奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百五十六話 ヒヤリハット

『今回は急な依頼をして申し訳なかった』

『あの、もう良いので。事情は分かりましたから』

 

 ブラス老から直接頭を下げられるという珍しい事態に面食らった俺は、謝罪を受け取って一先ず矛を収める。周囲には数週間ぶりに会うヤマギシの面子。冒険者チームは元より社長と真一さんまで来ている、本当にヤマギシをほぼ代表するメンバーだ。

 

 今回の騒動、何というか、本当に間が悪いのと運が悪いのと人的ミスが重なった珍事だった。やはりと言うか本当はヤマギシチームで大統領の護衛にあたる予定で、恭二達は元々今度出来るブラス家の病院の開院式典に出る為に、本来であれば2日前にアメリカに渡ってくる予定だった。因みにこれは俺に連絡は来てない。サプライズのつもりだったらしい。

 

 恭二達が来る事は俺以外の冒険者協会の関係者は知っていたらしい。それをどこからか嗅ぎ付けたのか、今回の式典に合わせて来訪する大統領の護衛としてヤマギシチームと一緒にダンジョンに入るのはどうかと話が上がったのだ。

 

 これに対して協会側も急な話ではヤマギシチームに負担を強いるかもしれないと渋っていたのだが、政府側の担当者が今後の関係的にも大統領がダンジョンに入るのは必要なプロセスであると主張。実際にその通りなので協会側も拒否出来ずに一度ヤマギシチームに伺いを立てて了承が得られれば、と答えたらしい。

 

 協会側はそれとなくヤマギシに打診し、VIPの護衛をお願いしたいと依頼。ヤマギシ側もそれを了承したのだが、この時双方にとって予想外な事が起きた。

 

 季節外れの台風で、ヤマギシチームの到着が2日も遅れてしまった事だ。しかも、その連絡が伝達ミスでケイティに伝わるまでに時間が掛かり、気付けば当日になっていたという……最後のミスが無ければここまでバタつく事も無かったのだが。

 

『事情が事情だけに、私達もヤマギシも慌てふためきました。最悪はヤマギシチームが誰も居ないのに私とウィルの二人が表に立つ事になるかと……』

『そんな時にたまたまテキサスに来てた俺が顔を出したと。なるほど』

『という訳で俺は蹴られ損な訳だが』

『黙ってた罰だ。ここに来るまで意味もわからずに大統領の護衛やらやらされてたんだぞ、こっちは』

 

 ブーたれる恭二にこちらも文句をつけておく。一番悪いのは伝達をミスった人なんだが、この人もな。今年高校を卒業したばかりの子でまだ研修期間中。

 

 通常はそれほど重要性のないヤマギシとの連絡要員として(基本はケイティごしにやり取りをするから仕事が少ない)働いている子だから、いきなり来た緊急の連絡を管轄違いの部署に流してしまい、あわや大惨事という状態になる所だった。

 

「というか、最初からケイティに連絡入れれば良かったんじゃね?」

「まず、俺達は一度Uターンする羽目になって連絡が取れなかった。シャーロットさんも一緒に来てるし鈴木の小父さんも国外に出てたから、ケイティの連絡先が分かる奴がほとんど奥多摩に居なかったんだ。それにウチの本社で留守番してる奴もまだ入社一年目の事務員なんだよ」

 

 俺の疑問に真一さんがそう答える。その彼も世界冒険者協会に連絡を取った以上は大丈夫だろうと思っていたらしい。たまたま御神苗さんがウィルと連絡を取っていなければヤマギシが遅れる事も伝わらなかった可能性があった。

 

 今回、社長までテキサスに来ていて、ヤマギシの本社には国内の渉外担当者の下原の小父さん小母さんと、テストの為に日本に残っている一花ぐらいしか居なかった。

 

 ほぼ責任者の立場になる下原の小父さん達は多忙で対応出来ないし、そもそもまだ高校生の一花はダンジョン関連以外は基本的に会社の仕事にはタッチしないし、そもそも勉強で忙しい。

 

 成程。その状況で俺が現れたらそりゃあのおじさんも天の助けみたいな顔になるわけだ。俺は言ってみればヤマギシチームの広告塔みたいなもんだしな。それにウィルと俺がコンビをよく組むのは周知の事実だし、ケイティが加わっていれば最低限の面目は立つと。

 

 そこまで考えてため息をつく。無事に終わったとはいえ今回の事は一歩間違えば大惨事の事態だった。やっぱり新しい組織って事もあってヤマギシも世界冒険者協会もどこか人材不足が見え隠れしてるな。今回は何とかなったがこれ再発とかされても責任取れんぞ。また都合よく俺が居るとは限らないんだから。多分、その辺はケイティも理解できてるんだろう。終始顔色が優れない。

 

『今回の恩をブラス家は決して忘れない。明日の式典まで精一杯の心づくしを用意したから楽しんでいってくれ』

『そういう事なら遠慮なく』

 

 明らかに目いっぱい豪華な食事の山がどんどん並べられていくので、俺は気分良く食事を楽しむことにする。何だかんだでケイティや世界冒険者協会にはお世話になっているし、悪意が無いならただのミスだ。何時までも引っ張って気まずい関係で居る方こそ俺にとっては嫌な事だからな。こんだけ盛大に労ってくれるんだし、俺にとってはそれでいい。それに悪い事ばかりではなかったからな。

 

「そういえばよ。ジュリアさんとベンさんに会ったぞ。ついさっき」

「は?」

「何日くらいいるんだ? 一緒に会いに行こうぜ」

 

 目を点にして驚く恭二にニヤニヤと笑いながらそう尋ねる。偶然とはいえ昔の仲間に会えた分、俺にとって今回の騒動はプラス収支って所だな。組織の問題点も見えて来たし……ケイティの手腕に期待って所かね。


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