奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、あんころ(餅)様ありがとうございます!


第百六十話 共闘

『……俺達を騙したんですね』

『騙したわけじゃない。ちゃんと研究だってしている……ただ、人類の為にゲートを有効活用する道が正しいと思っただけだ』

『外の、あれが?』

 

 オフィサーと呼ばれていた男はハジメの言葉にそう言っていつもの微笑みを浮かべる。外にはオークたちの手によって作り出された巨大な建造物の姿がある。オークスタンプと呼ばれたその巨大な破壊槌の目標は……富士山。

 

『富士の火口の奥深く。時の天皇により封印された月の民の秘術……不老不死の呪法は人類の夢だよ、ハジメ君』

『そんな事はどうだって良い……俺の妹を、どこへやった』

『彼女はオークの皇帝に見出されたよ。あれほどの魔法適性……人類とオークの間の懸け橋に相応しい。君もオーク族の皇帝の義兄となるのだから相応の……それは悪手だな』

 

 右腕を伸ばしてウェブを発射しようとするハジメにオフィサーは小さく笑って首を横に振った。打ち出されようとしたウェブは突如消え……そして先程まであった筈の右腕が消える。驚愕に目を見開くハジメの体を、彼の着ている道着が覆い、拘束する。

 

『君の魔法は非常に強力だ。君の妹さんの魔法適性は君以上だが、殊戦闘能力という点で君を上回ることは無いだろう……魔法が使えればね』

『……』

『ああ、もう言葉も出せないか。すまない、少し拘束力が強すぎたみたいだな……対魔法使い用の拘束着もうまく動いたようだし、君は暫くそこで大人しくしていたまえ。妹さんの晴れ舞台に君を呼べないのは残念だが……君が選んだことだ。連れていけ』

 

 オフィサーの指示を聞き、数名のパワードスーツを着た男がハジメを荷物の様に抱えて部屋を後にする。それを見届けた男は静かにくつくつと笑い声を部屋に響かせ……そして突如起きた爆音に笑いを途絶えさせる。

 

 部屋を揺らすように爆音は1度、2度、3度と響き、建物が大きく揺れる。身をかがませたオフィサーは机にしがみつくようにして揺れに耐え、そして4度目……吹き飛んだ自分の部屋のドアを咄嗟に転がる事で回避し、床に倒れ込む。

 

『な、なんだ! 何が、何が起きた』

『あー、その。だな』

 

 よろよろと立ち上がったオフィサーの視界に入ってきたのは、赤い装甲服を着た人物と赤い皮膚を持った男……そして、先ほど拘束した筈の、道着を失い肌着だけになった少年の姿だった。

 

『ノックをしたんだが随分とドアがオンボロでね』

『少し伺いたい事がある。この少年と貴方の関係。そして外の建造物について』

 

 彼ら二人……いや、三人の視線を受けて、オフィサーはごくりと喉を鳴らし……緊急脱出用のゲート発生装置に手をかけ……その手にハジメから飛んだ糸が絡みつく。

 

『妹はどこだ。オフィサー……質問はまだ終わってないぞ』

 

 

 

「何か緊迫のシーンだな」

「緊迫のシーンだからな」

 

 ぼりぼりとポップコーンを食べながらのコメントにそう返す。舞台は後半の初め……MSが復讐者達と共闘を始める場面だ。

 

「この場面に行くまでに社長、キャップ、スパイディ、スカーレットウィッチ、ヴィジョン。それにアントマンと交戦。全員のデータ集めやって……社長とスパイダーマンは国連管理下なんだろ? なんで戦ったんだ?」

「実は復讐者達というよりもMSとウィラードのデータ、魔法の戦闘能力の測定って意味合いがあったんだ。だから指示のあった相手と戦ってデータ集め、ついでに上手く拘束できれば御の字くらいの指示しか出されてない。ヴィジョンにはほぼ負けてるし、他も結局決着つかずだろ。MS側も復讐者達側も殺す気は欠片もないからそんな結果に収まったんだな」

「ほー」

「オフィサーからすればそれで良いんだ。少なくともつい1年前まで完全な素人だった子供が、超一線級の超人相手に戦えるって事が判明したから。彼はこの誰でも使える可能性のある魔法という存在を隠匿して出来れば自分の手中に収めたかった。だからゲートを閉じる気は無いし、そのゲートの先にあるオークの帝国とは仲良く付き合ってゲートの安定化を図りたい。その近隣に居れば魔力の波動を受けて魔法に目覚めるって代物だからな」

 

 そして周囲を囲って魔力の恩恵を閉じ込め、自身の子飼いの人間に魔力を纏わせて戦力化。最終的には大きな予算もかからずにスーパーヒーロー並の戦闘能力を持った軍隊を手に入れる、という目論見だった。オーク軍は見せ札といざという時の備えであり、これだけの戦力をたかが小娘一人の犠牲で手に入れられるなら御の字、というわけだ。

 

「成程、悪役らしい悪役だな。こいつ本当に国連職員なのか?」

「そこは本当。国連側には復讐者達の分裂等を見て彼らのカウンターになる存在が必要なんじゃないかって報告してる。要はMSとウィラードはアンチ復讐者達って枠組みで雇われてるわけだ。ふたを開けたら全然違ったわけだけど」

 

 国連からの予算を使ってオフィサーは魔法という新しい技術の研究とその制御法の研究に予算を使ったわけだ。そして、実際それは結構な成果を上げた。復讐者達と違ってゲート由来の魔法は魔法さえ発動させなければただの人と変わらない。今回のMSの様に着ているスーツに仕掛けを施したりすれば拘束も難しくない為、制御も管理もしやすい。だからこそオフィサーの野心に火が付いたともいえるんだがな。

 

「オチはもう出来てるのか?」

「ああ。撮影も殆ど終わってる。後は細かく撮り直してる部分と……公開日当日、開始と共にネットに流される最後のPVの撮影だな」

 

 公開日までずっと嘘予告で居続けた映画って多分この世で初なんじゃないだろうか。まぁ、スタンさんがイケると判断したんだし大丈夫だろう。


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