GW中は何日か完全に執筆時間が取れない日があるので、休載する日があります。
取り敢えず明日は更新ありません。皆様良いGWを。
ぱちぱちは勿論仕事です(白目)
むしろ普段より忙しい……
誤字修正。KUKA様、244様、kuzuchi様ありがとうございます!
『ぐっ』
飛んできたウェブに足を取られ、速度が落ちるのを感じたアイアンマンは咄嗟にエネルギーシールドを展開し、連続でぶつけられる火炎球を防ぐ。
『厄介な物だ……魔法とは!』
『こちらもお忘れなく』
背後から響いた声に咄嗟に振り返ったアイアンマンの視界に、大上段に構えた刀を振り下ろさんとするウィラードの姿があった。発光する刀のエネルギーにこれが自身を傷つけえると判断したトニー・スタークは咄嗟に身を庇おうとし右腕を振り上げ――
『おっと、君の相手はこっちだ!』
横合いから伸びてきた蜘蛛の糸に救われることになる。
腕をからめとられたウィラードを引っ張ってスパイダーマンはビルの合間を跳躍する。未知の戦術を持ったこのコンビを一緒に戦わせたら不味い。彼はそう判断を下し、一先ずの分断を試みた。1対1であればアイアンマンはそう易々と落ちないという信頼もあった。
しかし、一つ誤算もある。
『って、熱っ』
背後から連射される炎弾が身をかする。ウィラードを拘束していたウェブが燃えて消えたのを感じたスパイダーマンはすぐさまウェブを近くの建物に張り付け、緊急回避を行った。
1対1に分断したとしても、魔法の万能性は損なわれる事がないのだ。
『ちょ、熱っ、待って待って周りが大火事になっちゃうよ!』
『あ……なら水で行こうか』
大声を上げて抗議の声を上げると、ウィラードは少し考えた後に右手をかざし……その右手から高圧水流が放射されスパイダーマンへと襲い掛かる。軽々とウェブを引きちぎる水流の威力に絶句しながらもピーター・パーカーはウィラードから所々漂う素人臭さに違和感を感じながら戦闘を行う。
彼らは明らかに自分と同じだ。戦い馴れていない。いや、おそらく自分よりも戦いの経験はあるだろうが……そう。人と戦い馴れていない。スタークさんなら気付いている筈だ。そのスタークさんがあっちを攻め切れていない。何かがある。それだけは間違いない。
高圧水流の雨から逃れながらピーター・パーカーはその何かを見つけようと行動を開始した。
録画された画像をスタッフ一同が流している。彼らはただ無言で……自分たちが撮影した映像を何度も何度も見ていた。
『これは……』
不意に一人が口を開く。撮影班のスタッフで、年かさのベテランの一人だった。最初の復讐者たちを撮影した時から複数回ロケに参加している人物で、今回の撮影でもその知識を生かしてスタッフのまとめ役の一人を担っている。
『これは、本当にCGを使わずに行われた映像なのか?』
『それは、撮影した自分が一番良く分かっているだろう……マーク』
彼の独り言のような呟きに、監督が答える。監督の言葉にマークと呼ばれた男性はただ何度か頷いて、その様子を監督はじっと眺めていた。
『彼はね。CGを活かした撮影の専門家なんだ』
『という事は、これまでの復讐者達の?』
『ああ。CGによる演出は全て彼が指揮していた。勿論今回もそのつもりだったんだろうね。つい先程までは……』
会議室の中は重苦しい沈黙に包まれており、何がなんだか良く分からずに出されたジュースをチビリチビリと舐めていた俺に、スタンさんはそっと耳打ちをして事情を教えてくれた。
『勿論企画当初はそのつもりだったよ。実際に彼の技術は素晴らしいからね。僕らの期待に答えて素晴らしい映像にしあげてくれただろう……』
『企画当初は、ですか』
『そう。魔法が映像に転用できるとはっきり分かるまでは、ね』
もっと言えば君の動画が世に出回るまでかな、とスタンさんは付け足して言葉にし、マークさんに視線を戻す。
魔法によって、何もかもがよくなった訳ではない。彼のように今まで培ってきた技術が最先端から転がり落ちたり、陳腐化した人も多いだろう。
現在、復讐者たちの映像演出にはジャンさんの意見がかなり多く取り入れられている。彼は魔法による演出の第一人者に等しい人物で、本人も大概の魔法は使用できるからな。
アメリカでは冒険者はまだまだ希少な存在で、その殆どが臨時冒険者への対応にあたっている為、魔法が使える人物はそれだけで貴重な存在だ。
映像編集の仕事も任されている為何でも彼がやる訳ではないが、大道具を動かす時にウェイトロスを使ったり、ワイヤーアクションを行う時にバリアとウォールランを行ったり、スパイダーマンにエドゥヒーションを行ったりと細かい部分でもガンガン魔法を使えるため、特にCGを用いなくてもまるで本物のスパイダーマンが壁をよじ登ったり、アイアンマンが空を飛んでいるような映像が撮れたのだ。
勿論CGの仕事が完全に無くなるわけではない。細かい部分の修正や、アイアンマンのギミック等はやはりCGを使った方が派手な映像を見る事はできる。
だから監督も彼の質問に真摯に答えたのだろう。決して蔑ろにする気はないのだから。
『だが……今後魔法による演出や撮影はドンドン増えていくだろうね』
撮影スタッフ達から目を逸らさずにスタンさんはそう零した。
まず、純粋に予算が全然違うらしい。何せセットを作る際に重機を持ち込まなくても重い物を運べるというのは非常に大きいらしいし、土台の重量を引き上げると安定感が増すという事も今回のロケで分かったそうだ。
セットを作る為の予算が非常に少なくなり、また、仮に撮影中に破損したとしても修理も容易に行えるのだそうだ。建材の重さを調整出来るというのは、それだけ凄い事なんだとか。
次に爆薬などがほぼ魔法で代用できるようになり、ファイアボールの応用で役者に当たらないように爆発を任意のタイミングで起こしたり、実際に雷をサンダーボルトで表現したりできた為、かなり派手なアクションを予算もかけずに行う事が出来るようになった。
そして何よりも安全になった。撮影現場では事故は当然起こり得るし安全確保の為に予算をかけるのはこれもまた当然の事だが、その常識をバリアとフロートが覆した。今回のアイアンマンスーツにはフロートが一部のパーツに付与されており、今まで以上に空中戦が自然な形で表現できるようになったそうだ。
しかも、殆どスタントなしで。
当然先程のバトルシーンも殆どがワイヤーアクションと魔法による演出で、アイアンマンの飛行シーンにCGの手直しが後から入る位で、他は全てCGなしの映像だ。
こっちのスパイディの代わりにウェブをくっつけたのも実は俺だったりする。変身でそこだけ代わりになったんだよね。
そんな事を考えているうちに俺とスタンさんの視線の先で、マークさんと監督が固く握手を交わしている。
『折り合いをつけられたか。安心したよ』
『ええ。撮影は楽しく終わらせたいですからね』
二人の握手に周囲から控えめな拍手が贈られる。皆固唾を呑んで成り行きを見守っていたのだろう。安堵したような空気を感じる。
スタンさんに倣って俺も控えめな拍手を贈っておこう。俺達が魔法を広めた以上、その結果割を食った人と出会う事もこれからは増えていくだろう。今回の出来事はよく覚えておかなければいけないな。