奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百五十一話 模範的ダンジョンアタック

「クリア」

『オッケー、先行するから援護を』

『了解』

 

 御神苗さんがチラリと魔法で焼かれた室内を確認。残敵の数を確認して問題ないと判断し、声とハンドサイン両方で後続に合図を送ると、後続の冒険者達は静かに前へと進み始める。

 

 今回のメンバーは御神苗さんをリーダーにイギリスのオリバーさん、ロシアのセルゲイさんがフロント、ドイツのオリーヴィアさんとフランスのファビアンさんがバックにつき、この最後尾から着いていく形でダンジョンに一潜りしている。

 

 30層までなら俺一人でも何とかなるし、そもそも他の面子も全員レベル20以上の高レベルパーティーというこの面子は、30層までを特に危機無く潜る事が出来た。特にオリバーさん、自分よりデカイライカンスロープやキマイラを刀で真っ二つにする姿は中々に迫力がある。以前は完全に魔法主体だったのに、今はむしろウィルのように接近戦主体に近い戦闘スタイルだ。

 

 逆にセルゲイさんは以前までの体格に任せた戦い方から大分変り、その巨体から想像できない素早さで縦横無尽に動き回り後衛をモンスターから守り通す熟練の技を見せてくれた。ヤマギシチームには敵の攻撃を引き受けるタンク役が居ない為差を計れないが、恐らく彼は現状世界一のタンクなのかもしれないな。

 

 そのまま前衛の活躍と後衛が隙を見て魔法を打ち込むオーソドックスな攻略方法で30層までを突破し、このチームは全員がレベル30の証を手に入れる。ヤマギシ関連以外のチームでは初の快挙になるので、この時の映像はそれぞれのカメラから抜き出されて協会側が編集し、30層までの一般的な模範踏破方法として二種冒険者以上の協会員に開放されることになった。

 

 

 

「一般的とな」

「オールスターは一般的に含まれないそうだ」

「何だそりゃ」

 

 いや本当にな。俺と恭二を真似できないってのはまだ分かるんだが、真一さんなんか正にオールマイティって言葉の見本みたいなスタイルなんだがな。あれこそ冒険者が最も参考にするべきスタイルだし、本当に手を切り落として俺の真似をしようとした人はまず真一さんを目標にした方が良い。現地の冒険者が何とか治療したらしいが肝が冷える事件だった。

 

 因みにオールスターってのは恭二と俺のツートップを真一さんがカバーし、沙織ちゃんが援護を行いその脇をウィルとケイティが固めるチームの事らしい。ここにシャーロットさんと一花が含まれていないのは協会と本人の都合だ。協会側としてはどうも一花の事は一流の冒険者である前に超一流の教育者として扱いたいらしく、まずこのオールスターから一花の名前を消したらしい。一花としても一々騒がれるのは嫌だったらしいので特に何か言う事も無い。

 次にシャーロットさんについては、彼女本人が辞退したからだ。

 

「私はあくまでも補佐ですから」

 

 席を譲られる形になったウィルが彼女に良いのかと尋ねるも、シャーロットさんは微笑みを浮かべてそう言ったらしい。言葉通りに自分はあくまでもヤマギシチームの補佐だというスタンスを崩さないシャーロットさんはこういった物に名前を連ねるのを嫌がる事がある。

 

「それに、サイドキックがヒーローの前に出てはいけないでしょう!」

 

 この言葉にウィルは苦笑してシャーロットさんに譲られた分頑張る、と言っていたが。割と本人は本気で言っている気がするのであんまり気にしない方が良い気がする。

 

「あれはね。下手に名前を挙げて名声に束縛されるのが嫌なんだよ」

「一花先生……割とシャーロットさんの満足ポイントが分かりません、一花先生!」

「諦めたらそこで試合終了……諦めたら?」

 

 そりゃあねぇぜ一花さん。

 

「というかわかりやすいほどわかりやすいじゃん。スパイディに変身してぎゅっと抱きしめてきなよ」

「あれは恋愛感情じゃないだろう」

「ファン心理でもさ。多分1週間くらい寝ないでも元気に動き回るよ。それやったら」

 

 ヤマギシ本社のTV等に対する広報の仕事に社長の秘書替わりの働き、それに冒険者としての仕事。どの時間にやってるのかって位多忙なシャーロットさんだが、信じられないことに体には一切影響を受けていないらしい。

 

 以前尋ねた時は10分くらい寝たら全ての疲れが無くなる感覚があると言っていたので慌ててヤマギシ記念病院に連れ込んで検査をしてもらったのだが、結果は本当に白。分かった事はシャーロットさんは信じられない程の効率で疲れを癒しているという事だった。

 

 まず間違いなくこういう特性なんだろうなと思ったが、世間に発表したらすごい勢いで労基法違反で社長が捕まりそうな内容なのでこの事は社内での極秘事項になった。

 

「おかげでシャーロットさんのあだ名が分身能力者になったよ」

「……ああ」

 

 不思議と納得してしまう説得力だ。ヤマギシ関連だとあの人本当にどこにでも出て来るしな。そら二人以上居るんじゃないかと言われてもおかしくないか。

 

「シャーロットさん、逆に1時間以上寝るともう元気が余り過ぎて大変って言ってたしね……」

「お前とはまた別のデメリットのある特性だな……」

「余った時間であの人ひたすら自分用のコスチューム作ってるんだって。コミックは全部読んだから」

「……一花先生」

 

 助けを求めるように妹に声をかけるも妹はこちらを見てはくれなかった。一人じゃどうにもならないんですが。ねぇ、こっちを見てくれよマイシスター!


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