奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

131 / 406
誤字修正。244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百五十八話 キャップとの戦い

『あの時の……スパイダー坊やか? いや、しかし』

 

 木々の間を抜けながら高速で飛来する黒い影。襲い来るウェブの嵐から身を隠しながらキャプテン・アメリカは独りごちる。トニーが連れてきた少年を思い出し、しかし明らかに雑なその攻撃に疑問を持つ。キャプテンの盾を奪い取ったあの時よりも明らかに精度が落ちている。

 

 戦士としての経験がキャプテンに違和感を与えていた。何か、狙いがあるのか、いや、しかし……数瞬の間キャプテンの思考が敵の狙いへとそれる。だが、それを見透かしたかのように周囲に乱雑に撃ち込まれた蜘蛛の巣が、一斉にキャプテンに向かって飛び掛かった。

 

『うぉおお!』

『獲った』

 

 周囲に打ち込まれた蜘蛛の巣はまるで追尾する様に全周囲からキャプテンに襲い掛かる。それを操作する蜘蛛の姿を模した何かは確信をそのマスクの口元を歪め、そして驚愕の声を上げた。

 

『! 糸が、一斉に』

 

 だが、キャプテンに襲い掛かる筈の蜘蛛の巣は全て何か見えない力によって巻き取られていく。サイコキネシス、しかも強力な。これは、報告にあったものだ。つまり相手は……

 

『スカーレット・ウィッチ!』

『スティーブ、今のうちに!』

『しまっ……』

 

 一瞬気を取られた隙に投げつけられた盾が小柄な敵対者を強襲し、腹部を強打。数mほど吹き飛ばす事に成功する……手ごたえはあった。少なくとも無視できないダメージは与えている。そう確信したキャプテンは、しかし次に目にした光景に『馬鹿な』と小さく呟いた。

 

 右腕から雷をまとった蜘蛛の巣を垂らしながら、まるでダメージが無いかのように立ち上がった彼。体格が良く分からないぶかぶかの黒い道着のようなものを着て、頭はすっぽりと黒いマスクで覆われていた。そして、特徴的な全身に走る黄色い雷状の蜘蛛の巣。

 

『……お前は、誰だ』

『マジック・スパイダー。アンタを捕まえに来た』

 

 驚くほどに若い声で、キャプテンの問いにその男は答えを返す。そして、画面を雷鳴が覆い尽くした。

 

 

 

「悪役やってるね!」

「悪役だな」

「見事に悪役だね」

 

 一花、恭二、沙織ちゃんの順に一言。ありがとう、お前らの言葉、心に突き刺さったよ。

 

 撮影所を見たいっていう要望に応えてわざわざスタンさん経由で許可貰って、その上まだ編集もされてない出来たてほやほやの動画を見せたのにな。友達甲斐のない連中と妹である。

 

「私はもう関係者だよ? ちゃんと声優さんの声、変えてあるんだから」

「ん? 一花も撮影の手伝いやってるのか?」

「うん。吹き替えの声優さんは私が変声かけてあげるんだよ」

「ああ……本当に器用だな一花は」

 

 自分の声を変えるのは少し魔法を囓れば何とかなるんだが。それは恭二も同じなようで感心したように何度も頷いている。

 

 今回の撮影では、一花は役者として出る事はない代わりに、こういった細かい部分に魔法を使って手助けをしてくれている。変な特性よりもこの器用さこそが一花の持ち味だよな。後は教育か。

 

「まぁ、私も程良い小遣い稼ぎになるし学校も公休くれたしね。課題は大量に出てるけど教室でキャーキャー言われながら勉強するより数百倍マシだよ!」

「……よしよし」

「もっと。もっと慰めて。私のこの心の闇を晴らすには目一杯甘やかされるしかないんだから」

 

 苦労している我が妹の頭を撫でてやるが、死んだ魚のような目で全然足りないと言われてしまった。俺一人の兄力じゃまるで足りないのだろう。ならばこちらも本腰を入れるしかない。

 

「恭二、沙織ちゃん。手を貸してくれ!」

「おぅ!」

「もちろん」

「は? え、ちょ」

 

 という訳でこちらは近所の兄貴分と姉貴分を加えたジェット褒め殺しアタックを仕掛けるぜ。俺を踏み台にしても更なる兄姉が褒め倒す。この鉄壁の布陣、崩せるものなら崩してみるがいい!

 

 

『何やってんの君ら』

「お、お疲れ様。そっちも今日の分は終了か?」

『ああ。ってマスタァァァァ! いつこちらに? 言ってもらえれば撮影をサボってでもお迎えに』

「来んな馬鹿☆」

 

 黒い道着を着たウィルが休憩所代わりにしているジャンさんの作業場にやってきた。そして大体予想通りの反応を返したので出会い頭に一花の膝蹴りが炸裂。吹き飛ぶと機材が壊れる可能性があるので腕を掴んでおく。

 

「というか毎回お前も懲りないね」

『つい、その……忠誠心がだね』

「高校2年生に使う単語じゃないよ!」

 

 恭二の言葉にウィルがそう返し、思わずといった表情で一花が半歩下がりながら呟いた。マスター教徒はなぁ。

 

『アメリカにマスターが来てるなんて会報で知らせないと! ゴメン、今から忙しくなるからまた後で!』

「お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」

「こっちでやるから少し落ち着け」

 

 走り去ろうとしたウィルに背中からスパイダーウェブが襲い掛かる。映画みたいにホーミング性能は無いがパワータイプのウィルでも拘束出来る強度はある。

 

 一度捕まえたら後はタコ殴り(主に一花によるもの)でウィルを説得し、一花がアメリカを離れた後になら会報とやらに載せてもいいという事でウィルも納得。

 

 だが、代わりに会報用の写真を撮るという名目と、騒ぎを聞き付けた女優陣により一花は着せ替え人形にされて写真撮影会が始まる。

 

 俺? もちろんこの流れで俺まで着せ替えされては困るので一花がキャーキャー言われている内に恭二や沙織ちゃんと一緒に撮影所から脱出したよ。

 

 皆の分の甘い物を買って帰ったら撮影後の女優陣からは褒めてもらえたしハグまでしてくれた。一花からは脛を蹴られたがな。ケーキを気に入ってくれて良かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。