奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。アンヘル☆様、244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百五十二話 渡米

「じゃあ、行ってくる」

「うん。私も冬休みに一回そっちに行くからね!」

『その時はぜひ連絡して下さい。迎えに行きます』

「来ないで、どうぞ」

 

 荷物を抱えた俺とウィルの見送りに恭二と沙織ちゃん、それに一花が来てくれた。勿論各自が変身を使っている。このメンバーが空港にいたりしたら大変な騒ぎになっちまうからな。

 

「じゃあ、気を付けてな」

「おう。そっちは頼んだぜ」

 

 ごつん、と恭二と互いの拳を打ち付ける。俺とウィル、それに今回はケイティも諸事情あって奥多摩から暫く離れる為、ヤマギシチームは一度再編成をする事になった。

 指揮官としては御神苗さんが担当し、恭二をメイン、サブを沙織ちゃん、その二人と御神苗さんを一花とデビッドが支える形になる。

 

 5人編成になる為、ある程度の安全マージンが取れる場所にしか潜れないが……すでに対策が出来ている31層までなら特に問題は無いだろう。

 

「兄貴がな」

「ん?」

「近々、戻ってくるかもしれない」

「……本人が、そう言ったのか?」

 

 恭二はその言葉に少しこちらを向いた後に、静かに頷いた。

 

「……そうか。なら、戻って来た時は初期メンバーで一潜りするか」

「ああ……そうなると良いな」

 

 互いに笑みを浮かべて、もう一度拳を打ち合わせる。今度は先程より少し強く。俺とウィルは後ろを振り返りながら手を振って、暫しの別れを告げて空港のラウンジへと向かう。アメリカへ行こう。

 

 

 

『はぁいイチロー、元気にしてた?』

『イッチ、久しぶり!』

「帰って良いかな」

『落ち着いて。食べられはしないから』

 

 食われるわけねぇだろうが、とウィルに蹴りを入れて向き直る。ジェイとイヴは二人並んでニコやかな表情を浮かべてこちらに手を振っている。

 互いの足を踏み合おうと足元が修羅場ってるのは見ない方が良いんだろう。周りに迷惑をかけていないだけなんぼかマシだろうしな。

 

 二人と隣り合わせに座るのだけは勘弁してほしいと頼み込み、二人組はそれぞれ前後の席に。こちらはウィルと二人並んで椅子に座る事になる。この二人は並ぶと極端に反発しあうから、間に入った方がなんぼかマシなんだ……

 

『やぁ、イチローにウィル。待っていたよ』

『よろしくお願いします』

 

 ニューヨークのマーブルビルでスタンさんと合流。送迎の為に来ていたジェイとイヴはこのまま解散でも良いんだが、二人ともそのまま居座るつもりらしくバチバチと視線を戦わせながら俺達の後ろについている。

 スタンさんが苦笑してるけどこれ放置していい……いいんですか、わかりました。

 

『この娘達も馬鹿じゃないさ。ここで暴れたりしたらどうなるかは分かって着いてきてる筈だよ』

『はぁ……』

『ちなみに彼女達を信じてるんじゃなくてブラス家とジャクソン家を信用して言ってるんだ。一度問題を起こした二人をあの二家が問題ないとしてここに寄越したんだ。つまり、もう問題はないって事になるんだよ』

 

 ね? とばかりにスタンさんが背後に立つ二人に声をかけると、二人共表情を固くしながらも深く頷いた。

 

『アメリカのセレブってのはね。それ相応の理由を持ってセレブって階層に居るんだ。君もこれからは否応なしに彼らと付き合う事になるだろうけど、決して彼らを見縊ってはいけない』

『……はい』

『うん。老婆心ながらの忠告だ……そこの二人は手出しさえしなければ君に不利益になる事はしないだろうから、彼女達に上流階級との付き合い方を学ぶといい。ただし、手出しすれば即ゴールインだよ』

『肝に銘じておきます』

 

 スタンさんはその返事にニヤリと笑って肩を叩いてくる。多分この人の事だからめちゃめちゃ楽しんでるんだろうな。

 

『楽しいさ。ここまで生きた甲斐があった』

『心を読まないでくれます?』

『君のその顔を見れば分かるよ。君のそれはある種の才能だが、隣でフォローしてくれる者が必要だろうね。君の妹さんは実に得難い人材だ。大事にしてあげなさい』

『……ええと、その……はい。そんなに分かりやすいですか?』

『私には文字が書いているように見えるよ、多分他の人間にも。裏表の無い性格だからこそ君はこれだけ慕われているのかもしれないな』

 

 苦笑混じりにそう言われて思わず顔に手を当てる。そんな俺の様子にスタンさんは大きな声をあげて笑い始めた。

 

 

 

『よう、MS。遅かったじゃないか』

『撮影が終わるかとヒヤヒヤしてたぜ』

 

 撮影所に入ると、それに気が付いた俳優達が次々に声を掛けてきた。あ、ちょっ、社長首! 首締まってるからそれ!

 

 何故か盛大に体中を平手で歓迎された俺達は、苦笑を浮かべる監督の元へと他の俳優達に押し出されるように連れてこられる。

 

『ようこそMS。すまないがここだとスパイディと被るからな。終始MSと呼ばせてもらうよ』

『了解です。ええと、ボス』

『ジョンで良い。頼むぜ、ヒーロー』

 

 監督が差し出した手を握り返す。すると、周囲の俳優達からドッと歓声が上がり拍手が巻き起こる。

 

 何がなんだか分からずに戸惑っていると、トントン、と肩を叩かれ、振り返ると視界一杯に広がる白いナニかが。

 

 べシャリと顔に叩きつけられたそれに何が起きたのか分からずにフリーズしていると、二発目、三発目と顔や頭にナニカが当たる。

 

 口元から感じる仄かな甘さ。

 ……これクリームパイだ。

 

『歓迎するぜ!』

『こっちもだ!』

 

 視界を急いで確保すると撮影現場は突発的なパイ投げ大会になっていた。俺だけではなく、ウィルや何故かジェイとイヴまでパイ投げの的になっているし、投げ合っているニンゲン同士でもパイをぶつけ合っている。

 

 なるほど、理解した。全員ぶっ飛ばす。

 

 補充係のスタッフからパイを受け取り、祭りの中へと足を進める。ヒーローの力、見せてやろうじゃないか!

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