと患者が納得しないケースを想定していますので」

 

 二回目の検査を受けている最中、地獄大使さんが問いかけて来たので俺はそう答える。この魔法治療は現在進めているとはいえまだ保険は適用できない。当然医療費も高額になってしまう為、患者側もただ魔法を受けただけでは納得しないだろう、という判断が病院関係者から出され、結果として二度検査をし、結果を相手の分かる形で示そうという方針が出来上がったのだ。

 

 当然、2度目の検査では全く問題点がなく、むしろ老化によって通常起こる筈のどこかしらの劣化すらも治療してしまっている為この二日間地獄大使さんは非常に体の元気さを持て余す結果になった。

 入院が終わったその日の内に地獄大使さんは初代様と連れ立って夜の街に消え、どうやら飲み終わる度に初代様からキュアを受けたらしく(もちろん内緒で)ツブヤイターでその様子を投稿。朝まで元気に騒ぐ60代男性二人の様子が細かくつぶやかれ、最後に地獄大使さんが「凄い体験をした。是非みてくれ!」と番組について呟いた結果、有料チャンネルの会員数が一時的に増加したそうだ。

 

 この番組は後に海外でも評判となり、当初の目論見通り病院のシステムや環境を衆目の目に晒す事に成功したのは良いんだが、予想以上に環境がいい事も知れ渡った為予約がひっきりなしで半年先まで埋まってしまっている状況らしい。

 院長先生から引きつった笑いでお礼を言われた時は正直申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ま、まあ閑古鳥が鳴くよりはいいですよね?

 

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